第ニ話 超人類〈ハイヒューマン〉
朝の草原は心地よい風が吹き、青い空には眩しい太陽と巨鳥が浮かんでいた。
ビンカとマモルは、近くの村か街に向かって歩いていた。
「で、どこに行くの?」
「えっと、冒険者ギルド?」
「ギルドは労働組合だっけ? 依頼とかを受けられる? 何となくわかるけど、冒険者って?」
「えっと……う~ん、危険な場所に行って探検したり、悪い魔物を倒したり……」
「勇者だね。なんでもやるし、報酬次第で何でもする……フリーター?」
「え? いや、それとは違うと思うけど……う~ん……あ、村が見えてきたよ」
二人の前には、追い返されたカゴの首都ほどではないが、立派な防壁と看板が建てられた平和そうな村が見えた。
「そう言えば、この辺はオレたちを襲ったような悪党とか怪物が出てくるけど、村にも入ってくるんじゃ?」
「うん、そう言う事件が起こることもあるよ? だけど、兵隊さんや、それでこそ冒険者の人が守ってくれるから、多分大丈夫だよ……」
村民や村が怪物や盗賊たちに襲われていたのではないかと思うと、心底心が痛んだ。しかし、そこはしっかりしているはずだと思うことにした。
「おい、オバケヘビだ!」と、村の中から悲鳴が聞こえた。「村から出ろ! 入るんじゃない! 早く逃げろ!」
すると、村から避難する人々が続々と出てきた。みんな恐怖と不安が顔に出ていたがそれでも見捨てたりせずに、手を貸したり、子供や老人ならおぶってあげたりと、協力し合っていた見えた。
「オレなら倒せるかも? 行ってくるぜ!」
「待って! て、手伝うから!」
「わかった! オレの後ろにいて!」
ビンカとマモルは村民が大慌てで逃げる中、村に入って行った。
そこには、家一つ分くらいの長くて巨大なヘビがとぐろを巻いて大笑いしていた。破壊された建物と兵士たちに連れられて避難している人々、そして、巨大ヘビを包囲して隙を窺っている兵士たち。
「この、どうやってここに……」
すると、兵士たちが巨大な尻尾に振り払われて、地面に叩きつけられてしまった。そして、その中の一人がその凶暴な毒牙をもつ口で食べられそうになった!
そこを、マモルが受け止めた! 触れただけでも危険な猛毒の牙と下あごを掴んで、動きを止めた。
「今だ!」
マモルに助けられた兵士は立ち上がり、その悪臭を放つ口の中に矢を何発も放った。すると、ヘビはその巨体を使ってのたうち回り、何とか脱出しようとした。しかし、その巨大で長い胴を、起き上がった兵士たちが槍で突き、剣で斬って攻撃し、何とか弱らせようとした。
これで勝てると思った時、巨大なヘビが妖力を発動させた。なんと、その巨体を三十センチほどの小さな蛇に分裂させ、村中にシュルシュルと逃げてしまったのである。マモルも牙を掴めなくなってしまい、ヘビを見失った兵士たちも右往左往するしかなかった。
「あ、あいつ、どこ行きやがったんだ!」と、兵士の一人が悔しそうに言った。
「ハンターとかいないんです?」と、マモルは訊いた。
「森が解放されちゃったから、みんなそっちに行っちゃったんだ」
「み、見つけられるかもしれません」と、ビンカは怖かったが、走ってやって来て言った。
「そうなのか? や、やってみてくれないか?」
ビンカは頷き、紐の先に宝石がついたペンデュラムを出した。これに先ほどのオバケヘビの居場所を念じる。すると、おもりの宝石が浮かびあがり、巨大ヘビの居場所を示した。
「こっちです!」
そして、ビンカはマモルと兵士たちを引き連れてそのペンデュラムが示す方へ向かった。
「こ、ここです」
そこは、村長の家であった。兵士たちは困惑したが、もし、まだ村長やその家族、部下たちがこの中にいたら大変だと思い、勇気を出した。
「オレが前に出る。みんなは続いてくれ」
「……よし、わかった」
兵士がバンと、家のドアをぶち破って、そこからマモルと兵士たち、最後にビンカが突撃する。そして、そこで見た光景に驚愕した。
「落ち着いて! あなた、落ち着いて!」と、村長の妻が叫んでいた。
そこの前には、苦しそうにのたうち回る小さなヘビで構成された人型の群体がいた。彼は人からヘビ、ヘビから人へと、グニャグニャと交互に変身を繰り返していたのだ。
ビンカはその姿を見て恐怖と気味悪さを感じながらも、彼が自分の力を制御できていないとわかった。この村の村長は、ヘビに変身してしまう能力を持つ人間なのだ。
「奥様! 離れてください!」
「イヤよ! 彼は私の夫なのよ!」
その言葉を聞いて、一同は驚愕した。ヘビの魔物の正体が人間だったなど、信じられなかった。しかし、話には聞いたことはあった。なんたって、ここは様々な種族が住まうゼトリクス王国なのだ。色々な能力や体質を持つ者がいる。
「ど、どうすりゃ……」
