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第百七十二話 ハマカンザシ

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 御披露目の舞踏会三日前となり、ファニーが出来上がったドレスを見せてくれた。

 淡いピンク色のバーサカラーのドレスで、ところどころに小さな花モチーフのレース編みがちりばめられている。スカートの部分は裾に向かってグラデーションしており、オーガンジーと美しいレースが使用されそれが幾重にも重なり、まるで花弁のように見えた。


「素敵ですわ! ドレス全体がお花のようにもみえますわね」


 ゲーム内でのアルメリアはいつも舞踏会では紫色のドレスを着ていたので、これもやはりゲーム内とは完全に違ってきている。まさか自分がピンクのドレスを着るとは、と若干自嘲気味に微笑むと、そんなアルメリアの気持ちなど知るはずもないファニーは自信満々に答える。



「でしょう、でしょう? 浜簪(ハマカンザシ)って花をイメージしてデザインしたんだよね~。アルメリアのイメージにぴったりの花! サイズはなおすまでもなく、ぴったりだと思うよ! さてと、僕は疲れたからもう休ませてもらおうかなぁ」


 そう言ってファニーは大あくびをして思い切り伸びをすると、いつも使っている部屋へ戻っていった。


 いよいよこの時がきてしまった。アルメリアはそう思いながらそのドレスをじっと見つめた。

 決着がつけばきっと、シルや行方不明になっている子どもたちの場所もわかるだろう。


 その前に、ケンカ別れのようになってしまったアウルスのことを少し考えた。

 誕生会の夜から、アルメリアは一度もアウルスと会っていなかった。


 これでお別れになるかもしれないのに、最後に仲直りもできないなんて……と、胸が締め付けられた。


 そこで突然、窓に小石が当たる音がした。


 驚いて窓の外のテラスを見ると、そこにアウルスが立っていた。アルメリアは慌ててテラスへ出た。


「アズル、きてくれましたのね。今ちょうど貴男のことを考えていたところですの」


「そうか、突然きてしまって驚いたろう?」


 アルメリアが首を振ると、アウルスは笑顔で話を続ける。


「よかった。実はどうしても先日のことを君に謝りたくてね。君の誕生日を祝う席だというのに君を傷つけるようなことを言ってしまって申し訳なかった」


「いいえ、いいんですの。それよりもなにか理由があって反対したのでしょう? それを考慮しなかった(わたくし)たちにも非があると思いますわ」


「いや、それにしても言い方が悪かったのは確かだ。君を守ると言ったのに……」


 アルメリアはアウルスに微笑みかけると言った。


「でもこうして謝りにきてくれたのですもの。それだけで十分ですわ」


「ありがとう、君は優しいな」


 本当に会えなくなる前に、こうしてわだかまりを解くことができてよかったとアルメリアはほっとしていた。


 そこで例のあの箱の中身について話すなら、今しかないのではないかと気づき改めてアウルスにむきなおった。


「アズル、貴男に話さなければならないことがありますの」


 いつになく真剣な眼差しでアルメリアがそう言うと、アウルスも少し緊張した表情をしアルメリアを見つめ返す。


 アルメリアはそんなアウルスの腕を取った。


「こちらにきてくださる?」


 そう言って海の間へアウルスを連れていくと、壁の隠し金庫から箱を取り出した。


「これは?」


「教皇がとても大切に持っていた箱ですの」


 そう言うと、今度は首にかけていた鍵を取り出した。


「その鍵も教皇が持っていたのか?」


 アルメリアは黙って首を振る。


「これはダチュラが」


 そう答えるとアウルスは驚いた顔をした。


「君は一体それをどうやって手に入れたんだ?」


「手に入れた細かい経緯は省きますわ。とにかく、彼らの周囲には彼らに反目しこちらに協力をしてくれるものたちが大勢いるんですの」


 アルメリアは説明しながら箱を開けると、中に入っている書類を取り出しアウルスへ差し出す。


「貴男に深く関係があることが書かれていますわ。(わたくし)はお茶を用意してきますわね」


 一人にした方がよいだろうと思い、アルメリアはそう言って部屋を出た。


 ペルシックにお茶の用意をするようにお願いし、しばらく時間をおいてから海の間へ入った。


「失礼しても大丈夫かしら?」


「かまわない」


 部屋へ入るとアウルスは冷静で、いつもとかわりないように見えた。


「アンジー、ありがとう。私が探していたものの答えがここに書かれていた」


 そう言うと嬉しそうに微笑んだ。


 その様子から、アウルスはこのことを知っていて証拠を探していたのだと気づいた。


「よかったですわ。お茶の準備をしましたの、客間へ移動しましょうか」


「君とゆっくりしていたい気持ちは山々だが、早急に対処しなければならないことができた。悪いが私はこれで失礼させてもらう」


「そうなんですの、残念ですけれど仕方ないですわね」


「すまない、この埋め合わせは必ずする」


 そんな日はこないだろうと思いながらアルメリアは微笑んで返した。


 アウルスは思い出したかのように付け加えた。


「それと、この書類一枚だけ預からせてほしいのだが、かまわないか?」


「もちろんですわ。その書類はいつかすべてアズルに渡そうと思っていましたから」


「ありがとう。一枚だけでいい、あとは君が持っていてくれ」


 そう言って一枚だけ書類を抜き取ると、残りを箱に戻し箱ごとアルメリアに渡した。


「わかりましたわ、しっかり預かりますわね」


「じゃあ私は失礼する」


 アウルスは足早にドアに向かって歩き始めた。


 そこでアルメリアはもう一つ言っておかなければならないことがあったのを思い出す。


「アズル、待って!」


 アウルスは立ち止まると振り向いた。


「どうしたんだ?」


(わたくし)はアズルが本当に幸せになることだけを願ってますわ。家柄や地位なんて関係なく、アズルには本当に幸せになる選択をしてほしいんですの」


 それを聞いてアウルスはとても嬉しそうに微笑むと言った。


「わかっている。アンジーありがとう。私は最初から愛するものと共に幸せになれるなら、どんな困難でも乗り越えるつもりでいた。そのためにも、この書類が必要だったんだ。なにもかも君のお陰だ。これでやっと愛するものを堂々と迎えにこれるのだからね」


 その返事に衝撃を受けながらアルメリアは頷くと、なんとか答える。


「よかったですわ」


「ありがとう」


 アルメリアは気を取りなおすと言った。


「そうでしたわ、急いでらしたんでしたわね」


「そうだった。ではこれで本当に失礼する」


「アウルス、さようなら……」


 アウルスは軽く手を上げそれに答えると、部屋を去っていった。


 部屋に一人取り残されたアルメリアは、アウルスがあの証拠をずっと探していてそれを手に入れるために自分に近づいただけだという事実に打ちのめされ呆然とした。

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。

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