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第七話 魔女と超人

 翌日は雨だった。しかも豪雨。それでも巨鳥は国を守るために飛んでいた。

 マモルは悲鳴を聞いて夜な夜な抜け出したあと、土砂崩れや洪水、雨になったので力が上がった水の魔物、雨に紛れて悪事を働く悪者など、様々な悪から住民を救っていた。

 雨と泥で汚れた体と服を洗って、上昇させた体温で乾かし、たたきつけるような雨音と雷でうなされているビンカの横に座って、彼女を心配して起こそうとした。

「ま、マモル……ううっ~ん……」ついに悪夢に耐え切れなくなって目が覚めてしまい、マモルと目が合った。「ま、マモル……⁉」(ち、近い……それに、今日はいる!)

「おはよう? 起こそうとしたんだけど……今日は雨だし、もうひと眠りしたら?」

「マモル!」と、ビンカはギュッと彼に抱き着いた。「ううっ……怖い夢、見たの……」

「そうか」と、マモルは優しく言い、抱きしめて頭をなでてあげた。

「ううっ……マモル」(ま、また、子供みたいに……ワタシ、カッコ悪いよ……だけど、だけど、落ち着いちゃう……)「マモル……大好きだよ……」

「オレもだよ」

「えへへ……あれ?」ビンカは彼を離し、不思議そうな表情をしているマモルを見て、心配した。「マモル……やっぱり、寝てないよね? また、誰かを助けに行ってたの?」

「……バレてたのか」

「だって、だって……なんか、違うもん。それに、服、少し壊れてるし……直してあげるから、見せて?」

「……ありがとう。ご飯食べてからにしなよ?」

 ビンカは朝食と身支度を済ませた後、マモルのスーツを器用に直していた。

「ビンカ、どうしたの?」

「な、なんでも、ないよ……」

 今までの甘えた行動がとても恥ずかしく感じて、ずっと耳を赤くしてマモルを見ないように目を背けてしまう。思い出さないようにすればするほど、次々と恥ずかしい行動を思い出してしまう。

(ワタシ、本当に、子供みたい……)「あ、出来たちゃった……」

「え、本当? ありがとう」

「う、うん……」

 マモルはビンカが直したスーツを着て、パリッとした頼れる姿になったので、ビンカはドキッとして目をそらしてしまった。

「ビンカ、本当にどうしたんだよ?」

「な、何でもないのよぉ……む~ん……」

「ビンカ、オレのこと見て」

 ビンカは素直にマモルの微笑んでいる顔を見た。恥ずかしい。やっぱりかっこいい。顔が熱くなってくる。胸がドキドキしてくる。

「あ、うわぁ、マモル、その、わ、わぁ……」

「ビンカはかわいいな」

 そうして、雨の日の朝は、家の中でマモルにかわいがられてしまった。

 その後、ビンカはマモルに物語や文字を通して、勉強を教えてあげた。気合を入れようと先生を彷彿とさせる伊達メガネを掛けたら笑われて頬を膨らませた。一緒に薬の調合もした。幸福な気持ちでいっぱいだったのに、質がいい薬がたくさんできた。

「えっと、あのさ、マモル……」

「どうしたの?」

「ご、ごめん、何でもないよ……」(は、恥ずかしい・・・・・・だけど、し、したいな……)


 その次の日は晴れ渡っており、マモルは仕事を終えてビンカが起きるころに帰ってきた。

「おはよう、おかえり、マモル……」(今日は、頑張ってきたんだ……)

「おはよう、ビンカ。ねぇ、デートいかない?」

「……ええっ⁉」(ど、どうしよう、とっても嬉しいよ……)「ほ、ホント?」

「本当は昨日誘おうと思ったんだけどさ。ビンカは、今日は大丈夫?」

「う、うん」(たぶん……)「……えへへ、じゃあ、行こ!」

 ビンカとマモルは、手をつないで首都に出発した。

 門には本来の業務に戻った、レイセーイとオコールがいた。

「あ、レイセーイ、オコール。よかった、元気そうだな」

「ああ。お前は、まあ、大丈夫だったみたいだな」

「オラァ! 今日はどうしたんだ⁉」

「デート」

「ま、マモルっ⁉」(は、恥ずかしいよ……だけど……)「えへへ……」

「そうか。騎士団からも話は聞いてるよ。魔女を通してもいいって。ようこそ」

「楽しまなかったら、承知しねぇからな! あとさ……」

「な、なんですか?」(オコールさん、やっぱりちょっと怖い……)

