猛特訓!3
いつもやっていたこと、いつもやっていたこととはなんだ。いつもといっても一度たりともましなレベルに到達したことはないではないか。なら、いつも通りじゃ、駄目だ。今、ここでわたしは感知能力を習得しなければならない。
視界は封じられた、あるのはわたしの体を覆うように張り巡らされた魔力網のみ、この魔力網では襲ってくる数、方向を判別するには当たってから、どこにあたったか判断し、何体いるか、どこから来るのが一番早いかを区別して躱すという行為をしなければならない。
ここまでの思考をするのにかかる時間は約三秒、これでは躱すことなど極めて困難。
ゴブリンでこれが通用したのは鈍重な動きと大きさがあったからある程度の時間の猶予があり、まあ集中力が切れて途中から攻撃されて痛みでどこから来たかを判断する自暴自棄なやり方になっていたのだがな。
ゴブリンは、ある程度は対処できた。だが、今の相手は小さいうえすばしっこい。三秒が命取りとなる。
考えろ、アルルカの行動には必ず意味があるはずだ。多分。絶対、多分。
視界は閉ざされ、相手は今も絶え間なく襲ってくる。
「ピィー」
音、こいつらは飛びつく瞬間、音を発してから爆発する。
だから、なんなんだ。
「ピィー」
「アガ」
皮膚が焼ける、嫌な音と臭いがする。
よく、考えろ。もっと前だ、アルルカのいっていたこと、やらされていたことを思い出せ。
……魔力の集中!
一つの技に魔力を集中させることで威力の向上を図った。
なら、きっと、この特訓の答えは多分。
「ピィー」
「ピィー」
「ピィー」
足元に一匹、頭上に二匹。
「お、まぐれかな?」
アルルカの声だ。はっきりと聞こえる。いや、見える。全部見える。どこに何があるのか、目で見ているよりも見える。落ちてくる葉も、木々から滴る雫もわかる。
そしてわたしを襲う者たちを生み出している元凶、見える!
「氷の箱三番、氷柱」
「ピギャァァァアア」
その断末魔がわたしの感知能力の覚醒を肯定した。
魔力の集中、これは技に限った話ではなかったのだ。身体能力の向上を魔力を流すことでやる。その基礎的なことを、基礎すぎるがあまり忘れていたのだろう。今までは全体的に流し、まんべんなく強化していたが、魔力を一点一店で集中することで威力が向上することをまあ応用するといっておこう。応用し、わたしは耳に魔力を集中した。そして魔力を波紋状に放ち、その振動で空間を把握した。大体二十メートルほど把握できていると思う。
「まぐれじゃ、ないみたいね」
「当然、結構ヒントがあったみたいだけどね」
「強引なやり方だったけど自分でたどり着くというのは大事な事なのよ。私は解き方の手伝いをしてあげただけ。答えを教えるのは簡単よ、でも実行が聞いただけでできるわけでもない。だから与えられた条件下で今できることを最大限発揮し成功の道筋を己でたてる。覚えておきなさい。答えを待つだけの、指示を待つだけの人間に、なっちゃだめよ?」
こんなに、真面目に話すアルルカを見るのは初めてからも知れない。なにか、あったのだろう。アルルカはわたしとは違う道を歩いてきたのだ。
「さて、と。次の特訓に入るわよ!」
「……まだ、あるの?」
「当然、感知能力を習得したからといって戦闘能力が向上したことになるとでも思ってるの?確かに、少しは強くなったでしょうね、今までのざる感知じゃないから不意打ちを受けることは少なくなるでしょうけど、圧倒的力を前にしてみれば無力よ。だから今度は戦闘能力を向上させる。箱の能力を引き出させるわ」
箱の、能力。
「確かわたしは二割程度しか箱の力を使えてないんだったね」
「そうね、二割も引き出せているかすら怪しいけど」
「ッツ、自分の弱さは自分が一番分かってるよ。それで、どんなことすんのさ、左手を使うの?」
「……まず一番最初に左手を使うという思考が来る時点で、あんたは自分の弱さを自覚できてない。さっきも言った通り、感知に続いて制御能力もざるのあんたは箱の力をうまく引き出せてない。引き出せてないから弱い、だから左手を使う。その考えは今ここで捨てなさい」
左手を使う、そこまで悪いことだろうか。実際、左を使ったおかげで助かった場面はいくつかあるし。
第一封印する前はそこまで問題なかったし。
「ノイス、確かにあんたの左手は強力よ。でもね、このまま左手を中途半端な状態で使い続けていると、死ぬことになるわよ」
「死ぬ、ってそんなことないだろ。確かに死にかけた場面はあったけどでも、それは箱の使い過ぎの影響でもあって」
「そうじゃなくて、気付いてる?左手の細胞があんたの細胞を少しづつ、飲み込んでるの」
「……は?」
シャツの隙間を広げると肩ほどまで包帯がまかれていることに立った今気づいた。
「ど、どうゆう、こと」
「私が封印した理由は魔力が大きすぎてあなたの器が壊れる、とだけ言っていたけど、実はもう一つ問題があってノイスは適合者じゃないから魔王の細胞に、飲み込まれてしまうのよ」
そう、だった。これのせいで、家族は皆、死んだんだった。いざという時の、切り札なんて甘い考えをしていた。途端にこの左腕が醜いものに見え始めて、それ以上に恐怖心がこみあげてくる。
わたしは、この腕を使っていたら、いずれ呑み込まれて、死ぬ。
その事実がとてつもなく、酷いものに見えてしょうがなかった。
「ま、使わなければいい、それだけの話よ。あんた自身で、強くなる。あんたは才能に恵まれた。さらに、偉大な師匠もここにいるしね」
「ア、アルルカ。そうだ、そうだな。わたしは、強くなるよ。この腕に、頼らなくてもエルを、守れるようになる」
今、再確認した。わたしが、戦う、強くなる理由はエルを守るため。そのためならどんな辛いことも受け入れてやる。
「じゃあ次の特訓内容を発表します。次の特訓は出力強化!わたしがノイスを燃やし続けるのでノイスは自分を冷やし続けてください!」
「……は?」
「いった通りよ。私はスパルタだからね、手加減なんてしないから気を抜けば一瞬で灰になると思いなさい」
「ちょ、ちょっと待って!」
「問答無用!炎の箱七番、|火炎放射」
「技使うのかよ!」
とか、言ってる場合じゃない!
「氷の箱四番、氷盾」
咄嗟に氷の盾を創るが炎は盾など無視してわたしを飲み込んだ。
あっつうい




