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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
73/113

73.真っ黒なお鼻のワン=ワンさんは


 ジングーベー、ジングーベー、スッズーガーッナルーー。今日は楽しいクリスマス、ではないが、この世界にもクリスマスぐらいあるだろ。きっと、たぶん、おそらく、メイビー。

 子豚は良い子なのできっとたくさんのプレゼントを貰えることでしょう、そう、子豚良い子なので。ホワイトクリスマスになるんじゃないかなぐらいの雪の降り方。雪が積もった場合はトンちゃんお外出たくないので、取り敢えず放牧されてたバフールシーカの所に寄ってみた。


「真っ赤なお鼻の〜トナカイさ〜ん〜は〜〜」

「私バフールシーカですけど、鼻も赤くないですし」

「いっつもみ〜ん〜な〜の〜〜笑い者〜〜」

「みなさん酷いですね、一頭を囲んで笑い者にするなんて」

「でもっそのっ年ッの〜クリスマス〜の〜日〜〜」

「クリスマスってなんですか?」


 その質問に子豚は歌を止め、宙を見つめて固まった、クリスマスって、なんですか。改めてそう聞かれると上手く説明出来ないわね、クリスマスってなんの日?ケーキとチキンとご馳走食べて、子供がサンタさんに玩具貰う日って認識。

 たとえサンタが煙突からでなくピンポンして玄関から入ってくる人だとしても、デパートなんかによく居る付け白髭アルバイトだとしても、良い子が目を閉じスヤリと眠れば、夢と希望と翌日の朝に即物的な嬉しさと幸せを届けてくれるのがサンタなのよ。


 首を傾げるバフールシーカにはこう説明した。


「子供にプレゼントをあげる日よ」

「なんと!では私は息子にプレゼントを渡さねばならないのですね!!」

「でもあげるのは良い子にしてた子だけよ」

「私の息子は逞しく健やかに育つ良い子ですよ!さてプレゼントは何にしましょうか、干草ですかね、それとも人参?そうだ息子の好物の森の中にある甘い果実にしましょうか!喜ぶ顔が楽しみです!!」

「そんな簡単に外に出て良いの?怒られない??」

「さっそく森へ行ってきますね!!」


 他人の話を聞いちゃいねぇなこのバフールシーカ、ダッカダッカと助走をつけたと思ったら、割と高い柵をヒョイっと飛び越えて森の方へと駆けて行ってしまった。……脱走じゃね?

 息子へのプレゼントに甘い果実を探しに行くって、実ってるのかしら、そもそも今って雪も薄ら積もり始めた。


「ぷぴぷぅきゃぃ……(冬なんですけど……)」

「あー!(とう)ちゃんロアルがまた逃げ出したー!!」

「まぁた逃げ出したんけ!?んにゃろちょい待ちぃ!ロアル!止まれロアル!!ダメだラジコンもってこい!!」


 アンテナー刺さってても怖いもの無しね、森へ向かって爆走する父バフールシーカ、もといロアルの背中を見送って、散歩の続きに戻ることにした。



◆〜◆〜◆


 いやはや飼われはじめたばかりのラジモンに、クリスマスがあったとしても、クリスマスの日付なんて分かるわけがないよねぇ、トンちゃんうっかりしてたよ。

 こうやって薄ら雪が積もった屋根の並びを見ていくと、まぁまぁ何となく気分は上がるものだ、トンちゃんが人間だった時は雪が薄らとしか積もらないとこに住んでたからね。


「わぁ!おじいちゃんプレゼントありがとう!!」

「お前ももう少しで七歳になるからなぁ、ちゃぁんと自分でお世話するんだぞ」

「うん!!」


 ほら、耳をすませば良い子がプレゼントを貰って喜ぶ声が聞こえてくるわ。

 クリスマスという概念は無いかもしれないし、サンタさんはこの世界には居ないかもしれないけれど、やっぱり冬にプレゼントを贈る、貰うという風習自体は有るみたいだ。

 トンちゃんも何か貰えるのかしら、ほら、私良い子豚だから、世界で一番良い子豚だからきっと沢山のプレゼントを貰える筈よ。貰えるったら貰えるわ。


 テコテコと慎ましく道の端を歩く私の豚耳に、喜ぶ男の子の声の続きが聞こえてきた。


「おじいちゃんが連れてきてくれたワン=ワン大切にお世話するね!」

「キャゥンキャキュゥゥーン……!(人間に捕まるとはなんたる不覚……!)」

「うんうん、えがったなぁ、ちゃーんと自分で躾けんだぞぉ」

「今日から君の名前はグリだよ!ほらグリ、こっちにおいで!」


 なんかどっかで聞いた事ある鳴き声がするわ。ハッと近くの家を振り返るが、情けない鳴き声はする、だが姿が見えない。

 きっと気のせいよね、他人の空似って言葉もあるぐらいだし、他犬の鳴き似って可能性が高いわよね。仮にも茗荷様なんて小規模とは言え崇め奉られている所の狛犬役を請け負ってるワン=ワンがそんな簡単に捕まる筈が───


「キャゥゥワゥキュウグルゥルゥ……!!(申し訳ありませんミョウガサマ……!!)」


 ───あったわ。



◆〜◆〜◆


 ピピー!ラジモン警察だ!!流石に狭い地域とはいえ、皆んなを見守ってる神様のお使いをペットにするのはどうかと思うのだ!!!!

