61.トンテンカン
ビスケットの道、飴細工の標識、チョコレートの川を泳ぐのはフルーツの魚。空をぷかぷかと浮かぶのは綿飴の雲、砂糖細工の芝生に転がり、蜂蜜が出るお花が寝転がる私のそばに咲いている。
「ここは……天国……?」
そうだ私、トントンに転生してすぐの時には気付かなかったけど、こういうのって普通夢かなんかでこんな世界に飛ばされるとかこんな能力あげるよとか、そういう説明を受けるものなのでは?
今がその時なのか?それにしては子豚ボディなのが謎だけど、前世の美少女(当社比)ボディ戻ってきて。
「とにかく、操られていようと見せられていようと、結局夢は夢なんだし」
レッツ夢の菓子パーリィ、ひとまずその辺に生えてる砂糖菓子っぽい匂いのタンポポを食べ───
◆〜◆
◆〜〜◆
◆〜〜〜◆
『起きるのです子豚!!!!』
「ぽピャェッ(ぽあェッ)」
『女神である私の話を聞かず惰眠を貪るとは、なんたる大罪!なんたる罪業!!そんな不敬を行うから魔畜生の身へと身をやつすのですよ!!!!」
『ぱぁ……?ぱぁぁ……??(はぁ……?おかし……??)」
『あゝなんて嘆かわしい、IQ5000の私が手ずから創り上げた世界にこんな異物が紛れ込むなんて……』
「ぽぁぁ……????(おかし……????)」
『矢張り一体一体手作りとはいかずとも、自動生成は止めておくべきでしたかね、そうだ、全生物が私を無条件に崇め奉るように今からでも設定しなおせば良いのでしょうか』
一体何が、私の夢のお菓子パーティはどこに、てかIQ増やしてんじゃねーよ馬鹿。今何時だと思ってんだこの馬鹿女神、迷惑って言葉を辞書で引け。
モゾモゾと身体を動かし、未だ開いたままの薄緑の画面に目をやる、馬鹿女神が煩いので音量を下げさせよう。
「ぺぴぷぺ(ヘイステ)」
ピロンッ
『ともかく世界の設定を変更する為にも、主な端末機能が入っているその女神権限を返して貰わぬ事にはど』
「ぷぴきゅーぴき(音量ゼロ)」
『おォ⤵︎』
今何時よ、ステの画面の端っこに付いている時計を見ると午前一時過ぎぐらい、寝かせろや。ころりと転がりまた手足を縮め──
『その手は桑名の焼き蛤!!!!』
「ォオワ(ォオワ)」
『ふっはっはっ、驚きましたか子豚、私とてまだ仮免許とは言えども神の端くれ、たかが人間の魂如きに好き勝手される謂れは無いのですよ』
「ぷぴゅぴゃーぴゃきゅき(仮免許なのかよ)」
『はっはっハァ!畏れなさい恐れなさい!!そして天羽の天羽の槌200着限定生産の小葵文の小袿を交換するのです!!!!』
「プッキキぷきゅぷき(結局物欲)」
謎パゥワーでステの音量ゼロを破ってきた女神(欲望の姿)、仕方がない、このままでは眠れなさそうだし相手をしてやるか。
衣服の欄を開き、女神の音声指示の通りにステの画面を突いていく、見た事無いブランドばっかね。トンちゃんちょっと見てて楽しいわ。
眠い目を擦りながら突いていくと、お目当ての商品が見つかったらしい。浴衣にしては変な形ね、日本史の教科書で見たことあるような……無いような形してる。何枚も羽織ってる形の、ほら、百人一首のお姫様が着てるような、それの裾の短いやつ。
絵に描いたような大和撫子といった風貌の、なっッッッがい黒髪のモデルさんが木でできた扇子を口元に当て、微笑んでいる写真が載せられている。
『そうです子豚、その木の小槌に両翼が生えているブランドです……これを着れば私も上位神の仲間入り……ぅへへ…………』
「ぴぴきぴぴキュキュぷキュキィ(神格が足りないと思う)」
『この耽美な薄黄蘗を地の色に、淡紅藤と裏葉柳で小葵文が刺繍されているんですよ!清楚な春の女神にピッタリじゃありません!?』
「ぴぃぴぴぃキュキュキュきゃきゅーぴぃ(清楚とは程遠い台詞だけど)」
『しかも地色に金糸が使われているので動くたびにキラッと光るんです!キラッと!!神々しいでしょう!!?』
「ぴぃぴぴきゅぴきっき(清楚さどこ行った)」
よく分からないが高級ブランドなんだろう、それを教習所で貰える信仰ポイントとか訳の分からないポイントで交換できるとか、女神教習所って一体どんなところなのかしら。
腕を組んで考えるも全くイメージが湧かない、なんせ私、車の免許を取る前に転生してしまったんでな。
『小紋にも盛り上げ刺繍がされていてとても素敵なんですよ!それと裾の方見て下さい、ほら、モデルの右裾のところ、ここに一羽だけミソサザイが刺繍されてるんです!!可愛いでしょう?素敵でしょう??ッカ〜〜ッ!これはもう私の為に作られたと言っても過言じゃないでしょう!!!!』
