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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
52/113

52.その名前は駄目だと思う


 あの後、お茶会は無事終わり、セシリエちゃんとバイバイして、シャスタお兄様と合流して、帝都のお店とか、トレードさんのお店にも寄って帰ってきた。黒鴎商会の本店、その名はカモラインネスト、通称カモネス。

 雑貨屋っていうか何でも屋みたいな感じだったわね、コンビニみたいな。サンドイッチのような軽食とか、日用品とか、あととにかくお菓子が色んなのあった。ズラっと並んでて自分で袋に入れて、重さ測って払うやつ。

 (ここ)から、反対の(ここ)までってリマさんに言ったらヒゲオヤジに怒られたのよ、酷くない?


「ぷ、ぴぴぴぷぴ、ぴきゅぅぷキュキュウぴぷぷぴぴぅ(と、いうことで、ここは前世の知識チートを使おうと思うのよ)」

「トンちゃんリリーにもお煎餅ちょーだいよ」

「ぴにゃ(いや)」

「トンちゃんのケチぃ」


 自分用のお土産に買った袋を開けてバキボキと硬めの煎餅を齧り、考える。最近続けている料理長を使った暴飲暴食の宴は美味しいし楽しい。しかし些か、子豚最近めちゃ美味しいもの食べ過ぎなのではという説も有力視されている。

 子豚一匹が食べる量こそ、そこまでではないと思うが、ヒゲオヤジの部屋から聞こえてきたある言葉が耳の奥に引っかかっているのだ。


『明らかに食費が高くなっているな……料理長め人間より豚に良いもん食わせやがって……子豚の分は子豚のところから引いておくか…………』


 いくらヌシ様の所からキノコを掻っ払って来ているとしても、周りの人からしてみればアリュートルチ家のリリーのラジモンという認識であり、この家に身を置かせてもらっている状態だ。

 中身が人間ということもカミングアウトしていないので、人々のトンちゃんの認識としては、ただの超可愛い凄くご飯をよく食べる子豚である。なんてこった。このままではいけない、トンちゃんは売れる商品を作る事にするぞ。


「ぴきゅぅピププぴぃぷきゅぷきゅぃピキューぴぃぷぷぷき(だからここらで一発新しい金脈を作っておくべきなのよね)」

「トンちゃん何始めるの?折り紙?リリーもやる」

「ぴっぴーピキューぷきゅきゅきゅプピキィぷきゅぷきーぷきキー(やっぱ売れるのは娯楽よねボードゲーム作りましょオセロにしよっと)」

「見てみてトンちゃん、リリーねぇ、チューリップ折れるんだよ、すごいでしょ」

「ピププぷきゅぷきぷきぃ、ぷぴぴキャーぷキャプキィプッきゅぅぷぴぴぷぴぃぴぃ(ただ白い紙を丸に切って、片側黒に塗って紙に適当にマス目描けば作れるなんてお手軽よねぇ)」

「トンちゃんハサミ使うの?トレードさんに作って貰ったやつ」

「ぴっぴきぴぃぷきゃ?ぷきゃープキョきぃー(よぉしこれで経済無双?とにかくなんか無双できるわ)」


 そいでもってカモネス本店でこっからここまでするんだい。大きな希望を胸に、小さな蹄でリリーから奪った画用紙にマス目を描いた。あとは紙を切り取って片面黒に塗って、トレードさんに説明すればよい感じにオセロを作ってくれるはず。

