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第百四十話 なんですの?

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「アンジー、こすると赤くなる」


 アルメリアは、頬に当てられたハンカチを受け取る。そして、受け取ったハンカチを見ると見覚えのあるものだった。


「アズル、このハンカチ……」


 それは以前ツルスで合図用に使用したアルメリアのハンカチだった。


「すまない、君の農園の者に『お嬢様に返しておいて欲しい』と頼まれたのだが、どうしても持っていたかった」


 恥ずかしそうにしているアウルスを見つめ、溢れる涙を拭いながら、ふっと笑うとアルメリアは言った。


「でもこれ、使い古しのシーツの再利用ですのよ?」


 それを聞いてムスカリが声を出して笑った。


「使い古しのシーツでハンカチとは、実に君らしいな」


 それにリアムが続く。


「本当に、君って人は……」


 そこでアウルスが言う。


「シーツだとか、そんなことは関係ない。君のものだったということが重要なのだから」


 すると、みんな頷きながら口々に『確かに』と言った。


 アルメリアは恥ずかしくなり、ハンカチで目を覆った。


「もう! なんですの? みんなして……」


 恥ずかしがるアルメリアを横目に、リアムがルーファスに質問した。


「ところで、その絵本というのは?」


「アルメリアが子どもたちに言葉を教えるための絵本を手作りしてくれたのです」


 そこへムスカリが口を挟む。


「作っている最中のものを私も見せてもらったことがあるが、あれは本当に素晴らしいものだった」


 リアムがそれに返す。


「それはぜひ見てみたいものです」


 アルメリアは更に顔を赤くすると言った。


「いえ、は、恥ずかしいから誰も見ないで下さい! ダメです!!」


 その言葉に、その場の全員が声を出して笑った。





 アルメリアはその日、ムスカリたちが帰ったあと、模様替えされた部屋をメイドたちが片付けようとしているのを止めた。


 ムスカリが模様替えしたその部屋を、とても気に入ってしまったのだ。アルメリアはその部屋をそのまま『海の間』として残すことにして、自室は空いている部屋へ移した。


 そして、海の間でしばらくぼんやりしながら今日あったことを思い出していた。

 今まで秘密にしていたことを話したことで胸のつかえがなくなったような、スッキリした気持ちになった。

 それに、みんなが信じてくれたことがなによりも嬉しかった。


 これから先なにがあっても頑張れる。アルメリアはそう思った。






 それからしばらくたち、アドニスが城下に戻ったという話を聞いた。早速いつでもよいので、近いうちに会うことができないか手紙を書くことにした。


 ところが、その手紙を書いている最中に当の本人がアルメリアの執務室を訪ねてきた。


「アルメリア、お久しぶりです」


「アドニス、久しぶりですわね。ちょうどアドニスに手紙を書こうとしていたところですの」


「そうなのですか? それは、なにか心通じるものがあったのかもしれませんね。お互いにお互いのことを考えていたなんて」


 アドニスはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。


「そうなんですの?」


 そう言ってクスクスと笑うと、アルメリアはアドニスにも先日みんなと話した情報と、前世の話をしなければならないと思いアドニスに訊いた。


「アドニス、話したいことがありますの。お時間よろしいかしら?」


「もちろん。貴女は私の最優先事項ですから」


 そう言って微笑んだ。


 ソファに座るとアルメリアは口を開いた。


「先日、殿下の誕生日に(わたくし)と殿下が麻疹に罹ったときの話なんですけれど」


 そう言って、アルメリアの屋敷で行われた情報交換の内容と、アルメリアが話した前世のことなどをすべてアドニスに話した。


 じっと静かにアルメリアの話を聞いていたアドニスは、すべてを聞き終わると言った。


「確かに、その話を聞けば貴女が狙われている説明がつきますね。チューベローズがアルメリアを狙うとしても、そんな直接的に狙うとは考えにくいですから。クンシラン家を罠にはめるとか、それこそ今行われているアンジーファウンデーションを罠に嵌めるといった、地位もろとも陥れるようなことをするでしょうし」


 そう言うと、黙ってアルメリアを見つめる。


「なんですの?」


 ふっと笑うとアドニスは答える。


「いえ、貴女が転生者でよかったと考えていたのですよ」


「なぜですの?」


「知識は諸刃の剣です。使い方を謝れば大変なことになりますから、貴女のような善良で素晴らしい女性が転生者で、よかったと心から思ったのです。でなければこの国はどうなっていたでしょう?」


「それは違いますわ。それに、(わたくし)は結局自分の有益になることしかしていませんもの。利己的ですわ」


「いいえ違いませんよ。考えてみてください、もしもクインシー男爵令嬢ただ一人がこの世界に転生していたら?」


 そう言われてはっとした。


「それは……確かにそうかもしれませんわね。でも、(わたくし)たちが勘違いしているだけで、クインシー男爵令嬢にも本当は考えあっての行動かもしれませんし……」


 そう答えると、アドニスは苦笑した。


「実は、こちらに帰って城下でうろうろしているクインシー男爵令嬢にお会いしたんです。そうしたら彼女『今までクンシラン公爵令嬢に睨まれて言えなかったのですが、以前からお慕いしてました』と、言い寄ってきたのですよ?」


 アルメリアは驚き、咄嗟に答える。


(わたくし)クインシー男爵令嬢にはお会いしたこともありませんわ」


 頷くとアドニスは慌てるアルメリアを制する。


「わかっていますよ。貴女がそんなことする訳ありませんから。だからこそ私はクインシー男爵令嬢を警戒しました。とりあえずその場では適当に言って去ってきましたが、正直もう二度と関わりたくないと思ってしまいました」


「そうでしたのね」


「はい。それでその後、猛烈に貴女の顔が見たくなってしまって……。そういったわけで、今日はなんの連絡もなしにこちらに押し掛けてしまったというわけです。突然の訪問で、本当にすみませんでした」


 アルメリアは、そう言われて少し照れながら答える。


「いいえ、(わたくし)アドニスも先日みんなで共有したことを、アドニスに話さなければと思っていたところでしたから、きていただけてよかったですわ」

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


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