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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
70/113

70.オヤツマーダー


 私にとっては異世界人のリリー達って、身体能力バカ高いと思うけど、赤ちゃんの場合どうなのかしら、あぶあぶの時から力強かったりするのかしら。

 目の前にはチュートリアの町に住んでる農民である、主に里芋作ってるポタトさんの家のお孫さん、まだほにゃほにゃしている赤子である。可愛い。


 昼飯を食べ終わり、メープル先生からの宿題に頭を悩ませるリリーを放置して町を散歩してたら、今からミルクを作るからその間赤ちゃん見ていてくれないかって言われたの。

 まぁ見ててって言われても、お布団敷かれたとこに寝かせられてるだけだし、危険そうな物も近くに無いから文字通り見ているだけで良いと思うけど。ブンブンとご機嫌に腕を振り回す赤ちゃんに顔を寄せる、あー、ミルクの良い香りがするわ。


「ぷぴゅぴゃぁぴゃぴぃ(まだバブだもんねぇ)」

「ぅいー」

「ぴーぴ、ぷきゃきゃぴゃぴぴぃー(はーい、トンちゃんですよー)」


 ミルクできるまで危ないことが無いよう見てるだけで、お礼にお芋が貰えるなんてなんて美味しい仕事なのかしらあでででででででで!!


「ピニ!ピニピキャビ!!(耳!耳とれちゃう!!)」

「きゃあぅっ」

「ピニィィァィィイ!!(みみぃぃぁぃぃい!!)」

「キャッキャッ!」


 キャッキャじゃねぇんだわ私の可愛いトン耳が捻り切れちゃういでででででで。小さなもみじの御手手でトン耳を引っ掴み、思いっきり握って最大限捻るポタトさんの所のバブ、痛い、あででで。

 コレは別な物に興味を向けさせるしかあるまい、必死に手を伸ばし、近くに置かれていた振ると音の鳴る赤児用玩具のセンターを飾るガラガラを手に、いや、蹄に取り。


ガラガラガラガラガラガラガラガラ


「あだぶぁ」

ギチュィ……


「ぴにぃー!!!!(みみぃー!!!!)」

「ぅキャキャッ!」

「トンちゃんが見てくれて助かったわ、はいミルク飲むから離しましょうねー、トンちゃんイタタになっちゃうからねー……意地でも離さない気ね」

「ぁあ゛う゛ー」

「ぴににぃー!!!!(みみみぃー!!!!)」


 失敗した。トン耳は雑巾のように捻られた。



◆〜◆〜◆


 はぁ酷い目にあった、耳千切れちゃうかと思った、赤ちゃんでも握力強い子は強いのね。

 そんな疲れたトンちゃんの心を癒すのは三時のおやつ。今日の料理長が作ったおやつは何かしら、トンちゃんはウキウキでスキップしながら厨房へと足を進めた。


 のだが、そこにいたのは神妙な面持ちで立つリリーと、よく料理の上に蓋?カバー?なんて呼ぶんだろアレ、とにかく銀色の丸い覆い。それを持って俯く料理長、視線の先にある皿には何の食べ物も乗っていない。

 リリーはゆっくりと私の方へ振り向くと、こう、静かな声で教えてくれた。

 

「トンちゃん、リリー達のおやつがね、どこかに消えたの」



〜⚠︎〜⚠︎〜⚠︎〜


 緊急事態(エマージェンシー)emergency(エマージェンシー)!!我等の今日のオヤツが消えたとの報告が子豚の元にきた、これは消えたシナモンアップルパイの行方をこの名探偵トンちゃんが暴くしかあるまい!


「トンちゃん、なんでお兄様の蝶ネクタイ持ってるの?」

「ぷぷぴぅきゅっきぴきゃきゃぴぷぴみ(探偵って言ったら赤い蝶ネクタイでしょ)」


 鹿撃ち帽が見つからなかったから仕方なくこっちにしたの、貴族の家ならどこにでも鹿撃ち帽があると思わないでよねってことか。残念。

 お兄様の部屋から取ってきた赤い蝶ネクタイを手に、屋敷の人々のアリバイを聞いていく。まずは今日のオヤツの製作者である料理長からだ。料理長は難しい顔をして、こう話してくれた。


「今日のおやつを作り終わったのは午後1時だな、そこから冷蔵庫に入れて少し休ませておいて、先程、お嬢様と取り出して中身を見たのが2時30分だ」

「ぷぴぷぴ、きゅきゅぴゃぴきゅぅ(ふむふむ、開けたのは午後2時半と)」

「料理長は午後1時から、2時30分までなにしてたの?」

「カモネスに調味料を取り寄せて貰ったので、それを取りに行ったのが1時30分ごろ、その後はずっと次回取り寄せてもらう物を見繕っていたな、屋敷に帰ってきたのは2時15分だな」


 ふぅむ、料理長の他にも料理人の人達は居るけど、リリーの屋敷で働いてる人は屋敷の上の階に住み込みだったり、近くにおうちがあって通いだったりする。

 おやつの時間にはそもそも屋敷内に人が少ないのよね、メイドさん達は洗濯物の取り込みとかしてるし、料理人の人達は新鮮な物をその日のうちにっていう料理長の教えて辺りの農家や酪農家の人の家を回ってるし。