 蹄の形に合うようオーダーメイドしたハサミを使い、一生懸命丸を切っていると、リリーが折り紙に飽きたのか仰向けに転がりながら話しかけてきた。今忙しいんだけど。


「トンちゃん何作ってるのぉ?」

「ぷぷぴぴ(オセロよ)」

「紙をー、丸にしてー、裏塗って……ゲーム?」

「ぷぴぷ、ぷきゅぅぴぴきゅぷぅ(そうよ、リリーにしては冴えてるわね)」

「なぁんだオロロ作ってたのかぁ、それならお家にもうあるよトンちゃん!一緒にやろ!!」

「ぴ?(え?)」


 もう、ある……?力の抜けた蹄から鋏が落ち、カシャンと間抜けな音を立てた。ふんふんと鼻歌を歌いながら、引き出しの中を漁るリリー。

 しばらくガサゴソと探していたかと思ったら、いきなり、あ!と嬉しそうな声をあげて、こちらに板を掲げて見せた。


「あったよ"オロロ"!トンちゃんやりたかったのコレでしょ!!」


 そういう重要な事はもっと早く言え。



◆〜●〜◆


 ぱた、ぱた、ぱたたん。面の三分の二が黒に染まる、オセロだ、これはオセロである、さっきまで私が一生懸命紙を切ったり塗ったりして作ろうとしていたオセ…


「わぁー、トンちゃんオロロ強いんだねぇ」

「プギーーーーッ!!!!(ダァーーーーッ!!!!)」

「なんでトンちゃんが勝ってるのにひっくり返しちゃうの?」

「プポポッきゅぴきゅぴきゃプキィピピキィプキャプキョピギィピピピョプキピキピギャギャビャピギャビギィーーーー!!!!(オロロってなんだその名前キラキラ(吐瀉物)吐いてんのかよちょっとぐらい語感考えて名前つけやがれバカヤローーーー!!!!)」

「トンちゃんどうしたの?オロロ飽きちゃったの?他のする??」

「ぴっ、ぷぷぴっ(はっ、他のっ)」


 そうよ他のを作れば良いんだわ、オセロが名も無き転生者に取られていたとしても私にはまだ前世の知識がある、まだまだこの世界に出ていないゲームは沢山あるはずよ。


「えっとね、リリー他にも二人で遊べるの持ってるよ、トンちゃんでも出来るやつあるの」


 そうね、そうよ、そうなのよ。片手にサンドイッチを持っていても遊べて個人でも作るのが簡単で?ルールも分かりやすくて?遊びは沢山あって??

 ガワを何と組み合わせても汎用性が高く取り敢えずグッズの一つはコレで出しときゃファンは買うだろみたいな扱いをされている王道カードゲーム。その名は。


「プキィプ!!(トランプ!!)」

「トンちゃんあったよ!"トランペ"!!」



◆〜●〜◆


 すっ、すっ、ぺそん。私の手持ちのカードは0枚、リリーは一枚、ババ抜きは私の勝ちである。そうさっきまで私が作り始めようと金脈としての希望を見出したトラン…


「プゥギィーーーー!!!!(ドゥラァーーーー!!!!)」

「トンちゃんってトランペも強いんだねぇ」

「プキィピっぴぴきゅぴきゃプキョプキィキョキョピキキィピキプキャピギャァピギョギョギィプギピピピギャギャプキョプピギピキャビギャビギョァ!!!!!!(トランペってなんだトランペットの略かよ明らか手抜きじゃねぇかもっとしっかり考えやがれやっていうかマジで私以外にも居るじゃん転生者ァ!!!!!!)」

「トンちゃん次は何しよっか、神経削り?極貧民??」

「ピピギャギプッギィ!!(名前が物騒!!)」


 なんとなく分かるけども!物騒なんだよネーミングが!!ゲームが終わり山に積まれたトランプの上をゴロゴロと転がりまわる。

 子豚が思いつくぐらいだもん、オセロもトランプも誰だって思いつくッつーか確実に私以外に居るじゃん転生者!!確定じゃん!!!!


「ピピにゃニャピィー!!!!(もっと早く産まれたかったァー!!!!)」

「楽しそうだねリリー、何をしているんだい?」

「あ、お兄様、あのね、トンちゃんとね、オロロとー、トランペの悪魔抜きやってたの」

「プピきゃ!?(悪魔!?)」

「トンちゃんは賢いからリリーとゲームが出来るのか、凄いなぁ」

「うん!お兄様もトンちゃんと遊ぶ?」


 悪魔抜き?悪魔抜きだったのアレ……。トランペ制作者のネーミングセンスに引きつつ、可哀想な子豚の転生者トンちゃんはめげずに次の手を考える。

 前世に溢れていた転生系物語には色々なゲームを世に売り出し、ひと財産作るといったものが多かった、そう、そんな簡単な事みんな考えつくのだ。


「じゃぁ前にお父様に買ってもらった物を持ってくるね」

「うん!ついでにおやつも欲しい!!」

「はいはい、料理長にリリーとトンちゃんの分もお願いしてくるよ」


 しかし、このトンちゃんの中身の女子高生はそんじょそこらのアイドルにキャーキャー言ってスマホゲームに時間を溶かしてきた様な奴等とは一味違うのだ。

 勿論アイドルにはキャーキャー言ってたし、スマホゲームにも無理では無い範囲の課金は繰り返してきたわ。しかし、私にはまだ世界的な大会もある世の天才達が愛すスペシャルで大人なゲームのルールを知っているという強みが残っているのだ!!


