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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
88/113

88.ラッキー7


 いつまで続くのこの修羅場。グチグチネチネチと続くババアの説教紛いな昔語り、理不尽な内容を威圧的に怒鳴ってくるジジイ、そろそろ寛大なトンちゃんの堪忍袋の尾も切れそうよ。てか切れた。

 フォークを振り上げお母様に止められ、空のカップを振り上げお代わりを注がれ、鳴いて威嚇をすれば宥めるように頭を撫でられた。


 なんで言われっぱなしなのお母様、こんな奴らさっさと外に叩き出してやればいいんだわお母様!私の耳をフニフニしてる場合じゃないでしょお母様!!お母様ったら!!!!


「ぷギギギィぎゃぎぃぎゅー!(私が殴り出してやるわ!)」

「ま!汚い鳴き声、やっぱりトントンなんて飼うものじゃないわね、貴族の格が下がるわグレイス、外に捨ててらっしゃい」

「ギビビギャァ!?(なんだとぉ!?)」

「他人の家に金のなる木を寄越せと喚きに来る自称親族よりは、トントンを愛でている方がよっぽど貴族らしく思えますが」

「まぁそんな方が居るの?貴族の面汚しね、自ら貴族を名乗るのを止めて欲しいわ、それにアリュートルチ家も夜会に出るのを控えてるっていうじゃない、貴族の義務を放り出していったい何をしてるっていうんだか」


 オメーのことだよ!!!!お母様にお口を抑えられているので、プックーと頬を膨らませるしか出来ない、腹立つ!なんなん腹立つ!!いい加減帰れや塩を撒け塩を!!!!

 宥めるように抑えるお母様の手の下でブギプギウギウギもがいているが、何も出来ないし何も喋れないので一向に状況は良くならない。


 嫌味も効かずそもそも気づかず、お母様が言い返すと泣くわ怒るわキレるわ、なのに自分達は好き勝手言いまくる二人の老人。


「グレイスったら夜会にも出ず茶会にも呼ばれず、今だって流行遅れのドレスに田舎臭い化粧、粗末なアクセサリーなんてつけて、挙げ句の果てには領地経営の真似事なんてしてるの?はぁぁ……エンヴィー家の末娘として情けないったらありゃしない」

「ですから縁は切れて」

「口答えしないの!もっといい家に嫁がせるんだったわ、そしたら変な臭いのする野菜じゃなくて、多額の結納金が貰えたのに、ねぇあなた?」

「そうだな、今からでもアリュートルチ家から出て他の家に嫁に行け、育ててやった恩を少しは返してみせたらどうだ、出来の悪いお前でも引き取り手の一人ぐらいはいるだろう」

「そうよ、だから金の子豚だかなんだか知らないけど、アリュートルチ家が持ってる権利をエンヴィー家が貰ってあげると言っているの、帝都の夜会に参加する時、家格が低過ぎると目立つのは良くないって教えたでしょう?」


 全く良くねぇし、なにが貰ってあげるだよ、結局金が欲しいだけじゃねえか。トンちゃんは呆れ切ってしまい、お母様の御手手の中で身体の力を抜いた。

 もう暴れないと思われたのか手が離れ、隣から凛とした声が響く。


「商品の権利を差し上げる理由も、エンヴィー家に戻る理由も私は一切持ち合わせておりません、お引き取り下さい」

「グレイス、親の言うことが聞けないのか」

「私の父様と母様は、チュートリア前領主ご夫妻のみです、お引き取り下さいエンヴィー公爵」

「なんですってグレイス!もう一度言ってご覧なさい、仕置きだけじゃ済まさないわよ!!」

「何度でも申し上げてみせます、私の親と呼べる人は、チュートリア前領主夫妻のお二人だけです、この屋敷から出て行き、二度と来ないで下さい」

「この……ッ!!」


 顔を真っ赤にして怒るジジイとババア、それを睨みつけるお母様。ババアがテーブルに乗り出してお母様の胸ぐらを掴み、平手打ちでもしようとしたのか手を振り上げたその時。

 部屋の扉が勢いよく開き、満面の笑みのヒゲオヤジがなんかボトルをなにそのボトル?それをババアの頭の上で逆さにした。ふたが開いていたので、中に入っていた大人の葡萄ジュースがドボドボと溢れ、ババアの頭と身体を紫色に染め上げた。


ドポボボボボボボポポジャポポチョロロポ……

「…………キャァァァア!!??」

「おぉっと申し訳ありませんエンヴィー夫人!どうやら頭に血が昇っていたようなので、冷やす為の水をお渡ししようとしたのですが手が滑ってしまいました、生憎ワシの手元には安酒しかありませんでなぁ失敬しました」

「き、貴様いま自分が何をしたのか分かっているのか!?辺境地の子爵風情が皇家に(つら)なる公爵たるエンヴィー家に逆らうなど、気でも狂ったか!!?」

「いやぁアリュートルチの男として、最愛の妻が殴られようとしているのをただ黙って見てなどいられなかったものですからつい、そうだこちら替えの服です、どうぞあちらの小部屋でお着替え下さい」


