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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
75/113

75.GAME OVER


 コロコロゴロゴロ、どんどんと大きさを増していく雪玉、そこそこの大きさになったソレが、リリーの手で持ち上げられもう一回り大きい雪玉の上に乗せられた。

 みんな大好き雪だるまの完成だ、7歳のお子様が作った物なので、大きさはたかが知れているけど立派な雪だるまだ。


 広いお庭の端っこの除雪が終了した場所に作られた雪だるまの製作者であるリリー・アリュートルチは、大仕事を終えたような表情をして、額の汗を服の袖で拭った。

 

「トンちゃん……これは改心の出来だよ……」

「ぷっぴぴ(そうなの)」


 そうなのね、子豚にはよく分からないけど改心の出来なのね、そうなのね。私は蹄の跡を雪の上に残しながら背後にさがり、出来立ての雪だるまに向かって勢いよく走り出して。


「ぷーーンッ(どーーんッ)」

ゴバシャァ!!


「あーーーーっ!!?」


 子豚の体当たりになすすべなく壊される雪だるま、トンちゃんが強いせいで雪だるまは壊れてしまいました、あーあ。

 数秒前まで雪だるまだった残骸を見つめていると、いきなり体を持ち上げられ眼前にリリーの顔が現れた。


「トンちゃん雪だるまに何するの!?」

「ぷぴゃぴょぷぴぴびょぴっきゅ(なんか壊したくなったのよ)」

「リリーの作った雪だるま壊れちゃったでしょ!!?」

「ぷっきぴぴぴぷきゃー(きっとトントンの本能ね)」


 そうねきっと本能よ、トントンには初期装備として『雪だるまを見たらそれに攻撃』っていう特性が備えられているんだわ。

 もー!と怒りながら次の雪だるまを作り出すリリー、ごめんねでも本能なのよ、きっと仕方ない事なのよ。ぺしぺしと雪玉を叩いて硬くしているリリー、ごめんねきっと本能なのよ、でーきた!とリリーが横にズレた瞬間に子豚は飛び出した。


「ッぷーーーーんッッ(ッどーーーーんッッ)」

ドシャシャァッ!!


「わーーーーっ!!?」


 またリリーの雪だるまはただの雪に戻ってしまった、これも全てトンちゃんが強すぎるからだ、非力なトントンに転生したというのに、まったく隠しきれないこのパワーのせいなのだ。

 また身体が突然持ち上げられたと思ったら、冷たい雪の上に逆戻りする、なにすんのさ。


「トンちゃん!リリーの雪だるまうぇへへへへ」

「ぷきっきゅっきゅぴぃぴ(笑っちゃってるじゃないの)」

「にぇへへへへへへへへへへへ」

「ぷぴきゅぅっきゅぅ(超笑ってんじゃないの)」


 雪に突っ伏して激しく笑い転げるリリー、そんなに雪だるまを壊されるのが楽しかったのだろうか。頑張って作った物を壊されて爆笑するとか、ちょっと理解が追いつかないわ。


 ヒクヒクと死にかけの魚のような動き方をするリリーを見ていたら、とつぜん私の背後から大きな影が落とされた。

 振り向くと、なんかデカイ包みを持ったヒゲオヤジがこちらを見下ろしていた。このプリティーキューティピーチティーな子豚になんかよう?


「ワシの娘が一生懸命作った雪だるまを壊すなんて!なんて酷い事をするんだお前は!!」

「ぴぴーきゅぴゅぴゃぴゃぷぅぴ(リリー死ぬほど笑ってるじゃないの)」

「んぇへへへへへへへへへへ」

「こんなに泣いて、あぁリリー可哀想に」

「ぷぴきゅぅぴきゅ(爆笑じゃないの)」

「お父さんが子豚に壊されないような強い雪だるまを作ってやるからな、もう泣かなくて良いんだぞ」

「えぅへへへへへへへへへへへへへ」

「ぷぴっきぴっぷっきゅぅぴ(笑ってるっつってんじゃん)」


 ゴロゴロガロガロと雪玉を転がし始めるヒゲオヤジ、未だ陸にうちあげられた魚から人類に戻らないリリー。

 雪だるまの頭を作り始めたヒゲオヤジを目の端に、トンちゃんはその辺に投げられているヒゲオヤジの持ってきた包みを開けることにした。


 オヤツとかなら嬉しいんだけどね。バリョメリョと厚紙の包みを引き剥がしていくと、透明で少し湾曲した板みたいなものが出てきた。

 アクリル板?にしては薄いし軽いわね、蹄で叩いて様子を見ていたら、大きくなった雪玉がヒゲオヤジの手で持ち上がり、雪だるまが完成した。


「どうだリリー!お父さんは凄いだろう!!」

「わぁー!トンちゃん見てみて!お父様がおっきい雪だるま作ってくれたよ!!」

「ぷーん(ふーん)」


ガッガッガッ!

「トンちゃんなんで雪だるまのお腹に穴あけちゃうの!!?」

「いったい雪だるまの何が気に入らないんだ!!」

「ぷーき(なんか)」


ガッガッガゾッ!