 なので、私達のおやつを作る料理長と、リリーの家族と、調教師さんと執事さんぐらいしか今の時間は居ないのだ。では次の容疑者のところへレッツゴー。



◆〜疲れた調教師〜◆


 WANWAN(なんすかなんすか) WOWWOW(遊ぶんすか)、ドーベリー達の吠える声が煩い中で事情聴取を行った所、調教師さんはマスタングがヌシ様に慣れてしまったので放牧から戻せず、午後1時から午後3時10分までずっと逃げるマスタングと格闘をしていたらしい。

 呼んでもこない、ニンジンを見せても来ない、最終手段である大好物の角砂糖を見せた所、ちょっと寄ってきたがドヤ顔でヌシ様の背中に生えているよく分からない草を食べ始めたそうだ。


 疲れ切った表情でそう話す、ヌシ様の顔と爪が怖くて近寄れない調教師さん。

 なんとこの話は恐ろしいことに、愉快犯馬マスタングは未だ捕まっていないらしい。なんて奴だ。

 


◆〜珈琲派の執事〜◆


 使用人さん達の休憩室、この世界にもコーヒーなんてあったのね、芳しい香りに豚鼻を鳴らしながら事情聴取を進めた。

 ヒゲオヤジのお仕事の手伝いをしてて、午後1時から2時まではヒゲオヤジの部屋に、2時過ぎから3時ごろまでは洗濯物の片付けの手伝いとか屋敷の備品のチェックとかしてたんだってさ。


 メイドさんが1時40分ぐらいに調理室に行って、休憩の時にコーヒーを飲むカップを借りてきたって言ってて、冷蔵庫には誰も触ってないって話だった。

 リリーと一緒にメレンゲ菓子を貰って食べた、サクサクで美味しかった。もう一個くれ。



◆〜読書家のお兄様〜◆


 いくら声をかけても、リリーが肩を叩いても、身体を揺らしても、冷め切った紅茶を飲んでも、椅子をギィギィ鳴らしても生返事しか返ってこなかった。

 読んでた本の題名は『気候変動による植生の移り変わりと魔獣の生息地の変化』だった。アオバは鳥籠で寝てた。



◆〜馬に乗れるお母様〜◆


 私が人間だった時の世界で流行ってた、素人が小説投稿できるサイトに投稿された物を、だろう小説って呼んでたけど。

 そこに書かれている貴族の奥様ってド貧乏でも無い限り、お茶会に呼ばれたり、夜会に行ったり、ハンカチーフに刺繍をしてたりって感じの悠々自適左団扇の暮らしって感じなのに。


 リリーのお母様は領地の見回りをするタイプの奥様だったらしい。午後1時30分ぐらいからずっと領地内をシャイアーに跨がり見回っていたそうだ。調理室には寄ってないとのこと。

 お土産にと切り干し大根を貰ったそうだ、お母様のラジモンであるコンロガメのチャーミー、実は切り干し大根が好物らしい。チョイスが渋い。



◆〜容疑者ヒゲオヤジ〜◆


 そろそろ探偵ごっこにも飽きてきたけど、一番の容疑者の話を聞かない事には終われない。ムスッとした表情のヒゲオヤジを問い詰めると、そもそも甘い物はそこまで好きでは無いと言われた、嘘つきめ。

 でも棚に入っているお菓子は乾き物、お酒のつまみになりそうな物が多かったなと思い直す。時々そこから失敬している私としては、もう少し甘い物も取り揃えていて欲しいが。


 そんなヒゲオヤジ、今日はそろそろ雪が降りつもるらしいチュートリアの町の、冬支度に向けて色々働いていたからオヤツを盗む暇なんてなかったとの事だ。

 何時から何時までとアリバイを言わない所がとても怪しいが、細かい事は執事さんに聞けと言われ、リリーと共に部屋を追い出された。なんでリリーにだけクッキー渡すのさ、私の分は?



◆〜迷探偵トンと消えたオヤツ〜◆


 現場に戻り、御手手を洗ったリリーと私は、大人しく席について料理長のセカンドオヤツが出来上がるのを待っている所だ。

 右手にナイフ、左手にフォークを携え、空のお皿を前にして甘い匂いに鼻を動かした。


「ねぇトンちゃん」

「ぷぴぅ(なによ)」

「オヤツの材料は残ってて良かったね」

「ぷぴぴ(そうね)」


 消えた菓子より目の前の菓子、こうしてアリュートルチ家殺菓子事件は、名探偵トンちゃん&リリーの気分が乗らなかったため、迷宮入りとなったのであった───






ところでさ、料理によく被せてる金属製のアレ、"クローシュ"って呼ぶらしいぜ。

(クロッシュ、クロシュでも可、フランス語でcloche)

              [トンちゃん調べ]

     。 

  / ̄ ̄ ̄ ̄\ ←こんなやつ

───────

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