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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
77/113

77.野良トンの群れ


 そいで、どうしてトントンの大群にアリュートルチ家が占領されて、ヌシ様がご挨拶しにきたかというとだな。それはそれはお砂場の砂山よりも低く、梅雨時期の水溜りよりも浅い理由があるわけよ。

 尻に星の模様があるトントンが言っていたそれ。そうそう、雪でお家が無くなっちゃったって言っていたわね。


 そうなの、今年の大雪は町の誰も、この国の誰も予想出来なかった気象現象なのよ。カマキリの卵すら見つからない、そもそもカマキリが生息してるかもわからない異世界じゃ、雪がどれだけ降るか誰も分からなかった。


「お兄様、森の近くのカマキリの卵は低い位置にあったよね、なのに雪沢山降っちゃったね」

「カマキリの卵は積雪量を予測して、雪に埋もれない位置に産み付けるというのは実は根拠の無い俗説なんだ、卵を見たところで積雪量の予想は付かないんだよリリー」

「ううん?」

「そもそも雪に埋もれてしまったら卵が雪の重さに耐えられないというなら、最初からどんなに雪が降ろうと埋まらない位置に卵を産み付けると思わないかい?」

「うううん?」

「寒冷地では気温が氷点下になることもある、その場合は雪中は最低でも0度付近で安定しているから、寒さに弱いなら逆に雪の中になるように卵を産みつけた方が安全なんだよ、分かったかい?リリー」

「すやぁ……………」

「寝ちゃったのかい?」


 ……とにかく、誰にも今年の積雪量は予想できなかった、例年と比べても雪が多く積もり過ぎたチュートリア領。普段こんなに雪が積もる事がないらしいので、ヌシ様のお家に耐雪構造なんて考慮されていない、つまり。


「ギュゥガゥるるぁヴェ(お家壊れちゃったの)」

「あぁァ、あ、ァ」

「ヒッ、ヒギッ、ヒ」

「ゴォガァぁぅがァア(折角作ってくれたのに)」

「ごめっ、ごめなさっ、たすけっ」

「こ、こぶた、なんとか、なんとかし、ヒッ」


 この地獄絵図は、百年に一度ペースの稀な大雪の為に、こうして出来上がってしまったのである。



〜ガオ〜ฅ•ﻌ•ฅ〜ガオ〜


 ヌシ様のガオガオ説明を聞いた所によると、まず積雪で作ったお家が壊れて、茂みやしっかり固まっていない穴ぼこに住んでいたトントン達もお家が壊れた。

 壊れたお家を捨て置き、大きな動物ヌシ様の巣であれば、冬の間隅っこに入れるのではないかと考えたトントン達がみんな着いてきたと。


 それで屋敷が占領されては迷惑千万ね。取り敢えず人が暮らす屋敷に入ってこようとするトントン達を、一旦庭に柵を立ててそこに入れとこうと使用人さん達が頑張っているわ。


 みんながなんとかしようと頑張っている横でその侵略者を匿おうとしたアホがリリーよ。


「あのね、リリーね、いきなりおっきい声で怒られるとびっくりしちゃうの、お兄様みたいにね、静かな声でね、何がダメだったのかお話して貰えばね、リリーもわかるの」

「ぷぴきゅぅぴきゃーきゅーぴきゅぴょぴゃぴゃぴぃ(この部屋の惨状を見て怒鳴らない方がどうかしてると思うわ)」

「メープル先生も言ってたの、おっきい声で怒るとね、何が悪いのかよく分からないけど、相手は怒ってるからゴメンなさいだけするようになるの、リリーもね、何が悪かったか教えてくれたらもうしないの」

「ぷぴぴきゅきゃーぷぴぱきゃーぴゃぴょぴぃきゅきぃ(流石に泥だらけの野良トン三匹を部屋に匿うのは大罪よ)」


 部屋の扉の前には二本の指で眉間を抑えた今日のリリーのお部屋掃除当番の人、リリーの腕の中には鼻をヒクヒクさせている野良トンが二匹、そして、リリーのベッドの下から覗く、怒鳴り声にビックリして逃げた奴の尻が一匹分。



