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第百四話 忠告

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「外に行きますの?」


「そうだ。君はセントローズ感謝祭では広場で踊りや、楽団による演奏、そして最後にセントローズの伝説を再現した演劇が行われるのは知っているね?」


「はい、知っております。その見物に行きますの?」


 セントローズ感謝祭は、ロベリア国でもかなり大きな催し物だった。もしも、王太子殿下であるムスカリとアルメリアが連れだって見物などすれば、騒がれてしまうに違いなかった。

 アルメリアは目立つことは避けたいが、先ほど喜んでご一緒すると言った手前、絶対に断ることもできずどうしたものかと困惑した。


 それが顔にでていたのか、ムスカリは苦笑しながら答える。


「そうなのだが、目立つことはしないから安心してくれ」


 そう言うとアルメリアをエスコートし、屋敷を出て待たせていた馬車に乗り込んだ。どこに連れていかれるかわからぬまま、窓のそとを見ていると、それはいつも登城するときに見る景色と同じだった。


 城へ向かっているのだろうか? 見学でなぜ城へ? そう思っていると、馬車はまもなく城門前に到着した。

 先に着いていたムスカリのエスコートで城壁内へ入り、そのままアルメリアの執務室などがあるパラスの横を素通りして宮廷へ真っ直ぐに向かって行く。


「あの、宮廷に行きますの?」


「そうだ。君は宮廷内に来たことがないから知らないと思うが、宮廷の外壁にあるちょっとしたテラスから中央広場がよく見えるのだ。毎年そこでひとり、ゆっくりお茶を飲みながら見物するのだが、今年は君と一緒に過ごしたかった」


 好意を隠すことなく、真っ直ぐにアルメリアを熱っぽく見つめながら言うムスカリに、アルメリアは恥ずかしくなり視線をそらす。


「わ、わかりましたわ」


「少し階段を登らねばならないが、平気か?」


 アルメリアは無言で頷く。


「そうか。途中無理だと思ったら言ってくれ。私が抱えて連れて行ってあげよう」


「と、とんでもないことでございます! 殿下に、そんな!」


「なに、私もそんなにひ弱ではないからな。君ぐらい軽いものだ。だからいつでも言ってくれ」


 そう言うと、宮廷内の階段を登り始めた。


 途中休みながら、なんとか階段を登りきりテラスにでると、そこには大パノラマが広がっていた。


 アルメリアは思わず歓声を上げる。


「素敵な景色ですわ!」


「気に入ってくれたようで安心した」


 テラスにはサンシェードがあり、その下に透かし彫りの入ったガーデンテーブルがセッティングされている。


「さぁ、座って」


 と、ムスカリが椅子を引いてくれた。腰かけるとクッションがきいていてとても座り心地の良い椅子だった。

 そして、次々にお菓子が運ばれてくるとテーブルの上に並べられ、最後にティーカップにお茶がそそがれる。お茶の香りを楽しんでいると、ムスカリがオペラグラスを差し出してきた。


「流石にこの高さだと、これがないと見えないからね」


 それを受け取ると、覗き込み広場を見た。広場では、楽団がリズミカルに体を動かしパフォーマンスをするように楽器を奏でている。その音楽はアルメリアたちのところまで届いていた。

 そして、その中央で美しく着飾った女性がダンスを披露している。周囲は見物人が取り囲み、出店なども出ており遠くから見ていてもその活気が伝わってきた。


「見ているだけで、楽しい気分になりますわ」


「そうだな。私は毎年ひとりでこれを眺めていたが、今年は君とこの楽しい時間を共有できることが嬉しい」


 急にそんなことを言われ、アルメリアは恥ずかしくなりムスカリの顔を見ることができなかった。ムスカリはそっとそんなアルメリアの手を握った。

 アルメリアはこの空気を変えようと咄嗟にムスカリの方を向いて言った。


「そ、そういえば殿下にお訊きしたいことがあるのです」


「どうした?」


 ムスカリが愛おしそうに見つめてくるので、アルメリアは心臓が跳ねるような感覚がした。

 恥ずかしくなり、少し俯く。


「あの、えっと……、その、先ほどの劇の最中に言っていた……」


「うん、言っていた?」


 そう言いながら、ムスカリはアルメリアの顔を覗き込む。


「フィルブライト公爵令嬢のことですわ! 殿下、フィルブライト公爵令嬢になにか忠告なさったのですか?」


 すると、ムスカリは怪訝な顔をして答える。


「フィルブライト公爵令嬢? 彼女がどうかしたのか?」


「殿下からフィルブライト公爵令嬢に、お茶会で(わたくし)がお茶をかけられたことについて、なにかご忠告なさったのではないのですか?」


 すると、ムスカリはつまらなさそうに言った。


「あぁ、お茶会で君にお茶をかけた令嬢の事を知らないか、彼女に少し話を聞いたりはしたが……。なにかあったのか?」


 白々しいと思いながら、アルメリアは答える。


「どうやらテイラー侯爵令嬢にお茶をかけるように指示したのは、フィルブライト公爵令嬢なのだそうです。本人から直接謝罪がありましたわ」


「そうか、それは良かった。ではそれですべて解決したわけだな。私も少しは責任を感じていたからね、ほっとした」


 そう言って微笑むが、目が笑っていなかった。そんなムスカリをアルメリアは疑いの眼差しでじっと見つめる。すると、ムスカリもじっと見つめ返し、苦笑した。


「わかった、本当のことを言おう。君に嫌われたくはないからな。なぜ君にお茶をかけたのかテイラー侯爵令嬢に訊いたのだが、フィルブライト公爵令嬢に命令されたと証言してね。直接フィルブライト公爵令嬢にその件を尋ねたんだが、彼女は記憶にないと言うのだ。それで思い出すまでの間に、こんな話をして聞かせた。私がひょんなことから、教会の過去四年分の出入金台帳を手に入れたとね。それを私は今のところ表に出すつもりはないとも」


 フィルブライト公爵が教会と繋がっていて、不正をしており、その証拠をムスカリが持っていると暗に脅されたのだ。さぞかしエミリーはゾッとしたに違いないと思った。


「それで、彼女はお茶の件について思い出したんですのね?」


「まぁ、そんなところだね。それで、君に謝るなら今回のことは見逃すと言ったのだ。これに懲りてちゃんと反省してくれればよいのだが」


「そういうことでしたの。これで納得がいきましたわ」


 これでこの前エミリーがなぜアルメリアにあのような態度をとってきたのか、疑問が解けた。

 だが、それとは別にもう一つの疑問が生じた。


「ところで、フィルブライト公爵は教会と後ろ暗い繋がりがありますの?」


 その質問にムスカリはにやりと笑うと答える。


「なぜそう思う? そんな事実は一切ない。ほら、それよりアルメリア、セントローズの伝説の再現が始まるようだよ」


 そうムスカリに言われ、話をそらされた気がしたが、それ以上質問することは諦めオペラグラスを覗き込んだ。

 

誤字脱字報告ありがとうございます。

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