表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
58/113

58.ポケットの中の土砂草おまけに虫


 物事にはバランスというものがある、一方でふざけたのならば、もう一方は真面目にやらねばならぬと私は思う。しかし、この世界の女神(爆笑)の辞書に、真面目という文字は無いようだ。

 そこは不可能を無くせよとは思わなくもないが、あの女神初心者にそれをいうのは可哀想だろう。


 未知の魔獣に目を輝かせるお兄様と、豚頭が痛くなってきたトンちゃんの目の前で、そのなんとも言えない足を曲げて石段に座り、その辺に生えていた多分、茗荷、を毟って齧る鳥型魔獣。ミョウガサマ(ステ情報)。

 それで、さっきからホーホーホッホッと長ったらしい説教を聞いている訳だが、なんで?トンちゃんお家帰りたい。


「ホッホッホッホッホーッホッ、ホッホッホォウッ(最近の若い者は礼儀というものを知らんのか、嘆かわしい)」

「キャンキャァンッ!(その通りでございます!)」

「ホッホッホォォウホッホホッ、ホッホッホーッホッホッ、ホホホッホォ、ホーッホッホッホッホォホ〜ッホホッ(数十年前までは麿の事をやれ山の守神、やれ茗荷山の茗荷神と祀っていたというに、最近はとんと訪れぬ、人の子はなんと愚かで自分勝手なものか)」

「キャウキャゥンッ!(全くにございます!)」

「ホッホッホホホッ、ホーッホッホーーッホホッーホッホッホオッホォ、ホーーッホッホッホッホホォホッ(供物の量も今では零だしのぉ、嗚呼ミョウガサマ村をお救い下さいと麿に何度も泣きついて来たというに、用が済めば路傍の石のような扱いとは)」

「「キャンキャゥンキャン!!(ああ恨めしや!!)」」


 いや私知らないし、帰って晩御飯食べたいんだけど。木々の隙間から見えるお空はもう夕焼け色だ、カラスは鳴いてないけど帰りたい。

 空中の何も無いところを見つめて、鳥一羽と犬二匹の鳴き声を右耳から左耳に抜けさせていると、隣でじぃっとミョウガサマ達を観察していたお兄様が話しかけてきた。


「トンちゃんごめん、通訳してくれないかな、この鳥魔獣が何を伝えたいのか全く分からないんだ」

「ぷぴゃぷぴゃぷきぃっぷぴぃ、ぴぴぃぴぴきゅぴぷきゅぴきゅう(昔は良かった理論よ、毒にも薬にもならないわ)」

「はい、小石」

「ぴゃーぴきゃぴ(しゃーないわねぇ)」


 とは言ってもマジで毒にも薬にもならんのよな、要約すると「麿を敬え貢物を寄越せ」になるし。ここはオブラートに包んで伝えるしか。


『麿 敬え 貢物 寄越せ』


「なんだか偉そうだなぁ」

「カーーーッッッ!!!!(なんじゃとーーーーッ!!!!)」

「ぷきぷきゅきっぴきぷきゃぴきゃー(やだ私ったら蹄が勝手に)」


 私ったらおっちょこちょいなんだから。プキュッっと頭を軽く叩いて舌を出すと、ぶわっと羽を膨らませたミョウガサマがこちらを威嚇し始めた。


「ホーッホホーーッカーーッ!!(麿を愚弄するかこの童!!)」

「キャンキャン!キャキャン!!(ミョウガサマ!お鎮まり下さい!!)」

「ホォホホホォホッホォ、ホーッホホッホッホーーッホホホホッ、ホーッホホホーッホホーッホーッカーーッ!!(数十年前もそうじゃった、村の為に薬草を育てていた麿に向かって、恩を仇で返そうと"あんてなー"なる物を突き刺し殺そうとしてきおって!!)」

