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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
87/113

87.結局人間性


 と、意気込んだはよいが、具体的にこのトントンの身体で何ができるって、可愛い姿で癒しになる事しかできないんだけど。何かフォローしたり後方支援しようとしても、私の言葉は全部ぷぴぷきになってしまうわけで。

 何したらいいんだ?でも、ヒゲオヤジよりは頼りになるとは自分でも思うので、やっぱり席は譲らないのだけども。


 空になったカップを持ってううむと頭を悩ませていると、偉そうに腕を組んで踏ん反り返っていた爺ちゃんが、これまた偉そうな咳払いと共にこんな事を言い出した。


「本当に出来の悪い娘だな、茶の一つも言われんと出せんのか」

「これは失礼致しました」

「私もお茶が欲しいわ、話していたら喉が渇くもの、あたりまえよねぇ」


 一々腹の立つ言い方しか出来んのか、扉の隙間から覗くヒゲオヤジも地団駄を踏んで怒りを表している、あまり視界の端でうるさくしないでよ。

 お母様は無感情に謝ると、カップを二つ用意して、ポットにだいぶ放置されていたのか、これ以上ないぐらい色の濃く、少し濁った紅茶を丁度二杯分注ぎきった。


「どうぞ、粗茶ですが」

「粗茶にも程があるだろう!こんなもの飲めるか!!」

「暴れないでください、紅茶が溢れたらテーブルクロスのクリーニング代を請求しますよ、あぁトンちゃんカップが空になってしまったのね、すぐに新しい紅茶を作るから少し待っていてね」

「ぷき(うん)」

「ふざけているのか!!?」


 トンちゃんメープル先生のリリー用最低限マナー講座で習ったわ、紅茶って、ポットに茶葉を入れたままだから放置すると味も色も濃くなるの、しかも放置すればするほど渋みもエグみも出て美味しくなくなるわ。

 新しい紅茶を用意するために、チャーミーの背中でお湯を沸かし始めるお母様、そんなチャーミーの鼓膜にはまた外の音を完全遮断の膜が下されている。


 そんな大人しく紅茶のおかわりを待つ私を見て、婆ちゃんが思いっきり眉を顰め、嫌そうな顔をした、私はいい子で可愛い子豚ですが何か?


「トントンなんて汚い魔獣、よく家に置いておけるわね、昔からグレイスはコンロガメをラジモンにして料理なんてしてみたり本当に変な子だったわ」

「えぇ、なにせ元親にもメイドにも食事を貰えなかったものですから自分で調理していましたので」

「やだぁそうだったかしら?そんな昔の事もう覚えてないわぁ、あ、そうだ美味しそうなケーキだけどこれ貰ってもいいの?」

「はい、今切り分けますね」


 はーん、実の親なのに食事を与えないって何それ、ねぇお母様、私聞いてないわそんな話、ほら扉の向こうのヒゲオヤジも泣き出しちゃったじゃない、袖で涙も鼻水も拭いてるわ、あとで執事さんに怒られるわよアレ。

 またもや無表情でケーキを切り分けるお母様、二切れ分、だいぶ細く切り取ったそれをそれぞれお皿に乗せて、わざと倒した。しかも取り分ける三角のやつで上から押しつぶした。


 片方のケーキのイチゴがコロコロと机に転がる、お母様はそれを摘むと、私の口に近づけてくれたので食べる。甘酸っぱくて美味しい。


「どうぞ、アリュートルチ家の料理長が腕を振るった物です、味の保証はします」

「な、な、なにをするのグレイス!?」

「残りのケーキは全部トンちゃんが食べていいわよ、そうね、引き出しからトンちゃん用のフォークを持ってくるからお利口さんに待っていてね」

「ぷき(うん)」

「あぁ、なんて失礼な事をするの、ひ、酷いわグレイス、お母さんは貴女をそんな子に育てた覚えはないわよ!!」

「紅茶もおかわりを注いであげましょうね」

「ちょっと!聞いているのグレイス!!?」


 トンちゃんメープル先生のリリー用最低限マナー講座で習ったわ、お客様にケーキを渡す時は、ケーキを倒してしまうと失礼になるって習ったわ。だけど取り分ける三角のやつで押しつぶすのは習ってないわ、この世界のマナーって難しいのね。

