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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
64/113

64.パスタは茹でると増える

 よい()のみんなは、(ひと)がお料理(りょうり)をしているときに、ふざけたり、(ひじ)()したり、()()らしたりしないでね!


 じゃないと、作者(さくしゃ)みたいに、フライパンで手首(てくび)をジュッて()いたり。


 親指(おやゆび)()ってまな(いた)()()めたり。


 お料理(りょうり)鉄分(てつぶん)がいっぱい(はい)ることになっちゃうんだ!


 お料理中(りょうりちゅう)(あそ)んだり、ふざけたりしないでね!トンちゃんとのお約束(やくそく)だよ!!




 皆様こんにちは!ラジモン雑魚枠可愛い子豚魔獣トントン代表、アリュートルチ家のトンちゃんです!!オラ可愛いだろうが可愛い〜ッ!て言えよ。

 それでね?料理長が近くのペイオニアポークっていう食用豚肉を作っている人の所に行ってお話をしているみたいなの、今日の賄いは副料理長が指揮を取って作るんだって!楽しみだね!!



 今、子豚の目の前には、アリュートルチ家の調理室の扉。

 そこの君、子豚では開くことが出来ないんじゃと思ったか?なんとトンちゃんは、ジャンプして取っ手を回して扉開けられるんですよ恐れ入ったか賄い寄越せお邪魔しま……


ガチン!

「ぷぴぷ……ぴきゅきゅぷぷきぃ……?(鍵が……かけられているだと……?)」


 なんという事だ、トンちゃん賄い強奪プランの敗北とは。プラーーンと扉の取手にぶら下がるトンちゃん、プランだけに、寒。

 しかし一度の敗北で折れる私では無いのだよ、こんなこともあろうかと、ヒゲオヤジの部屋から盗……借りてきた秘密道具。


 リボンの隙間を漁り、銀色に鈍く輝くソレを天に掲げた。


「ぷっぷきー!ピュピャピーキー!!(てってれー!マスターキー!!)」


 コレを鍵穴に差し込み、回す。

ガチョ……キィイ…………


 よし開いたあいた、慌ててこっちに向かってくるシェフの一人が扉を閉める前に、調理室に華麗に滑り込んだ。やるねぇ私。


「副料理長!トンちゃんが!!」

「プキピィぴきゃき!(トンちゃんですよ!)」

「追い出せ!!!!」

「ぷぴゃぴゃぴぴゃぷき!(お邪魔しますよ!)」

「無理です捕まりません!」


 料理長が用意してくれた消毒液に浸かり綺麗にし、側に用意されているタオルで足とお腹を拭き拭きする。この間は無敵時間なので、お外に出されることはない、消毒液バーリア。


「まだ追い出せてないのか」

「今トンちゃんが消毒液を拭いているので」

「今のうちに引っ掴んで外に投げろ」

「今は良いですが後で料理長に怒られるので……」

「今は俺がこの場を任されているんだ!」


 スサソソソと床を滑るように移動して、今日の賄いの内容を探る。ホタテ、イカ、錦エビ、トマト缶に玉ねぎ、しめじ、舞茸、ニンニクもあるわね。そして小麦でできた麺、スパゲティ。


「この子豚、ぬるぬる動くぞ……!」

「ふざけてないで早く追い出せ!!」

「すいません」


 成る程今日の賄いはトマトパスタですか。よろしいんじゃないでしょうか。トンちゃんもトマトパスタは好きですよ、美味しいので。

 ヒョイっと飛び乗った先で見付けたのはまな板。パスタソースに入れる具が横のザルに盛られている。

 キノコの下の硬いところ、石づきがついたままのしめじと舞茸、玉ねぎは茶色い皮が剥かれて白い中身が見えている状態。ふむふむ、これじゃまだ量が足りないわ。ザルにキノコを増やしておいてあげましょう。


