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公爵令嬢はダメンズ王子をあきらめられない  作者: 田鶴


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32/33

32.それぞれの行く末

 マクシミリアン元王子獄死発表の1週間後、ユリア死去の一報が流れた。公式には病死ということだったが、信じる者は少なかった。教会が自殺を罪と見なしていることから、自殺が死因だったのを隠しているのではないかと世間では言われた。一方、ディアナ死去に伴って自害した侍女は忠義者として教会の断罪を免れた。


 国王フリードリヒはそれからまもなく退位し、ヴィルヘルムがヴィルヘルム4世として即位した。前国王フリードリヒは、退位後も成人して間もないヴィルヘルム4世の公務を支え、数年後に完全に引退して辺境に移住した。その傍らには社交界で全く知られていなかった愛妾ボドワール夫人がいつもいたというが、フリードリヒは死ぬまで再婚しなかった。ボドワール夫人は公の場に出てきたことはなく、名前以外は後世に何も伝えられていない。


             ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ヴィルヘルム4世の即位後、恩赦が実行された。まもなく恩赦後初めての官報が発行され、ラウエンブルク公爵家にも届けられた。官報には爵位の授与や継承・剥奪・売買、文官・武官の任退官や移動、恩赦などが掲載されている。


「『恩赦』、『Sch』……あった! ミハエル・フォン・シュミットに恩赦だ! ん? 『フォン』?!」


「オットー、叙爵欄も見てごらん。」


「はい、父上……『シュミット伯爵』?!」


 まさかヴィルヘルム4世がミハエル――かつての名はマクシミリアン――に恩赦と同時に叙爵もするとはオットーは思っておらず、驚いたが、ラウエンブルク公爵は既にヴィルヘルム4世から聞いて知っていたようだった。


「父上、母上、2人の幽閉が解けたんだから、会いに行きましょう!」


「そうだな……でも殿……じゃなかった、シュミット伯爵は私達のことがわかるとは限らないよ。よくはなってきているそうだが、正気に戻るときと何もわからないときと半々らしいから」


「正直言って、シュミット伯爵が私達のことをわかるかどうかはどうでもいいんです。それよりも私達のユ……ダリアに久しぶりに会いたいですよ」


「私もダリアに会いたいわ!」


「そうだな。連絡をとってみるか。それにしても、これでやっと肩の荷が下りたな。今度はお前の婚約を考えないと」


「婚約はまだいいですよ」


「でもお前ももう20歳になるんだ。いくら男でも20歳過ぎたら結婚していなくても婚約者ぐらいいるものだ」


「そうよ、うちの分家でも20歳過ぎて婚約も結婚もしてないのは、家督を継げない息子さんならいるけど、嫡男は皆結婚か婚約してるわよ!」


「あのダリアの愛……あんな廃人状態になった男でも一緒になりたいと思えた、その愛が僕にはわかりませんでした……相手がどんな状態になっても愛さなくてはいけない呪いのように思えて結婚する自信がなくなったんです。でもこんなことを言っていては貴族失格ですね。貴族の結婚には愛はいらない。わかっているんですが……」


「そうか……陛下が一向に結婚しないのもそのせいかもしれないな」


 ヴィルヘルムは、トラヘンベルク公爵令嬢と婚約しないで済むなら外国の王女と結婚することになってもいいと子供の頃に父フリードリヒに約束したが、それはすっかり反故にして未だに婚約も結婚もしていなかった。ヴィルヘルムのユリア、いやダリアへの愛はまだ消えていないのかもしれない。オットーはそう思った。


「うん、まぁ、そうかもしれませんね。王族や貴族は政略結婚が当然だから、婚約者の立場が悪くなれば、婚約を解消して別の婚約者に乗り換える――前はそれが当たり前だと思ってました。でもあの2人を見てなんかわからなくなったんです」


 悲しそうにラウエンブルク公爵夫妻は息子を見つめた。


「済まない、お前にトラウマを作ってしまったな」


「父上や母上の責任ではありません。婚約の件は、遠くない将来には気持ちを整理して何とかしますから、安心して下さい。我が家には後継ぎが必要ですからね」


 最初の訪問後も、ラウエンブルク公爵一家は数年に1回、秘密裡に辺境のダリアとミハエル――かつての名はユリアとマクシミリアン――を訪ねた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。あと1話で完結です!

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