表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
76/113

76.侵略者


 全く、昨日は酷い目にあったもんだ、あの後雪の中を延々と彷徨っていたが、執事さんに救出してもらった。そして早朝、日が登りかけている状態の空を見上げて、私はお外へ出ていった。

 さっこさっこと蹄を踏み鳴らし、除雪をしたというのにまた雪が降り、未だ白い庭を進んでゆく。


「はぁー、息白いわ、私が腹を削った雪だるま(別荘)の生存確認ぐらいはしてやりましょうかね」


 さこさこそこそこ、積もりたての雪を踏み締め、お庭のど真ん中を進んでいく。雪が積もっても原型を保っていたヒゲオヤジ作の雪だるま。

 無事でよかったわ私の冬限定別荘、壊れていたらリリーがギャン泣きするところだった。中を覗き込むと白い雪の壁と、黒い星形の模様がついたトントンの尻が見えた。


「は?トントンの尻??」

「ぷき?ここはあちしのお家だよ、あーたは誰?」

「いや家って、雪だるまの腹の中なんだけど」

「あちしの前のお家が雪でこわれちゃったんだ、だからここをお家にしたの」


 こちらを向いて、ぴふぴふと鼻を鳴らす見知らぬトントンはそう話した。

 なーるほど、確かに記録的な大雪ってシャスタお兄様も言ってたから、野生魔獣の巣の一つや二つ、壊れたって不思議じゃないか。

 賢く優しいトンちゃんはそう考え、雪だるまをお家が壊れた不憫なトントンに譲ることにした。


「ご飯はあるの?」

「木のところにあるの」

「じゃあいいわ、人間に虐められないよう注意して暮らすのよ」

「ぷきき」


 そう伝えて踵を返す、野生で暮らしていたらお家がなくなる心配もしなきゃならなかったのか、その点ではリリーと出会えたのはだいぶ幸運だった。

 そして飼われトントンの私は、優雅なブレックファーストを頂くために、お屋敷へと戻っていくのであった。



〇◎○◎○◎○◎○


 はー、食べたたべた。たくさん食べた。なんでパンはあるのに、うどんは無いのかしら。元は同じ小麦粉なのに。

 食パン1斤にたっぷりの林檎ジャムを塗って食べ、リリーが残した丸パンも失敬し、根菜たっぷりのスープをリリーの人参を入れられながら食べ、リリーが食べているベーコンに涎を垂らしながらボウル一杯のスクランブルエッグを食べた。


 美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるって幸せね。今日はメープル先生がお休みの日なので、リリーがソリを抱えてルンルンしながらお庭に走っていく。


「ソリ遊びしーよう!」

「ぷぴきゅぴきゃぴっきゃぷぅ(子供は風の子って本当なのね)」

「今度は絶対雪に埋まらないようにしなきゃ!」


 私?私はお母様にちゃんとリリーを見ててねって頼まれてしまったんで、腹ごなしに雪遊びに付き合ってやろうと後ろをついて行ってるところよ。

 また身動きが取れなくなったら大変だしね、一晩経って固くしまった雪にこの羽根のように軽い子豚ボディが埋まるわけがないじゃない、私ったら天才ね。


「あーー!!!!」

「ぷぴぃぴぴー、ぴきゃぴきゃきょきゃーぷぷぱぴぷぅ?(何よリリー、除雪で作られた人工雪山が崩れてたりしたの?)」

「トンちゃんが……トンちゃんがいっぱい居る……!!」

「ぷぴぅぷぴぃきゅーきーぴいきぷーきーぱぅぴ?(私は私でオンリーワンのナンバーワンよ?)」


 こんなキューティプリティー世界一なトントンが他に居てたまるかっての。フンと鼻を鳴らしてリリーの視線の先へと目を向けると雪だるまの中にいろんな色のトントンがめちゃくちゃみっちり詰まってる。


