68.チャーリーズ・ドーベリー
トレードさんから新しいトントン貯金箱を貰ったリリー。ピンクの身体で、頭にお花が描かれているやつよ。金のトントンは意外と好評だったみたいで、普通に貯金箱として売り出すらしいわ。
そんなわけだからやる事はひとつよね、リリーの机の上に飛び乗り、金の豚とピンクの豚を向かい合わせて私は喋り始めた。
「プピぷぷきプキゥぷーき、ぴゃぴゃプキキプキャぷぷぴゃぴぃ。ぷぷぷきぷきぷキャぷキャピきき?ぷ〜ぴぷきぃ〜〜!(オレの名はコトン三世、かの名高き貯金箱コトンの後続だ。最近机の上に新顔が入ったから紹介するぜ?ぷ〜ぴ子ちゃぁ〜〜ん!)」」
「トンちゃんリリーの貯金箱弄らないでって言ったでしょ!!」
「ぷぴゃっ(やべっ)」
「貯金箱が死んじゃったらどうするの!もー!!」
おっと怒られてしまった、てか貯金箱が死ぬって何?貯金箱(トントン達)から手を離し、シュタッと机から飛び降りて怒るリリーから逃げ出した、じゃぁなぁとっつぁ〜ん。
テッテケテーっと魔獣用ドアから廊下に出ると、何故かヒゲオヤジが居た、魔獣用ドアから出てきた私をジッ……と見つめてくる、なによ、リリーなら今部屋の中にいるわよ。
さてさて調理室でも行って摘み食いしてくるとするかね、ヒゲオヤジに背を向け、我が愛しの美味しいオヤツの元に向かおうとしたら声をかけられた。満面の笑みのヒゲオヤジに、とても怖いわね。
「おはよう子豚」
「ぷっきゅーぴぃぴーきぃー(グッモーニンチャーリー)」
「早速だがお前に頼みがある」
「ぷっぴーぃぴーきぃー(グッバーイチャーリー)」
「待て子豚!ワシの話を聞け!!」
「ぷっぴぴーきぴーきぃー(フッザケーンナチャーリー)」
だから尻尾掴んで持ち上げんなって言ってんだろこのヒゲ!学ばないなヒゲ!!魔獣虐待で執事さんに通報するぞヒゲ!!!!
ビシュシュシュッと蹄パンチを繰り出すも、絶妙に当たらない位置にぶら下げられている為全く当たらない、もっと腕の長さが欲しい、悔しい。このっ!このっ!!
「ワシのドーベリー三匹は知っておるな?ブラック、ブルー、ラズの事だぞ子豚」
「ぷぴきーぴぴーきぃー(ハナセーヤチャーリー)」
「よくワシの言うことを聞くし、待てもお手もおかわりも出来る可愛いよい子達なんだが、なんにせよ少し人間を過信しすぎているんだ……」
「ぷぴぴーぴぴーきぃー(オロセーヤチャーリー)」
「不審者を追いかけるには追いかけるんだが、その、遊んでもらっていると思っているようでな?追いついて並走して、走ってる前に飛び込んで転んだところを調教師が確保する」
「ぷぴいぷきぴーきぃー(シランガナチャーリー)」
「確保は出来てもこれでは番犬として格好がつかんだろう、だから、子豚が口頭で説明すれば理解するんじゃないかとな、なんとか頼むぞ、あっ!子豚!?部屋に戻るな!!」
頼むぞじゃあねぇんですわよクソヒゲが。地面に下ろされた私はサッサとリリーの部屋の中に入り、クレヨンを取り出して画用紙に文字を書く。
「トンちゃん何してるのー?」
書き終わったらそれを咥え、魔獣用のドアから外にそっと差し出した。
「新しい遊び??」
「リリー!子豚を外に……『報酬 払え』だと……?」
当たり前じゃない、頼まれてする働きには報酬が必須、ボランティアでお助けやる子豚じゃないの、この豚足はとても高いのよ。私の辞書にただ働きなんて文字は無いわ。