「任せてください」と、ビンカは決心して言った。
「どうするんです?」
「奥さんの言葉を、彼の心の中に直接送ります。……魔法を使うのですけど、い、いいですか?」
「ああ、もう何でもいいわ! 彼をこれ以上苦しませるのはもう嫌!」
「わかりました!」ビンカは魔法の杖を持って集中した。「彼への思いを、強く思い浮かべてください」
「ええ、わかったわ」
村長の妻も集中した。彼を愛していることを、どんな姿でも受け入れることの決意を強く思い浮かべた。
「彼女の思いよ、彼に届け。彼に愛を、彼に平和を……彼に心を思い出させて……」
すると、妻の心臓がある左胸、いや、心が光りだし、そこから一本の細い光線が発射された。それはのたうち回る村長の心臓に届いた。すると、彼の動きがピタッととまり、少しずつ人間の姿に戻っていった。
「あ、あなた!」と、妻は夫を抱きしめた。
「し、知ってたのか?」
「え?」
「この力も、気がついたら森でシカを食っていたり、物を壊したりしていたことも……おれが怪物だってことも……」
「ごめんなさい、だけど、あなたの力を知っているって言ったら、あなたが離れていく気がして……だけど、私はあなたから離れないわ。人間でも、ヘビでも……」
「すまない……もっと、はやく、正直に言っていればよかった」
すると、夫婦は涙を流しながら抱擁した。
兵士たちは驚愕してしまった。村長がヘビになってしまう力を持ち、その真実にその妻が気付いて苦しんでいることも、その力に村長が苦しめられていることも知らなかった。
ビンカは、正体を隠すことの恐ろしさと悲しさを思い知ってしまった。自分の悩みを誰にも言わずに抱え続けていたら、それがいつか爆発して、周りを傷つけてしまうかもしれない。
(マモルには、話していてよかったのかも……。だけど、ワタシは普通の魔女よりずっと弱いし、マモルは魔女の怖さを知らないし……)
「ビンカ? 大丈夫? さっきの、すごかったよ。ありがとう」
「え? あ、ありがとう。マモル、お疲れ様」
ひとまず村長の家から出ると、村は悲惨なことになっていた。
戦っていた兵士や逃げ遅れた人々が血を流し、骨を不自然な方向におられ、地面に叩きつけられて打撲と内臓が破裂させられるなど、重傷を負っていた。さらには破壊された建物に下敷きになって身動きが取れなくなっている人々もいて、何とか軽傷で済んだり、戻ってきた兵士や村人に助けられるのを待っていた。
「頼む、助けてくれ……!」
「動くんじゃない! おい、骨が見えてるじゃねぇか、どうすればいいだよ……」
「あ、ああっ……」と、ビンカは恐怖したがすぐに気を取り直して自分のやるべきことを思い出した。「マモル、ワタシはみんなを治してくるね?」
「ああ。オレも救助活動を手伝うよ」
「うん、お願い、気をつけてね!」
「君も」
二人は手分けして人々を助けに行った。
その後、マモルは倒壊した建物から人々を助けようとする兵士の元に行き、その怪力で破壊された建物をどかした。
「よし、今だ!」
「あ、ありがとう、さあ、皆さん、早く……」
ビンカは、悲惨な光景の村と人々に恐怖と不安を覚えながらも、怪我をした人々を魔法や薬で手当てして回っていた。
「とりあえず、止血はしたけど……」
「見せてください!」
見ず知らずの骨が見えるほどの重傷を負っている人の手当てをしていたら、突然魔法使いのような美少女がやってきたので青年は驚いた。
彼女は魔法の杖を取り出し、何か不思議な言葉を言うとそこから優しい緑色の光が放たれて、見る見るうちに皮膚が出来上がって骨を包み込み、すっかり元通りにしてしまった。
「あ、ありがとう……」
「す、すごいな……」
「……じゃあ、ま、また誰かを……」
そう言ってビンカは後遺症が残るような、瀕死の重傷を負った人々を魔法で、リハビリやその他のことが必要ないほど完璧に治して回った。そうしているうちに、村は建物だけ破壊されただけで住民は何事もなかったかのような状況になった。
「ハァ……ハァ……」(魔力がなくなってきた……)
「ビンカ? 大丈夫?」
「う、うん。マモルは疲れてない?」
「オレは大丈夫だ」
二人が一通り仕事を終えたころには首都から警察と兵団がやって来て、事件を引き起こした村長が馬車で首都の警察署に連れて行かれるのを見てしまった。それを残った妻や村人たち何人かが悲しそうに見ていた。
「彼、どうなるの?」
「たぶん、それなりに罰は受けると思う」と、ビンカも悲しく思いながら言ってしまった。しかし、これ以上悲しい雰囲気では駄目だと思っていた。「だ、だけど、たぶん、訓練所とかで修業するから、またこの村にも帰って来れると思うよ。だから、心配しないで、いいよ……」
「お二人とも」
振り返ると、そこには村長の妻と数人の兵士がいた。
