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第百九話 疑惑

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 屋敷に着くと、すでにペルシックによりドローイング・ルームにお茶の準備がされており、テーブルの上に三日月形の大きな物がラッピングされて置いてあった。


 アウルスはアルメリアをくソファに座らせると、それを渡しながら言った。


「さぁ、開けてみてくれるか?」


 アルメリアが渡された包みを開けると、中から彫刻の施された美しい弓が出てきた。


「美しい弓ですわね」


 プレゼントされた意図がわからず困惑し、当たり障りのないことを言った。


「梓弓といってね、しなやかで弾力のある樹木を使っている。君はアーチェリーをやったことは?」


 貴族の間では、娯楽としてアーチェリーを嗜むこともあるようだが、忙しく過ごしてきたアルメリアはそんなことをする暇はなかった。


「やったことはありませんの。とても難しいのでしょう?」


「いや、力はいるが趣味でやる分には、そう難しくはない。私が教えるから、今度一緒にやってみないか?」


 アルメリアは、教えてもらえるのならせっかくプレゼントしてくれたことだし、やってみたいと思った。


「アズルが教えてくれるのなら、お願いしますわ」


「よかった。ではロベリアにいる間、時間が許す限りは君とアーチェリーを楽しむことが出きると言うことだね? 嬉しいよ。その弓矢は、しなやかで女性にも扱い易いから君ならすぐに上達するだろう」


「そうなんですのね? 教えていただけるのを楽しみにしてますわね」


 アウルスはそれに頷くと、なにかを思い出したように言った。


「それと、他にもドレスや装飾品を贈らせてもらった」


「そんな、いただけませんわ」


「いや、こちらで世話になるのだから、これぐらいはさせてほしい」


 そう微笑んだあと、真顔に戻ると言った。


「ところで、急にやってきて港を案内しろなどと言いだしたりして申し訳ない。君にも色々と予定があるのだろう?」


「いいえ、ちょうど今回のことで港に行こうと思ってましたから、問題ないですわ」


 そう答えつつも、ここでアルメリアはふと、皇帝ともあろう人物が『現地を視察しなければならない』という名目だけで、危険を冒してまで隣国へ単身乗り込んでくることがあるだろうか? と、考えた。

 アウルスがこんな軽率な行動をとるとは思えず、これにはなにか裏があるのだろうと、そう考えていた。

 そんな、アルメリアの考えなど知る由もなく、アウルスは言った。


「そうか、そう言ってもらえると助かる。準備もあるだろうから、整ったら出発しよう。君の屋敷のものに、私の滞在先を伝えておこう」


 アルメリアは驚いて答える。


「そんな重要なことを、(わたくし)の屋敷のものに伝えてしまってよろしいんですの?」


「大丈夫だ、心配ない。では、今日は突然だったし、これで失礼させてもらう」


 そう言うと立ち上がった。






 アウルスが帰ったあと、ペルシックにツルスへ向かう準備をするように伝えると、一度城へ戻ることにした。

 城へ戻る道すがら、馬車のなかで突然アルメリアはいやな考えが頭に浮かんだ。


 アウルスは皇帝である。あの若さで現在自分の国を治めているぐらいなので、かなりのやり手なのには違いなかった。

 そんな人物が脱走兵を追いかけて国境を越えたり、貿易のために特使に扮してまで隣国へくるなど、おかしなことなのだ。


 そう考えたとき、あのヒフラでの出来事もなにか裏があるのかもしれず、そもそも、アウルスとアルメリアとの出会い自体が、なにかしら仕組まれたもののような気がした。


 もちろん、アウルスを疑いたくはないし全てが仕組まれたものだとは思わない。ヒフラでのアウルスのアルメリアに対する献身は、到底芝居には見えなかったし、もしも芝居なのだとしたら今後誰も信用できないとすら思えた。


 そんなことを考えていると、いつの間にか馬車は城門へ到着していた。馬車がとまると、そこへリカオンが出迎えた。


「突然屋敷へ戻られて心配しました。あの特使に失礼なことはされませんでしたか?」


 リカオンが差し出した手をとり、馬車を降りながらアルメリアは笑顔で答える。


「リカオン、ありがとう。(わたくし)は大丈夫ですわ」


 城内の執務室へ向かう途中、リカオンはアルメリアをエスコートしながら疑問を口にした。


「ところで、あの特使どのとお嬢様はお知り合いなのですか?」


「なぜそう思いますの?」


 すると、リカオンは苦笑した。


「お嬢様、質問に質問で答えるのはどうかと思いますよ」


 確かにその通りだと思い、先ほどのリカオンの質問にちゃんと答えようとしたそのとき、タイミング悪く執務室へ着いてしまい、その話しはそこで有耶無耶になった。


 部屋に入ると、先ほど殿下のために用意されていた椅子や、アウルスを出迎えるために準備したものは、全て片付けられておりまるで何事もなかったかのようだった。


 アルメリアが机に向かうと、座った瞬間にリカオンが口を開いた。


「今回特使を案内することは立派な執務ですから、僕もツルスへはご一緒させていただきますよ?」


「もちろん。今回は補佐を頼むつもりでしたわ。よろしくお願いしますわね」


 最近、リカオンはペルシックと一緒にいることが多く、以前まではペルシックもリカオンに仕事内容を教えることがなかったのに、最近では熱心に仕事を教えているようだった。

 おそらく、リカオンがアルメリアに忠誠を誓ったときから考え方を変えたのかもしれない。


「なにかあったときに、一番先に駆けつけお嬢様をお守りするのが僕の役目なのですから、それもお忘れなく」


「ありがとうリカオン。もちろん頼りにしてますわ。準備が整い次第ツルスへ向かう予定だから、そのつもりでいてちょうだい」


「承知しております、お嬢様」


 そう言って頭を下げると、リカオンは退室していった。





 準備は滞りなく進み、週明けには出発できそうだった。その間にフィルブライト公爵には仕事のため、今度はツルスへ発つ予定があり、ルーカスの件はもう少し待ってほしいと伝えた。そしてアドニスにもツルスに行く予定と、行ったさいにはアドニスのところへ訪ねたい旨手紙を書いた。


 週末の時間があるところで、アウルスがアーチェリーを教えたいと連絡を寄越した。

 クンシラン家の領地にもいくつか弓場があるので、そこを押さえると返事をした。



 約束の当日、アルメリアは弓とともにアウルスにプレゼントされた、アーチェリーをするときに着るタイトなドレスに胸当てと、アームガード、矢入れを身につけた。


 ドレスはスタイリッシュで洗練されており、弓を引くのに邪魔にならないようにタイトでありながらも、所々にフリルやレースが使用されており、アルメリアはとても気に入った。



誤字脱字報告ありがとうございます。

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