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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
84/113

84. 金の子豚印の新作


 背中が痒い、頭が痒い、お尻が痒い。人間の時ならば簡単に掻けた、しかし、この短いトントンの手だと。


「ぷびゃびゃびゃぴー!(頭に手が届かない!)」

「トンちゃん可愛いポーズしてる、うふふ、手をほっぺに当てるのね」

「ぷっぴきらぴきゃぴきビピギビキー!!(こっちは遊びじゃねぇんだヨォ!!)」

「んふふふ、可愛いねぇトンちゃん」


 頭のてっぺんが痒いのに全く手が届かない、このままでは痒くて気が狂ってしまう。もちろんお尻にも蹄は届かないし、背中なんてもってのほかだ。

 四肢の可動域が恨めしい、ゴロゴロピギャピギャ床で気の済むまでのたうちまわった後、その辺の侍女さんにお風呂に入れてもらうようお願いしに走った。


「ぷぷぴぴきー!ぴきゃきぴぷきゃきょきゃぁ!!(あばよリリー!私は天国に行くぜ!!)」

「突然どこ行くのトンちゃん!?」



 ので、トンちゃんは今、モコモコの泡でゴシゴシと洗われている、矢張り風呂、風呂は全てを解決してくれる。はぇ〜極楽ごくらく、お風呂の力はすごいわね。

 桶に入り、お風呂に入れて欲しいと強請った私を洗っている二人の侍女さんのお話を聞きながら、優雅なバスタイムを楽しんでいるの。


「トンちゃんって本当に頭いいわね〜、この前だってリリー様とお外で泥だらけになった時、お屋敷の前でタオルを持って来るのをちゃぁんと待ってたのよ」

「ぴぴぷぴ(でしょでしょ)」

「良い子ね〜、私の弟のワン=ワンなんて濡れようが泥だらけだろうがベッドの上に乗ってくるの、信じられないわ」

「ワン=ワンも種類によっては躾が大変だからね〜」


 大人しくお風呂に入るだけで褒められるなんて、なんて優しい世界……いや、動画サイトのペット動画で見たわねそんな世界。

 ちゃぽちゃぽ優しい水音が響き、でも耳に水入るのヤダ、身体を気持ち良い力加減で洗われる、だから耳は洗われるのヤダ。


「最近よく柱とか家具の角に身体を擦り付けてるけど、もしかして身体が痒いのかしら」

「ぷーぴぷぴ(そーなのよ)」

「可哀想に……もしかしてダニかしら」

「やだぁ!」

「ぷきゃきゃぴきぴぃ!?(まさかそんな筈は!?)」

「すぐにシャスタ様のベットシーツ替えるよう言いましょうね、絶対にあの部屋だわ」

「ぴぃ、ぴぴきゅぴきゅきゃきゃ?ぷぷぴぴきゅぴきゃきゃ??(ねぇ、ダニなんてついてないわよね?黒いゴマみたいなのついてないわよね??)」

「怖いのよねシャスタ様の部屋、どこに何が潜んでるのか分かったもんじゃない」

「私このまえ入った時、30セルチャぐらいのムカデ見たの」

「今ので二度と行きたくなくなったわ」

「ぷぴに(私も)」


 わしゃわしゃごしごし洗われ続け、とてもスッキリしたところでタオルで拭かれて、どんな原理かは分からないけどドライヤーっぽいもので乾かされている。

 

「トンちゃんが来てからお屋敷の備品も潤って楽になったわぁ、ドライヤーだって使用人用は古いのが壊れてから旦那様ずぅっと買ってくれなかったし」

「ぷぴぺぱぴぴぺ(ケチねあのヒゲ)」

「今度、執事さんが屋敷用の掃除機を買ってくれるらしいわよ、薬草とか、薬用のキノコの事はよく分からないけど、とにかく金の子豚様々ね」

「ぷうぷぴきゅきゅぴき(ほんとに私様々よね)」


 つまり私が一番凄くて可愛いってこと、転生モノなら当たり前の展開。みんなに愛されてお金もガッポガッポ稼いで食う寝る食べる遊ぶ食べるな全人類が憧れる自堕落な生活を送るその名はトンちゃん。


 いや、なんで転生先が豚魔獣なのか次あの女神(無免許)に会ったら問いたださなきゃならんけど。

 つか、なんで美少女の身体に入らなかったわけ?普通は国を守る美少女聖女とか、どっかのアホ王子に婚約破棄される悪役令嬢とか、百歩譲って現代社会のお金持ちお嬢様に転生して蝶よ花よお姫様よされるもんじゃないの??


 なんで魔獣を捕まえて戦わせるゲームの主人公やNPCですらなく魔獣に転生したの?人間に転生していれば換毛期のイライラは無かったのに、恐ろしいダニにも怯えなくて済んだのに。

 トンちゃんはとても怒っている、どれくらいかっていうと、可愛い豚の鼻の上に盛大にシワを作るぐらい。


「ごめんねトンちゃん、お顔もちょっと乾かすからね〜、ふふふ、怒らないで〜〜」

「ぴぽももももぷもももぷもみ(あのクソ女神おぼえてやがれ)」

「こうしてみるとトントンもやっぱり可愛いわね、魔獣臭も薄いし、ワン=ワンより臭くないわ」

「ぷぷももももぷぽもももみゃ(この怨みいつか晴らしてやろうぞ)」



◆〜◇〜◇〜◇〜◆


 野良ではないのでお風呂には入れる、しかし、忙しい使用人さんを捕まえて、日に何度も子豚を洗うためだけに桶にお湯を張ってもらうのは心苦しいので、せめて自分で背中と頭だけでも掻けるようになりたい。

 だから、またヒゲオヤジのところに遊びにきたトレードさんに、木彫りとか木の細工を扱ってる職人さんを紹介してもらいにきた。


「ぴゃぴゃぴきぴぇ(からそこ退けヒゲ)」

「ここは客間だと言っておるだろうが、子豚の想像しているような菓子も食い物も無いぞ」

「ぴーぴきぴきぴぇ(いいから退けヒゲ)」

「全く……リリー!子豚がこんなところまで来てるから回収しなさい!!」

「ぴきゃぴきぴぇ!!(下ろせやヒゲ!!)」


 尻尾を持たれて運ばれ始める私、付け根が痛えっつってんだろ下ろせヒゲ!魔獣虐待でお母様に言いつけるぞ!!

 ぴぎゃぴぎゃぴぎー!と騒いでいたら、リボンに挟んでいた画用紙を取られてしまった。返せコラ。


「なんだこれは、設計図?にしては何か棒のような物しか描かれておらんではないか、チャンバラの棒なら森で枝でも拾ってこい」

「ぴぎゃっ!(違うわ!)」


ドバン!!!!

「トンちゃんさんの描いた設計図ですって!!?」

「ヒェッッ!!!?」

「ピャッッ!!?(ピャッッ!!?)」

「何が必要なんですか私が原材料も場所も職人も用意します見せて下さい利益率はどうですか売れそうですか売れますね売ります!!!!」


 お部屋から突然飛び出てきたトレードさんに、ヒゲオヤジと揃って飛び跳ねた。

 開け放たれた扉から見える部屋の中で、ポットから注がれ続け、受けきれなかったカップから溢れ続ける紅茶をそのままに、呆然とする執事さんの姿が見えた。


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