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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
66/113

66.お金は大事だよ


 俺の名はカルテ。アリュートルチ支店のカモネスの店員をやっている。今はカウンターで、ぼーっとしながらアリュートルチ家のお嬢様と、そのラジモンのトンちゃんの後ろ姿を見ている。

 背の低い子供が選べるように、駄菓子は下の段に陳列しているから、その陳列台の前に七歳の子供と藍色のリボンをつけた子豚が並んでしゃがんでいるのを見ているんだ。


 そんなに見ていて楽しいのかって?正直楽しい、どちらかというと、視覚より聴覚的に楽しい。

 通じているのか通じていないのか分からない会話を聞いているのは楽しいさ、俺のラジモンのシロ(カモライン)の羽繕いに付き合わされるよりは暇潰しになると思う。


「トンちゃん、リリーのおこづかい無くなっちゃったの」

「ぷぴぴぃぷぅぴ」

「だからね、一度トンちゃんのお金でここは買ってもらって、次、リリーのおこづかいでトンちゃんのを買えばとっても良いんじゃないかと思うのよ」

「ぷぴゅきゅきゅ?ぴぴぷ」

「でね、リリーはコレが食べたいんだけどトンちゃんはどう思う?」

「ぴゃぴゃープキャキャ」


 金無いなら今日はオヤツ買うの我慢しろよ。と、そうは思うが、あの会話を聞いているのは楽しいし、上司の友人の家の子供なので注意するのもなんだかなぁと思う。

 トレード会長には、トンちゃんとリリーお嬢様が来たら割引するようにと言われているが、アリュートルチさんからは金銭感覚を養わせたいから店頭表示そのままの値段で買わせて欲しいと頼まれている。


 会計が終わり、ナップサックを背負ったトンちゃんと話しながら店の戸口へ歩いて行くお嬢様、その手には自分で買った一番安い棒つき飴が一本握られている。


「トンちゃん、リリーのお菓子買ってくれなかったね、なんで?」

「ぴきゅぴ」

「次トンちゃんのお菓子買ってあげるって言ってるのに、なんで?ねぇ、トンちゃんなんでぇ??」


 どうやら交渉は決裂していたらしい。トンちゃんの返答も理解できたらもっと楽しいんだろうな、そんな事を考えながら扉を開けて屋敷に帰る一人と一匹を見送った。



◆〜◆〜◆


 最近リリーの無駄遣いが止まらない。一昨日は豪華なビスケットと他沢山、昨日はお高めチョコレートと他いっぱい、今日は残ったお金で飴を買っていた。

 これは由々しき事態である、早急にお金の大切さ、お金を貯めておくことの重要性を学ばないと将来困るのはリリー本人、私は困らん。が、なんとかしてお金を大切にするという認識だけでも刷り込まなければ。


 強い決意を子豚の小さな胸に秘め、今日買ってきた紅茶のパウンドケーキを貪り食う。


「みゅみゅみみみまみぴ(それが一番の課題ね)」

「トンちゃん、お口に物が入ったままお話しすると、お母様に怒られるんだよ」

「ンッく、ぷぴぴにぷきぷみぷきゃーにゃぴぃ(ンッく、お金を貯めるのが楽しくなればいいと)」

「リリー物凄く怒られたもん、一緒に食べてる人が汚いなーって思うから、ちゃんとお口を閉じてモグモグしないとダメって」

「ぷキャキャーぴきゃーぷききぴぴきゅきゅぃ、ぴぷぷきゃぃ(誰が他人の咀嚼物見ながら飯食べたいって思うのよ、当たり前でしょ)」


 話が逸れた。それで、お金を貯める事を楽しくするモノが欲しいって話だったわね。

 前世と違ってここのお金は全部真ん中に穴の空いた硬貨だ。材料や金額に違いはあれどみんなコインなので、貯めておくとそれなりの重量になる。


 この世界では、タンス貯金でなく木箱貯金、皮袋貯金の人が多いみたいなんだけど、どこにでもある何の変哲もない木箱や皮の袋なものだから盗まれる時には持ち運びし易いし、持っている所を見られても怪しまれ難いみたい。

 うーん泥棒怖いわね、お家の鍵はしっかり閉めないと。


「きゅーきピピピキキュキュ、プニピピキュきにゃキュキュぴゃー(銀行の口座はあるみたいだけど、貯金箱って聞いたこと無いのよね)」

「え?トンちゃんのお菓子わけてくれるの??トンちゃんは優しいねぇ」

「ぶ!(や!)」

ペシッ!!


