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6.異変

 マクシミリアンの女遊びが始まった2年ほど前から、ユリアとマクシミリアンが会う頻度は劇的に少なくなった。それでも渋々の体で3、4か月に1度2人でお茶を飲む機会が設けられたのだが、アナがマクシミリアンのそばに侍るようになってからはそれすらほとんどなくなってしまった。


 ユリアの説得に絆された父と国王の仲介で、ユリアはようやくマクシミリアンと2人で話す機会を得られたが、通されたのは以前のようにマクシミリアン個人の応接室ではなく、王宮の客室であった。


 ユリアは久しぶりに見たマクシミリアンの様子にすぐに違和感を持った。会っていないときは遠目でしかマクシミリアンを見かけなかったし、話しかける機会すらもらえなかったから、異変に気付けなかったのかもしれない。


 目の前のマクシミリアンは不健康に痩せて目の焦点がなんだか定まっていない。話が全然盛り上がらず、ユリアが一生懸命話しかけているだけなのに、時々そんなに爆笑するほど面白い話とも思えないことに脈絡なくいきなり笑いだしたりした。最近王都で流行っている喫煙喫茶の客をユリアは街中で見かけることがあるのだが、マクシミリアンは彼らの様子に似ていた。


 2人でのお茶の時間も終わりになりかけた頃、突然マクシミリアンの目に光が戻り、まじめな表情を見せた。


「ユリア、俺は婚約を破棄したい。ヴィリーと一緒になってこの国を支えてやってくれ」

「どうしてそんなことを言うのですか! 私は嫌です!」


 その言葉を聞いたマクシミリアンは泣きそうな顔をしていた。自分から婚約破棄を申し出ておいて?とユリアは不思議に思った。


 帰宅後、ユリアは父に今日のマクシミリアンとの面会の様子を聞かれた。


「今日は殿下の私室には案内されず、客室でお茶を飲みました。でもそれより殿下の様子がなんだかおかしかったことが気になります。喫煙喫茶に通う人みたいに不健康に痩せていて目に焦点が合わない感じで、話もつじつまが合いませんでした」


 マクシミリアンのほうから婚約破棄を申し出たことをユリアは言わなかった。もし父にそのことを伝えたら、これ幸いと婚約破棄の手続きを進めるだろう。こちらから何も行動を起こさなくてもマクシミリアンが本当に婚約を破棄したいのなら、王家のほうから書状を寄こすはずだ。でもユリアはマクシミリアンの最後の泣きそうな表情から、婚約破棄はマクシミリアンの本音ではなく、王家のほうからは言ってこないだろうと希望を持っていた。


「最近流行のいかがわしい喫茶店は『喫煙喫茶』と銘打っているが、あれはタバコを吸う喫茶店ではない」


「え、それでは『喫煙喫茶』では何を吸うのですか?」


「阿片だ」


 ユリアも『阿片』という言葉は聞いたことがあった。10年ほど前に遠い外国キンで王族から官僚まで阿片中毒が蔓延して王朝が滅亡したことをユリアも知っていたからだ。


「それではまさか? 陛下は気づいておられないのですか?」


「気づいていてわざと放置しているのかもしれない。最近、マクシミリアン殿下の私室から変な甘酸っぱい匂いがするという噂がある。私がその噂を聞いたことがあるのに、陛下が知らないはずがない」


「そんなことって……?! 実の息子なのに放置ですか?! 少なくとも王妃陛下は殿下を気にかけていたはずなのに、どうしてこんなことに?」


 国王は元々、優秀な第二王子のヴィルヘルムを気に入っていた。それに彼にとっては、マクシミリアンは実の息子である以前にシュタインベルク王国の王子である。王室にとって害になるような行動をする王子はいずれ排除されるというのがユリアの父の見解だ。王妃だけは息子を気にかけているだろうが、もはや母親の言うことなど聞かない状態であることが父の耳にも入ってきている。


「陛下はおそらくマクシミリアン殿下を切り捨てにかかっている。いずれ王妃陛下の反対を押し切ってマクシミリアン殿下の王位継承権を剥奪してヴィルヘルム殿下を立太子させるだろう」


「そ、そんな……ひどい!」


「阿片中毒で廃人になりつつある男と婚約なんて続けさせられない。婚約解消を申し出よう」


「嫌です! 絶対に婚約は続けます!」


 娘の懇願に父は逡巡しつつも口を開いた。


「んー……私も愛娘の希望は叶えたいのは山々なんだよ。でもだからといって愛娘を廃人にみすみす嫁がせるつもりもない。これから1年以内に彼の健康状態が回復しなかったら、婚約は解消。これが私の最大限の譲歩だよ」


 ユリアは父親の提案を渋々呑むしかなかった。

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