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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
90/113

90.音読の宿題


 今日は雨降りなので、お家の中でリリーと遊ぶことにした。別に外に出てもいいんだけど、たぶんリリーまでついてくるし、泥だらけになった私を洗うよりリリーを洗う方が面倒だと思う。

 それに、メープル先生からの宿題として、トンちゃんさんにリリーさんが持っている本の読み聞かせをしてくださいと言われたらしい。なので、大人しくリリーの前に座り、ストローでリンゴジュースを飲みがてら聞こうとしているのだが。


「ぷぴゃぴゃーきゃー(早よ選びなさいよ)」

「えっとね、うーんと、どれがいいかなぁ」

「ぶぷぴびぴーきゃぴ(どれでもいーわよ)」

「えーと、えーと、そうだ!お父様に貰ったお気に入りにしよう!」

「ぷーぴぷーぴ(はよしてよ)」


 全く、このトンちゃんがオヤツを探しにも行かずに待ってやってるんだから、感謝しなさいよね。ズズコココとストローを吸い鳴らし、一冊の絵本を開く。

 いつかのように髪の毛でページが見えないなんて事はなかったが、赤ずきんちゃんと書かれた表紙と可愛い裏表紙がこちらを向いている、挿絵ぐらい見せなさいよリリー。


「ある晴れた日のことです、赤ずきんちゃんは、お母さんに、森にいるおばあさんのおみまいに行ってほしいとたのまれました」

「ぷぴきゅきゅぷきゅぴぃききぴゃぁ(この世界にもあるのね赤ずきんちゃん)」

「お母さんは、赤ずきんちゃんに、『おばあさんへ、あまい果物と、美味しいパンと、教会で美しく、慈愛深き女神様が、お与え下さったという聖水をわたしておくれ』と、言いました」

「ぴゃぷぷぴぷーきぴきき(サブリミナル女神止めろ)」


 マジで承認欲求の塊すぎないかあの女神、全世界の子供が楽しむ童話の赤ずきんちゃんに、無理やり自分を捻じ込むんじゃないよ。

 しかもわざわざ美しいって形容詞を使わせているところがまた腹立つ。


 ケッと子豚は不貞腐れると、お皿に出してもらった魔獣強化ナッツをポリポリ食べすすめた。そんな子豚に気付かずリリーは真剣に絵本を読み進める。


「お母さんは、続けて言いました、『森には、怖いウルフルーがいるからね、食べられてしまわないよう、これらもちゃぁんと持っていくんだよ』」

「ぽぅ、ぴぃぴぷぴぃき?ぴぴゃーぴぃきぴ(ほぅ、他にも荷物が?珍しいわね)

「そう言うと、赤ずきんちゃんに、黒いボウガンと、じょうぶな縄と、ピンクのアンテナーを……トンちゃん?なんで絵本閉じちゃったの、他のが良いの??」


 おかしいおかしい何かがおかしい、たとえ異世界の童話とはいえどもおかしい、どうして弱らせて捕獲の方向へと持っていこうとするんだ。

 熱いバトル展開へと変わりそうな赤ずきんちゃんを閉じさせ、別な本へと鼻先を向ける、血で染まった赤頭巾は子豚見たくない。


「えぇーと、じゃあこっちにしよぉっと、灰かぶり姫」

「ぴぅ……ぷぷぃぴきぃ(ふぅ……あぶなかった)」


 普通の話で良いんだよ普通の話で、いくら前世の世界よりは、素の人間が食物連鎖で上の地位に居たところで、子供が一人で魔獣にアンテナーを刺しに行くのってどうなのかしら。

 でもまぁ、灰かぶり姫、シンデレラの別名ね、これなら多少は内容が違ったとしても、大筋を外れる事は無さそうね。リリーは最初のページを開くと、聞き慣れた内容を話し始めた。