 いきなり頭から振りかけられたワインにワナワナと震えていたババアだが、お母様を乱暴に突き飛ばし、ヒゲオヤジの手から服を引ったくると、足を踏み鳴らして小部屋へと向かっていった。

 長椅子に突き飛ばされて縮こまったお母様に抱っこされながら、怒りすぎて口から泡を吹き飛ばし始めたジジイを煽り続けるヒゲオヤジを見守る。


「これだから平民出の弱小貴族は!上位貴族への態度や目上の者への対応をまるで解っとらん!!」

「お恥ずかしながら、どこかの上位貴族が我がアリュートルチ家の夜会、茶会への参加を妨害しているようで、なんにせよワシも妻も帝都の事情には(うと)いんですよ」

「ハッ!何も知らん若造が、たとえ夫婦で夜会に出た所で、貴様らなど田舎者の臭いが抜けずに笑い者になるのがオチだ、肥溜めの臭いが帝都につかぬよう気を配ったどこかの上位貴族様に感謝すると良い」

「確かに、上位貴族の皆様は噂話がお好きでいらっしゃいますからね、田舎者のワシに話せる笑い話といったら、かの偉大な七公爵の一つ、エンヴィー家を語る者が子爵であるワシの家に金をせびりに来た事ぐらいでしょうなァ」

「グ、減らず口を……ッ!!」


 ジジイ、そんな怒ると頭の血管切れちゃうわよ。額に青筋を浮かび上がらせ、血走った目でヒゲオヤジを睨みつけるジジイ。それにしてもヒゲオヤジ強いじゃない、もっと早く部屋に入ってくれればよかったのに。

 もみょもみょとお母様にお腹を揉まれていると、突然ババアの入っていった小部屋の扉が勢いよく開いた。何ごとかと振り返れば、渡した服の二の腕と脇の下の縫い目が破れたらしい、コート掛けまで走っていって、高そうなもふもふがついた上着を歳の割には素早く羽織る。


 羽織り終わると、お母様を睨みつけ、あろう事かお母様と私の座る長椅子を蹴っ飛ばした。靴が椅子に当たる鈍い音が部屋に響いた後、甲高い金切り声が鼓膜をつんざく。


「なんで私が呼んでるのに誰も来ないのよ!!」

「ピャッ(ぴゃっ)」

「トンちゃん大丈夫?急に大きい音がしたから、お耳が痛かったのね」

「もうこんな使用人すら居ない所嫌だわ!!帰るわよあなた!!!!」

「おい!?まだなにも……アリュートルチ!貴様はエンヴィー家を敵に回した、それがどういう事かよく考えるといい!!」


 三流にも程があるわその捨て台詞、結局のところここは引くけど覚えてろー!をオブラートに包んで言っただけじゃないの。

 扉も開けっぱなしのまま逃げ出したエンヴィー家の夫妻、勝ったと言わんばかりの鼻息を出すヒゲオヤジ、私を抱えたままのお母様。嵐は過ぎ去ったらしい。


 だが、ヒゲがくるりとこちらを向いたと思ったら、いきなり両目からドバドバと涙を出し始めた。なに怖い。


「グレイスぅ……すまないワシが、ワシがまた親御さんを怒らせてしまったせいで、夜会にも茶会にも出れなく…………」

「ぱ、ぷききぴぱぱぴ?(は、それあいつらのせい?)」

「良いんですよ、エンヴィーは七家と呼ばれども、金と利権の無心に来るようなもう名ばかりの家ですから、どうせ今行ったところで姉達が居ますし面倒なだけです」

「しかしグレイスが勘当されたのもほぼワシのせいだろう……友人ともまた手紙のやりとりを始められるぐらいには、アリュートルチ家の名誉も回復したというのに…………」

「……エンヴィー家が没落したら、一緒に夜会に行きましょうか」

「そうだな、その時はグレイスのドレスも、リリーのドレスももっと良いのを作らせよう」


 案外アリュートルチ家の人は強かだったわ。嬉しそうな声色のお母様の腕の中で、子豚はよく分からんけどとにかくエンヴィー家の、一日でも早い没落を願うのであった。




BGM:神秘的だが明るい曲


 暖色でまとめられたスペクトラムアナライザが、声に合わせて動いている。


『この(わたくし)が統べる世界では、"7"という数字が特別な意味を有しています。

 7つまでは神のうちという言葉があるように、年齢が7を過ぎた子は神の手から巣立ったとみなされ、その子を守る為にラジモンを持たせるのです。

 虹が7色なのも、帝国を支える家が7つなのも、幸運の数字が7であるのもそのためです。今私が決めたのでそうです。


 それよりいい加減にあの子豚をなんとかしないと卒業検定試験に間に合わな』


 暖色でまとめられたスペクトラムアナライザが消え、BGMだけが続いている。


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