 ぷきー、ぷきーと気の抜けた鳴き声の中、朝に見た星の模様がついた尻の持ち主の尻尾を噛んで引き抜いてやる。

 すっぽんころころなんて漫画みたいな擬音と共に飛び出てきたトントンは、私とリリーを見ると泣き出してしまった。


「ぷきぃー!ぷきゅぴぃー!!(あちしの!あちしのお家ぃー!!)」

「ぷぎゃきゃきぴぃ!?ぴぎゃぎゃきょきゃぁ!!?(なんでこんな事になってんの!?こいつらどっから来たわけ!!?)」

「ぷぴきゃーきゅきゅぅ(雪がたくさんでお家がないんだ)」

「ギッギピぴぎゃびーぎゃきっきゅびぃー!?(だからってみんな雪だるまに入ることないでしょ!?)」

「ぷぷぴき、ぴき、ぴきゃぴみ(みんなじゃないよ、あちし、みんな入れてないよ) 」


 みんなじゃない……?まさか……!!バッと背後を振り向き、トントンの足ではちょっと遠くにあるアリュートルチの屋敷を見る。

 このままでは大変なことになる……!不本意転生者である私の感がそう叫んでる……!!とにかくリリーを先に屋敷へ戻さないと。何をしているのか分からないがやけに大人しいリリーの方へ視線を投げると、両手に迷惑そうにもがいている野良トントン達を抱き締め、目を瞑ってジッとしていた。


「この子達はリリーが守ってあげないと……」

「ぴききぃー(やだぁー)」

「ぷぴきぃー(離してー)」

「ぷぷきゃぁきぴきゅぴ(物凄い迷惑そうよ)」


 絶滅危惧種でもないその辺に沢山いるただの野生トンなんだから、リリーが変に助けるより放置してる方が助かると思うけど。

 トンちゃん離して!あの子達はリリーが守らなきゃ誰が守るっていうの!!なんて世迷言を喚き散らすリリーをソリに乗せて引っ張っていく。早く行かなきゃ、早く、そんな時お屋敷から絹を引き裂く……段ボールを引き千切るような悲鳴が聞こえてきた。



ギヤャァァァァァァァァァアアア……!!!!!!



 あの声はヒゲオヤジ!もうちょっと遅く行っても大丈夫そうね!!ソリを引かれるのが楽しくなってきたリリーを引っ張り、トンちゃんは屋敷へとゆっくり急ぐのであった。



◆〜◆〜○〜◆〜◆


 リリーと共に見たアリュートルチの屋敷は酷いありさまになっていた、厩舎を埋め尽くす家を無くしたトントン達が、馬房の中にいるシャイアーやハクニーから暖を取るためピッタリと身体に寄り添っている。

 マスタングなんて可哀想な事に、根は優しい馬だから、近くに寄るトントン達を潰さないよう立つことすら出来ないようで、背中の上にまで野良トントンに乗られている。あんな困った顔初めて見たわ。

 シャイアーとハクニーは遠慮無しに首根っこ噛んで野良トン退かしてるけど。マスタングは優しいのね。



 同じくドーベリー達の部屋にもトントン達が入り込み、ドーベリー三匹の側にも寄り添っている。

 可哀想に、ヒゲオヤジが寒かろうとくれた毛布まで取られちゃって、……何故か三匹とも尻尾は揺れてるけど。姐さんの兄弟姉妹じゃないんすか!?なんて聞かれたけど、そもそも居たとしても私には分かりゃしないわよ。

 調教師さんが疲れた顔で、一匹、また一匹とトントンを外に追い出しているが、一匹逃す度に二、三匹中に入ってきているので心が折れるのはもうすぐだろう。



 最後に、恐らく悲鳴の原因であろう者。ヌシ様がヒゲオヤジの執務室の窓を優しく、そう、優しく爪の先で叩いているのを後ろからリリーと見ている。

 ひと叩きする度に中からヒゲオヤジと執事さんと侍女さんの悲鳴が聞こえ、窓ガラスにヒビが入る音も微かに耳に入ってくる。

 あと数度叩けばヒビが端まで入り、窓ガラスは割れるだろうなって思う。でも結局窓ガラスの交換はしなきゃならないんだから交換し易いように割れるまで見守るのもアリかなって思ってはいる。



「ぷーきぷきゃきゅぴきぴ(とんだ地獄絵図ね)」

「あ、窓割れちゃった」


「ガァルァア(こんにちわ)」

ガシャァ


「「「ウギャァァァァァァァァァァァァアアアア!!!?!?!?!!?!?」」」


 トントンって、実は結構強いんじゃないかしら。制圧されかけているアリュートルチ家を見ながら、そんな事を私は思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