「トンちゃんここに来てませんかー」

「お嬢様!いけません調理室に入る時はお靴を履き替えてください」

「トンちゃんは普通に入ってるもん」

「トンちゃんは扉の側の消毒液で洗っているので、こちらをどうぞ」

「リリーもお靴洗えば良いの?」

「お靴がボロボロになりますよ」

「それはいやぁ」


 ふむふむ、こちらはソースのベースを作っている鍋ね。ん?ニンニク入れるのそれだけ?足りない足りない、もっと入れてたほうがトンちゃんの好みです。

 ペーストにされたニンニクを入れている、ソース担当の人のところに飛び乗り、肘を押し皿を傾けニンニクペーストを全て入れさせた。


「ぷっきプキきゃきゅぴきっぷぅ(おっとお尻が滑ったわ)」

「ぉアッ!?皿ごと!!?」

「ぷぴゃー(あちゃー)」

「トンちゃん!料理長に怒られるの俺なんだけど!?」


 さ、次々。まな板で包丁の小気味良い音を立てている、最近新しく入ってきたばっかりの人の様子を見る。ザルに増やしたキノコには気づかれていないようだ。やったぜ。


「……いつもより量が多いな、賄いだからかなぁ」

「それ、何してるのー?」

「わっ、お嬢様?こちらは包丁があって危ないですよ」

「リリーもやりたい」

「だ、ダメです、領主様に怒られてしまいますから」

「なんで?リリーもう七歳だもん、できるよ」

「そういう問題ではなくてぇ……」


 よくやったリリー、そのまま困惑させといてくれ。そしてこの場のラスボスである、副料理長の元へと勇者トンちゃんは向かった。そうスパゲティの総量を増やすために───

 人間の頭のある遥か高みから見下ろされる子豚、四つ足を踏ん張り、調理台の上に飛び乗った。鼻をフンスと鳴らし、顔をキリッとさせて心の叫びを鳴き放つ。


「……」

「ぷきっ(いっぱい食べたいです)」

「…………」

「ぷぷききっ(子豚沢山食べたいです)」

「…………残念だったな」

「ぴっ?(ぴっ?)」

「もうスパゲティの量を決めて、今茹でている所だ、今更量を変える事などトントン風情には出来まい」

「ぷぅ……ぴき……(なん……だと……)」


 なんて酷い事をするんだ、ヨロヨロとよろめいたトンちゃんは、調理台の上に置かれていたパスタケースにしっかとしがみつく。

 嗚呼なんて酷い副料理長なんだ、トンちゃんとっても悲しい、賄いパスタ沢山食べたいです。傾けると穴から一人前が出てくるタイプのパスタケースを抱え込み、鍋に向けて。


「残念だったなァ!もうこの鍋の中に人数分のスパゲティは入れて茹でてあるとまてパスタケースを持つな開けるな途中から追加なんてしたら火の通りがバラバラになる!!」


 ジャカジャカ振り続ける私を慌てて抱えあげる副料理長、知るか、私は量が食べたいんだ。

 パスタケースの蓋の部分を後ろ足の蹄で挟み、ギュルルルっと外した。


キュポィッ!コンっ、カランっ……

ジャジャザザザザザババ


「プッキィぷきぷき(いっぱい茹でても)」

「止めろ子豚!お前は知らないだろうがパスタは茹でると増えるんだ!!これ以上の暴挙は」

「ぷーきぃPYO!(いーんだYO!!)」

ザラララどバシャシャ


「子豚!!!!」

「ぷぴゃぴゃぴゃきぴぴぴPUPIINぴPYO!!(隣の芝生はGREENだYO!!)」

「全部あああああああああ!!!!!?!?」

ばジャバシャーー


 パスタケースの中身は全て鍋の中へ入り、ぐったらぐったらと煮え続ける鍋のお湯。よっしゃトンちゃんアタック成功よ。

 私のお腹を両手で掴み、天高く掲げる副料理長はへなへなと床に崩れ落ち、低くなったその手からリリーが私を受け取った。


「トンちゃん、今日の賄いご飯キノコパスタなんだって、リリー達もちょっと食べて良いって」

「ぷき(うん)」

「あっちのテーブルで良い子にしててだってさ、行こトンちゃん」

「ぷき(うん)」


 リリーに抱えられ、テーブルまで連れて行かれるトンちゃん。その目には、床に崩れ落ちた体勢からゆらりと起き上がり、まな板の置いてある方へ向かう副料理長の姿。

 そして徐に包丁を取り、引き出しから石……?なんで石……??を取り出した後、なるほど、砥石か、包丁研ぐ石。そして包丁を研ぎつつ、料理の名前を呟き始めた。


シャコーッ…シャコーッ…シャコーッ……

「肉巻き……ポークソテー……角煮……」

「ふ、副料理長……?」


 美味しそうね。


シャコーッ…シャコーッ…シャコーッ……

「酢豚……チャーシュー……子豚の丸焼き……」

「あの……副料理長……」

「豚バラキャベツ炒め……ッ!!」

ジャコッ……!


