53.税金って何につかうの?
前日、簡単に作れて売れるボードゲームを粗方取られて絶望していた私、転生系子豚魔獣トンちゃんだが、ある物はまだ売られて無いのではと思い付いたのである。
この国の流行最先端の帝都に住み始めたシャスタくん(10歳:学生)に聞くところによると、人生をサイコロで決めるタイプのテーブルゲームなるものは無いらしい、やったぜ。
それと同時に、チンチロリンなるものが研究者の間で流行っていると聞いた、よく分からないが賭け事であり、サイコロを使うという事だけは子豚でも理解できた。
つまりサイコロはあるし、その出目によりなんか決める文化はこの世界にもあるということだ。
その話を聞いて、トンちゃんは自分の口座の数字を増やすため、美味しい物を食べまくる生活を続けるために、この世界のゲーム業界に殴り込みをかけようと決心したのだ。
料理長から貰った賄いペペロンチーノ野菜大盛りニンニク増し増しを啜りながら、商売人トレードさんへの手紙を書き綴り、カモラインネストアリュートルチ領支店にて帝都カモライン本店への手紙を託す事にした。
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また噂のトンちゃんが来たようだ。カランカランと鐘の音が鳴り、いらっしゃいませと椅子から身体を起こしたこの店でただ一人の店員である自分が見たものは、ナップサックを背負い、首のターコイズブルーのリボンから黄色いクレヨンをぶら下げたトンちゃんだった。
今度は何を買いに来たのだろうか?この前売った蝋燭とマッチで、アリュートルチのお嬢さんとお外で何故か集めた枯葉を焼いて怒られていたのは知っているが。ジャガイモを焼こうとしていたらしい、よっぽど食べたかったのだろう。
アレから、子供が扱っても危険では無いものだけ売ってくれと、チャーリーさんに懇願されてしまった。面倒な事はしたくないんだがなぁ。
心なしかキリリとした顔のトンちゃんを抱えて、カウンターに乗せる。椅子に座るとナップサックからゴソゴソと紙を取り出し、蹄で器用にクレヨンを掴むと何ごとかを書き始めた。
「いつも有難うございます、ご用件は」
『トレードさんに 手紙 出したい』
「マリーお嬢様にですか?」
『リマ・トレードさん』
「会長にですか……」
トンちゃんから個人的……いや、個豚的に何を手紙に書いて送るんだ?首を傾げていると、丁度報告書を取りに来たリマ会長のカモラインがカモライン専用窓から入ってきた。
正直田舎だから虫が多いし、ブンブンと入ってくるのが鬱陶しいから窓を閉めたいが、一回正面入り口からカモラインを入れようとしたらガラスにぶつかって気絶した。まだ気絶させた事は会長にはバレていない。
カモラインを見ているトンちゃんにお茶でも出すかと考える、トントンでも客は客だし、しかも会長の客だし。席を立ち、売り上げ報告書を持ってくる旨を伝えた。
「トンちゃん様、これから報告書を会長に出すのでお手紙を一緒にお送りしますね、少々お待ちください」
「ぷきっ」
「お飲み物をお持ちしますが、紅茶でよろしいですか?」
「ぷぅきっ」
「では失礼します」
それにしてもこの支店、変な客が多すぎる。パックの安い紅茶をお湯に浸しながら思い返す。
買い物の後何故か作り過ぎたからとか言ってご飯を置きにくるお婆ちゃん。
家に置いておいても腐らせるだけだからと正規品にはならないが新鮮な野菜を置いていく爺ちゃん。このへんは成人男性の胃袋が無限だと思っていると思う。
奥様も旦那様も、子供も、買い物ついでに皆んな何かしら置いていく。ある時は玩具の木の小舟を買った子供に、ツツジの花をカウンターの上に並べられ、カルテ兄ちゃんは仲間だから食べてもいいぞ!と言われた時は困惑した。蜜は甘かった。
文字を書くトントンといい、ここの領地の住民といい、なんだかふわっとしているような気がする。茶菓子を探したが良いものが無いので、仕方なく今朝買い物に来たお婆ちゃんに貰った干しトマトを持っていく。
すると、カモラインに一生懸命手紙という名の画用紙をを持たせようとしているトンちゃんが、首を傾げられている所だった。
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託した、希望を。しかしそのカモラインが中々飛んでいかない。矢張り封筒に入れた手紙じゃないと駄目なのか、それとも筒に丸めて入れないと駄目なのか?