「ありがとう、ございます……私たちの村を助けてくださり……」
「い、いえ……」
「失礼ですけど、お嬢さんは魔女の方ですよね?」
「え……」と、ビンカは心臓が止まりそうになった。「ど、どうして……」
「国中では噂になっています」と、兵士の一人が言った。「この国が魔女の方も受け入れようとしていると。ですが、やはりよく思っていない者もいらっしゃいます。なので、ここはひとまずお逃げください。過激な考えを持つ者が来る前に」
「王子には、あなた方の善行をしっかりと報告しておきます。ですので……」
ビンカは、このまま言うとおりにしたら村を見捨てるような感覚がして嫌だった。だが、これ以上いたら村の人々にただでさえ大変なのに迷惑をかけてしまうことも分かっていた。
「ビンカ、行こう?」
「う、うん、マモル。では、その……さよなら」
ビンカとマモルは、助けた村人と兵士たちに見送られながら、そそくさと村を後にした。
森にある家に帰ろうとしていると、ビンカはマモルがまた神妙そうな表情をしているのに気づいた。
「マモル、どうしたの? どこか、痛いの?」
「いや、オレ以外にもあんな凄いパワーを持っている人がいたのだなって。それで苦しんでいるようにも見えたし、オレが特別なわけじゃなかったよ」
「う、うん……だけど、それは仲間がいっぱいいるってことだよ? 寂しくないってこと」
「そう、そうだな。確かに。他にも、ああいう人がいっぱいいるのか?」
「えっと、うん、あんまりあったことないけど……王子様もそうだよ。マモルみたいな特別な力を持った人間や超能力者は、ハイヒューマンって言うんだ……あっ!」
ビンカはハッとした。なぜもっと早く気付かなかったのだろうか?
魔女ほどではないにしても恐るべき存在の一つ。超人類〈ハイヒューマン〉と呼ばれる特殊能力を持った人間。そのほとんどが男性。その力は子供が男性の場合、力が異なる場合もあるが、百パーセント遺伝する。なので、一族や家族の特定もしやすい。
「ご、ごめん、マモル……あなたのこと……忘れちゃってた」(ううっ、なんでもっと早く気付かなかったんだろ……)「ご、ごめんね。こ、こんなことにも気づけないなんて……」
「なに謝ってるんだよ。それより教えてくれてありがとう。オレはハイヒューマン……」
「うん、あなたの種族はハイヒューマン」
ビンカは彼も自分と同じような特別な存在だと再認識し、より親近感のようなものを得ていた。
「ま、マモル。だけど、ごめん。まだこの国の人じゃないからさ、ハイヒューマンってことがわかっても調べてもらえないと思うの……」
「そうか、わかったよ。じゃあ、ひとまず君のために頑張るさ」
「や、やめてよ……えへへっ……」
ビンカは、また思い出したことがあった。落とし物の持ち主やその情報を割り出す魔法。
「マモル、その勇者様の服さ、会った時から着てたよね?」
「……ああ、そう言えば、そうだね」
「その服から、あなたのこと、少しはわかるかも知れない魔法があるんだ。それに使う薬草を採りに行かない?」
「本当? ありがとう……オレのために……」
「ふふっ、お互い様だよ」(ワタシには、これくらいしかお返しできないから……)
ビンカとマモルは、手をつないで森を目指していた。
ビンカは、マモルと一緒に仲良くどこかに出かけるのが嬉しかった。先ほど協力して事件を解決し、人々を助けられて感謝されたこともあって幸せな気持ちでいっぱいであった。
「ふふっ」
「どうしたの、ビンカ?」
「え? う、ううん」(なんだか、恥ずかしいなぁ……だけど、嬉しいなぁ……)「……えへへ、うふふっ」
マモルの顔を見上げてみると、彼は苦しそうな顔でビンカを見ていた。その表情を見ると、ビンカは心臓が止まったかのような、先ほどまでの気持ちが吹っ飛ぶほど息苦しく感じた。
「え、ど、どうしたの?」
「ごめん、やっぱりわからない」
「え、な、何が?」
「いや、ごめん、何でもないんだ。他の魔女は怖いんだっけ?」
「う、うん……」(すごく、怖い……)「うっ……」
「ご、ごめん。そのさ、君みたいにいい子たちばかりだったら、怖がられなかったんじゃないかなって思ったんだ。それに、あの村のみんなの様子を見ると……」
「……あの人たちが、善い人たちなだけだよ」
「……そうなの? ……そうか……」
(ワタシは、優しくない、いい子なんかじゃない。ただ弱いだけ。もし、ワタシが強かったらみんな怖がってる……あれ、じゃあ強いマモルのことも、もしかしたらみんなは……)
「ま、マモル」
「ん?」
「あの、さ……」(あんまり力使わないでって言ったら、マモルのこと、傷つけちゃうかも……だけど、怖がられて苦しませるのもヤダ……)「えっと、えっと……ううっ……」
「ビンカ? ……⁉ なんだ⁉」
