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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
51/113

51.空を舞うダンゴムシ


 迷路って案外疲れるもんなのね、右左前後トンちゃんこっちあっち、引き摺り回されてもうクタクタよ。午前中に大事件を解決したっていうのに、報酬はお昼ご飯のシチュー五杯とパン六つだけってどういう事。

 お腹が減ってグッタリした私を抱え、空いた小腹を満たすためにお菓子のテーブルに進んでいくリリー、きっとそうよ、待っていて私のオヤツ達。


「セシリエちゃんのニャンムは遊ばないの?」

「実はラジモンをお姉ちゃんから借りてるの、ロロって名前で、尻尾が短いのよ」

「へぇー、可愛い?」

「可愛いけど、身体を撫でるとすぐに噛んでくるの、私のラジモンはトントンにしようかな」

「ぷきゃぷきぷきゅい(止めときなさい)」

「そしたらリリーとお揃いだね」

「うん、リリーちゃんとお揃いにしよっかな」


 キャッキャと話し合うリリーとセシリエちゃん、他のトントンは私ほど頭良くないわよ、考え直しなさい。

 それにしても腰のチュチュに木葉が引っかかって邪魔ね、そろそろ腰を落ち着けて、葉っぱを取りたいしオヤツも食べたいし、喉も乾いたわ。


「お腹すいたね、オヤツ食べよ」

「リリーちゃんどれにする?」

「リリーはねぇ、甘いのがいいなぁ」

「ふふふ、これなんかどう?蜂蜜たっぷりのパイだって」

「美味しそうだね!」


 どこかに座れるところはないものか、キョロキョロと辺りを見回していると。

 リリーのスカートへお茶のカップを傾けようとするハートドレスの女が!危ないリリー!淡いオレンジのスカートなんて汚したら染み抜きをするメイドさんの手が死ぬわ!!


「そんなにお皿に盛って大丈夫?」

「大丈夫!リリー絶対溢さないから!!」


 豚足を必死で回し、オヤツを物色するリリーの元へと走る。後ろの悪意に気!づ!け!よ!!あと絶対ひっくり返すからそれ以上皿に止めろ待てだからMO!!RU!!NA!!!!



◆〜◆〜◆


 ちょっとドレスを汚してやって、慌てているところを嗤ってやるつもりだったのに、傾けたカップから琥珀色の紅茶が勢いよく溢れていった。が、淡いオレンジ色の地味なドレスに当たること無く、かける筈だった位置にいたラジモンの口に全て吸い込まれていった。

 くりくりとした真っ黒い円らな瞳が私を見上げ、蹄でやんわり押された装飾の少ないスカートに少しだけ乾いた土がついた。ピンクのまぁるい鼻がぴくりと動き。


「ぷ、きゅーーーーーーぅ、フッ……」

「トンちゃん?そんなとこにいたの」

「ピキキ?ぷキャピキャプきキキキ??」

「それより見てみて!トンちゃんの分沢山取ってあげたよ!!」

「ぴぴゃーピキュピキョーぷきゃぴキィ」

「ちょっと、邪魔でしてよ」

「ゎあっ」

「リリーちゃん!」


 仲間の一人がアリュートルチを背後から押した、途端にバランスを崩して転───


「おっ、とお、ぉぉ」

「ぴふぅー……」

「トンちゃんセーフだよ!リリー転ばなかったし落とさなかったよ!!」

「ぴきゃぁ…………」


 ばなかった。バランスを持ち直し、山盛りになった皿のお菓子を支えてみせた、なんて悪運の強い奴……ッ!カップの持ち手を握りしめ、背中を押した仲間にアイコンタクトを送る。

 でもケーキは倒れましたし、クリームは混ざり合ってぐちゃぐちゃで、とても食べられる物じゃありませんわ、ざまぁみなさい。

 ぼぅっと口を開けているアリュートルチをクスクスと嗤っていたら、セシリエ・ピリオズが慰めに行った、地位の低い者同士仲良くしていればいいのよ。


「リリーちゃん良かったぁ、でもケーキとか倒れてぐちゃぐちゃになっちゃったね……」

「大丈夫だよ、トンちゃんに全部あげるもん」

「ぴ?ぽがプガァッ!!」

「トンちゃん美味しい?」

「うわぁ……味混ざってそう…………」


 なんですって!?そんな残飯みたいな状態のものをラジモンに食べさせるなんて、虐待なのでは?やはり下位の貴族は野蛮ですわね。

 仲間を集め話し合う。今のところダメージを受けているのはあのトントンだけのようね、次は足でも引っ掛けてやれば流石に気づくかしら?虫を投げてやればいいじゃない、いっそ机に突っ込ませてやれば良いと思うの。


 下位の貴族の分際で私より目立とうとするからいけないのよ。またテーブルの上のお菓子に気を取られ、こちらに背中を向けているアリュートルチの娘、近づいて背中を押してやろうと───



◆〜◆〜◆


 酷い目に遭ったわ、やっぱりお茶会なんてついて行くもんじゃないわね。色んな甘い味が混ざった口の中、もぎもぎと噛んで、飲んで、なんとか空にした。

 疲れたわぁもぉ。よいしょといい感じの石に腰掛け、チュチュから木の葉やら土やらを取り除く、あ、ダンゴムシ。チュチュの隙間でもぞもぞともがいていたソレを摘むとくるんと丸くなった。


「ぷきゅぃぷぷきぃぴぃ(自然へお帰りなさい)」


 ポイっと空に向かって投げた、が、哀れダンゴムシ、飛んでいった先はリリーに向かって今まさに両手を突き出さんとしているお嬢様の胸元。

 腕を組んでダンゴムシの行方を見守っていると、綺麗なデコルテをコロコロと転がり、ドレスの胸元にダンゴムシがホールインワンした。

 ははーん成る程、あのダンゴムシはラッキースケベ体質だったか、どうりで美豚のチュチュに引っかかってるわけですわ。


 途端に真っ青になる意地悪お嬢様とその取り巻き、なんだかよくわからないけれど虫が入った事だけは理解したようだ、一歩、二歩と後ろによろけて唇を戦慄かせ。


「キャーーーーーーーーッッッッ!!!!?!?」

「イヤーーーーーッッッ!!!!!!」

「うわっ!?なになに!!?」

「うるさっ!なにがあったの??」

「どうされましたか!!?」

「キガエッ!キガエッッ!!」

「お洋服に何が……」

「ムシッ!キガエッッッ!!!!」

「むし?」

「クビにするわよ!!!!!!!」


 混乱していてもクビにするわよだけはちゃんと言えるんだ、性格に難有りって事ね。顔が真っ赤になったり、ダンゴムシを思い出して真っ青になったりと忙しい。ドタバタと騒ぎたてる取り巻きごと建物の中に引っ込んでいった、もう不意打ちは心配しなくても良さそうね。


 はぁーーぁ、リリーを狙う脅威も去った事だし、あらためてオヤツでも食べることにしましょうか。よっこらせっと立ち上がり、リリーのスカートの裾を引っ張る。


「トンちゃん、すごい叫び声だったね、何があったかわかる?」

「ぴぴぴきぴぃぴぃ(それより食べ物)」

「うんそうだね、沢山食べたし遊びに行こっか」

「ぷ?ぷぷぷ??(は?なんて??) 」

「セシリエちゃん行こー」

「いいよー」


 哀れなりお腹ぺこぺこのトンちゃんは、傍若無人なリリーにチュチュを引っ掴まれ、今度は蔓系のお花のアーチが並ぶ綺麗な庭園へと繰り出されるのであった。ふざけんな。


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