「薬、ありがとうな……」

「……え?」と、ビンカは思わずキョトンとしてしまった。

「魔女だって知って、最初は怖かったですが、考えを改めました。ありがとうございます。我々を助けてくれて」

「それだけだ。ゴラァ! 行け!」

「わぁ……えへへ、はい!」

 二人に見送られながら、ビンカとマモルは手をつないで門をくぐった。

 門をくぐって目に入ってきた光景は、輝くように美しい、様々な種族の文化が調和しており、独特な雰囲気を放ち、美しい以上に楽しい街並みをしていた。人間が住むおもちゃのような可愛らしいデザインの家々。ドワーフの作った数々の装飾や電線をはじめとするライフライン。可愛らしい小妖精が住む青々とした街路樹。巨人用の巨大なドアのある巨大な家。ゴブリンが出入りするドアがついたにぎやかな音が聞こえるトンネル。樹木が組み合わさってできたエルフの魔法の家。様々な獣人用の料理を提供してくれるお店。きれいな噴水かと思ったら人魚や魚人が住む水棲種族街の入り口。豪邸の廃墟かと思ったら、その中では半人半霊や吸血鬼が豪勢なパーティーをしている。

 街中で当たり前のように、個性豊かな様々な種族の者たちが幸せそうに行きかっていた。

「本当にいろんな人がいるんだな~。ねぇ、ビンカ?」

「ふわぁ……」

 ビンカは目をキラキラとさせて、うっとりと街並みを見回していた。

「ま、マモル! すごい、すごいところだよ!」

「うん。どこ行こうか?」

「えっと、えっと……」

 マモルとビンカは無意識のうちに恋人繋ぎをして美しい街並みを歩いて回り、商店街や露店でウィンドウショッピングをしたり、生きている建物や見たこともない魔法道具や機械に驚嘆したり、街でやっていたサーカスや美術館の動く絵を見物したり、レストランでおいしい料理を食べたり、二人で楽しい時間を過ごした。

「えへへ、マモル……あれ?」

 後ろを向くと、マモルがいなくなっていた。先ほどまでの楽しかった、暖かい幸福だった気持ちや気分がしぼんでいき、不安と恐怖という悪寒が広がっていく。

「ま、マモル……⁉ あ、そうだ!」

 ビンカは、セリュン王女が使った魔剣を通じて探す探知魔法を使って、マモルの居場所を突き止めようとした。すると、彼の居場所を一瞬で見つけてそこに駆け出していく。

 そこは、船が通れるほどの大きな川にかけられた、レンガでできたきれいな橋で、そこには不安そうな様子の様々な種族の人だかりができていた。

「ま、マモル!」と、人混みの中に突入して彼の名を叫んだ。「ううっ……マモル、どこ!」

 すると、人混みを抜けて最前列に来てしまい、その際に転んだ痛みで涙が流れた。

「ううっ……うわっ⁉」

 その光景には心臓が止まるかと思った。誰かが乗っている豪華な馬車が橋から飛び出して、今にも五メートルは下にある川へ落ちそうになっていたのだ! 

 そして、やはりそこにいたマモルは馬車に駆け寄り、馬を巻き込まないように馬をつないでいる手綱を引きちぎって逃がし、その次に落ちそうになった車を両手で持ち上げてみせた。持ち上げた馬車を橋からその先の道路の端へと避難させ、鍵のかかっている扉を破壊して中に乗っていた人を抱き上げて外に出した。

 その豪華なドレスなどは着てはいないおらず、ラフな格好をした超絶美少女な高貴な方は、頭から血を流して気絶していた。駆けつけた近衛兵がひったくるようにマモルから彼女を抱き上げて、豪華な救急の馬車に運ぼうとした。

「おい、ありがとうな! あとは任せたまえ!」

「血が流れてるけど……」

「マモル!」ビンカは息を切らして合流した。「わ、ワタシが治すから!」

「うん。お願い!」

 ビンカは救急車に行き、美少女に魔法をかけて治そうとしてあげた。

「お、おい!」と、兵士は見ず知らずの少女がやってきたので焦った。

「大丈夫だ。彼女はなんたって……」と言って、ビンカの活躍を知っている兵士の一人は戸惑ったが、やはり声に出すことにした。「……良い魔女なんだ」

 矛盾している言葉にみんなが戸惑っている間に、ビンカの治療魔法の光が、彼女の魔法の杖からはなたれる。ビンカがその光を姫の頭に下ろすと、傷がふさがれ、愛らしい顔に戻っていた。