「ぷきぃき(過言よ)」
しゃーねー女神……そうか仮免許だから女神にもなれていないのかまだ……憐れな…………。キャッキャとはしゃぐ女神(仮)を可哀想に思った私は、一着カゴに入れてやった。
でもこの世界の神だからといって、私に特別何かしてくれている訳でもないし、ステータス、もとい女神権限はあんま使えないしで恩を感じている訳ではない。
てかまだ神でもないのに敬えってのがおかしいだろ、そういうのはもっとこの前の土砂崩れとかなんとかしてからにして欲しい、あの時助けてくれたのヌシ様だし。
それに見た目変えたからって偉くなるとは限らないでしょうに、貧乏神の話とか知らないのかしらこの女神(仮)、ん?懐かしの───
「ぴきっきピキュプキュキュキュプキキ??(超ロボット神大戦のプラモデル??)」
『子豚?どこを見ているのですか??まだこれに合わせた同じブランドの長袴を交換して貰わないといけないのですが』
「ぴぃー、キュきゅぅぴきゅきゅぅぷぷぷきゃぷきき(へぇー、巨大戦艦八岐大蛇)」
ポチィ
『子豚!?私プラモデルには興味ないんですが!!ちょっ!!?』
「プーキープッキョききゅきょーピーキーぷきゃきゃきょきょぴきょきょ(超神器装甲須佐之男命)」
ポチィ
『あっスサノオノミコトは知ってます知ってますけど私は要りません!子豚!!聞いているのですか子豚!!わざわざ数量限定周年記念版を買わなくてよろしい!!初回限定封入プレミアムキラカードなど私は要りません!!!!』
「ぷぴぴぷきぷっぷきゅ、ぴぷきゅきゃきゅぴぷぷぷぴぃ……(これを交換した方は、こんな商品も交換しています……)」
ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポチィッ
『止めなさい子豚!何故片っ端からプラモデルをカゴに入れるのです!?止めなさいそんな数量限定とか期間限定とか無駄にサイズが大きいやつとか止めなさい総生産数100個のプラモデルとか私より欲しい方が絶対いるでしょ信仰ポイントの減りがエグゥン゛ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!』
いやぁ良い買い物をした、男女問わず格好いいロボットって見るとテンション上がるよね、楽しかったわ。額の汗を拭き、蹄で交換を確定するを押し。
『ア゜ァ゜!!?カクテイ!!!?カクテイナンデェ!!!?!?』
交換が完了しました、またのご利用をお待ちしております。という文字を見て一息つく、中々良かったわよ異世界?神世界?のロボット、装備の無理矢理感も含めて魅力的よ。
今度は魔法少女的なグッズも見たいわね、どんな使い魔がいるのか……神様にはもう神使っていう名前で、眷属の動物がいるのか。じゃあ作りやすそうだな、魔法少女に白蛇の使い魔とかちょっと見てみたい。
『こ……こ…………子豚ァ!!あな、あなた今一体自分が何をしたか分かっているんですかあ!!?』
「ピピキュピきゃぴゃーきゃぷきょぷぷぴぴ(プラモデル業界への応援)」
『あんなにあった信仰ポイントがもう三桁しか無いんですよ!?三桁ですよ三桁!!?』
「ぷぷぴぴきゃぴーきょきょ(二桁ではないわね)」
『最近何故か放置してたらすぐ貯まるようになっていて、折角長時間放置して貯めて、今度の講習でアイツの鼻を明かすために交換しようとしておいたポイントを…………ッ!!』
「ぷピーププぷきゃぴゅーきゃピきャキャキャきゅ(マウントの取り合いは身を滅ぼすわよ)」
心にも財布にも大ダメージを食らうから、ここらで手を引くのが吉よ。ギャーギャーと騒ぎ立てる女神の金切り声を聞いていたら、そろそろ眠くなってきた。
コロンと横になり、目を瞑る。今世の転生先は大爆死したので、夢の中でぐらい超狡猾改造転生者になりたい、豚じゃなくて。
夢でぐらい夢見たって許されるだろ、育成される側のモンスターじゃなくて人で頼む、できれば箒に乗って飛べる世界線がいい。夢だから。
『も、もう許しませんからね!今こそ頑張って調べた"フセイニアクセス"という技法を使い、傍若無人な子豚に天罰を与える時!!』
「ぷぴーぴーきぷきゃきゃキャキキョ(違法行為開始宣言)」
『そこで見ていなさい子豚、吠え面かかせてぇ、ぇーと、ここがこうで、このコマンドが……?』
「ピピーきゅぴきゃきゅきゅきゃー(やっぱダメだわこの女神)」
『出来ました!』
女神が叫んだその時!トンちゃんの目の前に浮かぶステの画面に文字が現れた。
ピコンッ!