クレヨンで説明を書いた三枚の画用紙を丁寧に折り、一応保護用にもう一枚紙で包んだ手紙を渡したのだが首を傾げたまま一向に飛び立たぬ。何故だカモラインよ、その胸の勲章っぽいのは飾りなのか、マジで飾りなのか??
「ちょっとせめて咥えるなりなんなり頑張りなさいよ、ねぇ、ちょっと」
「ライン?」
「らいん?じゃなくて、ちゃんとトンちゃんからですって伝えるのよ、わかった?」
「カモライン」
「真面目にこれが鳴き声なのかしら?一回トンちゃんって言ってみなさいよ」
「と……ト……トト…………」
「喋れるんじゃない、トンちゃんよ、ト、ン、ちゃ、ん」
と、とと、トトト、と、何度か発生練習をした後、カモラインが真っ直ぐこちらを向いて得意げにこう鳴いた。
「トンライン!!」
「ブフッ!」
振り向くと、カモネスの店員さんが口を押さえながら溢した紅茶を拭こうとしている所だった。なんてこったい、ちなみにカモラインは羽を広げて、ほら言えたぞどうだ凄いだろって顔してた。
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そんな訳で見本完成品がこちらです。私の前には"農民暮らし"と"貴族暮らし"、と書かれた人生をサイコロの目で進めて決める所謂双六的遊戯の玩具。二つも作って貰ったぜ。
三つ折りにされた厚紙を開くと、長い道のマスが並んでいる。端のところに、ルーレットを付けるやつもあるよ、アレをゴガーーっと回すのがスカッとするのよー。サイコロじゃなくてルーレット回すタイプって最低三回はルーレット吹っ飛ばすよね。
駒は女子トイレのマークみたいなやつ、この世界の通貨は金属のコインだけど、紙にしてもらった。
その方が材料費安いし、単位はジラ、ゲーム特別の単位にした。あとイベントカードと借金免除カードもある、金の子豚印の玩具だぜ。
早速、リリーと見本で遊んでみることにする、遊ぶことで改良点が見つかることもあるからね。実験実験。
「トンちゃん凄いね!リリー初めて見るやつだよ!!」
「ぴぴきぷきぷききゅきゃーびきゅきぴぃぷきゅぃピピー(当たり前でしょ似たやつ出てないか滅茶苦茶調べたんだから)」
「だからトンちゃん最近お父様に領地経営の事を聞いていたんだね、僕にも農家の人が困る蝗害とか聞いてきたから何かと思ったけど、これを作るためだったのか」
「ぷピピきゅぴきゅぷきゅぴきゃープギャぷきょプキキィぷきぃ(ヒゲオヤジに聞いてもヒゲの武勇伝しか出てこなかったから執事さんに聞いたわ)」
領主の仕事のふわっとした概要を知るために、五回ぐらい話の中で川の橋が流されて、それを直すためにヒゲオヤジが嵐の中馬を飛ばした話を聞いたわ。六回目のループが始まった時に逃げ出したわ。
どちらにも税金システムというものを導入した。自分の番が回ってくるたびに、農民暮らしならば税金ランク1で1ジラ、ランク2なら5ジラ、ランク3なら10ジラ払わなくてはならない。
払ってないとマイナスイベントで橋が壊れたり、土砂崩れで道路が封鎖された時に領主が直してくれない。
「リリーあんまりお金払いたく無いからランク1にしておいたのに、橋壊れちゃった、ルーレット回すねぇ」
「ぷぴぃぷぷ、ぷきぷぅピピキュピギャぴぷーキャキャキョキャァぷきゅぷきゅぃ、ぴっききゃキュー(かかったわね、税金ランク2以上じゃないとルーレットで2が出ないと直してくれない設定になってるのよ、精々慌てるが良いわ)」
「やったぁ!リリー2だせたよトンちゃん!!」
「プキ……ぴき……!?(なん……だと……!?)」
