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第三十二話 教皇とダチュラ

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 スパルタカスが真剣な顔で訊く。


「閣下、蜜蝋は閣下の領地に行けば手に入るのですか?」


「まだ商品化していないのですけれど、いずれは皮の手入れや女性の美容品として販売する予定でしたから、ストックならありますわ。たくさん取ってしまうと、巣を壊さなければならなくなって蜂に負担がかかるので、そんなにたくさんはありませんけれど」


 それを聞いてスパルタカスは目を見開く。


「皮の手入れもできるのですか? それは是非取り入れたいですね」


 兵士たちの防具には皮も多く使われている。蜜蝋一つでそれら全ての手入れができるのだから、こんなに便利なものはないと思ったのだろう。


「そうですわね、では商品化を急がせますわ」


 そう言って、アルメリアは微笑むとティーカップを口元に運んだ。スパルタカスは嬉しそうに微笑むと、両手をテーブルについて頭を下げる。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「スパルタカス、頭を上げて下さい。(わたくし)も商品開発に繋げることができたのですから、十分恩恵を受けることができましたわ。だから頭を下げる必要はありませんのよ? 試作品ができたら早速兵士の皆さんに使ってもらって感想を聞かせてくださる?」


「はい、もちろんです」


 その後お茶と蜂蜜を楽しむと、お茶の時間が終わりリカオン以外は各々自分の執務室へ戻っていった。錆び止めの件はアンジーファウンデーションに持ち帰り、蜜蝋の商品化を急いだ。


 現在の主な錆び止め方法には焼きを入れる方法がある。鉄に焼きを入れることで、鉄が丈夫になるのも大きな利点だ。だが、それらは騎士たちの鎧に施されているのみで、細かい部品にまでは施されていないのだろう。

 蜜蝋なら細かい部品にも塗るだけで効果があるし、蜜蝋の用途として錆び止めに使用することを考えていなかったアルメリアは、それに気づかせてもらえただけでもかなりの収穫だった。

 更に商品化したときに、このまま騎士団で継続して使ってもらえればかなりの儲けが出るだろう。現在養蜂の技術が確立していないこの世界において、蜜蝋を量産できるのはアンジーファウンデーションだけだ。他のどの店も真似はできないのは強みだった。



 城での仕事は最初に思っていた通り、この日以降はお茶の時間にスパルタカス、アドニス、リアムが訪ねてくる以外は誰も訪ねて来ることもなく、特にすることのなかったアルメリアは正直時間を持て余していた。

 なので、登城するとまずは張り出し陣、運動場、城壁の回廊、そして門衛棟を一通り周り兵士たちに挨拶をし、今度は城壁内に入るとパラスを一通り周り、使用人たちに挨拶をして執務室へ戻るというのを日課とした。

 このときもリカオンには、ペルシックがいるので付き合わなくても良いと話したが、彼は必ずついて歩いた。特に意見を言うわけでもなく、かと言って興味がない素振りもなく完全に見張り役に徹しているようだった。


 その日もいつもと変わらず回廊を歩きながら、なんの気なしに城壁内を除くと礼拝堂のテラスで、チューベローズ教の司祭らしき人物と少女が腕を絡ませて楽しげにしているのが目に入った。

 司祭たるものが少女と腕を絡ませている状況にも驚いたが、それより驚くべき事実があった。アルメリアの記憶が正しければ、腕を絡ませているその少女は、この世界のヒロインであるはずのダチュラたったからだ。


 クインシー男爵が父親から真相を聞いてダチュラを迎えに行くのは数年後だったはずである。驚きながらも、自分のみ間違えではないかと思い少し身を乗り出して、少女の顔を見つめる。

 すると向こうもこちらを見上げた。アルメリアは思わず回廊の壁の影に隠れた。


「お嬢様? 一体どうされたってんですか?」


 変な格好で壁に張り付いていたせいか、巡回中の兵士に声をかけられる。アルメリアは慌てて、ダチュラたちからは見えない位置に立つと平静を装う。


「ウォリック! な、なんでもありませんわ。それよりも、ウォリックはここの巡回はよくしますの?」


 ウォリックは、城内を散歩中に挨拶を交わしているうちに顔見知りになった兵士の一人だった。彼はアルメリアの不可思議な行動を気に留めるでもなく、疑うこともなくその質問に答える。


「はい! お嬢様、俺は良くここの巡回をしています。新人の仕事ですから!」


 人を疑うことを知らないとても純真で真っ直ぐな性格の少年である。そのまま育って欲しいと思う反面、これではここの警護には不向きだろうと、そんなことを考えながらウォリックに質問する。


「なら聞きたいことがありますの。今、礼拝堂のテラスで教皇と一緒にいらっしゃるご令嬢は見たことがあるかしら?」


 ウォリックは礼拝堂のテラスを見る。


「はい! ここ最近良く教皇とあのお嬢さんがご一緒されているのを見ます。可愛らしいお嬢さんですよね。お孫さんなんでしょうか? 教皇にあれぐらいのお孫さんがいると聞いたこともありませんし、お孫さんにしてはとても親しげですけど。……あっ! もちろんお嬢様のほうがとてもお美しくて、か、可愛らしくて、と、とにかく笑顔が素敵なのです! あの、あの、俺はもう行かないといけませんので、失礼します!」


 そう言うとウォリックは慌てて去っていった。


「そんなお世辞言わなくても、(わたくし)怒ったりしませんのに……」


 去ってゆくウォリックの後ろ姿を目で追いながらアルメリアがそう呟くと、隣にいたリカオンがその言葉を受けて呆れたように言った。


「本気でおっしゃってます?」


 そう質問し


「天然なのか、それともわざとなのか……」


 と、呟く。それに反応してアルメリアはリカオンの方を見た。


「リカオン、なにか言いまして?」


 リカオンはしばらくアルメリアを見つめ、頷きながら言った。


「天然ですね」


 アルメリアは意味が分からず、不思議そうにリカオンを見つめ返す。


「なんですの?」


 するとリカオンはアルメリアをおいて、先に回廊を歩き始める。


「なんでもありません。早くしないとここで訓練が始まってしまいますよ、行きましょう。それにしても、あれだけ知識を持っているのにこういったことには本当に疎いんですから、面白いものです」

誤字脱字報告ありがとうございます。

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