「あるところに、いじわるな継母(ままはは)と、いじわるな二人の義姉(ぎし)と、灰かぶりと呼ばれている女の子が居ました」

「ぷぁぷきぃぷ(まぁ普通ね)」

「灰かぶりは、まいにち継母と義姉にいじめられて、服はぼろぼろ、髪はぼさぼさ、お化粧なんていっぺんもしたことがありませんでした」


 よし、よし!普通だぞ!これなら子豚は安心して聞いていられそうだ。身体をクッションに預け、またポリポリとナッツを食べ進める私。

 リリーが次のページをめくり、舞踏会に連れて行って貰えなかった灰かぶり姫が、魔法使いにドレスを着せてもらうシーンへと移行した。


「おるすばんにされてしまった灰かぶりがシクシク泣いていると、美しい光と共に灰かぶりの側に、女神様がご降臨(こうりん)されました」

「ぱ?(は?)」

「麗しく慈悲深い女神様は、泣いている灰かぶりにこう言いました、『灰かぶり、貴女の頑張りは(わたくし)が全て見ていました、ドレスも靴も、馬車も私が全て用意してあげましょう、目を瞑って私に祈りなさい』」

「ぱぁ?(はぁ?)」

「灰かぶりは目をつむって、いつものように女神様に祈りをささげ、目を開けたら自分の姿におどろきました、髪はサラサラの黒髪ストレートのワンレンで、身体にピッタリと沿ったボディコンドレス、手には天使の羽よりもふわふわとした、おおきな羽根扇子を持っていました」

「ぷぱぷぷぷぴぱ(そら驚くわ)」


 当たり前だろ驚くわそんなん着せられてたら、私だってお母さんにそんな時代があったって聞いた時、正気かよって思ったのに。

 絵本の話はズレていないのに、女神の趣味が時代からズレ過ぎていた事が判明。え、あの女神あんな性格でそんな格好してんの?引くわ。


「足元を見ればヒールは12センチと非常に高く、まるでお城のお姫様のようです」

「ぷぷぴきゅきゃきぴーきゅきゃきゃぁぴぁ?(その話のお姫様はどういう衣装設定なの?)」

「『ありがとう女神様!』灰かぶりは、優しい女神様が作って下さった、お庭に生えていたジャガイモの馬車へ飛び乗ると、お城へとすぐに向かって行きました」

「ぷびぴきゅぅぴききゃぁきぃぴ(それで良いのか灰かぶり)」


 正気に戻れ灰かぶり。リリーのお洋服を見てもボディコンみたいな服は無い、お母様のお洗濯されたお洋服にもそんなもん無い、見た事ない。

 では何故、子供用の絵本にボディコンが出てきているのか?この世界でも流行った時期があるのだろうか??考えなくて良いことを考えていたら、どうやら舞踏会(ディスコ)へ灰かぶりが着いたらしい。 


「お城の中はみんな、美しいボディコンドレスや、肩パットを入れた二列の金ボタンが目に眩しいダブルのスーツを着込んで、楽しそうにおどっています」

「ぷぅぴきゅぅきぴきゃぴきぃ(そんな童話聞いたことないわ)」

「灰かぶりが会場の中へとすすむと、ひときわ高い肩パットを付けた王子様があらわれ、『美しいお嬢様、お手をどうぞ』と、灰かぶりを王妃の踊るお立ち台へと連れて行きました」

「ぷぁぴゃぴぃきぴぎぎぎゃぁ!!(そんな王子も聞いた事ないわ!!)」

「トンちゃん、灰かぶり姫も嫌いなの?」


 肩パットの高さで位の高さ(偉さ)を表すな!どんな世界観してんだ!!?子豚は暴れた、異世界の童話の酷さに暴れた、パロディ元の話の気持ちも考えろ。

 王妃をお立ち台で踊らすな、この国は帝国だから不敬罪にはならないってか、無理だろ。なんとしても幼い子供に、自分の凄さを刷り込もうとする女神、その自尊心のクソさに涙を流す子豚。


