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第百五十八話 人間性

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アドニスが偽の領収書を見ながら呆れたように言った。


「ここまで見事に真似をするなんて、これは相当練習したのでしょうね」


 それに対してアルメリアは答える。


「本当にそうですわね、(わたくし)その努力だけは買いますわ。それにしても、これだけ見るとこの件に教皇は関わっていないかもしれませんわね」


 それを聞いてリアムは頷いた。


「そうだと思います。教皇が関わっていたらこんな領収書は作らせません。もしくは、わかっていてそのままにしたか」


 すると、アドニスは皮肉っぽく笑って言った。


「ですがそのお陰でこんなものが手に入ったのですから、よかったのかもしれませんよ」


「そうですわね、流石に婚約者と言えど王宮に直接領収書を切る人間なんていませんもの。支度金を何度も請求して散財するならわかりますけれど。それに、こんな領収書を王宮の会計士に持っていったとしても突っぱねられて終わりですわ」


 アルメリアが困惑気味にそう答えると、ムスカリが鼻で笑った。


「あの令嬢ならそんなこともわからないと言うのは納得だな。しかも、君が発行する書類にあるはずの紋章もこれには入っていない。逆に罠なのかと思うぐらいの陳腐な代物だ」


 それにリアムが答える。


「そうなのです、父もそれを疑い逆に調べ尽くしたようですが、本気でこの領収書を使ってアルメリアを罠に嵌めようとしているようです。しかもここに記載されている商人は実在しました。本人を呼びだし、尋問しましたが名前を利用されただけで無関係のようでしたが」


 ムスカリはつまらなさそうに言った。


「そうだろうな、こんな領収書を書く商人はまずいないだろう。だが、この領収書は面白い。利用させてもらうとするかな。リアム、その商人を私のところに寄越してほしい。それとその領収書も預からせてくれ」


「それはかまいませんが、一体なにをなさるのですか?」


 ムスカリは微笑むと言った。


「まぁ、こういったものは手の内を明かすものではないからな。悪いようにはしないとだけ言っておこう。ところで、この件の令嬢はどうもやることがちぐはぐのように感じる。なにか策略を巡らせているのだとすれば、相当なものだが……」


 それを聞いて、アルメリアはここ最近のダチュラの動きや、会ったときの反応などを思い出していた。そしてひとつだけ思いつくことがあった。


「殿下、これはあくまでも(わたくし)の考えですけれど、それでもよろしければ発言してもよろしいかしら」


 今までつまらなさそうな顔をしていたムスカリは、アルメリアにとろけそうなほど優しく微笑む。


「なんだい? アルメリア。君の考えならばなんでも聞こう。話してごらん」


 アルメリアはムスカリのその反応を少し恥ずかしく思いながらも、話し始めた。


(わたくし)も、ダチュラの行動がちぐはぐすぎて不思議に思うことが何回かありましたの。例えば彼女は別の世界で生活していた頃の知識を生かして、詐欺の詳細な手引きをしていましたでしょう? それに(わたくし)と教会が組んでいるかのような精密な書類を作成していましたわ。そこまで緻密に計算して行動を起こせるのにも関わらず、今回のように世間知らずな一面を見せたり……」


 それに対してアドニスが答える。


「確かに、先日見せていただいたルーファスの持ってきた書類などは、教会を切り捨てるための布石だと考えると素晴らしくよくできたものでしたね」


「そうなんですの。あれだけ見ると、良く言えば頭脳明晰、悪く言えば目的のためには手段を選ばない冷徹な令嬢のように思えますわ。ですけれど、(わたくし)が実際初めて会った彼女は他の貴族に対して傍若無人に振る舞い、リカオンには物語の中の人物像を押し付けるような行動を取っていて、とても頭脳明晰には見えませんでしたわ」


 そこでリカオンが口を挟む。


「僕もそのときお嬢様と一緒にいましたが、本当に話が通じなくて困りました」


 アルメリアは頷く。


「そのあとリカオンには言いましたけれど、おそらくダチュラはこの世界を現実とは思っていないんですわ。自分が物語の中に入り込んだゲストみたいなものだと思っているのだと思いますの」


 そこでリカオンも続けて言う。


「そうですね、アルメリアの言った通り僕が物語の登場人物であり、自分は主人公なのだから物語の通りになるに違いない。あの令嬢の言動はそう思っているように見えました」


 アルメリアはそれを受けて頷くと、ムスカリを見つめて言った。


「そして今回の領収書のお粗末な偽造。それらを考えると、ダチュラは自分がこの世界のヒロインであると気づいてから、この世界のことを知る努力を怠ったんですわ。なぜなら、自分はヒロインで、物語の進行上自分の思い通りになるに違いない。だから努力をする必要がないと考えたのではないかと思いますの」


 リアムが答える。


「なるほど、それだとちぐはぐな行動が理解できますね。あの令嬢は、社交界のことや貴族令嬢としてのたしなみなどをなにも学ぼうとせず、教会の中でだけで生活しているから教会のことしかわからないのですね。それにあれだけ傍若無人に振る舞っていれば、侍らしている貴族令息たちもあの令嬢の行動を咎めたりはしません。それで余計に本人は自分の思った通りになったと錯覚しているのかもしれませんね」


 それを受けてムスカリは言った。


「だとしたらあの令嬢のあの嘗めた態度や言動にも納得がいくな。我々を人としても扱っていないのだな」


 そう言うと、アルメリアに訊いた。


「アルメリア、君の知る物語の中のダチュラという女性はどのような女性だったんだ?」


 アルメリアは自分がプレイしたときのヒロインを思い出す。


「明るくて、とても努力家でしたわ。それに、この国を救うことに必死で……」


 それを聞いてムスカリは微笑む。


「それはまるで君のことではないか」


「殿下、それは違いますわ」


 そこで、リアムが口を挟む。


「違わない、君のことだ」


 それを受けてアドニスも言う。


「もしもこれが物語なのだとしたら、主人公は君だろうな」


 そこでリカオンが頷くと付け加える。


「お嬢様は僕にとってはいつでもヒロインですけどね。まぁ、そんなことはわかりきったことですね」


「あ、あの、もうやめてください……」


 アルメリアは恥ずかしすぎて思わず、顔を両手で隠して俯いた。


 そんなアルメリアを見ながらムスカリは楽しそうに言った。


「さて、私の婚約者をこれ以上からかうのはやめておこう」


 そこですかさずアドニスが言った。


「まだ婚約者だと正式な発表があったわけではありませんよ殿下。ところで、あの令嬢がどのような考えなのかだいたいわかったところで、私たちの今後の対応や作戦も立てやすくなりますね」


「作戦……ですの?」

 

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。

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