「トンちゃんは優しくないねぇ……」


 それもこれも一ヶ月分のおこづかいを三日で使い切るリリーがいけないんでしょうが、全く、油断も隙もない。

 そんな訳で忠犬ならぬ忠トントンのトンちゃんは、リリー専用貯金箱を作って貰うためパウンドケーキを口に全て入れて、画用紙に設計図を書き始めたのであった。



◆〜◆〜◆


 コンコン、客間にトレードさんが来ているのは分かっているのよ、ここを開けなさいヒゲオヤジ。開けないと酷い目に遭わすわ。

 コンコン、コンコンと子豚の蹄でしつこく叩き続けると、やっと扉が開いた。


ガチャッ


「誰だ?」

「ぷきっ(私よ)」

「気のせいだったみたいだな」

パタン……


「ピビャー!!(ヒゲェー!!)」


 今絶対気付いてたろうがこのヒゲェ!しっかり足元まで確認してから閉じやがったなこのヒゲオヤジィ!!ふざけんなヒゲェェェエ!!!!

 廊下でピキピキプキプキ怒り狂っていたら、執事さんが部屋の中に入れてくれた、ありがとう執事さん。

 腕に抱えられて室内に入ると、私を見て顔を輝かせるトレードさんと、対照的に顔を歪めるヒゲオヤジ。


「ぷき(ども)」

「トンちゃんさん!元気にしていましたか?料理長さんに渡した海鮮は美味しいですか?また新商品の打診ですか??」

「フリック、お前余計な事を……」

「何やら画用紙の束を用意していたようなので、では失礼致します」


 いやぁ〜ヒゲオヤジに仕えさせるには勿体ない人だわぁ〜〜、なぁヒゲ、可愛いトントンが扉をトントンって叩いてたのに無視しようとしたヒゲェ、こんな小動物相手に威嚇してんなよヒゲェェェエ。

 バッチバチに火花を飛ばす私とヒゲオヤジだが、そんな事をしている暇は無いので早速本題に移らせて貰うことにした。


 ドンッと画用紙の束を紙芝居のように持ち、興味を持ってくれたのか、こちらを向いて座り直してくれたトレードさんに説明を始める。


「あぁ!商人暮らしにつけた金のトントン像、気に入って貰えたんですね!貴族暮らしと農民暮らしも凄く売れているんですよ〜金の子豚様々です!!」

「ぷぷぴきゅぴぴぴぃ(売れてるならいいわ)」

「それの大きい木彫りの置物ですか?確かにカラーバリエーションを増やせば売れるとは思いますが……子供の玩具にならない限り、ニャンムの木彫りの置物ほど売れないと思いますね……」

「だそうだ子豚、トントンはそこまで熱狂的な人気は無いからな、お前の置物じゃ文鎮にもならんよ」


 誰が置き物にするって言った?ヘッ、と鼻で笑うヒゲオヤジに、プヒッと豚鼻で笑い返し、次の画用紙を見せた。


「トントンの?背中に縦長の穴を開けて、身体の中を、くり抜いて空洞に……どうしてそんな酷い事をするんですか!」

「ぴぴぃぴき(酷い事)」

「子豚、お前どうした?同族の置物の内臓をくり抜くなんて、疲れているのか?それともリリーのお守りに疲れたのか??」


 酷くはなくない?だって木彫りの人形?豚形(トンぎょう)よ??別に生命とか宿ってなくない????それに中くり抜かないとお金入らないし、それこそ作る意味あるのかしら。

 この後、説明の試行錯誤を繰り返し、木彫りよりも空洞にし易いからとトントン陶器貯金箱を作って貰えることになった。でもなんで商品化方向なのかしら、リリーのために一個作って欲しかっただけなのに。


 確かに貯金箱といえば私みたいなピンクの豚だけど……そういえばそもそもなんでピンクの豚が貯金箱の代名詞なんだろう…………?

 腕を組み考え始めた私の横で、トレードさんがキャッキャとはしゃぎ始めた。


「ぷぷきぴぷ……?(不可思議な……?)」

「トンちゃんさん売れますよこれ!子供に貯金の大切さを教えられて、トントンをお腹いっぱいにさせるためにお手伝いを頑張る、立派なテコ入れができます!!」

「では試作品はワシの娘に貰うということで……なぁ子豚、一つ質問があるんだが」

「ぷぴき(なによ)」


 今なんで豚が貯金箱の代名詞を飾ってるのか考えているのよ、私の見解では、割ってお金を出す時に可哀想だからって理由と、豚はお肉として食べちゃうから、割る時の罪悪感が少なく済むではって思うんだけど。