 リリーはメープル先生からの宿題なので、次の絵本を手に取って、少し顔を顰めた。


「うーん、トンちゃんの好きなお話ってなんだろなぁ、リリーが好きじゃないお話が、トンちゃんが好きなお話なのかなぁ」

「ぷぅぴききぴきゃきゃぴゃきゅーきーぷきひぃぴきょき……?ぷぴぴーきぴぷききゃきょ(灰かぶり姫に12センチハイヒールで階段ダッシュさせる気か……?そりゃハイヒールも脱げるわ)」

「このお話は、リリーあんまり好きじゃないんだけどなぁ、じゃあトンちゃん読むよ」

「ぷぉぴぴきぴきゃーきゃきゅぴきょぉ……(もう女神が出てこないならなんでもいい……)」


 もうトンちゃん疲れたわ……クッションに身を横たえ、キュゥと鼻を鳴らした。リリーは絵本を開き、題名を読んだ。


「ぼうぼう山」

「ぷぷきぴきゃぁきぴ(山ごと燃やすな)」




異世界お伽噺②: 赤ずきんちゃん

 赤い頭巾がチャームポイントの赤ずきんちゃんが、森に住んでいるお祖母さんのお見舞いに行く途中、悪いウルフルーにお花畑に誘われ、広い花畑についた瞬間から始まる命を削って闘う、手に汗握るアクションストーリー。


 赤ずきんちゃんのボウガンの矢が無くなり、傷を負い絶体絶命のピンチ、しかし泉の中に撃ち込まれた矢を女神が持って現れ、必中の加護をつけ渡す。

 しかし、女神の加護をうけた矢ではなく、ピンクのアンテナーをボウガンへと装填した彼女は、迷う事なくウルフルーへと向けて撃った───。




異世界お伽噺③: 灰かぶり姫

 継母(ままはは)と異母姉妹にいじめられ、それでも女神様に祈り、他人を憎まず、正直に生きてきた少女の幸せな成り上がりストーリー。


 日々親切に、人に正直に生きてきた灰かぶり姫は、とても美しく優しい女神様に魔法をかけてもらい、素敵な格好で憧れの舞踏会へと参加する事が出来た。

 お城では、ひときわ高い肩パットをつけた王子様が結婚相手となる女性を探していた、灰かぶり姫を見染めた王子様は、王妃様が踊るお立ち台へと灰かぶり姫を連れて行く。果たして、灰かぶり姫は王妃とのダンスバトルに勝ち、十二時までに帰る事が出来るのか───。




異世界お伽噺④: ぼうぼう山

 女神の加護を持つ宝石を額につけたカーバンクルと、女神の加護を持つ金の玉を持つタヌキンという魔獣がした、人間への復讐の話。


 昔々、カーバンクルの群れとタヌキンの群れが住んでいる山を持つ領主は、毎日魔獣達の宝石と金の玉を取って売っていた。


 タヌキンはガリガリに痩せた狩人に化け、山へと入ってきた領主に、タヌキンの千匹に一匹だけがもつ水晶の玉と、お弁当のパンを交換して欲しいと頼む。領主は交換に応じ、家に帰って窓際に水晶の玉を置いた、すると、日光が机の上の紙束を燃やして、領主の家が燃えてしまった。

 困った領主は、カーバンクルの額の宝石を取って売る事にした。カーバンクルは、領主が使用人に用意させた木の船を壊し、代わりに泥の舟を作っておいた。領主は宝石を舟に積み、そのまま出港、哀れ泥の舟は宝石と乱獲領主を乗せて川の底へと沈んでいったのだった。


 領主のような欲深い人間に、これ以上タヌキンとカーバンクルが狙われないよう、心優しき女神様は宝石と金の玉にかけた加護を外してしまった。

 それからカーバンクルの宝石は死ぬと濁り、タヌキンの金の玉も取ると黒ずんでしまうのです───。


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