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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
93/113

93.たまに机の隙間からなんか落ちる


 お兄様、私、リリーの順番で長椅子に座らせられて、正面に立つヒゲオヤジの話を聞いている。私要らないじゃんと思わなくもないが、シャスタ、リリー、子豚、そこの長椅子に座れと言われてしまったので仕方がない。

 腕組みをしてこちらを見下ろすヒゲオヤジは、真剣な表情で口を開いた。


「今日は二人とも、自分の部屋を片付けてはくれんか」

「なんでぇ?」

「なんでもなにも無い、毎日毎日うちで働いてくれているメイド達が部屋を片付けてくれるとはいえ、いくらなんでも散らかし過ぎだ」

「お父様、散らかってなんかないんだよ、資料はちゃんと分類ごとに分けて積んでいるし、サンプルもしっかり箱の中に管理しているから、どこに何があるかは記憶して」

「足の踏み場も無い部屋のどこがしっかり管理していると言えるんだ」

「リリーのお部屋、お兄様のお部屋よりきれいだよ?」

「片付けても片付けても、お菓子のゴミとオモチャと子豚のアンテナーが転がる部屋を綺麗とは言えないだろ」


 やーいやーい二人して怒られてやーんの。不服そうに口を尖らせるお兄様と、口をへの字にして眉間に皺を寄せ不満を顔面全面に出すリリー。

 ゴミはゴミ箱へ、オモチャは玩具箱へ、お兄様の研究記録は……本棚へ?とにかく出したら元の場所に片付ける事をしないと、部屋の中に虫とカビと埃とゴミの城が出来上がってしまうの。


「ぷきゅぷきぴぴきゃきゃきぴ、ぴーきぴぃぴぷぷぴぃき!ぴぁぴぃぴぃきぴーぷぴぁぴ(部屋片付けのスキルが無いと、なんて恐ろしいのかしらね!まぁトンちゃんは)」

「子豚、お前も自分の寝床の中身を片付けろ、なんだあの菓子入れ状態のちぐらは、虫が湧くぞ」

「ぷきー(ぷきー)」


 知らないの?こう見えて動物の豚は綺麗好きなのよ、豚魔獣のトントンだって綺麗好きでしょ。現に私のちぐらの中に貯めてたオヤツは、乾き物で日持ちする、水分が含まれてる物なんて無いのよ。

 それに賞味期限も全て切れていないし、カビとか生えないようしっかり食べてるもん、ヒゲオヤジに怒られる筋合い無いもん。

 

 頰を膨らませていたら、リリーがヒゲオヤジに質問を一つした。


「お父さま、今日、お部屋ぜんぶ片付けられなかったらどうするの?」

「そうだな、要るものと要らないものを分けてくれればそれで良い、普段メイド達がどれだけ苦労して掃除をしているかというのを知ってもらいたいからな」

「ふぅーん、そうなの」

「特にシャスタ、お前の部屋は捨てて良いものと悪い物の判別がつかん、ちゃんと部屋に片付けられる分だけ管理しろ」


 ヒゲオヤジもちゃんと人の親してるのね、この子豚に片付けろと言うのは違う気がするけど、トンちゃん不服だけど。

 腕組みをしてさらに口を尖らしているお兄様と、飽きてきて足をぶらつかせ始めたリリー。さらにヒゲはこうも続けて言った。



「今日の晩ごはんの後、床に落ちてる物は全て捨てる、ワシはやると言ったら絶対やるぞ」



 途端に長椅子から飛び跳ねどこかへ駆け去るお兄様、私をしっかり抱っこして立ち上がるリリー。なんで私の事持ったん?


