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第十一話 領地ご案内

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アドニスは驚くと、怪訝な顔をした。そして、アルメリアが怒るのを承知で言うべきことは言わなければと、思っていることを率直に口にした。


「アルメリア、貴女が優しいことはわかりました。それにかなりの裕福なことも。ですが、領民に温情をかけてそのようなことを続けていけば、いずれ破綻するときがきますよ」


 ところがそう言われても、アルメリアは怒るどころか微笑みすら崩すことはなかった。


「それは産休手当が(わたくし)のお小遣いから出ていたら、の話ですわね。でもそうじゃありませんから、大丈夫ですのよ? 組合という組織を作って、給料から天引きされたお金を管理して積み立ててますの。そこからお金を出してますから問題ありませんわ。組合のお金の天引きも全員承諾してましてよ?」


 それを聞いたアドニスは、申し訳なさそうな顔をした。


「すみません、貴女がなんの対策もなしにそんなことをする訳ありませんでしたね」


 アルメリアは首を振る。


「いいえ、そういった意見が必要なのです。だからもっと質問して、アドバイスをしてくださると嬉しいですわ」


 そう言うと、農園内を歩き始めた。一通り農園の案内が終わると、今度はインフラ設備の案内に入る。

 案内しながらアルメリアは、今日一日で全てを案内することはできないと思った。


「アドニス、一つ提案があります。(わたくし)の事業を案内するためには数日かかります。そこで我が領地に、数日お泊まりいただくことは可能かしら? お泊まりになることが可能であれば、最高のおもてなしと案内をさせていただきますわ」


 すると、アドニスはそれをすぐに了承しさっそくクンシラン家に視察のためしばらく滞在すると、父親に手紙を書いた。


 それから数日間、アドニスを全力で接待し領地内を丁寧に案内して回った。その中でアルメリアはアドニスに意見を訊いたり、相談したりもした。

 アドニスは現在、父親の見習いとして働いていたが、父親からの返事には休暇を許すと書かれていたので時間は十分にあった。なので疑問に思ったことは些細なことでも全てじっくり質問した。驚いたことにアルメリアが答えられないことは何一つなかった。


 それに、クンシラン領を歩いていてアドニスが一番驚いたことは、道が綺麗だったことだ。夏場は酷い悪臭と舗装されていない悪路に悩まされる自分の領地とは大違いであった。

 下水について質問すると、水で流せるトイレをアルメリアが考案し、それが可能か技術者に持っていき山の上のダムから水圧を利用して流していると説明を受けた。


 話を聞いているうちにアドニスは、根底にアルメリアの先進的な考え方やアイデアがあり、そこから高い技術力を得るためのたゆまぬ努力をしているからこそ、この素晴らしく発展した領地があるのだと気づいた。

 それを知ってアドニスは、アルメリアに更に陶酔していった。


 屋敷でも最高のもてなしを受けた。素晴らしい部屋に、極め細やかな配慮をするメイドたち。彼らは心から笑っているのがわかり、それがとても心地よかった。

 それになんと言っても、アルメリアは話題が豊富で共に食事の時間を過ごすのが楽しみの一つとなった。それにアルメリアは聞き上手でもあった。

 ある日アドニスはそんなアルメリアに食事の席で、ついぽろりと愚痴をこぼしてしまった。


「私の父上は完璧な人なので、その後を継ぐとなると正直不安になることもあります。私に同じようにできるか自信がないのです」


 そう言ったあとすぐに


「いえ、あの今の発言は忘れてください失言でした」


 と、言った発言を訂正し、気まずそうに食事に集中し始めた。


 アルメリアは不思議そうな顔をして返した。


「なぜそう思いますの? アドニス、卿と同じようにしようとしてはいけませんわ。それではなんの進歩もありませんもの」


 アドニスは食事をしている手を止め、アルメリアをじっと見つめた。幼い頃から母親や周囲に『父親を見習い、父親のように素晴らしい人間になりなさい』そう言われて育ったアドニスにとって、その一言は衝撃的なものだったのだ。


「確かにアルメリア、貴女の仰る通りですよね」


 そう言ってアドニスがぼんやりした様子になったので、アルメリアはアドニスの手元を見た。


「お食事、お口に合わなかったかしら? なんなら今からでも肉料理に変更しましょうか?」


 すると、アドニスははっとして笑みを浮かべた。


「いえ、大変美味しくいただいております。アルメリア、私は今後貴女と一緒に食べるものは、どんなものでも全て美味しいと感じるでしょう」


 アルメリアは、アドニスが魚料理に感動してくれるのだろうと考え、港町から保存できるように加工してでも運ばせて良かった。後で料理長も褒めておかねば。そう思いながら微笑み返した。


 案内最終日となり、全てを案内し終わるとアドニスは心からアルメリアに感謝の言葉を延べた。


「急なお願いだったにも関わらず、こんなに丁寧に案内していただけるとは思ってもいませんでした。大変素晴らしく充実した数日間でした。ここでの経験は私の人生を変えるものとなるでしょう。ありがとうございます」


 アルメリアはアドニスの手をとり満面の笑みで答える。


(わたくし)も楽しかったですわ。また、いつでも気軽にいらしてくださいな。それと今後も(わたくし)にお手伝いできることがあればいつでもお声かけくださいませ」


 アルメリアはこの案内を、今後のフランチャイズ契約の営業だと思って案内していた。

 アドニスが爵位を継いだときに、フランチャイズ契約をしてくれる大切な顧客になるかもしれなかったからだ。この営業が上手くいったことを祈りながら、アドニスの帰る姿を見送った。


 アドニスは屋敷へ戻ると、父親や友人たちにアルメリアがどれだけ素晴らしく聡明で美しい令嬢であるか、そんなアルメリアを自分がどれだけ尊敬しているかを話して聞かせた。

 こうしてアルメリアの初の営業は、思惑と違う方向でも効果を発揮していた。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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