「え? なに、マモル……」
凄まじい悪寒と緊張感。プレッシャー。突然、あたり一帯が別世界のように感じた。
ビンカは生命の危険を感じ、恐怖した。しかし、体が動かない。動いたら殺されそうな気がする。
(な、なに、なんなの⁉)
マモルは自分の頬を叩いて気を取り戻し、ビンカを抱き上げた。
「逃げよう!」
すると、何かがそんなマモルを吹き飛ばしていった。彼はビンカを守ろうと抱きしめながら台風のような強風と共に宙に舞い、彼方まで吹き飛ばされる。そして、背中で着地し、ガガガっと地面を削って勢いを和らげ、森が彼方に見えるまで遠くに飛ばされて、やって止まった。
「ビンカ、大丈夫⁉」
「う、うん……」
「ハァ⁉」
すると、マモルはビンカを抱きしめたまま飛び上がる。先ほどまで倒れていた地面に砂煙が巻き起こり、地面が壁のように盛り上がって深い溝を形成した。
その砂煙の向こうから、肉体を引きちぎるような痛くて凄まじい気配を放つ者が現れる。
襲い掛かってきたその大男は、武骨な鎧を全身に纏い、身の丈以上はある巨大な剣を二本も背負っていた。頭を覆っている武骨で恐ろしいヘルメットのせいで、表情はわからないが、明らかに怒っている。こののどかな自然の中には似合わない、まるで地獄から来たかのような気配を放っていた。
「彼、俺よりずっと強いぞ」
「……え?」
「だめだ、終わりだ。逃げて、ビンカ」
そう言うと、マモルはビンカを優しく地面に降ろした。
「……え?」(なに、言ってるの?)
「勝てないけど、時間稼ぎくらいはする。ビンカは逃げるんだ」
マモルはビンカを守るように、男の前に立ちふさがった。すると、目の前にいたはずの襲撃者が消え、あっという間にマモルの背後に現れて彼を彼方に吹き飛ばした。その途端、遠くにある神秘の山脈にある火山の固まった溶岩が崩れる音と、それに隣り合う氷山から雪崩の轟音がかすかに聞こえてきた。
「ま、ま、マモル……」
体が震えて力が入らない。逃げなければならないのに、逃げたら殺されそうな気配のせいで動けない。そして何より、彼がひどい目にあってしまった。恐怖で涙が溢れてくる。
「あ、ああっ……」(ワタシの、ワタシのせいで……)
「弱すぎる……」と、襲撃者はまるで銃声のようなドスの聞いた声で言った。「なんだ、その小鹿のような様は。お前が恐怖をまき散らす側だろ。他の個体より弱いのか……」
「イヤ……マモルが……マモル……ああっ……」
「奴隷の心配をしているのか? 演技か?」そう言って、彼は何もない所から魔法陣を通じて禍々しくて巨大な魔剣を取り出してきた。「いや、本当に怖がっているようだな。俺の方が強くなったのかもしれないが、お前が弱いことには変わりない。弱い者を殺すのは嫌いだが、ここであの世に行ってもらう。何度復活し、世界に災厄をもたらそうとも……⁉」
彼は魔剣を光速の速さで振りかざし、ビンカは本能で自分が死ぬと悟ってギュッと涙で濡れた目をつむった。しかし、首を斬られることはなかった。
ハッとして目を開けると、ボロボロになったマモルが両手で魔剣を押さえていた。
「ま、マモル!」と、ビンカは思わず叫んでしまった。
「何っ!」(素手で魔剣を掴んでいる⁉ 普通の生命体なら触っただけで死ぬはず。それ以前に、俺の一撃を食らっておいて肉体を保ち、あの山々からここまで戻ってきた)「その勇者の仮装をしているだけはある。やるな」
襲撃者はマモルに鋼鉄おも消し飛ぶ威力の蹴りと頭突きをして魔剣を手から離させ、距離を取った。
「ま、マモルっ! 」と、ビンカは泣きながら彼に抱き着いた。「よ、よかった……う、ううっ……こ、怖かった、死んじゃったかと思った……」
「ごめん……。怖がらせて……」
ビンカはマモルが無事であったことと、マモルが生きている喜びしか考えられなくなっていた。もう、片時も離れたくなかった。
マモルはそんな様子のビンカを優しく抱きしめながら、襲撃者を睨みつけていた。
(なんだ、一体。俺が知っている奴らと違う。真逆。奴らはあんなことしない)
「貴様。そいつが何者かわかっているのか」
「この子は、ビンカだ」と、マモルはビンカを抱きしめながら冷静に言った。「年端もいかない女の子だ。誰かが守らなければならない。お前みたいなやつらから、オレみたいなやつが」
「本気で言っているのか? そいつは、魔女だぞ」
「……⁉」ビンカはその言葉を聞いてハッとして、血の気が引いて行くのを感じた。「ま、マモル、逃げて。お願いだから、ワタシが、目的みたいだから……」(マモル、ごめんなさい……あなたのこと、結局助けられないみたい……)「ま、マモル……お願いだから、行って、早く……」
「行かないよ。君こそ逃げろ」
「イヤ、ヤダ、マモル、逃げてよ……お願いだから……ぐす……」