「キュゥン!キャウキャゥンキャウキュウン!!(ミョウガサマぁ!怒りをお抑え下さいませぇ!!)」

「ホッホホホッホホォ!ホーッホーーッホホッホッカーーーーーー!!(えぇい温厚な麿とはいえ我慢ならぬ!また山に人の子ひとり入れぬ結界を張ってやろうぞ!!)」

「キャンキャウキュゥ!!(ミョウガサマぁ!!)」

「トンちゃん鳥魔獣はなんて言ってるの?なんで怒ってるの??」

 

 首を最大限までにょんと伸ばし、バサバサと羽根を振り回しながらそんな事を喚き散らすミョウガサマ、駄々っ子か。

 いきなり怒りだしたミョウガサマにオロオロとするお兄様の足元で、蹄に持っていた小石を地面にコツコツとぶつける。てかさ、アンテナーを刺そうとした人間はたぶん悪いんだけどさ。


「ぷきゅぷきゅぅぴきゅきゅう?(その結界が悪かったんじゃないの?)」

「ホ?(ホ?)」

「ぷききぴきゅぴきぃ、ぷきゅきゅぴきゅぷきき(人っ子ひとり入れないなら、ここの祠まで貢物持ってくるの無理じゃん)」

「ホ?(ホ?)」

「トンちゃん、一体何を言ったんだい?」


 よく知らんけど、結界あったら持ってこれないじゃん、ここまで。

 地面にガリガリと文字を書いて、私が知らない所をお兄様に聞いてみた。


『いつから 山 人 入れない ?』


「うーんと、長くなるんだけど、ひいお爺様の代の時に山向こうの村が経済的に立ち行かなくなってね、チュートリアの町と合併したんだって」

「ホホ?(ホホ?)」

「美味しい山菜と、香りの良い茗荷が取れる村だったんだけど、あ、この茗荷が凄くてね、花茗荷食べれば病が治り、茗荷竹食べれば寿命が伸びるって言われるぐらい体内の浄化作用が」


『それは後で聞く』

 私はピッと蹄を立てたポーズで地面に書いた文字を指してお兄様の薀蓄をぶった斬る。だって話長いんだもん。


「そっかあ……で、古い記録が残ってるのは確か八十年ぐらい前からかな、山に人が入れなくなったのはお父様が産まれる前みたいだ、でもミョウガサマ?っていう山の守神にお供えをする文化は無くなってないんだ」

「ホホホ?(ホホホ?)」

「山裾はちょっと入れるから、ミョウガサマ山菜を少し頂きますよって、麓のお供えする場所に何か置いてから入るのが定例化してるんだよ、僕も山に入る前に置いたんだけど、僕のピイピイがいくら呼んでも来なかったから一回家に帰ってトンちゃんを連れて来たんだよ」

「ホ───?(ホ───?)」

「それでねトンちゃん、この山の茗荷には血流を促進してくれる効果が大きくて煎じて他の薬に混ぜると」


『その説明は帰ってから聞く』

 また始まりそうな薀蓄を再度ガリガリっとした地面を指し示してまたまたぶった斬っておく。だって話が長いと帰るの遅くなっちゃうもん。


「そっかあ……」


 お供物は一応あったわけね、山裾のところにだけど。口をポカーンと開けて固まっているミョウガサマ、敬われてんじゃないのよ、今でも。わかったら早く私達を家に返しなさいよ。


