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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
81/113

81.樽トンホテル


 トントンパークを開いてから、アリュートルチ家の周りに不審者がたむろするようになったの、縄を持ってたり網を持ってたり、美味しそうな焼き立てスコーンを持ってたりするのよ。

 まぁ、アリュートルチ家には私が訓練した番犬が居るから問題無いんだけど。


 窓から屋敷を覗こうとする不審者に、ボクと遊んでと飛び掛かり。

 網でピンクのトントンを密猟しようとする不審者に、なんの玩具だと飛びかかり。

 焼き立てスコーンで散歩してる私を呼び寄せようとする不審者に、オヤツですかと飛びかかっていった。


 そんな不審者にモテモテなトンちゃんだけども、トントンの身体といえども、私は私の物なので誰の物にもなる予定は無いわ。

 とりあえずリリーと一緒にいれば、手が滑ったアンテナーを刺すのをミスったこれは事故ですねぇを防げると気づいた。ので、今はリリーの足元で、高価そうな上着を羽織ったオジサンに注意をしているところだ。


「あのね、トントンパークの、トントンの持ち帰りは、一人一匹までです」

「ぷき(そうよ)」

「でも、この子達は兄弟みたいだし、離れ離れにさせるのは可哀想だと……金なら、金なら払うから!」

「ぴぃ(はなして)」

「ぷぅ(おろして)」

「なぁ父さま早く帰ろうぜ、俺お腹すいたー」

「でも、そういう決まりだから、お金を払ってもダメです」

「ほ、ほら、一人一匹なんだろう?片方は息子のトントンにする」

「えー!?俺の初めてのラジモンはワン=ワンにするって言ったじゃん!父さま嘘つくのか!?嘘だけは吐いちゃいけないって母さま言ってたぞ!!」

「ダメです、ひとり、一匹だけです、トントンだって、どうせ人間のラジモンにされるなら、一緒に暮らして下さいって言われて、大事にお世話してもらえるとこに行きたいと思うの」


 可哀想なお父さん、少し前からリリーと見守ってたのだけれど、アンテナーを刺しては抜いてを繰り返す息子さんの横で、オジサンは今両手に抱えているトントン二匹の餌付けをしていたの。

 餌を少しあげては頭を撫で、また少しあげては背中を撫で、またまた少しあげては膝に乗せたりしていた。

 二匹がお腹いっぱいになった後は、人間で暖を取ろうと高価そうで温かそうな上着の裾に潜り、スヨスヨと寝はじめた時に持ち帰る決心をしたらしい。


 しょうがないわね、優しいトンちゃん様が妥協案を出してあげましょう。ダメなことはダメと言えるリリーの足元から、ある文字を書いた画用紙を差し出した。


『トントン の お取り置き しております』


「……いくら出せばいいんだ?」

「父さま、トントンなんて要らないだろ、どこにでも居るし何にも出来ないんだぞ?」

「うるさい父さまが何をラジモンにしようと父さまの勝手だろ!このトントンはここにしか居ないんだ!!」


 そうよそうよ、貴方に懐いた兄弟トントンはここにしか居ないんだからね。ぺらっと画用紙を捲り、裏に書かれている文字を見せた。


『最長 二日』



 つまらなそうに足元の泥混じりの雪で雪だるまを作る男の子、そのお父さんは受付の台に兄弟トントンを二匹置いて、その隣に硬貨の詰まった皮袋を置いた。

 受付係のカルテさんが、まだ何も理解出来ていない二匹のトントンの首に紺色のリボンを蝶々結びにして、予約済みの小さな札を首にかける。

 横に寝かせた樽の中に、藁の寝床と餌皿が入れてあるだけの、簡単なトントンホテルにそっと二匹を入れた。


「すぐに妻を連れてくる、この子達がお腹を空かせないよう餌を沢山買っていくから、今日の夜と明日の朝にあげるよう頼む」

「かしこまりましたユウジュー・フーダン様、ですがトントンの餌の代金としては多過ぎるので」

「余った分は募金へ回してくれ!必ず迎えにくるからな、ショコ、コロラ、良い子で待ってるんだぞ?」

「ぴききぴ?(ぼきんへ?)

「ぷききぷ?(むかえに?)」

「すぐに帰ろうジョウジュー!」

「はぁい……父さまはこんな時ばっかり決断早いんだから…………」


 即後ろを振り向くと、息子と共に馬車が停めてある所へ走って行くユウジューさん、今の人でもヒゲオヤジより偉い貴族なのよ。

 そんな人達が息をつく間も無くひっきりなしにトントンパークに来るもんだから、対応しているカルテさんの目がどんどん死んでいくし、周りの屋敷で働いてる人の顔色も悪くなってくわ。表情はとてもよい笑顔のままだけどね。


 そうなのよ、ヒゲオヤジより偉い貴族ばっかりなのよ、来るのが。少し遠くで何やら不穏な気配、トントン達を守り隊のリリーと共に急行すると、絵に描いたような意地悪親子がトントンを虐めているところだった。

