7.トントン拍子に待遇改善
翌日、朝食の席に少女に抱えられて連れて行かれた私は彼女の椅子の脇に置かれた食器の前に下ろされた。目の前にはすこし大きめの野菜が入ったスープと、食べ易いように千切られたパン。
昨日のthe・エサみたいなモノではなくなって有り難いのだけども、チラッと上を見ると椅子に座り人間らしい生活をしている少女。目の前を見ると綺麗だけれど正にペット用と呼ぶにふさわしい形の陶器のお皿。
まぁそうなんだけどー、確かに今は動物ですけどー、しかもペットにもどうかという感じの子豚魔獣ですけどもー。
この私に……床で飯を食えと言うの?
確かに昨日は少女の部屋の床で食べた。でも今、目の前に食卓があるのになぜに床で食べねばならんのか?
子豚は激怒した。必ず、かの長机の上で人間らしくご飯を食べねばならぬと小さな胸に決意した。子豚でも中身は人間、それも乙女である。この桜のような薄桃色の身体に決意を漲らせ短い四つ足で立ち上がる。
そんな私に気付いたのか少女がこちらを向いた───いざゆかん。
「どうしたのこぶたちゃん、ごはんほしくぅひゃあ!!」
「プキュィーー!!(その膝貸せオラァーー!!)」
椅子に座っている少女のお膝に飛び乗り行儀良く座る。唖然としている御一家の前で少女の皿の上にある焼き魚的な物に鼻を近づけ…何これめっちゃ美味しい美味い料理名何よこれ。
モグモグと少女の料理を大胆かつ美しく食べていたら頭を撫でられた、邪魔よ!今食べてるんだから止めなさい、付け合わせのトマトっぽい赤い実……甘いこれ何これ。
「ふふふっ、こぶたちゃん、わたしといっしょにつくえでたべたかったのね!」
「ぴきゅい(その手をお退け!)」
「リリー、流石にラジモンを同じテーブルで食べさせるのは良くないんじゃないか?」
リリー?聴き慣れない名前に顔を上げると成長後に美麗な顔面になりそうな美少年。少女のお兄ちゃんか?に少し眉を潜められてしまった。
何よこんなに可愛くてファビュラスで礼儀正しい子豚の何が不満なのよ……あ、豚ってところか。
しかしこの通り身体は清潔に汚れひとつ無く清められ蹄は綺麗に磨かれているし毛艶も良いし瞳はキラキラと輝いていて私なかなかの美豚なのでは?
少女の腕の中で少女の朝ご飯のスープに映り込む自分を見ながらやはり豚魔獣の中でも可愛い部類では?寧ろ世界一のかわゆさなのでは??なんて思考を飛ばして鼻の穴を広げているとヒゲオヤジが話し出した。
「そうだよリリー、シャスタの言う通りだ。いくら気に入っているとはいえ子豚の魔獣、躾の為にも床で食べさせなさい」
「おとうさま……」
お父さまじゃ無いわよ私が諦める訳ないじゃヒッ……!昨日の女の人、リリーのお母様がこっちみてりゅぅ……!!無言で、しかも冷たくこちらを見つめてくるお母様。御免なさい我儘言いません大人しく床で食べるから捌かないで!!!!
リリーの腕の中でぴぷぴぷ鼻を鳴らして泣いていると、お母様は手をあげて使用人らしき人にこう言った。
「リリーが小さい頃に使っていた子供用の椅子はまだあるかしら?持って来なさい」
おかあさま……!やさしぃ……!!よかったねと私を掲げながら喜ぶリリーの手の中から、目をまぁるくしているお兄ちゃんと、いやそれはと小さく文句を言うヒゲオヤジを見ながら、今度お母様に何か良き物でもお贈りしようと心に決めた。