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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
80/113

80.ここに約80匹のトントンがおるじゃろ?


 トントンが一匹、トントンが二匹、トントンが十匹、トントンが二十匹。これは、チュートリアの町から他の場所へ譲渡されたトントンの数よ。

 何故こんなチュートリア産トントンが人気なのか?それには理由が三つあるの。


 一つめ、柵で囲った一箇所にトントンが沢山いる事。


 いくら無害なトントンといえども、最初は誰だって魔獣相手に近づくのは怖い。だからといって超偉い御貴族様のお子様が、超雑魚(トントン)あいてにアンテナーも刺せずに逃げられたというのは問題になる。

 では柵の中に大量にトントンが居たのなら?たとえ一匹に逃げられたとしても、他のトントンに刺そうとしてたんだもんで誤魔化せる。



 二つめ、柵の中のトントンが捕まえやすい事。


 警戒心の無さすぎるトントン、餌を与えておけばその場に留まり、七歳の子供でも容易く捕まえられるとは言えども三歳の子供にはまだ難しいだろう。

 今の時期は冬、巣篭もりに入ったトントンを引っ張り出そうとしても、中々出てこない。しかも巣の近くだからいくら警戒心0魔獣だもしても威嚇ぐらいはするだろう。


 しかし、アリュートルチ家の人々が餌付けしてしまったトントンは、人間に対して警戒心0どころかマイナスに振り切っている。わーいご飯だ、プスっ、プキッ!?どんな幼い子でもこれで捕獲完了だ。



 三つめ、ジェスくんが人の集まるお茶会で自慢しまくったから。


 子供というものは良くも悪くも素直である、通常七歳の誕生日に初めてのアンテナーを親から貰う、ラジモンはその後で。三歳の子供からしたら七歳なんて先の先の先の先の先のこれまた先のずっっっと先のまだまだ先の未来の事である。

 なのにジェスくんは自分のラジモンを持っている、たとえそれが親から借りたアンテナーを刺したものだとしても、穀潰しの愛玩目的意外なんの役にも立たないトントンだったとしても、自分のラジモンは自分のラジモンなのだ。なんか自分で言ってて腹立ってきた。


 もちろん、お兄ちゃんお姉ちゃんが七歳で、ラジモンを持っていたとしても、自分はまだ七歳じゃないからラジモンを持てないという理由で諦められるだろう。

 しかし、自分の友達が持っていたらどうだろうか?友達では無くても、自分より下の子が持っていたらどうだろうか?


 それに加えて、この世界には貴族格差というものがある。下の爵位の、年齢も下の子供が、自分に無いモノを持っていたら唯我独尊な彼彼女等はどう思うか?


 ───齢七つになる前に、ラジモンを持てぬ者、貴族の子に在らず───


 アホみてぇな話だが、子供間の流行りなんてそんなモンである。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 現在、アリュートルチ家は上から下までてんてこ舞いの大騒ぎだ、トンちゃん踏まれないようにするので手一杯よ。

 西から東から北から南から、あちこちの貴族からトントンパーク入場のお問い合わせの手紙が舞い込み、ヒゲオヤジの焦げ茶色の執務机の上はお外にも負けないくらい白く染まった。


「西の高位貴族に東の中位貴族、どうして……なぜワシのとこみたいな中の下の下のところに手紙なんて……?」

「旦那様口を動かす暇があるなら定型分の下に署名だけお願いします!良いですか!?絶対に誰一人としてお屋敷にも領地内にも泊めずに日帰りにして頂きますからね!!もてなす暇も設備もありません!!」

「…………書き終わったわ、出してきて」

「奥様こちらもよろしくお願いします」

「帝都に居る貴族からの問合せが束で届きました!ご確認ください!!」

「なんで……??」

「いいから手を動かしてください!!!!」


 おー可哀想にヒゲオヤジ。思えば三日前にジノンさんから一言、ごめんチャーリー、とだけ書かれた手紙が来た時から普通の日常が終わっていたのね。

 トンちゃんは室内(戦場)から退避することにしようかしら、鼻先でも踏んづけられたらたまったモンじゃ無いからね。


◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 と、いうことでお外に出てきたのだけれど、こちらはこちらでだいぶ人が多いわね。トントンパークとヤケクソに書かれた看板が雪にブッ刺さっているので、その近くに腰を下ろす。

 入場料は一律一人100円(1銀貨)大人でも子供でも従者でも一人100円、捕まえようが捕まえなかろうが、入場料は100円だ。トントン持ち帰り一匹0円、一人一トンまで。だけどトントンが住んでる森の環境を守るために、募金をお願いしている。


 餌はワンカップ10円(1銅貨)、よく硬貨の最小額が1000円(1金貨)からしか持ってない御貴族様が居るので、カモネスに走って両替用の小銭を貰ってたんだけど、今はもうカルテさんに来てもらってるみたいね。


 注意書きには。

①お持ち帰りは一人1トンまでとさせて頂きます。


②トントンパークで起こったお客様同士、お客さまとトントン間のトラブルに関して、アリュートルチ家は一切の責任を負いませんのでご注意ご了承下さい。


③小さなお子様連れのお客様はお子様から絶対に目を離さないようお気をつけ下さい。


④なお、持ち帰るトントンについて代金は発生致しませんが、アリュートルチ家に避難しているトントンの住む森の整備の為の募金を募っております。

そのことにご理解とご協力のほど何卒宜しくお願い致します。

 なんて書かれてるわ。


「ぴにゃ〜、ぴゃーきぃぴゃーきゅ〜?(いや〜、盛況せいきょ〜?)」

「父様!わたし、このリボンのついたトントンがいい!」

「そうかそうか、ではこのアンテナーを」

「トンちゃんはリリーのだから持ってっちゃダメー!!」


 注意書きに、リボンのついたトントンの持ち帰りはご遠慮下さいという項目が新たに出来たわ。



○〜○〜○〜○〜○


 では、みんながどんなトントンを捕まえるのか見ていきましょうか。まずはリリーぐらいのお年の豪華なコートを着たお嬢様、まだ自分のラジモンは捕まえてないけど、練習のために刺しに来たのかしらね。