「トンちゃんも捨てちゃうの!?トンちゃんは大事なんだよ!?トンちゃんも捨てちゃうの!!?」

「ぷぁぴぴきゃぴきゅぁ(はよ片付け始めなさいよ)」

「リリー、子豚は今いいから部屋を片付けなさい」

「トンちゃん捨てちゃうの!?リリーはトンちゃんとっても大事なのにトンちゃん捨てちゃうの!!?」


 

◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 けぷ、貯めてたオヤツを食べ過ぎたわ、やっぱり乾き物は一気に食べる物じゃないわね。

 ぽっこりしたお腹をさすりながら、真剣な表情で"いるもの"と、"いらないもの"と書かれた紙が貼り付けられた箱に、せっせと部屋の物を入れているリリーを見守る。


「これは、いる、これは、いらない」

「ぴぅぴぅぴ(真剣ね)」

「これはいらない、これもいらない、トンちゃんはいる」

「ぱ?(は?)」

「これもいらない、これもいらない、これはいる」

「ぷぁぴぱぱぁぴ?(なんで私入れたん?)」

「コトンちゃんはいる、コトン三世も要る、プピ子ちゃんもいる」


 私まで箱に入れられた、は?物扱い?このトンちゃん様をよくわからん丸い犬魔獣ワン=ワンのぬいぐるみと一緒に入れるとは、なんたる不敬。

 あっ、痛い、リリー、今入れられた宝箱の角がお腹に刺さって痛い。


 こんな所いつまでも入っていられるか、私はお外に出させてもらう。

 "いるもの"の箱の中から飛び出て、ぶるぶるっと身体を震わせたがリリー掴まないでやめて、宝箱の装飾がダメな感じに刺さって痛いんだってば。


「トンちゃん出ちゃダメ!捨てられちゃうよ!?」

「ぷぷぱぴぷぱぴー(すてられないわよ)」

「今日は大人しく箱の中に入ってて、ほら」

「ぴゃぁぽ(じゃぁの)」

「トンちゃん!!!!」


 やめやめ、自分の寝床の片付けは終わったんだから、リリーのお片付けの箱に入って付き会う筋合いは無いわ。

 ちゃっちゃか部屋からでて、リリーに捕まらないうちにとっとと場所を変えることにした。どこに行こうかしら、そうね、お兄様のお片付けが進んでいるかでも見に行こうかしらね。


 たったか走ってお兄様の部屋に行くと、扉が開け放されていたが、中には誰も居なかった。片付けを諦めてどこかへ採取に出かけたか?そう思っていたら、ド、ド、ド、ドンなんて重そうな足音が聞こえてきた。

 振り向くと、クソデカい箱みたいな鞄を二個携えたお兄様が、息を切らせながら私の後ろに立っていた。


「あ、トンちゃん、あそびに、きたのかい?」

「ぷぴきゅぅきゅきぴぴぴゃーきゅぴ(何するのよそんな鞄持って)」

「この鞄はね、帝都でね、僕が買ってきた物なんだ、研究所に僕の部屋をひとつ貰ったから、ここに荷物を詰められるだけ詰めて持っていこうと思うんだよ」

「ぷぴぴぁぴきゅうぴゃぁき(居座る気満々じゃないの)」

「今までっ、わからなかったことをっ、専門のっ、人にっ、聞けるのがっ、嬉しいからっ、今までのっ、記録をっ、持っていこうとっ、してるんだっ」

「ぷぅぷきききぴきぷきゃぁ(超無理やり詰めるじゃん)」


 デカい鞄の蓋をぎゅむぎゅむ押して、無理やり金具で蓋を閉じた、いや紙の端はみ出てるけど。

 額を腕で拭って、次の鞄を開け、黙々と紙束を詰めていくお兄様。さすがにその量を鞄で運ぶのは辛いと思うよお兄様。


「ふぅ、あと鞄三つぐらい詰めないとな」

「ぷぅぷぅ(重量)」

「それが終わったらテーブルを運び込んで、あぁ、中に保管した物の整理もしないと、それと折角だから本棚も順番に並べてしまおう」


 そんな一日でいっぱい出来るわけないでしょ、トンちゃん手伝わないからね。お兄様の部屋から外に出て、陽の光が暖かい中、お散歩に行くことにした。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 いやー、食った食った、春の山菜採りに混ざって色々食べさせてもらった、煮物も胡麻和えも酢の物も炒め物も美味しかった。

 やはり旬の食材は美味しいと言われる時期が一番美味しいらしい、今度茗荷が旬の時期にミョウガサマのとこに行って、辺りが禿げるまで抜いてこようかしら。


 鼻唄を歌いながらお家まで戻ってきた、そろそろ晩ごはんの時間だ、二人とも部屋の片付けはいいところまで終わっているのだろうか?