「びゃびゃびゃ~⁉」奇声をあげて美少女は蘇生した。

「だ、大丈夫ですか?」ビンカは慌てて言った。

「自分のことわかる?」マモルは結構冷静だった。「オレは忘れてるんだ」

 その言葉を聞いて、ビンカは彼の肩に優しく手を置き、周りの人々は思わずどういうことだと思って彼のことを見た。

「大丈夫!」と、美少女は元気に言った。「ボクの名前はビャッコー・ゼトリクス!」

「おお、大丈夫そう」ビンカはホッとした。

「あ、ねえねえねえ! ボクと一緒に悪の根源を探しに行かない?」

「大丈夫じゃなさそう」マモルは笑いそうになりながら言った。「だけど、元気そうだね」

「ボクと一緒にいれば、どこにでも行けるよ!」

「え、えっと」ビンカは少女が元気すぎて少し怖かった。「また今度にしときます」

「え~。じゃあ、また今度ね!」

「も、もういいだろ! さあ、降りてくれ」

 ビンカは護衛の騎士に追い出されてマモルの元に戻り、程なくしてビャッコーという上流階級の美少女を乗せた馬車は出発した。

「じゃあね~!」と、ビャッコーは窓から首を出して満面の笑顔で叫んだ。

「ああ、バイバイ~」

「気を付けてくださいね~!」

「えへへへ! 今度は一緒に冒険しようね~!」

「ビャッコー姫様! おやめください!」

「や~ん」

「え⁉」(ビャッコー、どこかで……あ、あわあっ⁉)「あ、あの子、お姫様だ……」

「おお、やったね。今日はお姫様まで助けちゃうなんて」

 ビンカは緊張で膝がガクガクシさせて、マモルに寄り掛かった。彼は優しく支えた。


 オレンジ色の美しい夕日が地平線に沈んでいき、様々な星座が姿を現し始め、うっすらと天人や仙人が住んでいる月が見えており、そこから今日のお告げの文字が浮き出ていた。

 街は夕方になってもにぎやかだった。昼間の住民に加えて、昼には動けない者も多い吸血鬼などのアンデットや夜行性動物の獣人たちも加わっているので、さらににぎやかになっていた。

 ビンカとマモルは、夕日と外壁のアーチが見える高台にいた。

 ビンカはベンチを見つけると、マモルの服の袖を引っ張って促した。一緒に座り、沈んでいく夕日と、そのあとに現れ始めた美しい夜景を眺めた。

「わぁ……綺麗」ビンカは感動していたが、暗くなってくると眠くなりウトウトしてマモルの肩に寄り掛かってしまった。「ん……あ、ご、ごめん……」

「いいよ、いいよ。ほら、来なよ」

 マモルは笑顔で言ってビンカをそばに寄せて肩に寄り掛からせたので、ビンカは顔を赤くするほど恥ずかしくなって目が冴えてしまった。しかし、少しもしないうちに落ち着いてしまう。

「マモル……? えへへ……」つい甘えそうになるが、ハッとして起き上がる。「ご、ごめん、また……いつもこれで……」

「気にしなくていいよ。それに、今日はオレの人助けにつき合わせてごめん。今日一日は、君に楽しく過ごしてもらおうと思ってたんだけどさ、ドカンなんて音が鳴るからつい跳んじゃってさ。すまん、言い訳した」

「そ、そんな!」と、ビンカはついマモルに顔を寄せてしまった。「ワタシ、マモルと誰かを助けるの、大好きだよ。そ、それに……えっとね、マモルといるだけで楽しいよ?」

 ビンカは、マモルを見つめてしまう。すると、自分は何を言っているのだろうと、顔を赤くして、またうつむいてしまった。

「ハハハ、ありがとう、ビンカ」

 見上げると、マモルは笑顔だった。彼のその表情を見ると、思わず笑顔になってしまう。

「やっぱり、君は笑顔の方が似合うよ」

「え?」

「いつも、泣いてる気がするからさ。そうやって笑っていてほしい。そのために頑張るよ、オレ。これからも、よろしく」

「ま、マモル……」と、ビンカは顔を赤くして思わずモジモジしてしまった。「ワタシも、マモルと、一緒にいたい……」

 ビンカは顔を赤くしながらマモルの顔を見上げ、頬に優しく手を触れた。

「マモル、ちょっと、かがんで?」

 マモルがかがんであげると、ビンカは彼の吸い込まれるような黒い瞳をじっと見つめた。ビンカは勇気を出して、チュッと、彼の唇に優しくキスをした。

「び、ビンカ、今のって……」

「うん、大好きな人とするのだよ? ……えへへ」

「……今のは、いろいろまずいと思うんだけど……」

「ふふん、だってワタシは魔女だもん。ちょっとくらいは……いいんだもん」

「そう……じゃあ、いいかな」

「えへへ。……マモル、大好きだよ」

 二人は少しの間見つめあい、抱き合った。

 ビンカは、大好きな人と出会えて、大好きな彼と一緒にいられて幸せだった。

 マモルは、初めて彼女と出会った時、不安でたまらなかった。記憶も何も持たない存在。しかし、彼女と過ごしていく中で、自分に自我が芽生えていく感覚がした。生きていると感じていた。そのうち、彼女が一緒にいれば、自分の記憶などどうでもいいような気がしていたのだった。

 この子のために生きようと考えていた。今でもその考えは変わらない。

 この魔女の少女を幸せにしたいと思った。そのためなら……なんでもする。

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