テロロロロロロロロロロ
[ 不審なアクセスを検知しました、ウイルスクラッシャーの機能を使用しますか?
⚠︎20秒以内に決定されない場合、自動で不審なアクセス元をクラッシュします。
【はい】 【いいえ】 ]
まぁ、アクセス元は分かってるけど、はい。
『私の子機端末が固まった!!?!?』
女神の悲鳴が聞こえ、続けて忙しなくガタガタと何かを動かす音がする。そして、すぐにステの画面に文字とハンマーの絵が出た。
[*不審なアクセス元をクラッシュしています*
Σ三 [_______] ___
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| ーーー| | ☆ *
\\|__| // *
*しばらくお待ちください* ]
「ぷぴピピキュ(絵が間抜け)」
『データ削除!?なんで!?なんにも悪いことしてませんよ私!!!!』
「ピピプピキューキュききプキャプキキぴーきゅきゅぴゃ、ぴゃぷ(その領域はホワイトハッカーしか許されないのよ、たぶん)」
『アッ!?なんで再起動できないんですか!?ドウシテ!!?!?』
「プキュキュキュききぷぴぷぷぷプププ(異世界のウイルス対策ソフト激強)」
『デリート!?ゼンブ!?ナンデ!!? 全部削除なんで!!?!?』
「ぷぴぷぷ(凄強)」
成る程Buster(撲滅)じゃなくてCrusher(粉砕)、悪を撲滅じゃなく粉砕するのはスゲェな、ワーキャー叫んでいる女神の声を聞きながら、ステに次の指示を出した。
「ぷぴぷぺ(ヘイステ)」
『ハァ!?なんで!!?どして!!?!?なにが!!!?!?』
「ぷピィプピキュキュぴぷぷぺーぴぷきゅきゅぴ(不正アクセスを運営に報告)」
『WHY!!!?!?!?』
悪い事はするもんじゃ無いわね。ステの画面にクラッシュが完了しましたの文字が出たので、画面を消そうとし。
[ウイルスクラッシャーのアップデートがあります、実行しますか?
☆アップデート内容
・速やかにハンマーを振れるよう強くなります
・ハンマーの威力が上がります
・女神権限を守るためガードを固くします
その他細かな修正
アップデートを実行しますか?
【はい】 【いいえ】 ]
「……ぷぴぷキュゥキュキャキュぷきききゅぷきゃきゃ(……これ以上強くなるのかお前は)」
はいを押すと、真ん中に輪っかが出て二、三度くるくる回り、アップデート開始の文字。ありがとう異世界産アンチウイルスソフト、ありがとう無料アップデート。
これで私の安眠は守られた。畳んだ毛布にもふりと頭を乗せる、きゅぅと丸まり目を閉じる、お休みなさい、せめて夢の中でぐらい、私がスーパーチート転生者に……。
「ぷき……ぷき…………(なり……たい…………)」
異世界産スーパーチートウイルス対策ソフトじゃなく、私が、無双したい…………。
ぴきー、ぴきーと子豚の寝息が部屋に響く、このまま朝まで優しい眠りの中に───
「トンちゃん起きてー、リリー喉渇いちゃった、一緒にミルク飲みに行こ」
寝かせろ。
「ついでになんかオヤツこっそり食べよ」
今起きるわ。
アカウント【beautiful*megami】は音声のみ送信を許可されています。
『あの子豚、私の事を一体なんだと思って……!ふふん、しかし私はデキる女神、データのバックアップは取ってあるのですよ!』
五分後
『再起動、これですね、ダウンロード、と…………ふむ、データが落ちてくるのに案外時間がかかるものですね、最近産まれたという"ぱーそなるこんぴゅーたー"?の神が作ったものはよく分かりません』
十分後
『暇ですねぇ……まだ8%ですか』
二十分後
『……1%も増えませんけど?一体なんなのですか、このっ、早く100%になりなさい!』
三時間後
『はぁ!?ダウンロード失敗!!?再起動して下さい!!?!?意味がわかりません何故失敗するのです!?』
六時間後
『…………ほぅ、案外、作りは良さそうですね、この玩具……は!?自分で組み立てるのですか!!?しかも箱の中に最低限のツールすら無しとは不親切な……!!』
三分後
『…………なるほど……爪切りで』