その様子を見て、襲撃者ははらわたが煮えくり返りそうになったが、ヘルメットの隙間から炎を出すまでにこらえた。
「バカになるようにそいつを洗脳したのか、魔女め」
「そ、そんなことしてないです!」と、ビンカはマモルの抱擁から飛び出し、彼を守るように立ちはだかった。「ワタシを殺してもいいですから、マモルには何もしないでください!」
「ビンカ⁉ 戻って!」と、マモルはまたすぐに彼女を庇おうとした。
「マモルは、記憶喪失なんです。誰かが助けてあげないといけないんです、大変なんです。だから、もうやめてください……マモルにひどいことしないで……」
ビンカは泣きながら叫んだ。
「ビンカ、もういいよ」
マモルがビンカを守ろうとまた抱き上げようとしたが、ビンカは強情な子供のようにそこから離れようとしなかった。
その様子に、襲撃者の戦士は魔剣を、再び発動させた魔法陣に沈めて納めた。
「ビンカとマモルといったな?」
「ぐす、ぐすっ、は、はい……」
「すまなかったな。だが、まだ信じられん。お前らを信じようとする自分が信じられん。お前らが危険ではないと証明しろ。何のためにここにいるのか、話してもらおう」
「え、えっと、ぐす、えっと……」と、話そうとするが、声が出ない。
「ビンカは、休んでいて。オレが話すよ」
「い、いいから。自分で話す……」
ビンカは怖がりながらも、自分たちの現状と王国からの試験について話した。
「し、信じてもらえましたか……」と、涙目でビンカは言った。
「……魔女は、平気で嘘をつく。その嘘を事実にできる者もいる」
「これ以上どうしろと? どうしてそんなに魔女を憎むんだ?」
「お前こそ……ああ、お前は記憶喪失だったな。知らなくていい。……よし、わかった。少しだけお前の言っていた家とやらを見せてもらおう」
「……ええっ⁉」と、ビンカは思わず声を上げてしまった。
「ついていって、自分の目で真意を確かめたいってこと?」
「その通りだ。現実なら信用できる」
ビンカは驚きと恐怖、突然の静寂と命令に呆然としてしまい、頭で考えられなくなっていた。
「ビンカ、どうする? 彼からは君を守って見せるけど……」
「マモル……」(マモルがいるなら、大丈夫かな……怖いけど……)「わ、わかりました。一緒に来てください」
こうして、ビンカとマモルに自分を殺そうとする同行者ができた。
そして、三人は森へ入っていった。
ビンカとマモルの少し後ろを、剣士は重い鎧をガシャガシャと不気味な金属音を鳴らしながらついてきていた。
ビンカは背後にいる大男が相変わらず怖がったが、マモルがそばにいて、手をつないでくれたので少し安心していた。
今、ビンカが持っている糸の先には、フワフワと浮いている宝石があった。ヘビを捜索するためにも使ったその術は、いわゆるペンデュラムダウジングという占いの一種。その技術を応用したこの魔法のダウジング道具で、自分が探している薬草の居場所を探し出せる……はずだ。
森の中は、空気がおいしくて清々し、所々で木漏れ日がさしていて綺麗だった。どこまでも巨木が並んでおり、苔が生えているものもあった。木こりが伐採した切り株から、新しい芽が生えてきているものもある。よく見ると、遠くではリスが木を登り、ウマやシカが駆け、ウサギがぴょんぴょん跳ね回っていた。横にある大きくて澄んでいる巨大な湖は、日の光を反射して美しく輝いていた。
「そう言えば、あなたの名前なんて言うんだ?」と、マモルは後ろ歩きをしながら訊いた。
「……じゃあ、ドラゴンスレイヤーと呼べ」と、彼は面倒くさそうに答えた。
「じゃあ、いつもドラゴンを倒して回っているの?」
「いろいろだ。依頼を受け、誰かが殺さねばならぬ者たちを殺したり、誰も行きたくないが行かなければならないところに行っている」
「それは、悪者とか? 秘境とか?」
「そうだ、当たり前だろ?」
ビンカはその言葉を聞いてゾッとし、自分が悪者だと思われていることにショックを受けた。そして、自分を殺そうとした彼の職業にも恐怖を覚えた。
おそらく、冒険者。危険なことを生業とする者。主に遺跡や未開の地を探索する者たちのことを言うが、報酬次第で魔物や悪党の討伐も行う。すなわち、命を奪われて当然の者たちを殺すことで、人々を救っているのだ。
しかし、誰かに誰かを殺してほしくないし、例え悪い人や怪物であっても死んでほしくはない。悪い人たちにも、そうなった過程がある。しかし、そんな事言っていたら、どんな罪の許されてしまう気がして、ビンカは自分が甘いと思った。
「ビンカを……したのも、誰かの依頼なのか?」と、マモルは言った。
「いや。当然のことをしようとしただけだ」
ビンカはドラゴンスレイヤーの言葉を聞いて、鳥肌が立ち、マモルのそばに寄った。
「ごめん、ビンカ。君の前で訊くことじゃなかった」
