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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
94/113

94.リリーの専属付人面接


 私の名前はマグノー、ただのマグノーでございます。友人のメープルの紹介により、他所の御屋敷からこのアリュートルチ家へ奉公しに参りました。

 面接を受けさせて頂いた所、領主のチャーリー様は大変お人柄の良い人で、奥様もとても思慮深くお優しい方でございました。


 このお屋敷には今年から帝都の学校に行かれる優秀な御子息が居られると話をお聞きしていましたが、メープルの話に違わず、何にでも好奇心を見せ、少しでも多くの事を学ばんとする姿勢には感服いたしました。

 少々、いや、かなり行動力がある少年とお見受けしました。子供は元気が一番と仰いますし、おそらく良い子……なのでしょう、服を汚して帰ってくるぐらいがよろしいのでしょうね。



 さて、話が逸れましたが、私がアリュートルチ家に来た理由は、領主夫妻のもう一人のお子様、お嬢様のリリー様に仕えて欲しいとの事です。

 リリー様が学園に入る際、一人侍女を付けるとの事で、長期休みはあれど入学から卒業までの長い時間を共に過ごすという大切な理由があり、前のお屋敷のお嬢様が学園にいる間お世話した経験を活かして欲しいとの事でした。


 他の侍女よりも年嵩があるということで、次に入れる新人を育成する為にお役御免とされてしまいました。孤児院出で頼れる親戚もおりませんし、これから生活をどうするかという時に、メープルに良い所があると教えて貰ったのです。



 そういえば面接を受けた際に、領主様から不思議なトントンが居るとお聞きしたのだけれども、今、私の隣に座っているこのトントンがそうなのかしら。

 じぃっと私の事を見つめながら、袋に入ったクッキーを次々と食べている、黄色いリボンを首輪がわりにつけたトントン。この子がリリーお嬢様のラジモンなのかしら?目線を合わせて、話しかけてみる。


「……こんにちは?」

「…………ぴきっ」

「あら、クッキーをくださるの?」

「……ぷ…………ぴ…………」


 渡すか渡さないかとても迷っているわ。クッキーを一枚蹄に挟んで、上げて、下げて、こちらに差し出して、上げて。


パリッ……

「…………ぷ!」


 迷った末に自分でお食べになられた。人間の言葉を理解したり、文字が書けたり、リリー様と一緒に授業を受けたりという話は聞いていましたが、とても人間らしい動きをするトントンなのですね。


 今も食べてしまった……みたいな表情をなされていますし、あらら、今のが最後の一枚だったようで、袋の中に顔を突っ込んでしまいました。食いしん坊なトントンのようですね。


「ぴきき!?ぴき!?ぷきき!!?」


 ぴき!?ぴ!?と、最後の一枚が無くなった事が不思議なのか、袋を覗いてぴぴぴぴと鳴き続けるリボンをつけた淡いピンクのトントン。

 メープルの飼っているオペラという名前のトントンも、ご飯の最後の一口を食べた後、よくお皿をじっと見たり、お皿の下を探したりすると聞きましたし。鼻をヒクヒクさせているトントンを見つめていると、お部屋の扉が開いて小さな女の子が飛び込んできました。


「トンちゃん!今日お勉強無しだって!!遊びに……」

「初めましてリリーお嬢様、私はマグノーと申します」

「はじめまして?リリー、アリュートルチです??」

「ぷぷぴぴゃぷぷきぃぴきぃ?」

「あ、リリーのラジモンのトンちゃんです」

「これから、リリー様のお世話係をさせて頂きます、よろしくお願いしますね」

「うん、おねがいします」

「ぷぷぴゃーぴきぴゃぴききぴぃぴ」


 初対面だからか、新しい侍女、それも自分の付き人になるからか、とにかく警戒されているのでしょう。

 険しい表情で"トンちゃん"を抱えるリリーお嬢様に笑いかけ、少しでも早く仲良くなれればよいなと思いました。


 

◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 日は変わり、今日から仮雇用期間となりました、つまりお試しという事ですね。

 リリーお嬢様の付き人としてのお仕事は、起床させ、顔を洗うお手伝い、髪や服装を整えさせて頂き、ラジモンのトンちゃんを起こしてリボンを付け、朝食会場まで誘導すること。


 ……?前のお屋敷で勤めていた際は、もっと細かく項目が書かれていて、七人ほどで朝の支度を手伝っていましたが、子爵家だとこんなものなのでしょうか。部屋の扉を叩き、入室する前に一度声をかけましょう。