私の横に一緒に転がり、魔獣ドアの向こうを覗くリリー、汚いから床に寝っ転がるのは止めなさい。
ぐしゃぐしゃっと紙を丸める音が聞こえてきたと思ったら、小型魔獣用ドアの向こうから投げ入れられた。しゃーないもう一枚書くか。
「人が下手に出てやれば調子に乗りやがってこの子豚ァ……ッ!誰の屋敷に住まわせてやってると思っているんだ!!」
「トンちゃんまたドアからお手紙出すの?リリーもやりたい」
「食事の量を減らしてやろ……」
「ねーえ、リリーもそれやりたい」
「…………ッ、望みを言え子豚ぁ……!!」
こうして私は、ヒゲオヤジに『キノコ 採取 止める』と筆談での交渉を進めたことによりドーベリー達への講義をするのを条件にされたものの。
トレードさんから異世界にある異国の料理を教えてもらい、料理長にそれを作ってもらうという夢の企画を許可させることが出来たのであった。
◆〜◆〜◆
「ぷぷきぃ〜!(番号〜!)」
「ワン!(いち!)」
「ワン!(に!)」
「ワン!(さん!)」
うむ、よいお返事だ。調教師さんの目を盗んであげ続けた魔獣用強化ナッツ(特売品)のおかげで、結構賢くなったのではないだろうか。
この前調教師さんに首を傾げられながらお腹を揉まれていたけど。そんなに太らせてない筈。三匹揃ってお座りをするドーベリーを、微笑ましそうに見つつお庭をお掃除しているメイドさん達。
「可愛いわねぇ、今日はラジモン達だけで遊ぶ日なのかしら?」
「リリー様は、まだお勉強の時間だったわね」
「ふふ、きっとお勉強が終わったらすぐにトンちゃんの所に飛んでくるわよ」
まぁよい、太り過ぎならば走らせれば良い、悲しいことに、健康な身体には美味しいご飯とそこそこの運動が必要なのだ。
私はトントンになってから体重計とは無縁だけどな、魔獣の身体は人間の食事にも耐えられる、トントンはただの豚とは違うんだよ豚とはなァ!!
「プピキキ、ピピーキャキュキュぴききプキぴゃーぴゃぴぃピキ!(これよりアリュートルチ家に侵入した不審者の捕獲訓練を開始する!)」
「「ワン!(はい!)」」
「キャゥワヮン!(姐さん質問があります!)」
「ぷぅききピキキャキャーぴぅ(なんだねラズベリーくん)」
「クキュゥゥキャゥゥ?(フシンシャってなんすか?)」
そりゃそうだ、いきなり不審者って言われてもドーベリー達には分からんよな。前世での通学路では、道行く人全てに吠えていた飼い犬がいたっけ、飼い主とその家族以外は、確かに犬にとっては全員不審者だよな。
それにしても改めて考えると難しい質問だ、不審者ってどんな人?不審な人、それしか言いようがない。しかしこの場合としては、たぶん。
お掃除をしているメイドさんの足元に寄り、蹄でスカートの裾を引く。
「あら、どうしたのトンちゃん」
「ぷぴきゅきゅぴきゃき?(この人達はどんな人?)」
「「「ワォンッワンッ!(オヤツをくれる人!)」」」
「わっ、驚いた、そういう遊びなのかしら」
「ぷぴきゅぅきゅピキキぴゃ(調教師さんはどんな人?)」
「「「ワォゥワンッ!(ご飯をくれる人!)」」」
「ぴきぴきぃぴきゃき?(ヒゲオヤジはどんな人?)」
「「「クォゥワンッ!(遊んでくれる人!)」」」
成る程そういう認識なのね。腕を組み考える、屋敷に侵入する奴なんて、夜中にコソコソってイメージがあるけどどうなんだろう。
その辺はまぁいっか、それからお母様は撫でてくれる人、シャスタお兄様は散歩に連れて行ってくれる人、リリーは一緒に遊ぶ人と、ひと通り確認し終えた。