「ううん。いいの」
ドラゴンスレイヤーはその様子を見て、思わず唸り声のようなため息をついてしまった。
「……急ご」
と、ビンカは怖くなって少し早足になってしまった。マモルもその足について行き、ドラゴンスレイヤーも後ろから早足でついてきた。そのうち、またいつかのように競歩みたいな歩きをしていた。そして、疲れてしまった。
「休もうよ、ビンカ」
「え、あ、うん……」
ビンカはそう言われて、涼しい影をつくる木を見つけ、そこに座って休もうとした。
「あ、待って!」と、マモルが言った。
「ど、どうしたの?」
「あの木、なんか変じゃない? なんか、すごい気配? みたいなもんがする」
マモルに言われてみると心配になった。その木から離れて、怪獣でもいるのだろうかとよく見てみると、木の幹がおかしかった。よく見ると、いくつもの骸骨のような文様が浮かび上がっているように見えたのだ。それに気づいた途端、ゾワッとする寒気がした。
あの木について調べてみようと、バックから魔導書を取り出す。
悪い事をすると思ったのか、ドラゴンスレイヤーは剣を抜こうとしたので、マモルに睨みつけられた。バックから出てきたのは毒薬でもマンドラゴラでもなく、森にすむ怪物についての本だったので、ドラゴンスレイヤーは剣を納めた。
調べてみると、自分が休もうとしていた木はモンスターツリーだということが分かった。いわゆる動き回る樹木の魔物は、自分に近づいた者を捕まえて、自分の養分にしてしまうのだ。きっとあの幹に映し出されたドクロも、その犠牲者たちだ。
ビンカはそのことを知ると、またゾワッとした。あそこで木に永遠に養分にされるなど、恐ろしくてたまらない。
「で、どうだって?」
「あ、ありがとう。あの木は魔物だったわ。他のところに行こう」
「……⁉」
突然、マモルがビンカを突き飛ばし、彼女は尻もちをついた。
なんだと思ってマモルを見てみると、彼は巨大な呪われた木の蔓を両手で掴んでいた。
「ち、駄目だったか」と、蔓を伸ばした呪われた木から声が聞こえた。
「お、お前、話せるのか⁉ やめてくれ! 何が目的だ!」
「あ? そいつを殺すことだよ!」
すると、モンスターツリーはさらに蔓を伸ばしてマモルに襲い掛かってきた。無数の蔓がマモルを縛り、とがらせた先端で突き刺そうとしてくるがマモルは瞬時によけて掴み引きちぎる。そうしながら距離を詰めていき、巨大な木の幹を両手で掴んだ。
「げ、お前⁉」
マモルはそのまま持ち上げるように怪力でモンスターツリーを引き抜き、地面に叩きつけ、抵抗して伸ばしてきた蔓を全て引きちぎったり、手刀で引き裂いた。
「どうだ、お前の負けだ。もうやめろよ」
「あ、ああ……」
倒されたモンスターツリーの様子を見て、マモルはビンカの元へ駆け戻った。
「ビンカ、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう……う、ううっ」(ダメ、泣いたら……)「う……うん」
ビンカは泣くのを我慢してマモルの方を見ると、マモルは寂しそうに手を広げて抱き着かれるのを待っていた。
「ああっ、ご、ごめん……もう、大丈夫だよ?」
「そ、そうか」
ビンカはマモルの背後に倒されたモンスターツリーを見下ろしているドラゴンスレイヤーを見た。彼の様子から、何かをするつもりだとわかった。
「おい、よせ……⁉」
そう怒鳴るモンスターツリーに、ドラゴンスレイヤーは魔法陣で取り出した不思議な装飾と文字が刻まれた銃から火炎放射を放ち、モンスターツリーを灰にしてしまった。
「あ、うわあっ⁉」
「お、おい、何をしたんだ! 殺したのか⁉」
悲鳴を上げたビンカとマモルを見て、ドラゴンスレイヤーはこちらを睨むような視線を向けてきた。その恐ろしい気配と視線を感じ、ビンカはビクッとして思わずマモルに抱き着いてしまった。マモルも彼女を守るように腕を回してくれた。
ドラゴンスレイヤーはその様子を見てため息をつき、二人の元へ歩いた。
「そいつはともかく、魔女の方は魔物について知ってるだろ?」
「え、どういうこと?」
「ぐす、あ……そう、そうか……マモル、ごめん……」(ほとんどの魔物は、倒さないといけない……)「えっと、その……ドラゴンスレイヤーさんは、その、悪くないの……」
「え、だけど……」と、マモルの声は怒りで震えていた。
「あのような魔物や妖怪などと呼ばれる怪物は、基本は他の生物や物体、環境に対して害をもたらす悪の生物だ。中には何度殺しても一定期間たてば復活する個体もいる」
「な、なんだよ、それ。だけど、話せたじゃないか、もしかしたら……」