 もやし入ってると嬉しいわ。



◆〜◆〜◆


 あぁ〜賄いウメェ〜〜。もちょちょちょと頰一杯にしながら食べるパスタ超美味い、マシュルウさんとこのキノコも美味い、キノコは火を通さず生で食べると危険だからね。山で見つけても食べられないの。

 専用のフォークでぐるぐると巻き、また一口もっ、と口に入れる。至福のひとときだ。


 キノコたっぷりパスタを頬張る私の右隣には、晩御飯が入らなくなるといけないからと少量盛られたパスタを美味しそうに食べているリリー。

 ソースをかき集めて飲み始めた私の左隣には、味見用に取り分けた、ちんまり小盛りパスタを食べた後、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている料理長。

 他の席にはお通夜みたいな顔をしている副料理長率いるシェフの皆さん。


 そんな顔してると眉間の皺が刻まれちゃうわよ、美味しい物食べてるんだからニコニコしなきゃ。口の周りを舐めていると、料理長が重々しい声色で話し始めた。


「……ソースの味付け担当は誰だ」

「…………おれです」

「ニンニクを入れ過ぎのように思うが、何故この量にしたんだ、お嬢様も食べるのであれば普段より減らしても良かったはずだが」

「トンちゃんが入れました」

「そうかぁ〜〜トンちゃんはニンニク沢山の味付けが好きだもんなぁ〜〜〜〜!」

「ぷきぃ〜〜!(うん〜〜!)」

「美味しいかぁ?そうかぁよかったな〜!」

「ぴぴぃ〜〜!(おいし〜〜!)」


 でしょ?美味しいでしょ??料理長にソースを盛って貰い、パンも貰って、またモグモグと食べ続ける。リリーはニンニクが辛かったようで、お水を貰って飲んでいる。

 皿に目を落とした料理長の顔が険しくなった、だからニコニコしなきゃ、眉間にクレバスが刻まれるわよ。


「具材の担当は誰だ」

「わ……私です……」

「キノコの量は何故この量にしたんだ?多くした分加熱をしっかりしないと食中毒が起きるぞ」

「すみません……量はもっと少なくするつもりでしたが、いつのまにかトンちゃんが増やしていたようで…………」

「トンちゃ〜〜ん、ダメだろう勝手に量を変えたらぁ〜〜〜〜」

「ぷぴ〜〜ぃ(ごめ〜〜ん)」

「でもキノコたっぷりのパスタが食べたかったんだよなぁ?も〜〜許可取らずに増やしたらダメだぞ〜〜〜〜??」

「ぴゃ〜〜い(はぁ〜〜い)」


 だってヌシ様の背中に生えるキノコをいくら取っても、他所に売られてしまって、料理としては使われないんだもの。

 パンを千切って皿のソースを拭き取り、最後まで美味しく食べているとまた料理長の眉間に皺が寄った、だからニコニコしないと眉間に三つも谷が出来ちゃうわよ。

 

「パスタを茹でたのは」

「私です」

「副料理長か。本当に君が茹でたのか?麺の硬さがバラバラだ、君が途中で茹でる量を増やしたとは思えない」

「そこの子豚が茹で途中にパスタケースの中のものを全て鍋に入れました」

「トンちゃん、美味しいパスタが食べたかったんだよな?いっぱい美味しいパスタが食べたかったんだよな??」

「ぷき!(うん!)」

「じゃぁ次は、最初から沢山食べたいってお願いするんだぞ?茹で時間が違うパスタは美味しくないからな〜〜」

「ぷぴぴぃぷぴ?(美味しいわよ?)」

「そうかそうか、分かってくれたかぁ、トンちゃんは賢いなぁ」


 美味しいわよ料理長。問題ないわ料理長。アルデンテ(歯応えが残る)、ベンコッティ(よく火の通った)、モルビド(柔らかい)、モッリー(茹で過ぎ)の全てが味わえてお得よ料理長。

 カラッと綺麗に食べ終えた私の頭を撫でながら、料理長はみんなに向かってこう言った。


「トンちゃんに妨害されてもここまで修正出来たことは褒めるべきだろう、よくやった」

「「「料理長……!」」」

「美味しかったけど、リリー今度辛くないのが良いなぁ、ね、トンちゃん」

「ぷぴピキャキャぷき?(私の味方ゼロか??)」


 これが……魔獣の身体に転生した弊害か……。ズズズと料理長の皿を引き摺り、フォークを刺してゾゾゾと啜る。美味しいの守備範囲が広がったのは良いが、人間の味覚とは変わってしまったらしい、パスタ美味しい。

 それはそれとして、人間の時に食べられなかった物も美味しく食べられるようになって嬉しいわ。ザゾゾゾゾと続きを啜り、無限の胃袋を持つ子豚は、今日の晩御飯はなんだろうなと考え始めた。


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