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第百二話 アルメリア劇場

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アルメリアは、周囲を一週ぐるりと回りながらアドニスの格好を上から下まで見る。そして、笑顔でこう答えた。


「ほつれもサイズもぴったりで、おかしなところはありませんわね。とってもお似合いですわ」


 アドニスは、面食らったような顔をして答える。


「いいえ、アルメリア。そういうことではないのですが……。まぁ、似合っていると褒めてくださっただけでも、今はよしとしましょう」


 そう言うアドニスの後ろにふと視線を移すと、そこにルーファスが少し恥ずかしそうにして立っていた。それに気づくと、ルーファスの姿をしばらく見つめる。祭服姿のルーファスしか見たことがなかったので、新鮮な感じがした。


「ルフス、貴男とっても似合ってますわ。雰囲気が違って、別人のようですわね」


 そう言って声をかけると、ルーファスは今一度自分の姿を見下ろし、照れ笑いをした。


「このような格好をするのは久しぶりですから、とても恥ずかしく感じてしまいますね」


 このとき、アルメリアはおや? と思った。今ルーファスが着ている服装はそこまで派手な服装ではないものの貴族の格好だ。それを久しぶりに着たということは、昔はそのような服装をしていたということになる。

 もしかして、勝手に平民出身のイメージを持っていたが、実はどこかの貴族の出身なのかもしれない。アルメリアはそう思った。


 そうして衣装の感想を話しているうちに、子どもたちの起床時間になった。

 スパルタカスの部下たちが舞台を作りに来てくれたので、アルメリアたちは小屋の裏手で最後の通し稽古をした。


 一通り稽古が終わると、子どもたちが集まりいよいよ舞台は整った。まずはリカオンと父親役のルーファスが舞台へ上がって行く。


「その物語は、シンデレラの母親がなくなったところから始まった」


 ナレーションが入ると、幕が開いた。


 話の内容は、前世でのシンデレラとほぼ変わりない。シンデレラの母親が亡くなり、父親が意地悪な義母と結婚。父親が家を空けると、義母、義姉、義妹からのいじめが始まる。

 そして、舞踏会があり……と、そんな内容だ。


 アルメリアの出番はかなり早い段階からだった。舞台へ上がると、子どもたちの中には


「あっ! アンジーだ!」


 と、叫んでしまう子もいたが、ブロン司教に優しく注意されると大人しく見ていた。


 舞台上では義姉のアルメリアが、父親の手前最初はシンデレラに優しく接するも、父親が不在なったとたん手の平を返していじめ始める。そんなシーンを演じていた。


「あら、シンデレラったらまだ暖炉の掃除が終わっていませんことよ? 早くなさいな」


 そう言い放ち、アルメリアは義妹役のムスカリと舞台裏へ下がる。交代で舞台上には義母役のリアムが上がり、さらにシンデレラへ追い討ちをかける。

 リアムの義母役も堂に入ったものだった。感心して見ていると、隣に立つムスカリがそっと耳打ちした。


「私がシンデレラの相手の王太子殿下ならば、あの義母は追放されるだろう。まぁ、私ならドレスにお茶をかけるといったような、低俗な嫌がらせをしただけでもただではすませないが」


 アルメリアは、思わずぱっとムスカリの顔を見上げると、ムスカリはにっこりと微笑んでこちらを見下ろしていた。

 先日、フィルブライト家でエミリーに会ったとき、エミリーが極端にアルメリアを怖がったのは、ムスカリがなにかしたからなのだろう。

 そこまでするものなの? と、呆気にとられていると、ムスカリに背中を軽く押される。


「さぁ、私たちの出番だ。行こう、お・ね・え・さ・ま」


 そう言って、ムスカリは先に舞台へ上がって行った。

 ムスカリにそんな話をされ、少しは動揺しつつもその後無難に役をこなし、いよいよ物語は佳境に入った。


 王太子殿下役のアドニスが、兵士を従え靴を持ってシンデレラの家へと来訪する。先にアルメリアとムスカリがガラスの靴に見立てた小道具の靴を履こうとすると、アドニスに止められる。


