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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
71/113

71.見た目も子供!中身も子供!!


 ───と、思われたが、まだ殺菓子事件は終わらない。


 蹄にしっかりと掴んだナイフとフォークを揺らしながら、新しいオヤツの出来上がりを待つトンちゃんが口ずさんだある歌で急展開を迎える事となる。


「プーキュきぴみぴみぴゃッぷぴピィ(だーれが殺したアップルパイ)」


 駒鳥が死んでその葬式やりましょね、みたいな歌詞の歌、初っ端からスズメが「私の羽根が使われてる矢が殺したの……」と告白し出す、明るい曲調に合わないなんとも陰気な歌である。

 甘い香りが漂う調理場に、ぴぷぴぴぴーとトンちゃんの豚鼻が鳴り響く。その様子を隣でじぃっと見つめるリリー。


「ぷぴゃぁぴぴぷぴきゅ、ぴきゃぴ、ぴきゅぴ、ぷぷぴーぴぃぴ(それは私とお皿が言った、私の上で、私の隣で、私は見て見ぬ振りをした)」


 コン、コン、コン。蹄が掴むナイフとフォークの輪っか状の持ち手、リズムを奏でるように何度も何度も、軽くだが、机にぶつけられていた。

 まぁるい目でじぃっと見つめるリリーは、一体何を考えているのか、それは本人しかわからない。


「ぷきぴピィピピぴきゃきゃぴぴ、ププピぴきゃにゅぴ、ピキュピぃ、プキュぴぃ、ぷぷぴぷピィピィぴぴ(誰が見つけた残骸見つけた、それは私とジャム瓶言った、私の足元、瓶底の横、私が見つけた残骸見つけた)」


 ガタンッ───リリーが勢いよく立ち上がり、それに驚いたトンちゃんの鼻先がリリーの方へと向く。なんだなんだ何ごとだ?私の歌のアンコールか??ぴぃと鼻を鳴らして見せると、リリーは豚鼻へとフォークを突きつけこう言い放った。


「トンちゃん、なんでオヤツがアップルパイだったって知ってるの」

「ぴに……ぴき……!?(なん……だと……!?)」


カシャーンッ……!


 思わずトントン用のナイフとフォークを床に落とす私、何故私の言葉が分かったんだ、こいつ。まさか、どこぞの人類の様に肩に乗る相棒のモンスターの言葉が理解できたり、動物の言ってることが分かるんだ!なんてキャラに進化したのか!?

 よろけて椅子から転がり落ちた子豚へ距離を詰め、なんか覚醒したっぽいリリーはこう続けた。


「トンちゃんが、お勉強頑張ってるリリーを置き去りにして、お散歩に行こうとしたのが12時45分ぐらい、でもリリーが引き留めたからお部屋を出たのは午後1時3分」

「ぷぴぴ!ピギャーぴぎゃぴきぷぷびぴきぃ!?プピピィぴきゃーギャピャビャぴきゃーぷぷぴゃぴぴぃー!!(なんで!どうして私の言葉がわかったの!?ラジモンは何を言っても人間には鳴き声にしか聞こえない筈なのに!!)」

「その時にはとっくに今日のオヤツのアップルパイは作られている……トンちゃんはお出かけしてたのに、どこで今日のオヤツがアップルパイだって知ったの?」

「ぷ、ぷきき……!(そ、それは……!)」


 追い詰められたトンちゃん。やべぇ、リリーが凄い論理的な事を言ってるわ。これが最近リリーがハマってる、お兄様から借りて読んでいた推理物の小説の影響だというの……!?

 ズリズリと後退していく私を追い詰めるように、一歩、また一歩とゆっくり足を進めるリリー。


「料理長は1時にオヤツを作り終え、ちゃんとオヤツを冷蔵庫に入れていたし、お皿の上には銀色のクローシュもかけていた」

「ぴ、ぴきゃ、ププピィぴきゅぃぴきゃきゃぴ、ぷぴーぴきゅピギィ……!(た、たしかに、お散歩に行く前に調理場には寄ったけど、今日のオヤツなんて私は……!)」

「つまりトンちゃん、オヤツがアップルパイだと知っていたのは、トンちゃんが今日のオヤツを食べた犯人だから、そうでしょう?」

「ピピィピ……ッ!!(私は……ッ!!)」

「語るに落ちたわね!観念してリリーと料理長にごめんなさいしてトンちゃん!!」


 なんということだ……!いや、まだだ、リリー如きに詰められる私(子豚)では無いわ!!

 四つ足に力を入れ、しっかり立つ私。この際リリーが私の言葉を分かっていようが分かっていなかろうが、私がアップルパイを食べたと言う証拠さえあがらなければ犯罪は立証できないのだよ!!!!