 ほぼホール形状のケーキが目の前に置かれたので、お母様からフォークを受け取って食べ進める、やっぱり料理長のケーキは美味しい。


 真っ赤な顔でプルプルと震える激怒なお婆ちゃん、ごめんね、トンちゃんが可愛いばかりにケーキ沢山貰っちゃって。


「お父さんなんとかして下さい、グレイスが……!うぅっ……」

「グレイス!親を泣かすなんぞ人間として一番恥ずべき行為だ、貴様は」

「もうあなた方の娘では有りませんと先程から申しておりますが」

「グレイス!!!!」


 怒鳴ったところで五月蝿いだけなのに、チュートリア領の優しいお爺ちゃん達を見習って欲しいわ、どうして同じぐらい歳を重ねているのにこうも違いが出るものなかしら。

 モゴモゴとケーキを頬張っていると、お母様に口の周りについたクリームを拭かれた、ぷきき。


「アリュートルチ家には何をしに来たのですか」

「そうだな本題に入ろう、最近アリュートルチ家は羽振りが良いそうじゃないか」

「なにで稼いだのかは知らないけど、お金が有りすぎるのも困るわよね、グレイスはあまり高級な物は好かないみたいだし」

「位の低い貴族が目立ち過ぎると良くない、由緒正しく歴史あるエンヴィー家に、ニャンムの手と、あと下らんゲームだかなんだかの権利を渡せと言いに来たんだ」


 ハァーーーン楽しい事言ってくれるじゃねぇのこの非常識ジジババがよぉ、金せびりに来たどころかこのキューティ天才魔獣トンちゃん様のお小遣い稼ぎの品の権利を寄越せと?は?やだが??

 リリーのお母様の親とは思えないぐらい突拍子のない言動してるわね、お母様は沢山苦労してきたのね、これからもトンちゃんのお腹沢山揉んでいいからね。


 あまりに図々しいどころか面の皮が厚すぎて、整形を疑うぐらいの言い様に、さすがのトンちゃんでも歳上尊敬フィルターが剥がれ切ってしまった。


 扉の向こうのヒゲオヤジも鬼の面でも被ったような表情をして、厨房から持ってきたのか包丁両手に持って怒りのポーズをしているわ。

 その包丁、料理長のお気に入りだから勝手に使ったのバレたら怒られるわよ。


「矢張りあなた方の浪費癖も、姉さん達の無駄遣いも変わりませんでしたか……」

「浪費?なにを馬鹿なことを言っとる、上の者が威厳を保つために領地の金を使って何が悪いんだ」

「そうよぉ、エンヴィー家は昔から続く歴史ある家なんだから、他の貴族のお手本になるためにも着る物にも食べる物にも妥協なんて出来ないわ!あぁグレイス、私の言い聞かせた事を何も理解していないのね」

「はぁ…………」

「本当に貴女はいつもそう、昔ッッからお母さんの言う事を聞かずに、女のくせにやれ領地経営科に進みたいだの、お父さんの仕事に文句をつけてみたりだの可愛くない事を、上の姉さんを見習ってお化粧や服に興味を持てばまだ嫁入り先は私がなんとか見つけてあげられたのに、こんっな辺鄙なところにある名前も知らない家のうだつの上がらなさそうな男とよりにもよって駆け落ちだなんて、私、もう恥ずかしくて恥ずかしくて……」


 ついに額を押さえて押し黙ってしまうお母様、延々と何の得にもならん昔話を続けるババア、それにうんうんと神妙な顔をして頷くジジイ。お前らなんてジジイとババアで十分だ。

 ああケーキを残しておくべきだった、勿体無いけどこの老人の風上にも置けぬジジババの顔面に、パイ投げ代わりに一発、クリームをお見舞いしてやれたのに。全部食べちゃった私のバカ。


 カップの紅茶をぶっかけてやろうかとも思ったが、机の上に今登れば、お母様がトントンの躾すら出来ないのと責められてしまう可能性が高い。

 あぁ人型に進化出来ていればこんなことには……!どうする私、どうしようこの状況……!!


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