表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/47

復讐 002



 俺のギルドの扉を破壊し、悠々とやってきた男。

 四年前より体格も大きくなって髪も伸びているが、間違いない。


「……ウィグ」


 「覚醒の儀」でスキルを発現しなかった、「無才」の四男。

 奴が、どうしてここに……。


「へえ……名前、まだ覚えてたんだ」

「……自惚れるなよ、出来損ないの無能が。お前の存在があまりに腹立たしいから、嫌でも覚えていただけだ」

「そう。まあ、別にどうでもいいんだけど」


 斜に構えやがって……本当に、どこまでも俺の神経を逆撫でする奴だ。


「今更何をしにきた。二度と顔を見せるなと言ったはずだぞ」

「僕もあなたたちの顔なんて見たくなかったさ。でも、ケジメは大切でしょ?」

「なんだと?」


 俺の訝し気な声を気にも留めず、ウィグは腰の剣を引き抜く。


「復讐って言葉がしっくりくるのかな、やっぱり……僕を捨てた家族への復讐。いや、もう家族じゃないか」

「……つまり、俺に歯向かうってことか? スキルのないお前が? そんな鉄屑一つで?」

「だからケジメさ。僕がこの先の人生を生きる上で、つけなくちゃならないんだ」


 真っすぐな瞳で、俺を見据えるウィグ。


「……笑わせるなよ、ガキが。俺にとっても、お前は既に息子でも何でもない。ギルドに仇なす敵だ……おい、エド」

「はい、父さん」

「そこにいる思い上がった無能を排除しろ。公認ギルドを襲ってきたんだ、殺しても構わん」

「仰せのままに」


 あの馬鹿にどんな勝算があるのかは知らないが、エドには関係ない。

 二つ名を持つ冒険者は国家戦力にも数えられる……悪いが、出来損ないのガキには死んでもらおう。

 そもそも、情けをかけたのが間違いだった。

 こんな風に馬鹿げた復讐を企てるくらいなら、いっそあの時殺しておけばよかったのだ。

 まあ四年越しにはなったが、こうして邪魔者を排除できてよかった。

 ガウス・レンスリーの輝かしい功績の中に、無能な息子の存在は必要ないからな。


「さあエド、遠慮はするな。お前にとっても、そいつはもう弟ではない」

「わかっていますよ、父さん」


 キザに微笑み、エドはその身から橙の炎を噴出する。

 いつ見ても素晴らしい……あの炎の前には、どんな小細工も通用しない。


「ってことで、ウィグ……いや、愚か者と呼ぼうか。お前にはここで死んでもらうよ。大人しく山に引きこもっていればよかったものを」

「相変わらずだね、エド兄さん。相手を舐めてかかるのは悪い癖だよ」

「俺の後ろを付いてくることしかできなかったガキが、生意気言いやがる。山籠もりくんは知らないだろうから教えとくが、『明星の鷹』は公認ギルド序列四位にまで上り詰めたんだよ。その立役者は、言わずともわかるよな?」

「エド兄さんが強いのは知ってるよ。そうじゃないと意味がないし」

「はっ、どこまでも生意気だな……そもそも、スキルを持たない『無才』のお前に何ができる? 一丁前に剣なんか構えているが、そんなものが俺に通用するはずないだろう? お前みたいな役立たずの無能にはお似合いかもしれないがな」

「御託はいいよ。さっさと始めよう」

「ああ、とっとと終わらそう」


 エドの纏う炎が強まる。

 ああして敵の挑発に乗ってしまうところは、あいつの弱点だな……今後直していかなければ。

 とりあえず、早いところあの目障りな無能を消してもらおう。


「死ね、愚か者! 【業火の息吹(サラマンダー)】‼」


 エドの放った火球は、ギルドを破壊しながら真っすぐ突き進む。

 全く、後先を考えない奴だ……まあいい。

 俺に歯向かった不届き者を殺すには丁度いい派手さだ。

 骨も灰も残らぬ業火に焼かれて、完全に俺の前からいなくなって――




「《斬波(ざんぱ)》」




 刹那、炎が割れる。

 火球は左右に分裂し、轟音と共に爆散した。


「なっ……おい、エド! 何をしている!」

「エド兄さんは何もしてないよ、父さん」


 その声に、背筋が凍る。

 見れば。

 床に伏しているのは、エドの方で。

 立っているのは――あの無能の方だった。


「殺してはいない……でも、早く手当てしないと出血多量で死ぬだろうね」


 奴の言う通り、倒れたエドの周りには大量の血が流れている。

 あのまま放置すれば、俺の息子(道具)がなくなってしまう。


「い、一体何をした! お前のような『無才』がエドに勝てるわけがない! さては毒でも盛っていたのか!」

「そんな卑怯なこと、わざわざしないしする必要もない……単純に、僕の方がエド兄さんより強かっただけさ」

「ふざけるな‼ この無能が、卑劣な手で()()()()()()()()()()()‼ お前みたいなちっぽけなガキ、その気になればいくらでも……」

「父さん……いや、ガウス」


 俺の言葉を遮り、ウィグは言う。


「本当はあなたのことも斬ろうと思ってたけど、気が変わった……自分の息子を道具呼ばわりできるクズなんて、斬るまでもなく殺す価値すらない」


 あんたは無価値だ。

 そう言い残して、奴は去っていった。


「……」


 後に残ったのは、狼狽えるギルドメンバーと、泣き叫ぶ受付嬢。

 そして、死にかけの息子。

 これが俺の求めていたギルド?

 俺はただ、茫然と立ち尽くすしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] えっ、これで終わり?(´д`)(なんか復讐が道徳とかの綺麗事を無理矢理ねじこんだようなキモティワルサーが)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