 ヒゲオヤジが画用紙の豚の貯金箱を指差して、ある事を質問してきた、まぁその質問に関する答えも書いてきてるんですぐ答えられますけど。


「これどうやって中に貯め切った金を出すんだ?上の穴から出す為に一生懸命振るのか??」


 答えの書かれた画用紙を持って見せる。

『 割 る 』


「どうしてそんな酷い事をするんですか!!?」


 だから生きてないじゃん、トントン貯金箱。トレードさんが突然立ち上がり机を両手で強く叩くから、ヒゲオヤジと二人でビクッとする。

 なに、酷いことって、動物の豚もいただきますって感謝して食べてるんだから、トントンの貯金箱ぐらいお腹いっぱい小銭を詰め込んだらガッション出来るでしょ。中身使うんだし。


 しかし納得出来ないトレードさんは、私が描いた豚の貯金箱のお腹を指差すと、代案を出してきた。


「お腹に、貯金箱のお腹に蓋をつけましょう、それなら割らずに済むのでは?」

「ぶブー(つけない)」

「何故ですか!?割りたくない子供も多いと思いますが、人間は長い間持っている物に愛着を持ちやすい、それも愛嬌のある物ならなおさらです」

「うぅむ、確かにワシもドーベリーの置物を壊せと言われたら嫌だな、子豚、貯金箱に蓋をつけない理由はなんだ?」

「そうですよ、納得できる理由が無いと」


 しゃーねー大人共だなオイ。文字や説明を書いた画用紙の裏に、今の所の理由を三つ書く、三つもあればガッシャン反対派達も納得してくれるだろう。

 まず一つ目、ピランと机の上に出した文字を、二人が読んで唸った。

 

『蓋 開ける 使う 貯まらない』


「確かに、シャスタは大丈夫だと思うが、リリーのような子だと貯まらないうちに蓋を開けて使ってしまうな、貯金が一生終わらん、豚は常に腹ペコ状態だ」

「それはそうかもしれませんが、でも割るよりは良いのでは?物を壊す習慣がついてしまうとも限りません」


 そんな我慢出来ずに割る子なんて、貯金少ないうちに割るだろうから、多分待った割に貯まってないし、悲しみの方が強いと思うわ。

 トントン貯金箱をお腹いっぱいにならないうちに割った事で多少怒られると思うから、次買ってもらえたら多分満タンにするまで割らないんじゃない?流石にずっと顔を突き合わせて、お腹いっぱいにしてあげようとしてたトントン(子豚)が満腹前に自分の手で粉々になったら、マァどんな子でも後で罪悪感ぐらいは抱くんじゃないの?


 そんな訳で二枚目行ってみよう。ピララッとまた、机の上に出した。


『満タン 割る 小銭沢山 達成感』


「小さい貯金箱なら貯めるのも容易いですしね、確かに子供でも成功体験が積めるのはとても良いと思います、でも割りたくないです」

「確かになぁ、大量の硬貨なんて貯めない限り子供は見る機会が無いし、自分で貯めようとしても使ってしまう子が大半だろうな」


 そうそう、札束なんて言わない、子供は10万円持って扇子みたいにするだけでテンション上がるけど、そこまで貯めるのってお年玉のある正月が少なくとも二、三ヶ月連続とかじゃないと難しいわ。

 アクセ買ったり服買ったり、靴に買い食い、ゲーム漫画携帯コスメお出かけ費用チケット代小物雑誌スイーツおやつ日々のお菓子と出費が嵩んでお金はいくらあっても足りないもんよ。


 え?私の物欲がありすぎなだけ?そんな事ないわ、だって現にリリーがお菓子で滅茶苦茶使ってるからこんな話になってんじゃない。

 そして最後の理由、これが無いと私に入るマージンが少なくなる。ピロンッとまた画用紙を一枚、机の上に出した。

 

『商品回転率 向上』


「……いや、いや確かに、中身を取り出す為に割る事で次の貯金箱を買い与える人は多いでしょうけど、でもそこまで利益主義にならなくてもッ……!」

「成る程、ワシでも目に見える成長が見られたなら、また買い与える、金を貯めて無駄遣いを減らし、欲しい物や必要な物を買う、金を貯める過程が一番難しいからな」


 ガッチャンした後、彼彼女等はおそらくトントン型の小さな穴が胸に空くだろう、その穴を埋めるには同じ子豚を買うしかないのさ。

 そんな訳で貯金箱の蓋は実装されず、お腹をいっぱいにしたら屠殺(ガッシャン)されるトントン貯金箱が、試作される運びとなった。



しゃがむ社長と菓子食う子豚

「本当に蓋つけないんですか?」

「ぷき」

「でもやっぱりつけたほうが」

「ぶ」

「蓋をつけない事で貯金が捗ると」

「ぷき」

「でもやっぱり壊すのはちょっと」

「ぶ」

「……トンちゃんさぁん」

「ぶぶ」


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