65.どーまんせーまん
暇ね。リリーのベッドの上に転がり、位置を調整して、窓からの優しい日差しで私のお腹を温める。
とても暇ね。レベルの確認はした、二日前に虹色のスライムを食べてから、全くレベルが上がらなくなった。激レアスライムだったらしい。滅茶苦茶レベルが上がった後、その辺のスライムを食べても全く経験値バーが動かなくなった。ゲーミングな味がした。進化は別にしなかった。
物凄く暇ね。リリーなら、メープル先生お手製のテストで全く点数が取れなかったから、それの補習授業を急遽組み込まれて泣いてたわ。
暇で暇で仕方がない、そんな時は───
「プピャプきぷぷききキャキャぴきゅき!!(オヤツを食べるに限るわね!!)」
「トンちゃん!今日のオヤツはレアチーズケーキだぞ〜!!」
「ぴっきぃー!!(やったぁー!!)」
「もうお嬢様とメープルさんの分は取り分けてあるからな、好きなだけ食べて良いんだぞ!ジャムもかけるか!!」
「ぴぴぃ〜!(かける〜!)」
「自分でかけたいのかぁ?偉いなトンちゃ〜〜ん!!」
これぞ究極の暇つぶし、美味連鎖!!美味しいしお腹も膨らむし、食べ続ければそのうち晩ご飯の時間になる、体重計に怯え若いうちからの生活習慣病に震えていた人間の時には出来なかった暇つぶし方法よ!
料理長から受け取ったジャムの瓶、赤いから苺かしらね、蓋を両蹄で挟み、キュポッ!と開けた。
ゥァァァ……マザル……マザルゥ…………
「シャスタ様からコログミを頂いてな、コログミのジャムはカビたり腐ったりし難いから、冬の間の保存食として良く作るんだ、坊ちゃんが持ってくるコログミは店のものより質が良くて嬉しいな」
コロシテ……イャ……イャァ………………
「特にリリーお嬢様がこのジャムが好きで、毎年この時期になると、コログミを扱っている店に頼んで大量に倉庫に入れて貰うんだ、今年はトンちゃんが居るから腕によりをかけて美味しく仕上げたからな!足りなかったらもっと作るからいくらでもかけて良いぞぉ!!」
モゥヤダァ………………キュキュッ!
「トンちゃん、ジャムをかけないのか?苺ジャムは好きじゃないのか?いや、苺から作った物は食べていたしな……まさか何か悪い物でも!?いやそんな筈は、毎年の作り方は変えていないし、トンちゃん?何故食べないんだ?まさか俺のジャムが美味しくなくなったというのか??」
そのまま私はオヤツを食べ進め、口の中にチーズケーキを全て入れ、最後まで味わった後。何も言わず調理室を後にした。
「何か言ってくれトンちゃん!改善点を!せめて改善点の一つだけでも!!何故そんな失望したような表情なんだ!!待ってくれ!もう一度チャンスをくれ!!!」
コログミは、無理。
「トンちぁぁぁぁあん!!!!!!」
◆〜◆〜◆
あー、酷い目にあった。やっぱ暇潰しで無限オヤツムシャァなんて考えるもんじゃないわね、腹の装備(脂肪)が増えるだけで、美味しい嬉しいお腹いっぱいしかメリットが無いわ。
リリーの枕に顎を乗せながら、ぷひぷひと鼻を鳴らして身体を横たえる、暇を持て余した子豚に戻ってしまった。
「ぴぴゅぅ……(暇ねぇ……)」
悲しいわ、この世界には無料動画も無料ネット記事も無いんだもの。トンちゃんとっても暇なのよ、元人間のトントンが、部屋の中でボールを転がして暇を潰せる筈がないわ、やったけど虚無だった。
あぁ、スマホに入ってた音楽アプリが恋しい。でもステにも一応音楽ファイルは入っているのよね。
「ぺぴぷぺ(ヘイステ)」
ピロンッ!
「ぷぴぴぴぷきゃにゃき(なんか音楽流して)」
ピピッ……
……テ~テ~⤵︎テ~テ~⤴︎テ~⤴︎テ~⤵︎テ~⤵︎…………
国歌(前世)。いやメッチャ音いいけど、なんでそれをチョイスした?枕から顔を上げ、薄緑の画面を見つめるも当たり前だが返答は無い。さざれ石に苔むすわ。
結局最後まで聞いてしまい、なんとなくしんみりした気分になる、ていうかもしやあの女神(推定)日本の神なの?え、無理なんですけどあんな神、あんな奴知りませんけど??神ってか、そうね。
「ぷぴぃきゅき、ピキュギュぷ、きゅきゃきゃピキャキャぴきゅぴー(ただの妖怪でしょ、自称女神の妖怪、きっと付喪神よりランク低い奴よきっと)」
女神(物欲妖怪)の信仰ポイントで、暇つぶしにまた私の所に届かないネットショッピング始めますかーっと。
ステに信仰ポイント交換画面を出してもらい、いらっしゃいませの画面をタップして、ジャンルを選ぶ…………?