 お母様の、リリーお叱り大会に巻き込まれないうちに逃げてきたお庭では、お兄様が柵の中のトントンに囲まれながら、何やらノートに書いていた。

 柵の中のトントンを一匹ずつ捕まえては、何やら秤に乗せて体重測定をしているようだ、トンちゃんには必要ないわね、いつでも完璧ボディだから。


 そんな好奇心の塊であるシャスタお兄様は、また一匹の野良トンを捕まえると弾ける笑顔でこちらに話しかけてきた。


「トンちゃん!君の仲間は面白いね、警戒心がほぼ無いみたいで、何か気になるものがあるとすぐに寄ってくるんだ」

「ぷぁー(うわー)」

「ぷひきゅぅぴきゅぴ?(それ褒めてんの?)」

「流石子供用練習魔獣と呼ばれている三匹のうちの一匹だね、こんなに捕獲し易い魔獣他には居ないよ!」

「ぷぴぅきゅぴぴぃき?(だから褒めてんのそれ?)」

「ぷぁあぴー(離してー)」


 うごうこと気の抜ける抵抗の仕方を見せてくる野良トン、あんたも私と同じピンクのトントンなら、少しは根性見せて噛み付くぐらいしてみせなさいよ。

 体重計に乗せられ、数値を記録されてまた放されるトントン、そんな無警戒で良いのだろうか。そのうち捕食されまくって絶滅しない?大丈夫??


「色々なトントンを観察してみて分かったんだけど、トンちゃんみたいなピンク色の個体が一番多いんだね」

「ぺー、ぷぺぺ(へー、そうなん)」

「次に、メープル先生のラジモンのオペラみたいな茶色に縞模様の個体、その他はブチや白黒、茶色が少数みたいなんだ、他の領地にはもっと違う柄のトントンが居るのかもしれないね」

「ぷーん(ふーん)」

「あと、他のトントンの個体に比べるとトンちゃんはだいぶ小さめの個体ということがわかったよ、面白いねぇ」

「ぷ?(え?)」


 わたし、小さい?他のより?聞き捨てならない事を言われた気がする。そろりと辺りを見回すと、見渡す限り(トン)ぶた(トン)ブタ(トン)

 いくら私が異世界一可愛い豚魔獣だからってこんなに周りをトントンで囲まれていては私の存在意義すら怪しくなってしまう、今だってリリーが全トン保管計画を進めようとして怒られているのに、この食べ放題遊び放題寝坊し放題のシャングリラを他のトントンに譲る気は毛頭無いのよ。


「ぴきゅぴき、ぷぴ、キャキュキョキイぴきゅきゅぴっぴぷぅ!(決めたわ、私、飼いトンの座は誰にも奪わせないって事をね!)」

「そういえば、アルビノのトントンが一体いたんだけどね、この時期だと雪が保護色になって、他のトントンに踏まれていたよ」

「ぷぴきぴきぴききぴゃぴ(そこは保護してあげなさいよ)」

「見た目以外特に他のトントンと変わった所は無いし、このまま野生で生きていけると思うから別に何もしないけどね」

「ぷぴきぴきぴききぴゃぴ!?(そこは保護してあげなさいよ!?)」


 色以外変わらなくても紫外線に弱いとかはあるんじゃ無いの!?保護しないの!!?ノートにまた何ごとかを書き留めたお兄様の背中をつつくが、なんの反応もない。


「アルビノの個体については僕はよく分からないけれど、同じトントンなんだからそんなに心配しなくても良いと思うよトンちゃん」

「ぷきゅきゃぁき!?(そういう問題!?)」

「どちらかというと、ただ色素が少なくて白くて目が赤いだけのトントンより、文字を書けるトンちゃんの方が僕は珍しいと思うけどなぁ」


 くっ!これだから植物にしか興味無い系男子は!!まぁ!?トンちゃんのほうが賢くて強い自信はありますけど!!?トンちゃんのほうがお行儀良い自信もありますけど!!?!?

 仕方がないので冬の間だけは他のトントンがこのお屋敷に居ることを許してあげる事にしようじゃないのさ。トンちゃんは優しいからね。


 そう考えた転生者である元人間トンちゃんは、泣きながらこっちに走ってくるリリーの抱擁を、サッと華麗に避けたのであった。


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