「トンちゃん!やめて!トンちゃん!!」


 よく分からないけど攻撃してしまうの、これはトントンの本能ね、きっと野生に雪だるまに似た捕食対象が居るのよ。

 ガスガスザクザクと雪だるまのお腹を削り進め、トントンの身体にちょうどいい感じの穴が空いたのでそこに潜り込む。うむ、人間の時よりかまくらが作りやすくて良いな。


「んふふふぅ、トンちゃん可愛いね、雪だるまのお家に入るの可愛いねぇ」

「ワシが娘のために作ったんだぞ、おい、腹の穴に住むな子豚」

「ぷぴぴぅぴぷ(住まないわよ)」

「可愛いねぇトンちゃん、リリーも一緒に入っていい?」

「ぷぴぴぃぴぷ(壊れるわよ)」


 トントンだから余裕なだけで、子供とはいえリリーが入ったら即崩壊するわ、やめて入ってくんな。

 シッシッと蹄で追い払ってみるも、リリーは気にせずニコニコと私の事を見ている。そんな二人の世界が気に入らないヒゲオヤジは、さっき私が開けた荷物の中の、謎のアクリル板みたいなのを両脇に抱えた。


「リリー!雪だるまを壊してしまう嫌な子豚より、優しくて格好いいお父さんと遊ぼうな!!ほぉら北方の国で流行りのソリで遊ぼうな!!」

「お父様、ソリってなぁに?」

「ぷぅぴぴぷ(こう遊ぶのよ)」

「あっ!?勝手に持っていくな子豚!」


 なんだソリだったのね、私、前世から雪遊びのソリ滑りをするのが夢だったのよ、嘘じゃないわ。アクリル板に取り付けられていた紐を噛んで、除雪により作られた雪山の上へと駆け上る。

 やったぜ一番のり、早速ソリに飛び乗りすべれれれれれれれアーーーーーーーーー!!!!?!?


ショバーーーーッ!!

「ぴきゃー!!!!(うわぁー!!!!)」

「トンちゃーん!!?」


 物凄い勢いで雪山から滑り落ち、物凄い勢いで驚いているリリーの前を滑り抜け、物凄い勢いが減っていってだいぶ先でやっと止まった。


ルーーーーざぞぞ……

「…………ぴぴぴ(…………止まった)」

「トンちゃん大丈夫!?今のすごいね!リリーもやりたい!ソリ乗りたい行こ!!!!」

「ぷぴぃきゅきゅぴ(後ろに動き始めた)」

「そうだろう楽しそうだろう!?よぉしお父さんが山の上に乗せてやろうな!!」

「ぴぴぃぷぴきぃ(動き続けている)」


 はぁー、びっくりした、ソリって案外遠くまで滑るのね、もっかい滑ろ。ずぞぞぞぞと背後へ滑るソリから飛び降り、一足先に雪山を駆け上がる。


「ぴっきぴーぅ(いっちばーん)」

「トンちゃんずるーい!」

「待て待て、そんなに急ぐと転げ落ちちゃうぞリリー、お父さんが上から引き上げてやるからマ゛チ゛ッ゛」


↓↓↓ゾボッ↓↓↓


 突然ヒゲオヤジの気配が背後から消えた、バッと振り向くと、呆然とした顔のリリーと、広げた腕の腋から下が全て雪の中に埋められたヒゲオヤジ。

 ヒゲオヤジの手から離されたソリが二つ、誰も乗せないまま雪山を滑り落ちていった。


「お父様!?なんで!!?」

「リリー……ワシはもうだめだ…………」

「ぷっぴゃっぴゃっぴゃっぴゃぴゃぱー!!(ぷっひゃっひゃっひゃっひゃひゃはー!!)」

「待ってて、リリー人を呼んでくる!」

「子豚……後で覚えておけよ…………」


 ざまぁねぇやヒゲオヤジー!子豚のオヤツを減らそうと画策したバチが当たったのね、うんうん、たまには神罰も良い仕事をするじゃないの。

 そして雪山の六合目付近から走り出したリリーは二歩目で。


↓↓↓ザボォ↓↓↓


「……トンちゃぁん」

「……子豚ぁ」

「ぴーきゅぴぃきぴぃ(しかたないわねぇ)」


 ヒゲオヤジと同じ体勢になった哀れなリリー。身体の軽いトントンだから雪山の高みに登れたのであって、人間が登るには重すぎたのね。

 優しく賢く慈悲深いトンちゃんは、二人を助けられそうな大人の人を呼びに行くため、雪山からジャンプして誰も踏み荒らしていないキラキラと美しい雪原へ着地


↓↓↓ザモォ↓↓↓


 目の前にあるのは白、頭の上にあるのは丸い青、ただそれだけだった。



ズモモ→?ズモズモ→↓??


「トンちゃん!!誰かきてぇぇぇぇえ!!!!」

「使えない子豚めぇ……」


ズズモモモモ↑↓?モモモモ→→??



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