 まずはお兄様の部屋の中を覗いてみよう、ん?これは、床の上に何も無い……ちがう、何本も机の脚が乱立している。一体どういうことなんだ。困惑していたら、客間の方で複数人が言い争う声がした。


 まぁ可愛いトンちゃんでも見て落ち着けよ、そんな思いを胸に渦中の部屋に急行すると、額を押さえているヒゲオヤジと、両手を握りしめてヒゲオヤジに抗議しているお兄様と、その男の子誰?


「ワシは、部屋の中の物を減らせと言ったんだが、あの部屋はいったいなんだ?」

「言っていないよ、お父様は床に物が落ちていたら捨てると言ったんだ、僕の部屋の中にはもう床に物は置いて無いよ、置いたのは家具だけだ」

「そうだぞ領主様、俺はシャスタからキチンと依頼されて料金を貰って、ちゃんと頼まれた机を納品したんだから文句を言われる筋合いはないはずだぜ」

「それはいい、そこに文句は言っていない、シャスタが欲しい物は小遣いの中からなら好きに買えばいい、ファベルに家具の製作を頼んだのもお前の勝手だ、だが」


 ファベルっていうのね、お兄様の部屋に置かれていたテーブルの脚の林はどうやら彼が作った物らしい、一日も無いのによく作れたもんだわ。

 まぁでも部屋が片付いたのならいいんじゃないの?あの混沌一歩手前みたいな部屋が、整理されてマシになったのなら、机の導入は間違っていなかったと私は思うわ。


「床の物を全部机の上に置けば良いわけじゃないだろう!!?」

「床には一切物は落ちていないじゃないか!僕の部屋なんだから家具をいくつ置こうが僕の勝手だろう!!」

「シャスタおまえ今日からどうやって自分のベッドまで行く気なんだ!?無理だろあの置き方は!!」

「……机の下を通って?」

「シャスタァッ!!!!!」

「俺もう帰っていいか?爺ちゃんに頼まれた椅子の飾り彫り進めなきゃないんだが」


 アリュートルチの血の頭角を表してきたわねお兄様、流石に今ある物を全て机の上に乗せて、部屋片付きましたはちょっと無いと思うわお兄様。

 今は近づかないのが吉ね、その場で踵を返し、リリーの部屋へと向かうのであった。


「理論的には問題ないはずだよお父様、そのためにベッドに付けて置いたテーブルは、僕が床からベッドに上がれるぐらいの高さに」

「そういう事を心配しているんじゃない!!!!」


 はよリリーのとこ行こ。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 リリーの部屋へと着いた私は目を見張った、めちゃくちゃ部屋が綺麗になってるじゃないか、頑張ったんだなリリー。

 部屋の灯りは消されている、ベッドの中が膨らんでいる、ベッドへ飛び乗るとリリーがうなされていた。


「ゔぅ〜〜……とんちゃん……とんちゃんすてられちゃう…………」

「ぴぴぷぷぴぃ(捨てられない)」

「すてられ……とんちゃん…………」


 リリーの額には濡れたタオルが乗せられている、まさか私がお外へ出かけたから心配して熱出したっての?それだと私が悪いみたいじゃない、迷惑な。

 頬を蹄でぶにぶにと突くと、ふぇへぇとか間抜けな声を出しながら表情を柔らかくしたリリー、私も晩御飯まで寝てようかしら。


 ベッドから飛び降りて、Myちぐらへと向かった、ふかふかでぬくぬくなMyちぐら、主のお戻りよ歓迎しなさ…………?


「ぷぁっ、ぴぷぷぴかぁっ(うわっ、呪いの札がっ)」


 ちぐらにベタベタと貼られた、小さい子供が書いた文字の紙。『たいせつです』『すてないでください』『トンちゃんのです』『すてちゃダメ』『だいじ』『とんちゃん』『すてないで』、ホラーの域に入りかけてる私のちぐら。

 全く、ちぐらの入り口にまで貼らないで欲しいわ、入れないじゃないの。ガサガサ音を立ててちぐらの中に入り込み、目を閉じる、起きたら部屋を片付けたリリーの事を褒めてやらんでもない。きっと頑張ったのだろう。


 晩ごはんは何かしら、そんな疑問を胸に、私は眠りにつくのだった。


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