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第百八十三話 足に命中

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アウルスは手に持っていた箱をマニウスに預けると、アルメリアの額にキスをした。そして、ダチュラに見せつけるようにアルメリアの腰に手を回し引き寄せてから言った。


「もしも箱を開けられなくとも、君の恋人になるつもりはない。私はアンジーしか考えられないのでね。それと先ほど言ったことは本当だ。その鍵では箱は開けられないだろう」


「やだ、そんな強がり言っちゃって、後悔しますわよ?」


「本当のことだが? 鍵はこちらの手の内にある。お陰でこの書類を手に入れることもできた」


 そう言って『宝石』を『ヨベルのボワ』から『ヨベルのネ』のデポへ移動すると書かれた書類をダチュラの面前に突きつけた。


 ダチュラはそれを見ると絶望した顔になった。


「嘘、嘘よ。開けられるはずがないのに、なんでよ?!」


 そう叫ぶと、マニウスの元へ駆け寄り箱の鍵穴に鍵を差し込むと無理矢理回そうとした。だが回らない鍵がただガチャガチャと音を立てるだけだった。


 その後ろでスカビオサが笑いだした。


「これは傑作ですな、私を陥れようとしたようだがそのもくろみは見事に外れたようだ」


 そう言って立ち上がりアウルスに言った。


「その箱の中の書類ですが、実はその娘が偽造したものなのです。私は長年その根も葉もないことが書かれた書類を盾にその娘に脅されていました。ですが、それを陛下が読んだのならもう隠しだてする必要はありませんな。そんな内容の書類をまさか陛下ともあろうお方が信じる訳がありませんからな」


 アウルスはスカビオサに冷たい視線を向けたまま言った。


「私が信じるはずもないなら、なぜその娘に脅されたまま言うことを聞いていた?」


「それはその書類を国王陛下へ渡されてしまえば利権争いに利用されるとわかっていたからです。ですが皇帝陛下であれば公平に判断をしてくださるでしょう。私もこれでひと安心です」


 スカビオサは心底ホッとしたような顔をした。そんなスカビオサを憎々しげにアウルスは見つめると、静かに言った。


「貴様はこの顔をわすれたのか? その書類が本物だということを、誰よりもよく知っている証人の顔を忘れたとでもいうのか?」


 スカビオサは不思議そうにアウルスの顔をしばらく見つめると、さっと顔色をなくした。


「な、ま、まさか、お前は……」


 そう呟き首を振り独り言のように言う。


「いや、馬鹿な、お前は死んだはずだ。確かにそう報告があった」


 アウルスは微笑む。


「エピネとペルシックに助けられてね、見ての通りこうして生きながらえている」


 その台詞にはアルメリアも驚き、アウルスを見上げる。それに気づいたアウルスは振り向くとアルメリアに言った。


「今まで本当のことを言えず、騙していて申し訳なかった」


 そう言うとスカビオサを見つめる。


「ここに貴様が孤児たちを売っていたのを知っている生き証人がいるのだ、言い逃れはできない」


 今度はダチュラがスカビオサを指差して声を出して笑いだした。


「スカビオサ、あんたも終わりね」


そう言うとアウルスに向きなおる。


「陛下、これでおわかりになりましたでしょう? あたしはそのじじいに利用されていただけですわ」


 そこへ背後から声がかかった。


「この騒ぎは何事だ!」


 その声に全員が振り向くとそこにサンスベリアが立っていた。

 ダチュラはサンスベリアに気づくと、死人でも見たかのような顔をして言った。


「陛下、お体の調子が悪いのでは……」


「なぜそう思う? ところで君は誰だ?」


 ムスカリが口を開く。


「クインシー男爵令嬢です」


 するとサンスベリアは心底嫌そうな顔をした。


「お前がダチュラか。私を亡きものにしようとしたそうだな。ではこうして私が姿を現してさぞ驚いただろう?」


 そう言うと軽蔑した眼差しで見つめる。ダチュラは慌てて首を振った。


「そんな、とんでもないですわ。あたしが敬愛する陛下にそのようなことをするはずがありません」


 瞳を潤ませ上目遣いでそう言うともじもじした。

 するとサンスベリアはムスカリに目で合図を送った。ムスカリは頷くと一枚のメモを取り出す。


「このメモはクインシー男爵令嬢が教皇に当てて、国王陛下の暗殺を示唆する手紙の下書きを書いたメモだ。君はこれでも言い逃れをするつもりか?」


 ダチュラは顔を真っ青にすると呟く。


「なんで、なんでよ。そんなメモをなんでムスカリが持ってるのよ……」


 そう言うと、アルメリアの方に振り返り指差す。


「わかったわ、あんたでしょ! あんたがすべて仕組んだんでしょう?! どこまで卑劣なの!!」


 そう言って、突然アルメリアに飛びかかろうとした。その瞬間その場にいたほとんどの人間が、アルメリアを庇うためにダチュラの前に立ちはだかった。そしてダチュラは周囲の兵士や審問官に取り押さえられ、顔を床に押し付けられた。


「なにすんのよ! あたしにこんなことして、あとでただじゃすまないんだから!!」


 そんなダチュラにアウルスが言った。


「君はもう終わりだ。死の目前にどうしてこうなったのかじっくり考えるといい」


 そう言った瞬間、その騒ぎに乗じてスカビオサが突然出口へ向かって走り出した。


「貴様らどけ! そこを通せ!!」


 そう怒鳴りながら、貴族たちをかき分けて出口へ向かって行く。


 アルメリアは言った。


「リカオン、弓を!」


 リカオンが素早くアルメリアに弓矢を渡すと、逃げようとするスカビオサに狙いを定め叫んだ。


「みなさん、危ないですわ! 横に避けてくださいませ!!」


 貴族たちは驚きながら左右へ避け、スカビオサは何事かとこちらを振り向いた。その瞬間スカビオサの足に向かって矢を放つ。


「うぎゃ!」


 矢は命中しスカビオサは叫び声を上げると、その場に倒れた。そしてすぐにスパルタカスやルーカスに取り押さえられることとなった。


「直接対決するのですもの、一応武器を持ち込んで正解でしたわね」


 アルメリアはそう呟く。アウルスはアルメリアに微笑んで言った。


「あれから弓を続けてくれていたんだな」


「楽しくて」


 そう言ってアルメリアは微笑み返した。


「アルメリア、見事であった」


 サンスベリアはそう言うと、アウルスに目を止めた。


「皇帝陛下がこちらにいらせられているとは。気づかずに挨拶もせず申し訳ございませんでした」


 そう言って頭を下げた。


「かまわない」


 そう答えると、兵士と審問官に連行されて行くダチュラとスカビオサを見つめた。


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。

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