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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
86/113

86.逃走と闘争


 ガシャガシャワシワシ孫の手で背中を掻く私、この世界ではニャンムの手、まぁ猫の手みたいな名前で売り出される事となったコレ。案外売れてるらしいわ。

 

「ぷっきぴーきゅきゃっきゃぴきゃぴあ(やっぱマーケティングって大事なのね)」

「トンちゃん背中掻くの終わった?」

「ぷきぴぴ(終わったわ)」


 リリーに敷いてもらった布の上から降りて、ぶるぶるっと一度身を震わせる、あーやだやだ、行動が魔獣くさくなってきた。

 ハンカチの上に転がる抜けた子豚の毛を大切そうに包んだリリーは、それを小瓶の中へと入れようとするからやめろ虫が湧くから捨てなさい。


「ぷぷぴぴぺぽーぴ(ゴミ箱へぽーい)」

「あ!トンちゃんの可愛いピンクの毛が!!」

「ぴぷぷきゃっきゅぅきぃききぴーぷぅ(いくら可愛くても瓶詰めは許さないわ)」


 後で地獄みたいな事になるのが目に見えてるからね、絶対に許さないわ。

 ペッペッペッと全ての毛をゴミ箱へと入れると、がっくり肩を落として残念がるリリー、何よ、めちゃくちゃ可愛い動く私が居るからそれで我慢しなさい。


「トンちゃんひどいよぉ……トンちゃんの毛でぬいぐるみ作ろうとしてたのに…………」

「ぷーぴぷぷきぴぴぃぷきゃき、きゅーきゅーきぴ、ぷぷぴきぃき(動物の毛をロクな処理もしないまま取っておくと、そこに虫が住み着くわ、お兄様が言ってた)」

「きっと可愛いのが出来たのにぃ……」


 リリーの部屋なんてただでさえ食べこぼしが多いんだから、これ以上お部屋の掃除係のメイドさんに心労をかけるわけにはいかないのよ。

 いいからもうオヤツ食べに行きましょ、リリーの服の裾を噛んで引っ張り、部屋の外へと連れ出す。そうしたら目の前に、お兄様をこちらに尻を向ける形で俵担ぎにした執事さんが居た、いた?え?執事さんえ??なんで????


「リリーお嬢様、今から少しお出かけしますので、この上着を着てくださいね」

「うん?どこかにいくの?」

「ええ遊びに行くんですよ、シャスタ坊ちゃまも一緒です」

「ぴぴーぷぴきー?(リリーも持つの?)」

「リリー、執事さんがミウの町に連れて行ってくれるんだって、本屋さんにも寄ってくれるんだって、好きな物も三つまでなら買ってくれるって」

「ぴうぴぷきゅぅきゃ(テンション高いわね)」

「そうなの?リリー、トントンのぬいぐるみが欲しいなー」

「では出発いたしましょうか、馬車の用意はもう出来ていますので、行きますよ」


 右肩の上にシャスタお兄様を乗せ、左脇腹にリリーを抱え、他人に見つかったら即通報な誘拐犯スタイルで二人を運ぶ執事さん。

 背中側に二人とも顔があるので、何も気にせず話しているがもうちょっと突っ込むなりなんなりさぁ、いくら知ってる大人だとしてもさぁ。呆れて見送ってしまったが、お兄様の背中にちゃっかりアオバがとまっていたのが見えた。


 ついてけばよかった?いや、たまの休みよね、リリーの子守りを休んでオヤツを食って惰眠を貪ったところで、怒る人間は誰も居ないわ。

 さて、料理長にリリーの分のおやつも頂戴っておねだりしに行きましょ。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 誰も居ない。右を見ても左を見ても、洗濯物の部屋を覗いても、厨房を覗いてついでにパンを盗み食いしても、使用人さん達の部屋を覗いて机の上のクッキーを拝借しても、怒る人も誰も居ない。

 うーん、これはおかしいわ。ちらっと調教師さんのいるところにも行ったけど、ドーベリーすらいなかったし、馬の三頭はいるけど馬房に突っ込まれてる、この時間はいつもお庭に放されてる筈なのに。