 ドシャシャと滑り込んだお家の中に、お爺ちゃんとリクくんだっけ、と、名前なんだっけ、パピだっけ、コマだっけ。とにかく苦々しい表情をしたパピコマが一匹居た。


「よしよし、良い子だね、まずはお手を覚えてみようか」

「グゥゥ、キャゥゥグルゥゥワゥ(不敬なっ、我は狛犬たるパピコマで)」

「こうするんだよ、お手」

「ゥギーッ!がぅぎゃうぅ!!(アーッ!手が勝手に!!)」


 お爺ちゃんのアンテナーだろうか、頭に見事に刺さっているのを確認できた。そしてリクくんの手にはゴツいラジコンが握られていた、可哀想なパピコマ、このまま一生その子の相棒として過ごすのね。

 ラジコンの操作によりお手をするパピコマ、嬉しそうに笑うリクくん、それを優しく見守るお爺ちゃん。なんともほわほわした優しい世界を見届け、ソッと子豚はお外へと帰っていったのであった。


「キャンキャゥ!キュキュゥギャワゥヮウ!!(トンちゃん!この小童をなんとかしろ!!)」

「ぷきっ、ぴきゃっぱ(やべっ、見つかった)」

「トンちゃんよう来たのぉ、外寒かったろ、ほれ、火にあたっちょれ」

「ぷきー(あざす)」

「トンちゃん見てみて!お爺ちゃんがね!ボクにラジモンを連れてきてくれたんだ!!グリっていうんだよ、仲良くしてあげてね!」

「ぷきっぴきゅぅ(よかったわねぇ)」

「ギャワヮゥワ!!(全くよくない!!)」


 そんなゴロンしてリクくんにお腹撫でられながら吠えられても、威厳の"い"の字も無いんだけども、なあ、グリちゃんや。ガウルルルと唸りながら、ふわふわの毛を撫でられているパピコマのパピの方。

 お爺ちゃんに抱き上げられ、そっと暖炉の近くに降ろされる。ちろちろと薪を舐めて揺れる火で温まりながら、微笑ましい光景を見守る作業に入った、もうこのままでいいんじゃないかな、みんな幸せそうだし。


「キャウキャゥキャワッゥゥ!(我にはミョウガサマの御付きという使命が!)」

「毎日ご飯をあげて」

「キュゥゥキャウキャキャゥン(結界を見回るという役目が)」

「オヤツも沢山あげて」

「きゅぅぅ、くぅぅぅ……(我には、狛犬の……)」

「いっぱい遊んで、あったかいお布団で一緒に寝るんだ」

「…………くぅん(…………しめい)」


 あっさり心揺らしてんじゃねーわよワンコロ。暖炉の火の温かさと、お腹を撫でられる気持ちよさ、次々に提案される快適な飼い犬生活のプランに尻尾を揺らすパピコマのパピ、改めグリ。