「トンちゃん、お兄様が他の持ってきてくれるって、でもお兄様のってリリーには難しくてつまんなかったのよ、トンちゃんは出来るのかなぁ」


 投げ出していた四肢に力を込め、転がっていた状態から飛び起き声高らかに私は叫んだ。


「ぷぅ!ぴぃぴきプキャピァぷきゅきゅきゅぴぃ!!!!(そう!私はチェスを嗜むJKなのだ!!!!)」

「お待たせリリー、チェコあったよ」

「それ難しいからリリー嫌」


 国名じゃん。



◆〜●〜◆


 コトン、コトン、コトトン。均衡した盤面、キングをどう逃すか、相手の駒をどう取るか。ルールは同じ、駒の動きも同じのチェス、だが


「ピギピッ!!ピギャプギャピギョッッピッピギィー!!!!(チェコは!!国名だッッつってんだろ!!!!)」

「トンちゃん凄いや、お父様より強い」

「へぇー、リリーまったくわかんないや」

「ぴぴぴプギャぷきプギョぷきピギャぴぎぷぎゅぎやぎぃ!!ピピ!ぷきぴ!!ピギギャー!!!!(せめてチェヌとかチェフとかチェヲとかにしとけ!!なぜ!それを!!選んだ!!!!)」

「凄く鳴いてるけど、トンちゃんチェコが楽しいのかなぁ、ひっくり返さないし」

「どうだろう……」


 この世はカオス、設定がカッスカスの育成ゲームの中に、たぶん百人ぐらい同郷の転生者をぶち込んで、空っぽもイイトコな設定の部分に適当に無理やり現実感をぶち込んだカオス。

 こんな世界に誰がした、やっぱあいつか、女神(パチモン)。あいつ免許取るのやめておいた方が良いと思う、運営される世界とぶち込まれる転生者が可哀想だ。


 そんな可哀想な転生者の一人であるトンちゃんは、ぇぐぇぐと涙を流し、作りが雑なクイーンの駒を前に進めた。

 そんな泣きながら負けが見えてきた盤面を前に戦う子豚を置いて、仲良くほのぼの談笑している兄妹。おやつ全部食ったろ。


「研究員の人から貰ったんだ、不思議な箱に入っているんだよ、カードゲームだからきっとリリーも出来るよ」

「でもお兄様が選ぶのってルール難しいやつばッかりじゃない」

「大丈夫だよ、カードを一枚ずつ引いて、決まった絵柄を揃えて点数を競うだけの簡単なやつだよ」

「ぅイーーッ!!」

「うーん、威嚇されちゃったなぁ」


 は?なんのゲームそれ??完璧に手詰まりで私の負けとなった盤面を放置し、歯をむき出しにして威嚇するリリーの側に寄っていくと、ギュッと抱えられてしまった。


「トンちゃんもやりたくないって」

「ぷぴぷぅぴぴぷぅぴきゅきゅきゅ(他に何出されてるってんのよ)」

「楽しいよ?カードは小さいけど絵柄がとても綺麗だし、小さいからこそポケットに入れて持ち運べるんだ」


 そう言って、ポケットから小さい箱を取り出した。なんだなんだ?それなんだ??まだまだ私が荒稼ぎできる手段を奪うというのか??