「いったいどういうことなのかしら、こんなに屋敷に人がいないのは、トントンパークでみんなお外に出てた時ぐらいよ」


 うろうろキョロキョロ、鍵が閉まっている部屋以外、頑張って扉を開けて中を覗いてみたがどこにもだーーれも居ない。本当にどういうことなのかしら。

 上から下まで短い子豚の足でテコテコトコトココロコロズリズリ歩き回っていたら、客間から人の声が聞こえてきた。何よ、誰かはちゃんといるじゃない。トンちゃん一匹だけ置いていかれたのかと思って焦ったわ。


「はーよかった、可愛い子豚いっぴきじゃ、ご飯を作るのも大変だからね」


 扉に駆け寄り鼻先で無理やり開き、中に滑り込むと、そこにはほぼ無表情のお母様と、知らない爺ちゃん婆ちゃんが居た。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 どういう事なのかしら、てか、この人達誰なのかしら、そして、ホールのイチゴケーキは食べていいのかしら。

 部屋に入って数秒で、お母様に抱え上げられ、クッションを椅子の上に敷かれて、その上にちょんと座らせられた。目の前には人間用のティーカップ、もしかしてここ、他の人が座る席なんじゃないかしら?大丈夫なん??


 お母様がわざわざ持ってきてくれた、両側に持ち手のついた私専用のカップに注がれた紅茶を飲みつつ、お母様と誰かわからないお爺ちゃんお婆ちゃんの話を隣で聞いている。


「孫達はどこに居る、連れて来い」

「貴方の孫ではございません、が、私の息子も娘も外に出ております」

「父親に向かってなんて口を聞くんだ、まったく、お前は昔からそうやって他人を馬鹿にしたような態度を取るから友人の一人すら作れんのだぞ」

「自分の娘ではないと絶縁したのは貴方の方からでは?それに、私の父親はアリュートルチ前領主様だけですよ」

「いい気になりおってこの馬鹿娘が!!誰が育ててやったと思ってるんだ!!?」

「まぁまぁアナタ、グレイスが嫌みったらしいのはいつもの事じゃありませんの、それよりお母さんとお父さんのお願いを聞いて欲しいのよ」


 ずぞぞぞぞ……紅茶を啜りながら、怒髪天なお爺ちゃんと、突然のお願いをしようとするお婆ちゃんを観察する。二人とも着ている服は高そうだし、ギラギラしてる指輪はつけてるし、シンプルに決めてるお母様とは正反対の服装。

 え?お母様のお母様?つまりリリー達の祖父と祖母??てか今お母様の名前出た????長椅子で隣に座るお母様の顔を見るが、凪いだ湖のような無表情、なんの感情も見られない。


「願いとはなんですか、どうせあなた方の事ですから、金の無心に来たのでしょうけれど」

「酷いわ!どうして家族なのにそんな事言うのよ、困った時に助け合うのが家族じゃないの?」

「私はもうあなた方の娘では有りません」

「それは今どうでもいいじゃない、それより孫のシャスタはどこ?お土産を持ってきたのだけど、自分の手で渡したいわ」

「先程外に出ていると言いました」

「あらそうだったかしら、聞いてなかったわ、シャスタはエンヴィー家の次の当主になるのだから家族なんだし、早く会いたいのよ」


 とにかく話を聞かないお婆ちゃんなのね、いつにも増して表情を動かさないお母様、まつ毛の先すら動かさないのに納得したわ。

 そして今まで気づかなかったけど、扉の隙間から覗くヒゲオヤジ、あんた居たの。お母様の隣はこのトニカクカワイイ子豚が頂いたわ、そこで指を咥えて見ている事ね。


 だけど珍しく、私を睨むでもなくどこか心配そうな視線を送るヒゲオヤジ。なるほど、お母様が心配なのね、分かったわお母様は私が守ってあげよう。

 柔らかい手でぽんぽんと優しく撫でられる頭の重みに誓う、だからヒゲオヤジ安心してそこで見てなさい、お母様の心の支えに私はなる……!


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