 アンテナーの刺せない方で突いたり、軽く靴で蹴ったり、雪を投げつけたりと酷いことをしている。


「このザコ!ザコまじゅう〜!お前らそんな弱くてはずかしくないのかぁ?」

「ぴきー!(いたいー!)」

「ぴゃきー!(やめてー!)」

「ほほほほ、いくら貴族間の流行りとはいえこんな弱い生き物をアテクシの可愛い息子のラジモンにするわけがないでしょうに、近くに寄らないで汚しい!!」

「ぷきー!(うわー!)」

「ぴぴー!(いやだー!)」


 自分より弱いと判断したモノを虐める奴にまともな奴は居ないわ、だけど人間同士で手を出したらお巡りさんを呼ばれてしまうからそれは無しよ。

 怒りに震え、石入り雪玉を生産し始めるリリーを止める。それはいけない、ヒゲオヤジがあとで死んでしまうわ、怒りに身を任せてはダメよリリー、だから人体に刺さりそうな石を探して雪玉に詰めるのは止めて。


「止めないでトンちゃん……リリーはたとえ相討ちになったとしてもあの名前も知らない愚かな人間を倒さなければならないの…………ッ!」

「ぷぴぃきぃぴぴー、ぴゃぴきゅぷぷぴきー(止めなさいリリー、暴力に訴えるのはダメよ)」

「きっとあの人間達は、自分が痛いことされない限り、何が悪いのかすら自分では理解する事ができない愚かな人間なのよ」

「ぷぷんきゅぴーぷぴきゃーぴきょーぷきぴぴぴー(普段のメープル先生の授業でもその国語力が欲しいわリリー)」


 メープル先生が作ったテストで、あやふやな文章を書いている普段の貴女はどこへ行ったの。リリーの作る殺人雪玉を片っ端から壊して妨害していると、さっきの意地悪親子から悲鳴があがった。

 そっちの方へと向き直ると、ぴーぴー泣きながら虐められていたトントン達が、大勢で意地悪親子を囲んで仕返しをしているところだった。


 リリーより背も体も小さいので、ぴかぴかの冬靴を齧られ、コートの裾を噛まれて呆気なく雪の上に転がされる虐めっ子。トントンを虐めるからよ。


「雑魚のくせに俺の靴噛むなよ!あっちいけよー!!痛っ!?」

「ぷぅ」「ぷき」「ぷきゅ」

「ゃだこわいぃぁぁぁあ゛ー!!!!」

「ぴき」「ぷきき」「ぴきゃぷ」

「お゛か゛あ゛さ゛ぁ゛ん゛!!!!!」


 あっという間に、トントン達にお腹の上に乗られ髪の毛をもしゃもしゃ喰われ、服の袖を噛まれ靴を片方盗られてしまった。ザコ魔獣に負けてるじゃん、そんな男の子を見てキャッキャと喜ぶリリー、酷いやつだぜまったく。

 案外弱かった息子のピンチにブチ切れながら駆け寄ろうとした意地悪奥様だが、その足が二歩目でトントンにぶち当たり、勢いよく雪の上にすっ転んだ。


 そんな奥様の温かそうなコートを噛んで引き千切っていくトントン達、雑魚でも小さくても魔獣なんでな。綺麗に結われていた髪もボサボサに、白いファー付きの手袋も引っこ抜かれて盗まれていった。


「なんの役にもたたないトントンのくせによくもアテクシの子供にっ!?なに!!?」

「ぴぴー」「ぴきゃ」「ぷきぃ」

「寄らないで!このコートいくらすると思ってるの!!?イヤーー!!!!!!」

「ぷきゃきゃ」「ぷぅ」「ぴきぃ」

「キャー!!誰か!!だれか!!!!!」


 その後、上から下までボロボロになった意地悪親子が、受付にいる執事さんに何やら詰め寄っていたけれども、看板の注意書きを指差されていた。

 その後、泣き喚く子供を引き摺って馬車に乗って、とっとと帰ってしまった。


 虐める奴が悪いのよ、自分でやった悪い事には、なんらかの形で罰が下るものだわ。あの女神が神罰下すとは思えないけどね。

 戦利品を咥えたトントン達が巣に戻る、特にコートの布が好評のようで、背中や鼻先にのせて暖をとっている。


 そんなトントン達を見て、リリーも嬉しそうに目を細めた。


「トンちゃん」

「ぷぅぴ(なによ)」

「リリー、トントン達にリリーのお布団あげようと思う、お外は寒いからね」

「ぴきゃぷききぴぃ?(また怒られたいの?)」


 この後、使用人さん達の予備の毛布を持って行こうとするリリーを通報して、執事さんに捕まえて貰った。あなたの善意が彼等にとって本当の意味で救いになるとは限らないのよ、もう少し考えて。

 それと、なぜか私まで怒られているのだけれど、それはどうしてなのかしら?トントンの餌は確かにちょっと貰って食べたけど……他人が……他トンが食べてると食べたくなるじゃない?ちゃんと私のお金から払うって書いたメモを置いたはずなのに、ねえ?なんでオヤツ抜きにされるの?執事さん?ねえ??


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