 もぞもぞとリリーの腕の中から抜け出し、目の前に置かれた箱に書かれているこの世界の文字と、見慣れた漢字を読む。


「ぷぴぷぷ(華札はなふだ)」

「"カフダ"って言うんだって」

「変な名前ぇ」

「ぷきぷきゅぅききゅぴぃ(マジで変な名前ね)」


 なんだ花札か、コトン、コロンと華札と達筆に書かれているだけの、蓋も何も無い箱を転がす、どうやって開くのかしらねこの箱。からくり箱だっけ、こういうのって、パズル系は苦手なのよねぇ。

 暫くコロコロとしていたら、何かが外れたのかいきなり開いて、中の札がバサーッと広がった。


「ぴょぃっ!?(わぉっ!?)」

「あはは!トンちゃんびっくりしてるぅ」

「そうなんだ、不思議な箱でね、ちゃんと手順を踏まないと開かない様になっているんだって」

「わぁ、トンちゃんトンちゃん、カード綺麗だよ」


 確かに、花札の柄はお洒落だと思う。だがルールは知らない、知らないけど唯一知ってる猪鹿蝶が(トントン)栗鼠(カリカリ)(ピイピイ)になってるのだけは分かる。

 ここまで出されると、転生者云々ってよりはこの世界に元々あるっていう可能性も出てきた、あの女神が適当に日本の文化をフュージョンさせていた場合、いや和菓子っぽいのがあるんだからそうかもしれない。


 リリーが札をみてキャッキャと喜んでいる、単純で楽しそうね。その隣で私は、空いた箱の裏に何か書かれているのを見つけた、開いた箱を引き寄せ、隅に書いてあった文字を読む。


「ぷぴぴぴぷき(難転堂(ナンテンドウ))」


 難を転ずるでナンテンドウ、これは怖いもの知らずの転生者が居るな?リスペクトか?それともただのパクリか?どちらにせよプチっと潰されてしまうだろう。

 札の入れ物をそっと置いて、チェコの駒を上から退かし、もしやと盤面を裏返す。まさかとは思うが、いやそんなまさかとは思うが、まさかまさかだとは思うけども。

 そこに書かれていた文字は───


「ぷぃぷきゅ(BANZAI(バンザイ))」

「このお花のカードと、ワインのカードを合わせると点数が貰えるんだよ」

「やっぱりお兄様のやつ難しい!」


 どうりで駒の作りが雑だと思った、パチモン会社じゃ仕方ねぇな、って仕方ねぇわけねぇだろ馬鹿野郎どんな喧嘩の売り方だ!!!!

 蹄で持ち上げた盤をクッションへ投げようとしたら、BANZAIの右上に小さく^3という数字が書かれているのに気がついた、バンザイ、サンジョウ。


「プキプキキぷギャプキャァー?プギャギャギギョ!!(バンザイサンショウのつもりか?現状が惨状だよ!!)」

ボファッ!


「トンちゃん玩具は投げちゃ駄目!」

「トンちゃん今日機嫌が悪いのかな、さっきも騒いでいるのが聞こえていたけど、リリー何かしたかい?」

「ううん、ゲームしてただけよ」


 さっき私がひっくり返したオロロの盤とトランペの箱を拾う、制作会社名を探すと、両方同じ名前が書いてあった。

 この世界の文字と、ロゴマーク的扱いの前世で見慣れたローマ字───


「ぴぴぷ ぷぴー(DAKARA(ダカラ) TONY(トニー))」

「トンちゃん急に元気なくなっちゃった」

「体調が悪いのかな、少し寝かせてあげようか」


 この世界ってなにで出来てるの?ギリギリセウトのオマージュ、それと、パロディならセーフと思う転生者、そういうものがミックスされて出来てるの。誰だよトニー。

 子豚は力無き手をそっと下ろし、諦めたように目を閉じる。ヘヘッ、名前も知らねぇ転生者共(おまえら)、好き勝手やってくれるじゃねぇか、子豚は黙ってキノコ毟ってろって事かよ。


 身体が持ち上げられ、トンちゃん用のベットにそっと寝かされた。

 役を覚えられないと喚くリリーの声と、それでも根気よく教えるお兄様の声だけが部屋に響く。


「やっぱり難しいやつじゃない!!」

「大丈夫だよリリー、それで、これが松にスイッコッコだよ」


 スイッコッコってなんや。そんな疑問を頭の隅に残し、絶望を感じた子豚は深い眠りに吸い込まれていったのだった。



『難を転ずる [難転堂]』


『いつもあなたと一緒に [DAKARA TONY]』


『人生に両手(もろて)を上げる喜びを [BANZAI^3 ]』


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