 矢張り三食寝床付きラジモン生活の魅力には、たとえ狛犬もどきと言えども抗えぬか、愚かめグリちゃん、お前はこれからその子の唯一無二の相棒として幸せに暮らすんだよ。


 トンちゃんが飼われラジモンとして高みの見物と洒落込んでいると、部屋の扉が開いて、リクくんのお姉ちゃんであるアヤメちゃんが飛び込んできた。


「ただいま!家の前に吠えてる野良ワンが居たんだけど、リクあんたまだラジモン決めてなかった……同じのが居るわね」

「姉ちゃんおかえり」

「キャンギャンギャギャン!!(助けに来たぞ相棒よ!!)」

「おかえりアヤメ、手に持っちょる野良ワンを下ろしてやり、ニャンムの持ち方じゃあ痛かろうて」

「キュウキャゥン!!(来てくれたのか!!)」


 いや、どっちも捕まってんじゃん。アヤメちゃんに首根っこを掴まれ、脚をぷらぷらと揺らしながら現れたパピコマの片割れ。コマ。

 キリッとした表情をしているパピコマだが、かたや空中ブランコ状態、もう片方なんてお腹を上に向け寝転がり、わしゃわしゃと腹を撫でられながら真剣な表情を作っている。


 両方とも人の子供に捕まっている状況でその顔は無理があるだろどう見ても、撫でられてる方は尻尾揺れてるし。

 助けに来たと吠えてるパピコマを地面に下ろしたアヤメちゃんは、背負っていた鞄を片付けながら溜め息を吐いた。


「リクが最初のラジモンはワン=ワンが良いって言ってたから、丁度いいと思ったのに」

「姉ちゃんのラジモンにしないの?」

「しない、どうせアンテナー刺すなら荷車が引けるぐらい力が強いのがいいの。この野良ワン、力弱そうだし」

「キャンギャン!ギャァギャンギャギャァギャァワン!!(なんだと小娘!我等はミョウガサマの使いであるのだぞ!!)」

「あとうるさいから嫌。トンちゃん来てたのね、まだリリーちゃんのアンテナー刺してないの?」

「きゃきゃぅわ!?(なんと不敬な!?)」


 これまでもこれからも刺す予定は無いわよ。頭を撫でてくるアヤメちゃんに向かって威嚇を繰り出すパピコマ共、だがしかし、アヤメちゃんには効かないようだ。


 そろそろ良い時間だし、あたたかい暖炉に後ろ尻尾を引かれる思いはあるが、私もパピコマ達もお家に帰らなくてはならない。

 スックと立ち上がり、アヤメちゃんの鞄から丸付けまで終わったプリントを引き摺り出して、胸元のクレヨンでその裏に文字を書き始めた。


「トンちゃん……可哀想に、貴族の偉い人がラジモンに芸を覚えさせるのを流行らせたせいで、人間のお勉強しなきゃならないなんて…………」

「野良トンは外で泥んこになって遊んでるっちゅぅのになぁ……お貴族様の考えるこたぁよう分からんが、辺鄙な土地でも貴族は貴族だからなぁ…………」

「グリはお手と、おかわりと、伏せと待てだけ覚えられたら良いからね、凄いことが出来なくても大好きだからね」


 突然の同情。だがトンちゃんは挫けぬ、てか文字書ける子豚が居てこんな反応しか帰ってこないって何、これが異世界なの?まぁ気にしないでくれるのはありがたいっちゃ有り難いけど。

 文字書き芸ができる子豚は、お山でパピとコマの帰りを待っているであろうミョウガサマの事を思いながら、こう書いた。


『その二匹 ミョウガサマのラジモン』


「ミョウガサマってラジモン持ってたんだ」

「キャキャゥキャゥン!(我らの主を愚弄するか!)」

「こんな弱そうなのが?嘘だぁ」

「キャキャンキャンキャィン!(我らが馬鹿にされた!)」


 子供二人の反応に合わせて吠えるパピコマ達、とっととお家に帰りなさい、私が帰って晩御飯を食べられないじゃない。

 ぴぷぅーっなんて鼻を鳴らして二人の言葉を肯定すると、今まで黙っていたお爺ちゃんが、顎を触りながら神妙な声でこう言ってくれた。


「そうかぁ、ミョウガサマにゃァ悪いことをしちまったなぁ……リク、アヤメ、ミョウガサマのワン=ワン達を返しに行こう…………」


 そうしてくれると助かるわ。キュッと口を引き結び、グリを抱っこしてるリクくんには悪いけど、特定の地域からの信仰だとしても、神様の狛犬が取られるのはちょっとね。

 ぷぴぃと鼻を鳴らして、夕暮れになりかけたお外へと出て行く彼等の後を追った。



◆〜◆〜◆


 普通の野良魔獣ならこんな事しないんだけどね、森へお帰りパピコマ達よ、恩返しは山菜の詰め合わせで良いからねミョウガサマに伝えといて。

 茂みに駆けていくパピコマ達の後ろ姿へ、ずっと手を振り続ける涙目のリクくん、ごめんよ君の相棒候補を奪ってしまって。


「グリ!いつでも遊びに来ていいからね!!寒かったら兄弟もつれて家に来ていいからね!!」

「ぷぷぴぃぴぴ(優しいわね)」

「ご飯もあげるからね!オヤツも沢山あげるからね!!」

「ぷぴきゅうぴき(好待遇ね)」

「汚れてたらお風呂にも入れて綺麗にするし!眠そうだったらふわふわの毛布に包んであげるし!!いつだって遊んであげるしオヤツだっていっぱい買ってあげるからねー!!!!!」

「ぷぴきゃぁぴっきゅぴきゃぁ(私が立候補しようかしら)」


 至れり尽くせりの上に、リリーみたいにあちこち引っ張り回さないし、ヒゲオヤジと違ってオヤツを食いまくっても嫌な顔しないって?最高じゃない。

 この後、文字も書けるしお金を稼げる子豚どうですか?そう売り込んでみたが、ボクがラジモンにしたいのはワン=ワンだからと振られてしまった。残念。


 あと、トンちゃんはリリーちゃんのラジモンだからですって。憤慨。


パピコマ.2: パピコマにせよグリコマにせよ、どちらとも美味しそうな名前ではある。分けずに一人で食べても良いし、二日に分けて一人で食べても良い。

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