あとはアニメや漫画でよくある、番犬に毒や睡眠薬入りのオヤツやお肉を食べさせたりしてくるかもしれないので、三匹によくよく教え込んだ。
「ぴぃ?ぷきゅぅキュキュぴきょきぃぴぷきゃきゃぴゃー??(いい?知らない人間からオヤツやお肉を貰っても食べちゃダメよ??)」
「クキュゥゥ?(なんでですか?)」
「ぷうぷぴキュ(食べたら最悪死ぬわ)」
「「「キャィンッ!?(マジすか!?)」」」
「今日はご主人様のドーベリー達もよく鳴くわねぇ」
「なんのお話してるのかしら」
「ぷぴぃぷぷ、プキャキュキュぴき、ピィピキキュキュゥぴぃ、ぴゅーぴゃきゃきゅぷ(不審者は、知らない匂いの人間で、コソコソ他の人に見つからないようにしていて、食べてはいけない食べ物を渡してくるの)」
「キュゥゥキュゥン……(なんて酷い人間なんだ……)」
「ゥゥウクゥン……(遊んでもくれない……)」
「ォゥゥンキュゥウクゥ……(食べ物も食べちゃダメなんて……)」
「これからなんの遊びをするか相談してるんじゃない?」
「うふふ、鬼ごっこしましょーとか?」
「トンちゃん、走ってドーベリーに勝てるの?」
「……トントンだしねぇ」
「ぷぷききゅぷきゃきゃ、ぷきぃきき、ぴーきゃきゃぴぴゃーぷきょぅ(あなた達を撫でてもくれないし、遊びもしない、話しかけたら走って逃げるわ)」
「ワフ!ゥワンワンワゥワゥ!(酷い!遊ぼって言っただけなのに!)」
「ワォゥワングァゥルルル……(撫でてもくれないとは……)」
「ゥゥルルゥキュゥルル?(本当に人間なのだろうか?)」
「ぷぴゅぅキュキュキュぴっ、ぴきゃきゃぃ、ぷきゃきゅぅ、ぷぴーきゅきゃきゃピキぃぷぴぴぴゃーぴゃ(だから知らない人から食べ物を貰ったら、まず調教師さんか、ヒゲオヤジか、知っている人に食べていいか聞いてから食べるのよ)」
「「「ワンワォン!(はい姐さん!)」」」
それからドーベリー三匹に、今回の遊び……じゃなかった、訓練のルールを説明した。私が不審者らしき人間を教えたら、飛びついて倒す事、噛みついちゃダメ、体当たりのみ。
視線の先には練習台におあつらえむきな、変な荷物を抱えて、コソコソとお屋敷から逃げようとしている人間。泥棒か?それとも屋敷に変な物置きに来たのか??
とにかくここはお屋敷と、私の寝る場所を守るためにも、自宅警備隊チャーリーズドーベリー!!
「ぷきゅーきぴーきゅきーぴきゃきゃきぴゃ!(チャーリーズドーベリー出動よ!)」
「「「ワンッ!(ワンッ!)」」」
さて、私はちょっとお庭の花壇のフチにでも登って、三匹とあのほっかむり被った不審者の戦いでも実況してますかッとな。
お花を踏まないよう座り込み、弾丸のようなスピードで駆けていく三匹のドーベリーを見送った。みんながんばれー。
「ぴぃキュキャぴきゃきゅプーペーぺー、ぷっきぃぴきゃピピ、ピキョキョぷきぷきぷきゃきゃぁきゃぴきぃ。
(さぁ始まりましたFHK、実況はこの私、めちゃ可愛子豚魔獣のトンちゃんが担当させて頂きます。)
ぷっぴぅぷぷーキー、ぴききゃきゃぴぃきプキっきぷきょー、ぷきゃーぷきょー、ぷぷぺきょーぷきゃーキュキュぴきょきょぴにょ。
(出犬は三頭、右から順にブラックベリー、ブルーベリー、ラズベリーという並びになっております。)
ぴゃーぴゃプキキぴきプーキーきゃきゃぷぷぺきょー、ぷきゃぅきゃプッキぷキャキュキュピキョピャキョ、ぷきゅぅきゅきゅきゅぅぴーきゃきゃぴきぃ!?