「ぷぅぷぷ?(広告?)」
よくあるナイスバディの綺麗なお姉さんと、ナイスガイな格好いいお兄さんが、なんか良さげな持ち物を持ってこっちに向かって笑ってる。
二人の間に書かれている文字はこう。
[あなただけにこの世界の秘密を教えちゃう♡
⤵︎
こ こ を →☆← タ ッ チ
⤴︎
今だけ10000000ポイントプレゼント♡♡]
流石に怪し過ぎない?広告に美麗キャラクターを使うなとは言わない、宣伝効果は十分あるだろうし。だけど上下の文とこ、こ、を、タッチ、お前はダメだ。
ここまで怪しい広告今無いぞ?探しても多分ここまで怪しいやつ出てこないぞ??つか何万ポイント貰えるのこれ、てか何のポイントかすら書いてないんだけど?客にタッチさせる気あるの????
こんな怪しい広告避けるに限るわ、こういうのは初回無料とかニヶ月間無料とか期間限定会員費無料とか言っといて、その後自分で面倒な解約しないとしっかり引き落とされてたり、これは無料だけどこっちは別料金なんでとか言われるパターンなんだから。
「ぷぅぷぷキュキャきピー、ピキぴキャキュぴゅぴゃ(広告のところ以外をタップして、早く別な画面に移動するに限るわ)」
蹄を画面の中央へ向け、食品の文字のところをタッチした。
↑↑スッ↑↑
筈だった。
途端に見慣れた縦棒のたくさん並んだ画面、イキイキと上下に動き出し、聴き慣れたくなかった声が流れ出した。
「ぷぁ!?ビャビャギャギィギギャギャキィ!!?(はぁ!?今絶対上方向に動いたよねぇ!!?)」
『ふハーっはっはっはァ!引っかかりましたね子豚!!これぞIQ10000の天才たる私が考えた最強の罠、[タッチしてみたくなる広告]!!!!』
「ぷぴゃぴゃぁぴゃきゃキュキュ!!?!?(避けようとしてたんだけど!!?!?)」
『うんうん、矢張り美男美女ほど心躍る娯楽はありませんからね、俗物の子豚が蹄をこの広告に押し付けるのも致し方無しというものです、美男美女に加え大量のポイントの配布までつけられたらもう誘惑に抗える者など居ないでしょう!!』
「ぷぅピピぴ……キューキャキュキュきぴぴぷぴぁ…………(もうダメだ……こんなアホが運営するこの世界は終わりだ…………)」
『そして何より、押せと言われたら押すしかない!という人間の心理を掌握しまくったこの広告は正に最強と呼んでも過言ではない!私超天才!!』
この女神超馬鹿。ぐったりとリリーの枕に身体を預けた私が見えているのかいないのか分からないが、好き勝手話し始めるアホ女神。神の世界ではどうか知らんが、IQは上限300だぞ馬鹿女神。
なんでこんなのが女神に?仮免どうやって取ったの?賄賂??ピスピス鼻を鳴らし、女神免許センターの在り方への疑問と困惑を持ち始める子豚。
『さぁ子豚!とりあえずプラモを作成するための工具セットをポイントで交換するのです!!爪切りと爪ヤスリでは限界が来ました!!』
「プキュッぴっきぷーい(作ってんのかーい)」
『あと塗装筆も欲しいです子豚、塗料の必要な色はメモにするの面倒だったので片っ端から入れて下さい』
「ぷぷぴぷきゅぴぃぴーぃ(塗装もするんかーい)」
『あと接着剤と、ピンセットと、コンプレッサー、ハンドピース……面倒ですねプラモデル関連の全部カゴに入れちゃって下さい子豚、ポイントなら腐るほど増えたんで』
プラモデルにハマり始めたぞこの女神……いや、中身本当に女神なのか……?実は妖怪詰みプラ魔とかじゃないのか…………??