「ぴぴき、ぷぅききぷキャァぴ?(しかし、証拠が無いじゃないか?)」

「そう……今のリリーの推理は、トンちゃんに(かま)を投げただけ……証拠にはならない…………」

「ププピぴピャーピキ(正しくは鎌をかけるよ)」


 真剣な顔で残念な事を言うリリー。全く、大事なところで間違えると締まらないじゃないの。

 とり落としたフォークとナイフをお皿を洗うところに持っていく為、拾おうとすると、またリリーが話し出した。


「……だけどねトンちゃん、あなたは、あるテッテイテキな証拠を残しているの」

「ぷっぴぃ、ピャピャぴきゅきゃぴぃプープキふぴぴぃぴぅ(決定的よ、読み方が分からないならすぐ辞書なりお兄様に聞くなりして調べなさいな)」


 まったくもー、リリーったらそ話のノリだけで小説読むんだからもー、適当な読み方をして後で困る事になるのは自分なんだからねー?

 さてと、オヤツそろそろ出来たかな。私が犯人だと示しきれない推理を聞くのに飽きて、料理長の所へ向かおうとする私に向けて、諦めずにリリーはビシッと再び言い放った。


「そのあなたの鼻の頭に乗ってるアップルパイのカケラが犯行の証拠よ!!!!」

「ぴゃ、ぴきゃぴっきーー!?!?(なっ、なんだってーー!?!?)」


 うそだ!そんなの見えないし!乗ってないし!!そんな眼鏡を頭に乗せたままメガネメガネって探す様な事トンちゃんしてないもん!!だって乗ってたらポタトさん家の赤ちゃんが耳掴んだ時に落ちてたり、そっち掴んだりする筈だし。

 トンちゃん不可解だぜ全く、そんな都合よく私のキュートな豚鼻の上に証拠たり得るアップルパイのカケラが乗ってるわけがないじゃないか、ご都合主義にも程があるぞ。なぁ?


ぺろり


「ぴ、ぷっき(あ、うま)」

「トンちゃんそれ証拠だから食べちゃダメ!!」

「ぷっぴぴ、きゅきゅぴぴきゅぴぃ(あったわ、そんなこともあるもんね)」

「もーー!トンちゃん!!」

「ぷっピャッピャァッ!ぷきぃぴきゅきゅぴっぴぃぴきゃきゃ、ぷぴゃっきゃァ!!(ふっはっはぁっ!これで私が犯人だと示す証拠は無くなったな、残念だったなァ!!)

「トンちゃん!!!!冷蔵庫開けてオヤツ食べたのトンちゃんでしょ!罪をみとめて!!」

「ぷぴゃぴぴぷぅきぃぴピピャッピキャー!ぷぴぷぴピャッキャキュぴきゅぅキゥキッぴぃぷぷ?ぷぷぴぃ??(バレなきゃ犯罪じゃないんだヨォー!そもそもこの子豚の手で冷蔵庫が開けられると思うのかぁ?探偵さんよぉ??)」

「何その動き!?トンちゃんなら冷蔵庫開けられるでしょ!絶対!!」

「ぷぴぴぴぃ〜〜?(どうかなぁ〜〜?)」


 意外となんでも出来るけど、結構なんにも出来ない可動式魔獣の(トントンのおてて)を見せ付けるとリリーはぐぬぬと押し黙った。

 アップルパイのカケラはトン毛についてたけど、舐めとった事により完全犯罪成立ね、惜しかったわよリリー。


 フッと不敵に嗤ってオヤツの分け前増量を頼みに料理長の元へ鼻先を向けると、料理長がこちらを向いてにっこり微笑んだ。


「トンちゃん、もう少しで出来上がるけどクラッカーも食べるか?」

「ぷぴぴゃ〜〜!(たべる〜〜!)」

「そうか食べるかぁ!じゃあ持っていくから冷蔵庫から林檎のジャムを出してくれないか?」

「プゥきゅぅぴきゅぴきぃ〜〜!!(トンちゃんジャム好き〜〜!!)」


 思いっきりガゴバァ!なんて冷蔵庫の扉を開き、林檎ジャムがたっぷり詰まった瓶を抱き締めて体当たりで冷蔵庫の扉を閉め…………………!


