表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/190

第百十四話 ヘンリーのお屋敷

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 酒場をあとにすると、アウルスはアルメリアに言った。


「やはり、君は凄いな」


「なにがですの?」


 すると、アウルスは苦笑する。


「水軍が手を焼いていた相手を、同じテーブルに引っ張り出すことに成功したじゃないか」


 アルメリアは困ったような顔をした。


「あれは、たまたまヘンリーと(わたくし)が知り合いだったからですわ。運が良かったんです」


「いや、海賊と知り合いなのがそもそも凄いことだと思うが。それに運も実力のうちと言うだろう」


 そんなことを話ながら屋敷へもどると、アルメリアは早速アドニスにヘンリーの件で手紙を書いた。

 ツルスから船でアドニスのいるマシュケ港まで、二日はかかる距離である。返事がくるのはしばらくまたねばならないだろう。


 その間にアウルスに港を案内して回る予定でいるが、アウルス自身も何かしら目的があってここへ来ているはずなので、そんなにずっと一緒にいることにはならないだろう。


 ヘンリーに届ける蜂蜜を選びながら、そんなことを考えていると、ペルシックが部屋へ入ってきた。


「お嬢様、ヘンリーと名乗るものから使者がきておりまして、話があるので屋敷までいらしてほしいと言っております」


 今日の昼間に会ったときに話した砂糖のことだろうか? そう思いながら返事をする。


「ヘンリーが? 変ね昼間も会っていますのに」


 彼は面倒なことが嫌いだ。なので、なにかあれば昼間会ったときに話したはずである。

 そう考えたとき、ひとつだけ思い当たることがあった。それはアウルスの存在だ。

 彼は帝国をあまり良くは思っていないようだったので、帝国の特使の前では話したくないような、大切な話があるのかもしれなかった。


 アルメリアは、リカオンを伴ってヘンリーの屋敷へ向かうことにした。


「お嬢様、大丈夫なのですか? そんな怪しい人物の元へ行くなんて。罠で、さらわれるようなことになったらどうするのです?」


 リカオンが不安そうにそう言うので、アルメリアは苦笑しながら答える。


「彼らは義賊よ、信頼の上に成り立っていますわ。貴族令嬢、それもこんな小娘一人を卑怯な手を使ってなにかしたとあれば、自分の顔に泥を塗ることになるでしょう? そうすれば今までの信用が失墜することになりますわ。だから大丈夫だと思いますの」


 そう言って返すと、リカオンは納得したがまだ不満がある、と言うような複雑な表情をして黙ってしまった。だが、しばらくすると気を取り直したように微笑んだ。


「それにしても、お嬢様がこれほど顔が広いとは驚きでした。お会いした頃から、ずっとお側にいさせていただいていますが、お嬢様のことをわかっているようでいてその実、僕はお嬢様のことをなにも知らなかったのだと実感します」


 そう言って、リカオンは眩しそうにアルメリアを見つめる。


「リカオンてば、どうしたんですの? らしくないですわ。もっと不満を言うかと思ってましたのに」


「お嬢様が僕に対して抱いている印象は、そんな感じなのですね?」


 そこで言葉を切ると、リカオンは少し考え込んだ。そして、しばらくしてやっと口を開く。


「これは今までの、自分の行いが招いた結果ですね。そんな印象をなくすために、これからもっと精進致します」


「なに言ってますの、最近の貴男はとても頑張ってますわ。でなければ今日みたいな大切な局面に、貴男を同席させたりしませんわ」


 すると、リカオンは悲しそうに微笑んで答えた。


「そうだと良いのですが……。お褒め下さったことは素直に受け入れることとします」


「そうですわよ、いつもの自信に満ちたリカオンの方が(わたくし)も好きですわ」


 そう言ったところで、前方から声がかかる。


「アルメリアお嬢様ですか?」


 声をかけてきたのは、どこかの貴族の執事のような出で立ちの紳士だった。


「失礼、貴男はどなたでしょうか?」


 リカオンがアルメリアを背後に隠しながらその紳士にそう尋ねた。


 すると、その紳士は慌てて頭を下げる。


「名乗りもせずお声掛けし、大変失礼致しました。(わたくし)モーガン様のお屋敷で執事をしているエドワードと申します。アルメリアお嬢様が、モーガン様にとってとても大切なお客様とお聞きして、お迎えに上がりました」


 驚いてふたりは思わず顔を見合わせた。そんなふたりをよそに、エドワードと名乗る執事は満面の笑みを見せた。


「お嬢様、屋敷までこのエドワードがご案内致します。こちらです」


 そう言って持っているランプで足元を照らす。


 しばらく砂利道を進むと、石畳の舗装された道に出た。そして、そこには大きな門扉があった。

 エドワードが門番に合図すると、その門扉が開かれる。

 以前、手紙でヘンリーにツルスに移住する許可を求められたが、こんなにも大きな屋敷を所有しているとは知らなかった。

 案内されるまま、屋敷内のエントランスまで行くと、昼間酒場で平服をきていたヘンリーが正装して待っていた。


「わざわざ屋敷まで来てもらって、申し訳ないな。昼間は帝国の特使様をお連れだったんでね」


 そう言うと、アルメリアの横に立っているリカオンに目をとめる。


「お嬢ちゃん、その若造は?」


「彼は(わたくし)の……」


 仲間と言おうとしたが、そこにリカオンがかぶせて言った。


「従者のリカオンと申します」


「リカオン?!」


 思わずアルメリアは、リカオンの横顔を責めるように見つめる。だが、そんなアルメリアを無視して、リカオンとヘンリーはしばらく見つめ合う。


「従者か。ってことは、あんたはただの使用人か?」


 その言葉にアルメリアは、素早く反応する。


「ヘンリーも、なにを仰ってますの?! そんなわけ……」


「いえ、僕はお嬢様を尊敬し、忠誠を誓っている身です。そんな金銭で成立するような、浅い関係ではありません」


 アルメリアは驚き過ぎて、言葉を失っていた。


 すると、ヘンリーはニヤリと笑って、そんなアルメリアを見る。


「お嬢ちゃん、あんたもてるなぁ」


 アルメリアは慌てて答える。


「ヘンリー、違いますの。リカオン、貴男もなにを言ってますの? ヘンリー、リカオンは(わたくし)の大切な仲間であって、従者ではありませんわ。本気になさらないで下さいませ」


 リカオンはそんなアルメリアを見て苦笑し、ヘンリーに答える。


「お嬢様はこう言ってますが、今のところ従者なのは事実です。それに貴男の仰る通り、お嬢様を慕い言い寄る輩はたえません」


 ヘンリーは声を出して笑った。


「そんなこったろうと思ったよ。当然だろうな。あんたも苦労するな」


「えぇ、本当に」


「まぁこんなところで立ち話もなんだ、食事を用意している。ほら、こっちだ」


 そう言って歩き出すヘンリーの後ろにふたりは続いた。


誤字脱字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価・いいね・ブクマありがとうございます。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