よく分からない名前の器具を片っ端からカゴに入れていく、いいの?女神がこんなプラモ沼にハマっていいのか??まぁ世界が平和ならいいのか……。
ポチポチと上から下まで一通りカゴに入れたら、突然女神が覚醒した。
『そうそう、あとその荒海極覚醒超神器装甲須佐之男命を一つ、いや矢張り拡張パック付きのを一つッて、ちがーーーう!!!!』
「ぷぴぴゃ(うるさっ)」
『私は女神私は女神美しく麗しく慈悲深くこの世のありとあらゆる生物から崇められ奉られる豊穣と美と叡智と慈愛と正義と幸運と運命を司る女神!』
「ぷぅぴきゅきゃぴぃ(強欲の女神じゃん)」
司るものが多すぎて大渋滞起こしてるじゃん、本神が強欲過ぎてもう早口言葉になってるじゃん、こんなのが神で良いのかホントに。
かの有名な食べられるヒーローの歌にもあるように、私がこの女神(妖怪)に、愛と勇気を教えてあげないとならない。トンちゃんは決意した、決して昔懐かし【呪々と陰陽師☆陰陽の友情パワー♡】が気になるからではない。
「ぴーぅ、ぴーきゃープキキぷぴっき(ふーん、セイメーちゃんのキラキラ鎮宅霊符パック)」
『は?子豚??何してセイメーちゃん懐かし〜〜!!じゃなくて!いや要りませんよ!しかもそれカードパックじゃないですか!?要りませんってば箱ォン!!?』
「ぴーきゃープキキぷぴっき、ぷぷきゃきゅきゃひぷきゃぴ(セイメーちゃんキラキラ鎮宅霊符パック、白狐と葛の葉編)」
『だからなぜ!カゴに!!入れる!!?!?子豚ァア!!!!!!!』
「ぴーきゃープキキぷぴっき、ぷぴぴキャギャぴーぴーぷきょきゃーきぃ(セイメーちゃんキラキラ鎮宅霊符パック、ライバル登場ドーマンちゃん編)」
『子豚?あのですね、私別にセイメーちゃんの霊符フルコンプとか目指してないんですよ、ねぇ、子豚?聞いてます?だから業者が卸すような量のパックは要らないんですよ、子豚??ねぇ子豚????』
「ぴーきゃープキキぴぴぷぴぴぴゃ(セイメーちゃんの可愛い式神編)」
『世界の女神の話を聞け子豚ァ!!!!!!!!』
パックの絵に描かれている蝶々を周りに飛ばしたセイメーちゃん、周りに飛んでいる蝶は蜜虫って呼ぶらしい。ヒラヒラしてて綺麗ね。
最後に一つ、夢見る女神にプレゼントを贈る事にした。パックを箱買いした後、下の方に出てきたこの商品を購入した方はの文字、そこにある一つを蹄で優しくタッチする。
神社の人が振ってるアレ、アレに似たやつ
「ぴーきゃープキキぷぴゅぴゃーぴーきゃきゃきゅ(セイメーちゃんの五芒星大幣」
『は!?大幣!!?』
「ぴぴぅぴぅきゅきゃ(高い方にしときましょ)」
『八角バージョン!?大きさ、一分の、いち……こぶッ、ちょっ、今のでポイントものすっっごい減ったんですけど!!?!?』
「ぷぅぴぃ(交換)」
『ア゛ア゛ァ゜ァア゜!!!?!?!?』
今日のところはこのくらいで許してあげようじゃないか、山積みのカードパックを開けながら、愛と勇気と世界平和について考えなさい。
子豚はぷぅと息を吐くと、リリーの枕に身体を横たえた。
『わ、わた、わたくしの、し、信仰ポイントが』
「ぺぴぷぺ(ヘイステ)」
ピロンッ!
『ざ、残数が、ひ、ひとけた』
「ぷーぴきゅぷき(全部終了)」
ピピッ
『こぶゥ⤵︎』
いやぁ良い買い物をした、いい感じに疲れたことだし、リリーの補習が終わるまで寝るとしますかね。良い感じの位置にずれた後、ゆっくり目を閉じる、お休み異世界、起きたらご飯の時間になってたらいいな。
部屋の中に一匹のトントンの寝息が響く、秋も終わり頃、枯れ葉も全て地面に落ち、トンちゃんに初めての冬がやってくるだろう。
Q.コログミを使った食品は、何故カビたり腐ったりしにくいんですか?
A.生き〜ているか〜ら〜〜♪
明日があるか〜ら〜〜♪
地球が、まわっている⤴︎か〜ら〜〜♫
ジャジャッジャジャン!