「そんな流暢なことを言ってられるか。被害が出たら、軍隊に報告されたりギルドに依頼が出る。だが、もうその時点で遅いのだ。それとあのように話せるやつはほとんどいないし、話せるやつの方は知能が高いということ。故に何度も生死を繰り返したり、長い時間を生きておきながら悪行を行っている悪そのもの、まさに悪魔だ」
「だけど、改心するとか……」
「改心してるなら、襲い掛かったりしないだろ。心配するな、悪くない魔物、それでこそこの国に市民権を持っている奴らはいい奴らのはずだ。お前は強い。だから責任がある。殺さなければならない奴はお前が殺せ。そこにいる弱い魔女だけを守ることに使うな」
ビンカは落ち着いてきたのでマモルの顔を見てみると、彼は納得したような、覚悟を決めたような険しい表情をしていた。
「……確かに……わかったよ」
「そうか。そいつが悪さしないように見張っていろよ。じゃあな」
「え、ええっ?」と、ビンカは思わず声をあげてしまった。「い、いいんですか? そ、その、えっと、お騒がせ、しました……」
ドラゴンスレイヤーは何も言わずしばらく歩いていくとサッと消えてしまった。その光のような速さの動きにもビンカはビクッとしてしまった。
「……あいつ、何がしたかったんだよ。まったく……」
マモルが顔をしかめて怒った声で陰口みたいなことを言ったので、ビンカは少し笑いそうになってしまった。ドラゴンスレイヤーが許してくれたことと、彼のそのような姿は全然に合わないのだ。
「ふふっ……」
「どうしたの?」
「えっと、その、マモルも怒るんだって……」
「なんだよ、ひどいなぁ。君のことを心配して怒ってるのに……」
「ご、ごめん……だけど、マモル……そのマモルは優しい時の方が似合っているから……」
「え、そう? じゃあ、やっぱり魔物と悪者退治はやめるよ」
「そ、そう……」(マモルならできそうだけど……)「だけど、自分が危ない時は遠慮しちゃダメだよ。その、殺すのはイヤだけど、その、ね?」
「ああ。あと、君や誰かが危ない時もね」
「う、うん……ぐす、ううっ……」
恐怖から解放された安心感で泣き出したビンカは、またマモルに優しく抱きしめられた。
そのあと、ビンカとマモルは魔法薬に使う薬草などの材料を採取しに行った。ビンカはマモルと一緒にそんな地味な作業をすることも楽しく感じた。
「ん……しょ……ふんっ……! ううんっ……」
「かして」
マモルが力いっぱい魔法ニンジンを引っ張ると、葉っぱの部分だけ採れてしまった。
「あ、え、えっと、根元から引っ張るといいよ?」
「わかった、やってみる」
マモルは葉っぱの採れたニンジンを、地面を掘って採取すると、また違う魔法ニンジンで教えられたとおりに採取してみせた。
「あ、採れた!」
「すごい、ありがとう!」
森にある洞窟を通りかかると行くと、そこには三メートルほどはある、巨大で恐ろしいドラゴンが眠っていた。
ビンカはこんなとんでもない生物を相手にしていたドラゴンスレイヤーも恐ろしいと思ったが、もしドラゴンが暴れたりしたら彼のような者が必要であることも思い出した。
「お、起こさないように行こ……」
「ドラゴンの鱗とかは魔法薬に使えないの?」
「つ、使えるけど……」(危ないし……怖いし……)「い、行こうよ……」
「よし、わかった。待ってて」
マモルはそう言うと、ドラゴンのいる洞窟に近づいて行った。
「ねぇ」
「はい?」
「ま、マモル……⁉」
マモルが普通にドラゴンに話しかけ、ドラゴンも普通に人間の若者のような声で返事をしたのでビンカは驚いてしまった。
「掃除すると思ってさ、切った爪とか剥がれた古い鱗とかくれない?」
「マジで? じゃあ、頼むぜ」
マモルは洞窟に入って行き、爪や鱗を拾って、洞窟をきれいにして帰ってきた。
「じゃあね、ありがとう」
「こちらこそ……ん? ギャッ⁉」
ハラハラしながら見守っていたビンカの強力な魔力を感じると、ドラゴンは鱗の色を真っ青にして、巨大な翼を広げて強風を発生させながら飛び立って行ってしまった。
「うわあああっ⁉」
ビンカは思わずスカートを押さえ、吹き飛ばされないように踏ん張った。
「ビンカ、大丈夫?」
「う、うん……ま、マモルこそ……」
「オレは大丈夫。それより、はい、どうかな」
そう言うと、マモルはスーツのポケットに入れてきた牙や爪を見せてきた。貴重な材料がこんなにたくさんあるのを見るのは久しぶりだった。
「あ、ありがとう……だけど、危ないからさ……ほら、もしあのドラゴンさんが悪い人だったら大変でしょ? もう、やめてよね?」
「ああ、わかったよ……」
「だけど、ありがとう。これですごい薬が作れるよ」
「そうか」と、マモルは照れ臭そうだった。「君が喜んでくれてよかった」
マモルが笑顔になったので、ビンカはドキッとしてしまった。
「ん……じ、じゃあ、今日はこれで帰ろ?」
「ああ、わかった」
