6.ラジコン・モンスター略してラジモン
───アンテナー。
この世界にも発音記号があるならばアのところに大きなアクセント記号が付くだろう、発音リズムはタンタターだ。
黄色いMのお店の黄色と赤のストライプが眩しいストローと同じサイズの棒で、刺した魔獣の大きさに合わせて収縮する優れ物。
まぁそれはどうでも良いんだけど、この細い棒を魔獣の頭に刺すことでリモコン操作できるようになる。どうやらその仕様はゲームと同じらしい。
そのブッ刺すモノを笑顔で私に見せてきた少女。その少女が今、私の目の前でニコニコニコしてこちらを眺めている。
「こぶたちゃん、ごはんおいしいー?」
「ぷきぃ!(まぁまぁね!)」
私がご飯をもらいたがっていた事を察してくれたようで綺麗なリボンを首辺りにつけられ、少女の部屋へと拉致された後、私は人間が食べるのと同じパンと野菜の入ったスープに漸くありつく事が出来たのだ。
お腹は空いてたけど決して散らかして食べたりなんてしない。私はお上品に食べるように極力努力した。だって折角綺麗に洗って貰ったのだし、またあのワンちゃん達の所に戻されたくは無いしね。ここで媚を売っておけばこの先も美味しいご飯にありつける事間違いなしなのだ。
「でもねこぶたちゃん、あんてなーつけないとダメなのよ?いまはお兄ちゃんから貸してもらってるけど……」
「ぷききぃ(お断りね)」
「あとななにち、いいこにしてたらわたしのあんてなーがもらえるの!かわいいのだと良いなぁ」
「ぷきゅきぃ(可愛くても刺すのは嫌よ)」
ご飯を食べる私をニコニコしながら見守る少女がいうには、あの赤いアンテナーはこの子の兄の物で、一週間後のお誕生日にキチンとした彼女用のアンテナー&リモコンセットがプレゼントされるらしい。
どうやら自分専用の物がまだ無いから取り敢えず兄の物をブッ刺そうとしていたとそういう事だ。自分のが手に入ったら刺し直すつもりだったとか言われている。ヤメてくれ何度も頭に刺したり抜いたりするもんじゃないだろうに。
モゴモゴと口に入ったパンを噛みながら少女の話を思い返す。さっき私が拒否した事で自分専用のセットが来てからにすると決めたらしい、ブツが到着してからブッ刺そうと思ってる訳ねー、やめてねーちょー痛そーー。
今もペラペラと自分の事をお喋りしているけれどまさか私が貴女の言葉を理解しているだなんて露ほどにも思って無いのだろう。
しかし、こんな事ならあのゲーム、説明書ちゃんと読んでから始めれば良かったわ。どうせチュートリアルがあるからって面倒でそんなの読まないでやってたからなぁ。
「だからね?あんてなーがきたらわたしのらじもんに……こぶたちゃん??」
そうそう、チュートリアルで最初の魔獣にアンテナーを刺すんだけど、この少女の住んでるお屋敷。多分所謂ゲームでの“最初の町”の建物よね。魔獣の住む森に隣接する領地の領主の居館。ゲーム内での回復とセーブポイント。
くあーぁ、お腹がいっぱいになったらなんだか眠くなってきたわあー。私、このままこのお部屋で寝てても良いわよね?動物枠だし、かわゆい子豚だし?寝る子は大きく育つのよ。
不思議そうにこちらを覗き込んでくる少女の手が頭に乗ったが気にしない、ふわふわとした気分のまま目を閉じると、身体をそっと持ち上げられる感覚がした。
その日あの犬共のところへは戻されず、まだ名前も知らない少女のベッドで抱き枕よろしく抱きしめられながら私の意識はまた黒い闇の中に溶けていった。