「そこで見ていなさい、従者の手伝いが無くともプライド家の娘として、一人で魔獣にアンテナーを刺してみせますわ!」

「お嬢様なんと御立派な……!」

「私達、こちらでお嬢様を応援しております……!」


 ふむふむ、中々気の強そうなお嬢様ね。近くにいる私みたいなピンクの身体のトントンに、背後からそぉっ……と近づき。

 刺した。


「えいっ!」


プスっ

「ぴぴっ!?(なにっ!?)」

「……ふん、大したことありませんわね、まぁトントンなんて誰でも簡単に捕まえられますし、もう良いですわ、帰りますわよ」

「お見事でしたお嬢様!」

「きっと奥様と旦那様もお喜びになりますわ!」


スポッ

「きゅ?(なに?)」

「早く馬車に移動するわよ、いくら流行りだとしても、どうして(わたくし)がトントンなんか……」


てちてちてちてちてち

「……なんで私の後ろを着いてきますの?」

「ぷき?(なに?)」


てちてちてちてちてち

「……野生なのに警戒心が無いんですの?」

「ぷきぃ?(なにぃ?)」


てちてちてちてちてちてちてちプスっ、ひょいっ

「ぴきゃ?(なに?)」

「……お嬢様?」

「うるさいですわね、アンテナーを刺したのだからこのトントンは私のラジモンですわ」

「お、お嬢様?」

「なんですの、こんな小さいのが野生で生きていけるわけがないじゃありませんの、騙されませんわよ!」

「ぴにゃにゃ?(なにに?)」

「いえ、そうではなく」

「だって私の後ろを頑張って着いてくるんですのよこの子!?きっとこの小ささだと産まれてすぐに親から逸れたのですわ!!」

「お嬢様そのトントンは平均サイズ」

「この子は私が責任を持って連れて帰りますわ!!」


 お持ち帰りがまた一匹、毎度あり。だけどお嬢ちゃんいくらお金に余裕があるからって、募金したところで孤児ならぬ孤トンは減らないのよ、遅かれ早かれ一人立ちはするんだから。てゆーか、それちっさいけど全部成獣。


 別な子へ視線を向けると、ちょっと毛足の長い茶色のトントンをジッと見ている男の子、リリーよりは小さそうね。手にはトントンの餌と、アンテナーが一本。


「ぷき、ぷき(ごはん、ごはん)」

「…………はい」

「ぷきき、ぷきき(おいし、おいし)」


プスっ

「ぷきっ?(なんだ?)」

「……はい、餌」

「ぷき、ぷき(ごはん、ごはん)」


スポッ

「ぷきっ?(なんだ?)」

「……はい、もっとあげるね」

「ぷきき、ぷきき(おいし、おいし)」


プスっ

「ぷきっ?(なんだ?)」

「……………餌あげるよ」

「ぷき、ぷき(ごはん、ごはん)」


 遊ばれている、凄い遊ばれているトントンがいる、呆れた顔してるのにアンテナーを刺したり抜いたりして遊んでいる。

 なんて事を……とアホの子っぽい食い意地の張ったトントンを見守っていると、男の子のお母さんらしき人がきた。


「そろそろ帰りますよ」

「っ!?うん」

「ぴきゃっ!?(わぁっ!?)」


 坊ちゃん、服の中にトントンを隠すのは流石にバレバレだと思うんだけど。怒られたりしないかしら?そのまま続けてトンちゃんは見守る。

 目を逸らしながらも、しっかり服のお腹の下辺りを押さえて、トントンを捕獲した男の子は、お母さんの目をトントン入りのお腹から逸らすために色々話し始めた。


「お母さま、アリュートルチさんにご挨拶に行くんでしょ、僕も行く」

「……ええ、そうしましょうね、受付の方にいらっしゃるみたいだから移動しますよ」

「う、うん、話が長くなりそうなら、僕先に馬車に行ってるよ……馬車が出るまで、静かにしてるんだぞ」

「ぴぴゃ?ぴぴゃ?(くらいよ?せまいよ?)」

「アリュートルチの奥様は少し有名な方なの、お母さん、きっと長く話すだろうから先に馬車に行ってなさい、荷物の整理もしておくのよ」

「……はい!」

「ぴゃぴゃ?(ゆれるよ?)」


 良かったわね、また一匹領地外への譲渡が決まったわ、幸せになるのよ。

 ところでさっきから気になっていたのだけれど、私の頭にアンテナーがたまに落ちてくるのよね、なんでかしら。


「これが金の子豚……」

「こいつさえ捕まえてしまえば……」

「引き渡しでどれだけ金が貰えるか……」


 なんでかしらねー、不思議よねー、トンちゃん今日はもうお家に帰って寝ることにしようかしらー。

 良い子のみんなは、他人のラジモンを盗んで売っぱらったり身代金を要求したりしちゃダメだぞ!トンちゃんとのお約束だ!!


「ぷきぴぃ、ぴきゃぴっぴー!(それじゃあ、またあしたー!)」

「クソっ!逃げやがった!」

「屋敷に入られたら終わりだ囲め!!」

「素早いぞこの子豚!?」


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