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第百六十八話 立案者

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「よかったですわ。そういうことですのね? 困っているなら協力は惜しみませんわ。けれど、それでキャサリンに害が及ぶようなら……」


 そこまで言うと、ミンチンは大きく頷く。


「わかっております、危険はないように心がけます。それ以前に、ダチュラお嬢様は使用人を人と思っていないところがありますから、(わたくし)どもが不穏な動きをしていたとしても、見向きもしてくれないでしょう」


 そう言うとミンチンは悲しそうに微笑んだ。その言い方や表情を見ると、最初はダチュラをクインシー家の令嬢として見守りたかったが、それが叶わずかなり葛藤したことが伺われた。


「わかりましたわ、ここに来るのにも勇気がいったでしょう? 貴女がクインシー家を思っていること、キャサリンを大切にしてくださっていることが今話しただけでも伝わりましたわ。近いうちに、クインシー男爵とダチュラに知られずに会う方法を考えましょう」


 すると、ミンチンは笑顔で答えた。


「信じてくださりありがとうございます。この恩は一生忘れません」


「そんな、大袈裟ですわ。それに鍵をキャサリンに託したのは貴女の判断なのでしょう?」


 一瞬驚いた顔をしたミンチンは黙って頷いた。アルメリアは微笑んで返すと言った。


「あの鍵はとても重要なものでしたの。渡してくださって本当に助かりましたわ。入手するにも苦労したのではなくて?」


「はい。ですが、(わたくし)どもでもお役に立てることができたなら、とても光栄なことと存じます」


「ありがとう、直接お礼をしたかったんですの。お礼を言えてよかったですわ」


 ミンチンは少し照れたように微笑んだ。アルメリアはそんな、ミンチンの手を取って言った、


「だから、今度は(わたくし)がお返しをする番ですわ。役に立てるなら協力します」


 アルメリアがそう言うと、ミンチンは深々と頭を下げた。


 こうして出席してくれたものたちと一通り話をすると、アルメリアはここ最近緊張したり落ち込んでいた気持ちが少し晴れた気がした。


 落ち着いたところで、リカオンに質問する。


「この誕生会は誰が立案しましたの?」


 リカオンは苦笑して答える。


「悔しいですが、あの帝国の特使が計画し今日に至りました。言うだけあって、短期間でこれだけの人数を集めてしまうのですから、大したものです。少しお話しされてはどうですか?」


 思わずリカオンの顔を見る。リカオンはそんなアルメリアの反応を見て気まずそうに言った。


「別にお嬢様を譲るつもりはありません。ですが、立案は彼ですから」


 リカオンはアルメリアがお礼を言える時間を作るため気を利かせたつもりなのだろうが、なんとも複雑な気持ちになった。だが、こんなに大切な場をもうけてくれたことにはとても感謝していたので、お礼はしたかった。


 アルメリアはアウルスの背後から声をかける。


「アズル、今日はありがとう」


 振り返るとアウルスはとびきりの笑顔を返した。


「なんだ、私が仕掛けたことだとばれてしまったのか」


 そう言ってはにかむと言った。


「君が喜んでくれてよかった。私はその笑顔が見たかったんだ。それに君の誕生日は色々あってしっかり祝えていなかったろう? それがずっと気がかりだったんだ」


 その優しい微笑みを見つめ、アルメリアは胸が締め付けられた。そして思う。シェフレラと言う女性がいながら、なぜこんなにも(わたくし)に優しくしますの? 残酷ですわ、と。


 そんなことを考えているアルメリアをよそに、アウルスは続ける。


「昔からアンジーのことはずっと見てきた。君がどれだけ努力してきたかも知っている。君自身にその偉業がどれほど素晴らしいものなのか自覚してほしかった。これだけの人々から愛されているとね」


 それを聞いてアルメリアは泣きそうになる。アウルスは優しくアルメリアの背中を撫でた。


「君をこうやって独り占めしていたいが、周囲の視線がそれを許さないと物語っている」


 アウルスはアルメリアの背を押して、みんなが待っている方向へ戻るように促した。アルメリアはそれをアウルスの拒絶のように感じなからみんなの元へ戻った。


 誕生会は夕方まで続き、暗くなる前に家路につくものがちらほら現れだしたころにお開きとなった。


 帰って行くものたちを見送り、残ったのはアブセンティーに参加する面々だけとなった。


 そこでムスカリが言った。


「せっかくのアルメリアの誕生会ではあるが、こうして全員が集まれる機会はほとんどないと思う。少し作戦について話したい。アルメリア、かまわないか?」


「かまいません。みなさん昼間は各々忙しくてアブセンティーには出られないと思いますし、せっかくですもの今日少し話しましょう。みなさんもお時間宜しいかしら?」


 全員が頷くと、ムスカリはファニーに目配せした。

 ファニーは嬉しそうに答える。


「任せてよ! とっておきの部屋を準備してあるから。こっち、こっち!」


 ファニーは、手招きしながら先導し始めた。ファニーを知らないものたちは怪訝な顔をしながらもその後に続いた。


 こうして、会議室を借りると口火を切ったのはアルメリアだった。


「作戦の話の前に、今日あったことを報告しますわ」


 そう言って、今日テラスでミンチンと話した内容を伝えた。


「そのミンチンという女性は信用できるのか?」


 アウルスがそう質問すると、ムスカリも同じことを思っていたらしくその問いに答える。


「私もそう思う。だが、クインシー男爵を味方につけることができれば相当優位になるかもしれない。とりあえず、会う前に私の方でクインシー男爵とそのミンチンというメイド長についてしっかり調べてみよう」


 そう言ってアルメリアに訊く。


「クインシー男爵に会うのは、安全が確認されてからでいいか?」


 アルメリアは頷いて返した。だが、実は最初からミンチンを疑っていなかった。なぜならダチュラの鍵をキャサリンに託したのがミンチンだったからだ。

 だが、この件を話せば箱の中身を訊かれることになると思ったアルメリアは、その件については黙っていた。


 その話が済むと、まずは前回のアブセンティーでいなかったアウルスに、御披露目会でダチュラを陥れる計画を立てていることを説明した。


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。

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