 尻尾と眉を垂れさせ、心配そうにミョウガサマを見つめる二匹のパピコマ達、いいから早よ家帰せってば。首を縮めて俯いたミョウガサマが、ポツンと一声鳴いた。


「…………ホーーゥ、ホホーーゥ(…………すまんかったのぉ、麓まで送ろうぞ)」

「トンちゃん一ついいかな」

「ぷきぷっきぴきゃぴきゅぴぴぃぷきっき(今やっと帰れる所だから黙って)」

「茗荷を持って帰っていいか聞いて欲しいんだけど」

「ホゥホゥ、ホォーーッホォ、ホッホッ(良い良い、帰りにたんと持たせてやろう、またおいで)」


『良いよ』

オッケーポーズで伝えてあげる。だから早よかえろって。


「やった!これでお父様へのお土産もできたし、お母様に怒られる時間が減るぞ!!」

「ぷきゃぴゃきゃきゅきゃーぴきゅ(許可貰ったんじゃないのかよ)」


 考えてみりゃそうか、穢れ神ではなかったけど人知が及ばないナニカが居る山なんて子供だけで行かせたくないわな。結局連れてきたのは中身が転生者と言えどもトントンなんだし。

 ぶちぶちと遠慮容赦無しに茗荷を毟るお兄様、あーあーあんなポッケいっぱいにして、メイドさんの眉間に皺が寄るぞアレ。



 あと、アンテナーについて忠告しておかないとな。

 パピコマにペロペロと両側から舐めまくられているミョウガサマの方を向く、それにしても見た目が茗荷に脚生えたまんまね。


「人間が頭にアンテナー刺してこようとしたって?」

「そうじゃ、麿を殺し、山を自分の財産にしたかったのじゃろう」

「別に刺されても死なないわよ、操られるだけで」

「なんと」

「絶対に刺されない事前提だけど、子供が刺そうとしてきたら一緒に遊んでやればいいわ、大人が刺そうとしてきたら金が欲しいだけだから全力で倒して良いわ、それなら山に人が入っても平気でしょ」

「……殺そうとはしておらんかったのか」

「初手で頭狙ってくるんだもの、そりゃ殺されるって思っても無理ないわよ」

「…………人の子等に、また茗荷を取りに入って良いと伝えてくれんかの」

「そのうちね」


 頭に細長い何かを刺されかけたら?んなもん人間でもビビるし逃げる、二度と刺してきた奴に近づいてなるものかと警戒するのは当たり前だ。

 コートの表から裏、ズボンのポッケ、手袋の中に至るまで茗荷やら他の植物やらを突っ込んできたお兄様が満面の笑みで走ってくる。


「トンちゃん凄いよ!沢山採れた!!」

「ぷきゃぴきゅぴきゃきゃぴき(洗濯係泣かせね)」

「ホッホッホ、ホホッ、ホーホーッホホッ(元気な童だのう、よし、振り返らず歩いて行け)」

「なんて?」


『振り返るな 道なり 歩け』 

 面倒臭いけど私がお兄様にミョウガサマの言葉を伝えてあげないといけない。

 しゃーないからさっきの小石を使って地面にガリガリする。



「そっか、ミョウガサマ、でいいのかな?ありがとうございます」

「ホッホッホッ(ホッホッホッ)」


 こうしてお兄様とトンちゃんのクソ長ハイキングは終わり、帰りはミョウガサマの魔法なのか、歩いて五分も経たないうちにチュートリアの町まで着いた。

 空を見上げると、星々が美しく輝いて───


「ぷきぷっきゅぷきゃきゃきぴきゃきゅ(これめっちゃ怒られるやつじゃん)」


 屋敷に帰ると表情が百二十パーセント抜け落ちたお母様が門の前に立ってたし、私の料理長特性本気調理晩御飯は無くなっていた。

 そんなトンちゃんのナップサックの中には、採れたての茗荷がたぁんと詰まっておりましたとさ。


 とっぴんぱらりの、ぷう。



翌日

「見てみてトンちゃん、ミョウガサマの山から持ち帰ったヨモンギから抽出した液なんだけど、他の山のヨモンギより香りも味も濃いんだ!」

「ぷっき」

「これは地質の問題なのか、それともヨモンギの種類が違うのか、大発見だよ!」

「ぷっきき」

「茗荷も山の麓、アリュートルチ領で栽培していた物より大きいし香りも良い、ミョウガサマが居ることで何か植物の育成状態が違うのかなぁ……」

「ぷっききき」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