「……トンちゃん、やっぱり…………」

「ぷぴきゃぴきゃぴぅぴきー!!(これは違うのリリー!!)」

「冷蔵庫……開け閉めできるんだね…………」

「ぷぅぷき!ぴぴきゃきょぴきぴゃ!!ぷっぷぴょぴゃきゃきゃ!!ぴーぴぷぷぷきょきょぴみゃぁ!!!!(誰かが!悪意のある誰かが私を嵌めたのよ!!ちょっと開けやすくなってただけなの!!普段はもうちょっと苦戦するのよ!!!!)」


 瞳からハイライトを消し、慌てる子豚を見て儚げに微笑むリリー。違うのよ、違くないけど違うのよ、トンちゃん心の五七五。

 違うの、違うのと必死に訴える子豚から顔を逸らし、空中を見つめるリリー。違うのよ、普段ならもうちょっと頑張ってから開くの、今回たまたまスムーズに扉が開いただけなの。


「アンテナー……ちゃんと刺さなきゃなぁ…………」

「ぷぷぅぴぴきー!(許してリリー!)」

「トンちゃん……もういいよ、頭洗って待っててね…………」

「ぷぴぴぃぴきゅぴぃぃ……!(アンテナーはいやぁぁ……!)」


 何か!何かこの状況を打開する方法は無いのか!!必死に頭を回転させるもアンテナー(制御装置)を私につけようとするリリーの動きを止めるための案が見つからない。

 もうダメだ、誰かッ、助けてくれ……ッ!あくまで優しく私の頭を撫でるフリで、アンテナーを刺す位置を確認してくるリリー。子豚が絶望に一粒の涙を流したその時、料理長の声が調理場に響いた。


「オヤツ出来たぞー」

「はぁーい!」

「ぴ、ぴぷぴっきぃ……!(た、たすかったぁ……!)」

「お嬢様ちゃんと座って下さいね、トンちゃんどうしたんだ?そんな泣くほどお腹空いたのか??可哀想にお腹いっぱいにしてやらないとな」


 ありがとう救世主(料理長)。天を仰ぐ私を手で持ち、椅子に座らせてくれる料理長、新しいナイフとフォークもくれた。

 輪っかに蹄を通して、焼きたての小さなパイ達がお皿に取り分けられるのを待つ。どれもこんがり狐色に焼け、ほかほかと湯気が空気を舞って、美味しそうな甘い香りが私とリリーのお腹を鳴らした。


「リリーこれがいい!」

「お代わりは沢山ありますからね、お嬢様、ジュースでよかったですか?熱いから気をつけて食べて下さいね」

「ぷぴぴピキュゥ!(私はこれ!)」

「トンちゃんも沢山食べていいからな、ほら、一つずつ取ってやろうな、七種類の味があるんだ」


 冬なのに中に入れる果物が沢山あるとは、さすが異世界、どういう原理かはわからないけど美味しい物を食べられるのなら万事オーケー委細は全く気にしない。

 私の前のお皿に、私が選んだ一番大きいパイが置かれた。狐色の生地にサクッ、とナイフで切り込みを入れると、中から温かい中身がトロッと…………。


アツイ……アツイィ…………

「んー!コログミパイ美味しいーーっ!!」

「お嬢様、落ち着いて食べて下さいね、中身を服につけたりしたら汚れが中々落ちませんから」


マザルゥ……コロ……コロシテ…………

「もうひとつたーべよ!」

「トンちゃん?どうしたんだ、味が好きじゃないなら替えてもいいんだぞ??トンちゃん?どこにいくんだトンちゃん!?」

「トンちゃん食べないならリリーが貰うよ?美味しいのに、料理長のコログミパイ」


コロォ…………

「せめて!せめて鼻先すら付けない理由を教えてくれトンちゃーーんッ!!!!」

「おいしー!!」


 トンちゃんは自首しに行きます、そうです、今日のオヤツのアップルパイを食べた(殺した)のはトンちゃんです、美味しくお腹いっぱい食べました。午後1時15分ぐらいに調理場に入って食べました。

 なのでコログミパイはトンちゃんには要りません、リリーに沢山食べさせてあげてください、お兄様にも分けてあげてください。トンちゃんにはクラッカーがあるので大丈夫です。


「トンちゃん!作り直させてくれ!なんでも食べるトントンすら歯牙にかけないコログミパイの、どこが、どこが駄目なのかそれだけでもッ!!トンちゃん!!!!」

「トンちゃんはね、コログミ嫌いなんだよ料理長、リリーはコログミ大好きだけど」

「待ってくれトンちゃーーんッ!!!!」

「あれっ、クラッカーもう無くなってる?」





【いかなる動物でもお腹が空けば何かを食べたくなる、それは真理。美味しいものを食べたいと思うのが自然な思考ではないか。

目の前にある美しい黄金のアップルパイを一匹で全て食べたいという、いかにも動物的な浅はかな衝動。打ち明けて言えば、その衝動はトントンになった私にもあったということだ。


         トンちゃん・アリュートルチ】


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