コンコンッ

「リリー様、朝のお支度の時間です、お部屋に入らせて頂きますね」


 ひと所で長い時間勤めていたものですから、他の御家の作法も分からないことが多いです、リリー様はお洋服やアクセサリーにそこまで頓着しない方なのかもしれませんね。

 扉を開き部屋の中を覗くと、まだ気持ちよさそうに寝ているリリー様、と、ベッドのふちに腰掛けて両腕を組んでいるラジモンのトンちゃん。


「ぷぷぴぴきぃぴきゅぴ」

「おはようございます、トンちゃんさん、朝はお早いのですね」

「ぴぴぷぅぴきゅきゃぃ」

「洗顔用の器と、お着替えを用意させていただきますね、あら、トンちゃんさんも一緒に見るんですか?」

「ぷぴぴぃぷぷぴきぃぴきゅきぃぴ」


 よくお話をするトントンなんですね、私の足元をテコテコとついてくるトンちゃんを見ていると、自分が幼い頃に餌付けした、孤児院の庭にいた、黒いトントンの事を思い出す。

 確かあの子は蒸したお芋が好きだったわね、蒸したての熱いのをあげると、喜んで食べていたわ。懐かしい思い出に浸りながら用意を進めると、声をかける前にリリー様が起きてこられた。


「うぅん……トンちゃんおはよ…………?」

「ぷぴぱ」

「おはようございますリリー様、お着替えと洗顔のためのお水をご用意しましたよ、さ、お顔を洗ってこちらのタオルでお拭き下さい」

「ぉ、おぉぉ……??」


 リリー様は眠い目を瞬かせつつ、困惑しながらお顔を洗い始めた、素直な子ですね。それを見守るトンちゃんの首に、クリーム色のリボンを結ばせて頂いた。

 タオルで顔を拭き終わったリリー様が、不思議そうに私の事を見上げる。にこりと微笑み返し、洗顔用の桶を片付けてお着替えの手伝いを始めました。


「さぁお着替えを致しましょう、今日のお洋服はこちらを選ばせて頂きましたが、いかがでしょうか?」

「リリーのお気に入りだ!」

「ぴにゃんぴぷにょにょぴぃ!」

「ふふ、それは良かったです、トンちゃんさんお洋服が取れないので退けますよ」

「ぷきー」


 リリー様のお洋服の端に座っていたトンちゃんさんを退かし、次は靴下を…………。


「ぴにゃんぴぷにょにょぴぃ!」

「靴下が取れないので退けますね」

「ぷきーー」



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 どうやら、リリー様のラジモンのトンちゃんには昨日から警戒をされているようです。急に主人のそばに知らない人が増えたからか、ずっと私の事を観察しているようです。

 子供用の椅子に逆向きに座り、私の事をじっと見つめるトンちゃん、その垂れた薄いピンクの耳に、リリー様がなにごとかを真剣そうな顔で囁いている。


「ぷぷきゃーぴぃぷぷきょきょきぃ」

「ト…………のね……………………ね」

「ぴぃ?きゃきゃきぃきゅきょぅぴぃ」

「…………の………………だと………」

「ぷぷぱぴぱぁぷ」


 そろそろメープルが来る時間なのですが。廊下に出て様子を見ようとしたら、目の前で扉が開き、友人の顔が扉から覗きました。

 パッと顔を明るくしたメープルは、私の手を握り、リリー様の世話役としてここにいる事を喜んでくれました。


「マグノー!面接を受けてくれたのね、顔を見ることができて嬉しいわ」

「手紙をくれてありがとうメープル、でも……どうやらトンちゃんさんに警戒されているみたいなの」

「えぇ?そんな事は無いと思うけど……トンちゃんさん、リリー様のお世話をするマグノーを見ていて、何かご不満な所はございますか?」

「みむー…………」

「トンちゃん……!」


 少し考える素振りを見せた後、後ろを向いてノートに何かを書き始めたトンちゃんと、それを何故か応援するリリー様。

 そして、書き終わったのかノートを広げ、私の方へと向けて見せた。


『 合 格 』


「ぷぴっきぃ」

「トンちゃん!?」

「ほら、大丈夫よマグノー、トンちゃんさんも合格と言ってくれてるし、貴女は仕事に対していつも真剣だもの、上手くやっていけるわ」

「そうかしら……?」


 それならば、嬉しいのだけれど。小首を傾げて私を見つめるトンちゃんに笑いかけると、垂れた耳が片方、ピコン!と立ち上がった。


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