8.再度の対峙
オーダーメイドのサングラスを持ってオットーは、今度は意気込んでマクシミリアンの私室の前まで来た。扉を開けたのはやはりアナだった。
「まぁ、なんですの、そのヘンテコな眼鏡は? 私に誘惑されないように? 見えないなら、触ってみます?」
アナはオットーの手をとってぽよんと胸に触らせた。オットーは慌ててアナの手を振りほどいて自分の手を引っ込めた。
「うわわわわっ! け、け、結構です! それよりマックスに会わせて下さい!」
「まあまあ、情けないこと! でも仕方ないですわね、会わせてあげましょうか」
だいたいなぜマクシミリアンに会うために側近の自分が全く関係ない令嬢の許可をとらなくてはならないのか、オットーは怒りを覚えたが、とにかくマクシミリアンに会うのが優先で不満は飲み込んだ。
オットーがカーテンの閉じられた薄暗い室内に入ると、甘酸っぱくて淀んだ空気が扉の前にいた時よりももっとひどく匂い、吐きそうになった。
オットーは窓に近づいてカーテンを開け、窓を開け放した。すると部屋が明かるくなってソファにもたれかかっているマクシミリアンの様子がよく見えるようになった。
オットーがマクシミリアンを見たのは半年以上ぶりだった。記憶の中よりも大分やつれているマクシミリアンは、ソファからずり落ちそうな姿勢で背もたれに寄りかかり、大股を開いて座っていた。だが、誰が部屋に入ってきたのか全く介さず、口から涎を垂らして半分意識を飛ばしているように見えた。
オットーは、周りに阿片を吸うパイプがあるかこっそり見回してみたが、見つけられなかった。
「フェアラート男爵令嬢、殿下と2人だけで話したいから、出て行って下さい」
「あら、こんな格好の女性を部屋から放り出すのですか? 3人でいけない遊びをしていたのかってきっと噂になりますわね」
「ドレスはこれですか? 侍女を呼びます。隣の部屋でドレスを着たら、出て行ってください」
オットーはアナの言うことに意を介さず、ソファに脱ぎ捨てられているドレスを見てベルを鳴らして侍女を呼んだ。
「仕方ありませんね。これは貸しですわよ」
侍女にドレスを着せてもらったアナは、そう言い捨ててマクシミリアンの部屋から出て行った。それを見届けたオットーはマクシミリアンの横に座った。
「おい、マックス! しっかりしろ! 我が王国の第一王子殿下が涎垂らして半分気を失っているなんて情けない姿を見せるんじゃない!」
オットーがマクシミリアンの両肩を掴んでがくがくとゆすると、ようやくマクシミリアンの意識が戻ってきたようだった。
「……あ……オットー?!」
「お前、どうしたんだ?! 女たらしの振りは、お前の王位継承権返上に納得しない王妃陛下の裏をかいてヴィリーを王太子にするためだっただろう? ユリアとは別れたくないって言っていたじゃないか! このままだと、父は王家有責で婚約破棄させるぞ!」
「嫌だっ! 俺はユリアとずっと一緒だ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だーっ!」
マクシミリアンは両手で頭を掻きむしり、叫んだ。
「わかった、わかった! 落ち着け、マックス! ユリアもお前と婚約続行したいそうだ」
「……本当に?」
「ああ、だから別の特定の女と関係を持つのは止めろ。特にあのアナって女は危険だ。ユリアと一緒にいたかったら今すぐ別れろ」
「ああ……」
「それに阿片を吸っているだろう? このままだと精神が崩壊するぞ。それも止めろ。わかったな? 阿片中毒の廃人とかわいいユリアを結婚させるわけにはいかないからな。それどころか、このままじゃ、廃嫡されて北の塔に一生幽閉だぞ!」
「ああ……」
「おい、わかってるのか?!」
マクシミリアンがその後の行動を正すかどうか、オットーは疑心暗鬼だった。残念ながら悪い予想は当たり、マクシミリアンはアナの肉体と阿片のその場限りの快楽に溺れて抜け出せなくなっていた。
ちょっぴり持ち直したオットーお兄ちゃんです(笑)
阿片に詳しいわけではありませんので、ネットで読んだ聞きかじりの知識と想像で書いています。あくまでファンタジーですので、事実と違っていてもご了承下さい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価もありがとうございます。