(あーっとまず先頭に飛び出したのはラズベリー、普段のナッツの強化が足の速さに入っているだけある、このまま不審者のところまで逃げ切ることができるのか!?)
ぷぷぺきょーきょぷきぴきぴキャキャーぷきぴぷきゃーぷきょー!ぴぴゃぴにゃピキョピキョキョぷきぃきぴきゅピキーキぴきぴゃぁ!ぷきゃきゃぴぃぷききぴぃぴきゅきゅぴきぃ!!
(ラズベリーの内側に潜り込むのはブルーベリー!こちらに気づき逃げようとする不審者への対応が素晴らしい!最短距離で尚且つ急な進路変更も恐れない足捌き!!)
ぷぷひぷきゃーニャキャぴきプキッきぷきょーぴょピィキャキュキャ!ぴゃーぴきぴぷきぴぷきゃきゃぁプキっきぴぷきゃぷぴぴピィ!ぷきゃきぁぴきゃプキゃぴきゃぷきょきぴぁプピァァ!!
(ここで大外からブラックベリーの追い上げだ!三匹の中で一番賢さが上がったブラックの名は伊達じゃない!不審者の前に回り込み進路を塞ぐがあぁ惜しい躱された!!)」
ぷぴぴぷーきゃきゃピッキぴゃぴゃ!?プキっきぴぷきゃーぴぷぷぺぴ!ぷぷぺぴ!!ぷきゃーぴ!プキっきぴきー!!ぷぷぺぴ!ぷぷぺぴきゅきー!!ぷぷぺぴピキャキー!!!!ぷにゃにゃぴプーペーペーぴきぃきゅーきゃーピキョキョぴっきゃぷぷぺぴきゃー!ピィキュキャキキぴぷーきゃきょぴきゃぁ!!ぷきぃきゃきゃぷっきょぴプキキぴぷっきょプッキィキぴぷぷぅぴぴぷきょきぷっきぃき??
(誰が最初にタックルを喰らわすのか!?ブラックかブルーかラズか!ラズいくか!!ブルーが先か!ブラックが倒すのか!!ラズが来た!ラズが正面に来た!!ラズが討ち取ったー!!!!見事に初回FHK記念優勝を飾ったのはラズベリー!声高らかに雄叫びをあげております!!不審者が持っていた荷物が飛んでガッシャンと勝利の音をガッシャン??)」
飛び散る瓶の破片、少し遠くからするお酒の香り、困惑したような動きでウロウロしてるドーベリー達。
取れたほっかむり、倒れた不審者の顔にはどこかで見たようなふっさふさの顎髭……。
「コブタァァァァアア!!!!お前はワシの可愛いドーベリー達に何を教えているんだぁぁぁぁあ!!!!!!」
「旦那様!ご無事ですか!?……またワインを買ってきたんですか、もう棚に入らないと報告したでしょうに、バチが当たったんですよ」
「いやぁ、そのぉ、これはシャスタの生まれ年のワインでな!息子が成人したら一緒に飲もうと」
「家のと合わせて五本もですか?」
「…………コブタァァァァアア!!!!!」
みんなは、紛らわしい格好で、紛らわしい小包を持って、人目につかないよう場所をうろつかないようにしようね!トンちゃんとの約束だよ!!
空を見上げると、分厚い雲が太陽を隠すところだった、そろそろ雪が降り始める時期ね。豚の鼻をひくりと一度動かし、ご主人様と並んで一緒に律儀にお座りをして、執事さんのお説教をうけるドーベリー達を回収しに行った。