貴族暮らしならばランク1で1ジラ、2で5ジラ、3で10ジラ貰える。しかし、領民の頼みを聞いて色々直したり買ったりするのは税も含めた自分の財布なので、アイテムカードを買いまくったり、お茶会に行きまくったりしてると一揆を起こされる。
この時にランク(税収)を高くすれば高くするほど、一揆マスを踏んだ時の損害が大きくなるのだ、だからといって税を取らないでいると出費が多くなる。貴族暮らしには買い物マスが多いから。
どちらの税金ランクも、自分の番が回ってきた時に上げたり下げたり出来るわ、今から税金下げまーすも、上げるから今10ジラ寄越せも出来るの。
それにしてもルーレットが硬いわね、もうちょっと軽い素材が無いのか要相談ね。木でできたルーレットと、その羽を睨み、蹄で思いっきり回した。
ピシュンっ!カッ、コッ、ガン……
「あー、トンちゃんルーレット飛ばしたぁ」
「ぷぷぴぃ(おだまり)」
どこかにもっと軽くて丈夫な素材が無いかしら。
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農民暮らしと貴族暮らしの売れ行きは好調なようだ、だって料理長が特盛フルーツパフェ生クリームとナッツ増しましを私の前に置いても、ヒゲオヤジが何も言わなくなったから。やったね。
一番の問題だった回しゴマ部分はミウの町で海にぷかぷか浮いていたペトリンという、透明な魚魔獣から作られるこの世界のプラスチックで作り直された。
食べる所が無い魚魔獣であるペトリンは、網にかかる死骸を回収され、プラスチック製品へと作り替えられるらしい。エコね。
ただ、生き物だから死体は自然に還るのがはやい為、この世界のプラスチック製品は加工しても自然物なので、ゴミとして埋めれば土に還るらしい。この点だけは女神を褒めてや…………ご都合主義……ウッ頭が!
魅惑のフルーツパフェをトンちゃん専用スプーンでちびっと掬って食べる、うむ美味い。前世の知識様々ですな。爽やかなフルーツの甘味と、優しい生クリームの口溶けが嬉しい一品です、うまままま。
「どうだ?トンちゃん美味いか??」
「ぷぴぴきゅーぷきゅー(めちゃうまーうまぁー)」
「そうかそうか、美味いか、良かったなぁ、南の方の領地のしかも温室で大切に育てられているフルーツなんだよ、帝都に居た時からの付き合いであの家のフルーツは他の所より糖度が高いんだ特に苺がとても……」
乗せられたフルーツについての説明を始める料理長を他所に、私は豚の貯金箱を脳内に思い浮かべる。これでまた一つ、私の口座に金が入る金脈が作られたわけだ、チャリンチャリンと金貨が入るイマジナリー豚の貯金箱。
試作品から製品が出来上がるまでトレードさんとの打ち合わせに何度も引っ張り出されたヒゲオヤジが文句を言ってきたが、屋敷までヌシ様を呼んで、背中のキノコを取って渡して黙らせた。
本当に強い者には弱いを地でいくわねあのヒゲ、顔が真っ青通り越して真っ白だったわ。
「それでなトンちゃん、生クリームはここの近くの酪農家から朝一で買ったものなんだ、どこの酪農家か分かるか?」
「ぷぴぴぴにぴぃ、ぴききぷきゅぴぃ(貯金もできたし、大人買いをしに行きたいわね)」
「トンちゃんは賢いなぁ、そうだぞ、ジャージーさんの所の牛から搾ってきたんだ、あの家の牛は健康状態も良くて食べさせる餌も良く考えられ……」
早く豚魔女(二段進化)形態になりたーい。豚鼻を鳴らして、明日倒すスライムでせめて一段上の進化はしないかなと、希望を胸にスプーンを動かした。




