97.ちゃんとかえすべきと思う
私の、私とリリーのお菓子達が……悪しき副料理長に攫われた…………。お茶会が終わり、リリーのお部屋でコロリと寝転がった私は、失意に打ちひしがれていた。
「ぷぱぷ……(おやつ……)」
「トンちゃんアップルパイ美味しかったね」
「ぷぷぺぽぴきー……(気付けよリリー……)」
リリーのはいっそどうでも良いけど、私のオヤツだけでも返してほしい、というか私は私の、リリーはリリーのお小遣いで買ったんだから返すのが筋じゃないのか。
こんな不条理が許されていいのか、いや、許されるべきでは無い。多分、厨房の冷蔵庫かお菓子棚に入れられてるから夜中に盗りにいきましょ。そうしましょ。
「もう少しで、お兄様ほんとに学校にいっちゃうんだぁ」
「ぷぉぺ(そうね)」
「ねぇトンちゃん、リリーと一緒に、明日に、野いちご採りに行こうよ」
「ぷぷぴぽ?(野いちご?)」
「それでねぇ、料理長にジャム作ってもらうんだぁ、リリーは苦手だけど、お兄様はちょっと酸っぱいジャムが好きなんだって」
そういやリリーと最初に会った時も、野いちごを採りに森に入ってたんだっけ、あんなヌシ様も居るような森によく一人で入れるわね。異世界の子供って全員命知らずなのかしら。
よっこいしょ、晩御飯まで、腹ごなしにリリーのこの飽きずに振り下ろしてくるアンテナーを避け続ける事にしましょうか。
スカッ
「ぷぴょ(よっと)」
「なんで避けるのトンちゃん……」
「ぶぶぶぴーび(刺されたく無い)」
「トンちゃんはリリーのラジモンでしょ!あのバフールシーカみたいに止められれば、トンちゃんが勝手にどっか行くことないもん!!」
スカカカッ
「ぷにゃぴにゃ〜……(まったくも〜……)」
「トンちゃん避けないの!トンちゃん!!」
コロコロちょこちょこ逃げ回り、メタリックピンクのアンテナーを避けまくる。全く懲りないお子様ね。晩御飯の時間までハイテンションのリリーとそうして遊んでいた。
◆〜◆〜◆〜◆〜◆
今日の晩御飯も美味しかったし、少し寝て、夜中に起きて冷蔵庫に憎き副料理長に盗まれたお菓子を取りに行こう。
ちぐらの中に入り目を閉じて、身体を丸める、もうこのトントンの身体にも随分と慣れてしまった。ぷぅと息を吹き出して、一眠り……。
「できないわ、ヘイステ、なんか出して」
ピロンッ
トントンの身体でも夜更かし癖は変わらないらしい、早く寝るのは勿体無い気がして、まだちょっと起きてたい。
寝転がりながら、淡く光るステの画面を見続ける、これリリー達には見えないみたいだけど本当にどうなってるんだろ、考えても仕方ないんだけどさ。
「は〜なーーんもない、出来ることが図鑑見るぐらいしか」
ピロッ
「ん?」
またあの仮免女神からのお知らせか?画面上部にまたバーが出てきたので、蹄でつつく、今暇だし見てやるよ。
ぴしゅっと開いた画面の中、テキトーに翻訳したような、クッッッッッッッッッソ長い文が入っているメールが目の前に現れた。
[この文章は"beautiful*女神"から規則を破らないよう親機に送信されたものであり個体"トンちゃん"への重要な情報を保護されているものである仮保護がかけられているので手動消去以外の方法で消去はされず内容は天雲へ記録される問い合わせ先に問えば復元可能な情報であるなおこの文章は女神教習所管轄下に置かれ教習所事務部の者は許可を取ると閲覧できるものである個体"トンちゃん"への連絡として神災における魂の仮世界への投下と保護失敗また経過観察により現世への魂の返還を実行するべきと決定これにより個体"トンちゃん"の内部に格納されている魂"●●●●"を直ちに〔※※〕へと返還する事を確定〔※※〕現世生人管理課からの通達により"beautiful*女神"が運営する仮世界の存続監視経過過程の記録保管を条件に今回の"beautiful*女神"による神災を削除する事に決定今後も〔※※〕との友好な関係を維持する為に仮世界
ID:1507p95e2m4376h694a53911047
の記録内容現在状況文明発達速度個体管理記録etc.を〔※※〕へと随時送信する事を要請此度の神災は女神教習所の不手際により発生したものであり早急な対処と受講生達への情報更新対処法の制定を急く物と判断された以上により個体"トンちゃん"内から魂"●●●●"を取り出し現世に残る生体へと返還をする事を実行する]
読み辛い、とにかく読み辛い、読む人の事を全く考えていない文章よこれ。豚鼻に最大限に皺をよせてなんとか読み進めると、とにかく私の魂を元の人間の身体に戻してくれるって言ってる事だけは理解した。遅いのよ。
てか、元の身体に戻すって事は、私、死んでないってこと?記憶あやふやだし、でも異世界転移というより異世界憑依?いや、それならもっと美少女の身体に取り憑けよって話なんだけど。
腕組みをして、長々と続いているクソ文章を読み終えると、最後の最後に、やっと私の魂を元の身体に戻すための場所が書かれていた。
["beautiful*女神"運営仮世界
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魂返還場所: 個体"トンちゃん"が浸かっていた泉
以上]
どうやら、最初に目覚めたあの泉が私の魂を返還する場所らしい。ちぐらから出て、暗い部屋の中を歩くとステの画面が浮いたまま着いてきた。
机の上にはトントンの貯金箱が三体並び、その横に小さいトントンの木彫りの人形が置かれている。一冊の絵本が棚から落ちていて、女神の描かれたページが開いていた。
寝息の聞こえる人間用のベッドに飛び乗ると、ぐっすり眠っているリリーの顔、寝ているその手にはメタリックピンクのアンテナーが握られたままだった。
間抜けな寝顔を晒してむにゃむにゃと漫画みたいな寝言を呟くリリー。
「むにゃ……トンちゃん……野いちご…………」
ベッドから飛び降りて扉に向かう。リリーを起こさないようこっそり小型魔獣用の扉から外に出る。
窓から月明かりが、廊下を照らしていて、とても歩きやすかった。