「君は後だ。もう一人この家に娘がいるはずだ」


 この物語の本当のあらすじでは『先に義姉たちが履くと靴のサイズが合わない』というシーンがあるが、ムスカリとリカオンの靴のサイズがまったく同じだったことから、急遽変更したシーンだった。


 義母はしかたなくシンデレラを呼ぶ。奥から出てきたシンデレラは、兵士に促されクッションの上に置かれた靴に足を滑りこませる。


 アルメリアは内心、このシーンをとても楽しみにしていた。シンデレラという物語が好きだったからだ。

 さぁ、いよいよクライマックスですわ。と心のなかで思いながら、この大切なシーンを見守る。


 ところが、靴のサイズが合わない。アルメリアは血の気が引く思いがした。そして、考える。どこで道具を間違えたのだろう? だが、用意された靴は一足だったはずだ。いや、まずはこの現状をどうにかしなければ……。そうしてあれやこれや考えていると、アドニスが指示を出した。


「では、そこにいる娘たちに履かせてみよ!」


「はい、仰せのままに」


 そう言って、靴を持った兵士がムスカリに近づいた。アルメリアは、アドニスがなぜそんなことを言ったのかわからず、成り行きを見守る。ムスカリが恭しく靴に足を入れるも、当然サイズが合わずに入らない。


 そして、ついにアルメリアの前に靴が置かれる。あまりにも自然な流れで靴を差し出され、アルメリアは戸惑いながらもその靴に足を入れる。すると、アルメリアの足はその靴にぴったりと収まってしまった。


 慌てて顔を上げ、アドニスを見るとアドニスはアルメリアを見つめ微笑んだ。周囲を見回すと、舞台上のすべての演者がアルメリアを見つめている。どういうことなのかと困惑していると、然変アドニスが口を開いた。


「やはり君だったのか。そうではないかと思っていた」


 そして、今度は隣に立っていたムスカリが言う。


「御姉様、私たちは御姉様がすべて裏で仕組んでいたことを知っていた」


 思いもよらない展開に、なにか言い返さねばと思うがうまい言葉がみつからない。すると、今度は舞台袖からスパルタカスが出てきて、会場の方を向いて説明し始めた。


「確かに、私は彼女に頼まれました。みんなの喜ぶ顔が見たいから、シンデレラにドレスや馬車を用意するようにと」


 今度はリアムがアルメリアに向かって言う。


「シンデレラと王太子殿下をくっつけようとしていたんですね。でも、それはなぜ?」


 アルメリアはそれを否定しようとしたが、先にリカオンが答える。


「それは御姉様が、私の幸せを願ってしてくださったことに他ならないのです。御姉様は自分を殺してでも、人の幸せを願う。そんな人なのです」


 アルメリアは眩暈がした。そして、これはみんなが仕組んだことなのだとやっと気がついて思わず叫ぶ。


「あぁ、もう! これはどういうことですの! 話がめちゃくちゃですわ!」


 すると、隣にいるムスカリが優しくアルメリアの腰をつかみ引き寄せる。


「御姉様、大丈夫。御姉様の願う通り私たち幸せに暮らそう」


 アドニスはアルメリアの手を取り、手の甲にキスをした。


「私もそんな優しく聡い君と幸せになりたい」


 リアムはアルメリアの髪に触れると、一束掬い上げそこにキスをした。


「私もおそばにいさせて下さい」


 スパルタカスも後ろから言う。


「私はそばにいて、盾になりましょう」


 そして、リカオンはアルメリアの目の前に跪くと、声高らかに言った。


「貴女に忠誠を!」


 その台詞を合図にスパルタカスと兵士たちも跪いて叫ぶ。


「「「貴女に忠誠を!!」」」


「ダメダメ! ダメですわ、こんなの間違ってますわ!!」


 アルメリアがそう叫ぶ後ろで、ナレーション役の兵士が言う。


「こうしていつまでもみんなの仲良く、末長く平和に暮らしましたとさ、めでたしめでたし」


 そして、幕が閉じられるがその奥でアルメリアが叫ぶ。


「これは違いますのー!!」


 その一言に、会場の子どもたちが声を出して笑っていた。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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