表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
8/113

8.トントンと赤い……


 ─────とても不愉快である。


 デジャヴを感じる始まり方だが今とてつもなく不愉快なのである。子供用の椅子と言ったな?これは子供用では無く赤児用の椅子と呼ぶのだ。

 良くある小さいテーブルみたいなのが付属している赤ちゃん用の椅子。しかもご丁寧に涎掛けまで付けられてしまった。


 いいか?確かに生後半年どころか多分三日にも満たない子豚魔獣であるが中身は花をも恥じらう年齢の乙女なのだ、今現在外側が素敵なピンクの子豚だとしても十代後半の人間なのだ。

 目の前の机に両前足を置き、ぷぴーと鼻を鳴らして椅子を持って来てくれた使用人のお姉さんに不満を伝えたが、あらあらと微笑ましい目で見られてしまった。違うの、お姉さんパンを千切って欲しかった訳じゃないのでもありがとう。


「……こぶたちゃん、これおいしいよ…………?たくさんたべていいのよ…………??」


 私の隣で赤いアンテナーを握りしめご飯を食べ始めてからこっち、ずっとこちらをチラ見していた可愛い少女、リリーが私がご飯を口に入れているのをじっと見つめる。


 片手にフォークもう片手にアンテナーとなんともお行儀の悪い食べ方であろうか……てかあんた、なんでご飯時を狙って私に刺そうとするかな。アレか?動物はエサ食べてる時は油断していて大人しくしてるからその隙を狙えってヤツかな。実際ゲームでも餌投げて食ってる間にラジモンゲットしてたしな。


「だいじょうぶよー……ごはんおいしいからねぇー…………」

「ぷきぅきぅ(全く大丈夫に見えないわ)」


 彼女の白く小さな手にしっかと握られている赤いアンテナー。兄からの借り物と話しているのを聞いたがこんな子に渡すモノでは無いと思う、今すぐ取り上げなさい。

 隙あらば私のちっちゃくまるっとキュートなピンクの頭に刺して来ようと手を伸ばしてくるリリーをあしらいながら、ふわふわしたパンのカケラを口に含む。


「とりゃぁ!!」

「ぷぴゅぅ(誰が刺すか)」

 ペェン……!!


「ひどいよこぶたちゃぁん……!!」

「リリー、お行儀悪いから食べ終わってからにしなさい」

「はぁい……」


 今しがた私の高貴で艶やかなる蹄で叩き落とした赤いそれを追いかけ、椅子から降りようとしてヒゲオヤジに怒られたリリーを見ていたらある事を思い出した。


 魔獣との絆値がMAXになるとアンテナーを外しても懐いているので飼い主の下から逃げ出したりしなくなる。アンテナー無しでも仲良くしてくれるし言う事も聞いてくれるようになる。というゲームの設定だ。仲間とか絆とか懐きとか日本人大好きだよね。


「こぶたちゃん、おなまえ何がいいかなぁ」

「ぷぴぷふぅ(変なのだったら返事しないから)」

「ぷぴぷちゃん?」

「ぷぎぃ!(承知しないわよ!)」


 全くなんて名前を付けようとするんだこの少女。スープをお行儀良く飲む私をニコニコと笑いながら観察するリリー。全くネーミングセンスの無い人間にロックオンされてしまった。


 残念ながら私はゲームのチュートリアルに毛が生えた程度しかこのラジコンモンスターをプレイしていない。が、私の生まれ出でたこの世界では魔獣と呼ばれるゲーム序盤に出てくる三種類のモンスターの事は知っている。


 鳥魔獣のピイピイとリス魔獣のカリカリ、そして豚魔獣のトントン。……今の私の体だ。


 な、なんて安直過ぎるネーミング。捻りの一つもない知性のカケラも見当たらないネーミングセンス。さすが討伐対象の魔王様を生き延びさせる事ができるという謎の箱庭系RPGを売り出したガデス・ガーデン(通称G.G)からでたゲームだけある。

 きっと作成スタッフ一同ネーミングセンスが無かったからこの世界の住人もセンスが壊滅的なのだろう。


 でも、私は別にアンテナーなんて無くてもこの少女、リリーと仲良くすること自体は吝かではない。……操られるのはごめん被るけどね。

 なんてったって異世界にしては美味しいこの食事に豪華な部屋、こんな高待遇なこのお屋敷の環境を手放すのは勿体無い。


 ご飯を食べ終わり蹄を合わせてご馳走様でしたと鳴く、確かに死なない程度にレベルは上げたいが、この素晴らしき好条件を手放し旅に出るつもりなど一ミリたりとも無い。


 それでは屋敷の散策に行こうではないか。蹄を駆使して涎掛けを頑張って取り机の上にぐしゃりと置き、椅子から華麗に飛び降りた私を掴み持ち上げる二つの手。持ち上げられた私の鼻先に満面の笑みのリリー。……なんなの小娘離しなさいよ。



「あなたのなまえは、トントンの、トンちゃんね!」


 全くネーミングセンスのカケラどころか塵ひとつぶんも無い名前がいつのまにかつけられたらしい、和やかな雰囲気の部屋の中、少女の柔く小さな手に持ち上げられた私は。


「……ぷきぃ(……しゃーないわね)」

「トンちゃん!お母様、トンちゃんが返事してくれたわ!!」


 諦めて、トンちゃんという安直にも程がある名前を受け入れ、この世界で子豚の魔獣としてこの少女の友となる事にしてやった。



カリカリ: エゾリスみたいな栗鼠の魔獣、硬い木の実が好き、あまり鳴き声を上げない。ドングリなどを地面に置き、古典的な籠と棒の罠を作れば捕まえられる。


ピイピイ: アカハラみたいな姿の鳥の魔獣、穀物が好き、色が赤青黄緑紫とにかくいろんな種類の色の個体がいる。小麦を地面に撒き、古典的な籠と棒の罠を作れば捕まえられる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