「あ……」(ワタシ、怖いからって、ドラゴンだからって怖がっちゃった……それにワタシを見て逃げていったよね。やっぱり怖かったんだ)「……ワタシも人のこと言えなかったよ」
「どういうこと?」
「ううん、ドラゴンさんのこと、怖がっちゃったって……」
「君は初対面の人とか、誰のことも怖がってる気がするけど?」
「そ、そんなことないもん!」(う、確かに、人と話したりするの苦手だけど……)「ううっ、じゃあ、ワタシ、もっと人とお話しできるように頑張るよ!」
「そうか。話せば君がいい子だってわかるだろうしね」
「……うん」(そうだといいなぁ……)
暗くなったころに家に帰ると、早速大なべに熱湯と素材を入れてかき混ぜて、魔法薬を調合した。そこへ基本の素材に加えて、マモルが砕いてくれたドラゴンの爪を入れる。すると、鍋で渦を巻いている魔法薬の中心からドラゴンの形をした煙がクルクルととぐろを巻きながら登っていって口を開き、小さな炎を吐いて消えた。
「……なんだ、さっきの? すごいな……」
「すごい……! えっと、今のはうまく言った証拠だよ。心配しないで」
マモルのスーツをテーブルに置き、薬を一滴たらす。そこからモクモクと紫色の煙が浮かび上がる。その文字には、製作者の名前や材料を示している。煙は次々と文字の形に変形しては消え、浮かび上がっては変形して消えて行った。
「……なんて書いてあるの?」
「えっと、その……」
ビンカは困惑していた。浮かび上がってきた製作者と材料は……『マモル』。それしか出てこないのだ。すなわち、この結果から考えられることは一つしかない。
「あ……えっと、これ、あなたが手作りしたみたい……あなたの髪の毛とか、そういうのを材料にして……」と、ビンカは少し怖いと思いながらも、納得しながら言った。「ちょっと怖いけど、あなたの身体能力とかに耐えられる服は、あなたから作るしかなかったんじゃないかな? 昔のあたなはそう考えて、自分で自分の服、作ったんじゃないかな?」
「そ、そうか! これ、オレからオレが作ったのか……」
「う、うん。……ごめん。手掛かりになりそうなもの、わからなかったよ……」
「いや、ありがとう、ビンカ。また自分のことがわかったよ」
「う、うん……」
「あと、ビンカ。服がさ……」
「ん?」
見てみると、服は破れて太ってはいないがぷにっとしたおなかときれいなおへそが見え、スカートは足の付け根に近いところがビリッと破れていて太いムチっとした太ももがセクシーな感じに丸見えになっていた。
長い間着ていたのと、先ほどドラゴンスレイヤーを相手にしたのでくたびれ、採取作業がとどめになってしまったようだ。
「うわぁっ……⁉ う~……早く言ってよ……」
「ビンカ、服脱いで」
ビンカはその言葉を聞いてびくっとしてしまった。これを脱いだらさらにその身をマモルに露にしてしまうことに顔を赤くした。それ以前に、様々なことを想像してしまう!
「えっ……⁉」(わ、ワタシと……そう言うことしたいのかな……ま、マモルに限ってそんなこと……)「ううっ……いいよ、だけど……恥ずかしいよ……」
「え、なんで、恥ずかしいの?」
「だ、だって……あ」ビンカは気づいてしまった。(ま、マモル、本当にワタシのこと子供だと……一人の女の子としてじゃなくて、ただ世話を焼いてあげようとしているだけだよ。ま、マモルならそうだよ……また子供扱い……そう言うことしたいわけじゃないんだ……って、なんでこんなこと考えちゃったんだろ!)「うう~ん⁉ また、また……」
「……ビンカ? なんで怒るんだよ。世話焼かせてくれよ。あと、疲れてるでしょ?」
「疲れてなんかないもん、子ども扱いしないでよ……ふわぁ~……あ、ふん!」
しかし、ビンカは服を脱いで下着姿になってベッドに座って待っていると、結局眠ってしまった。その間に器用にマモルはビンカから借りた道具を使って服を直す。
「やっぱり疲れてるんじゃないか」と、マモルはつぶやくように言った。「……だけど……ああ、確かにオレはこの子のことを子ども扱いしすぎているのかもしれないな。それで怒っていたのか。いや、だけどそんなんじゃないよな……いや、やっぱり、まだオレのこと異性として好きなのかな……ん?」
窓を見てみると、森の動物たちが『あいつ、考えてることが全部声に出てんぞ』といった目をしてマモルのことを怪しそうに見ていた。
「いや、誰もいないと思ってさ。あと、口に出すと考えがまとまる気がするだろ?」
「気をつけろよ」と、ユニコーンが言った。「ヤバいヤツだと思われるぞ」
「あと」と、リスが言った。「ただでさえ下着姿の女の子がそばにいるんだから、気をつけた方が良いわよ」
「つか、カーテンくらい閉めろよ」と、象が言った。
「うん……って、君らしゃべれるのか⁉」