表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
49/113

49. 偉い人の話って長いよね


 迫り来る覆面の指、未だ効果がよくわからない赤い玉、片腕で抱えられた私。いや詰みでは?死では?ここでトン生終了か?きっとこのまま金だけが取り柄の悪い貴族に飼われて、一生ヌシ様のキノコを抜いて過ごすんだわ。

 地面に転がったヌシ様の背中から生えたキノコを、泣きながら丁寧に一本一本抜いてカゴに入れる子豚の幻覚が見えた。頭にはあの変な赤い玉。こうして虐げられた子豚は美味しいものを食べられず、お腹いっぱいになる事も許されず、痩せ細って死んでしまうのよ。


「ぴぃきゅぴぴぃ、キュきゃきゅぅー、キャキャきゅぅぅー(あぁ恨めしや、呪ってやるぅ、お前の末代までなぁ)」

「沢山おしゃべりするなぁオマエ、主人呼んでんのか?」

「キュキャキュゥー(呪ッテヤルゥ)」

「諦めて赤い玉つけようなァー」


 ポス。頭の上に玉が押し当てられた、案外プニプニしているらしい、何度かプニ、グニ、と頭のてっぺんを玉で押される感触。スライムの、玉の、ちょっと硬いやつみたいな、グミ?が一番近そうな感触……。

 暫くブニプニされていたが、頭の上から手が退けられて、三段アイスを落として俯いているとても可哀想な子に話しかける人みたいな声を出された。


「オマエ……アンテナー落としてきたのか……?」

「ぷきぷきゅぷくぴきぃ(んなわけないでしょ)」

「可哀想に…………アンテナー刺すのの練習用にされて捨てられたんだナァ……」

「ぷきぷきゅぷくぴきぃ(んなわけないでしょ)」


 アンテナーは一回刺さったら頭ぶつけようが何しようが、刺した時に抵抗されて抜かれるか、誰かが意図的に抜くまで抜けないのよ、え、なに怖もう絶対刺したくない。

 ぴるるると細かく震えていたが、とにかくここはチャンスではと腕から抜け出すために頑張る事にした。

 優しく頭を撫でてくれているのは良いが、ラジモン誘拐は見逃せぬ、私を抱えている腕にガブっと噛み付いた。噛む力は人間わりと強いので、攫われかけた時に有効よ、相手は怯むわ。


「アダッ!!?」

「ぴぴぃ!(今よ!)」

「あ!契約書まで!!」

「ぴぴきゅー(逃げるわ)」

「まて捨てられ豚コラァ!!」


 捨てられてねーわよ。蛇口覆面と追いかけっこが始まり、サーカステントの中を駆け回る。

 何か動けなくさせるものは無いかしら、あたりを見回すと最初に入った付近の、みんなが入れられてる檻がある所まで来てしまったようだ。


「オラ待て子豚ァ!!」

「ぴぴきゅ、ぴきゅぴきゅー(なんか、なんか無いかしら)」

「そうかァ、オレがアンテナー刺しゃ良いのか」

「ぷきゃ!?(なんて!?)」

「赤玉はアンテナーさえ刺さってりゃ、どんなラジモンでも主人の上書きが出来んだよナァ」

「ぷきゃきぷきぷきぃ!!?(また蛇口壊れた!!?)」

「マァ普通に取りゃ上書き消えるんだがナ」

「ぴぎぴぃぷキャピギュぁ!!(お口チャックを徹底しろ!!)」

「ゴハッ!!!!」


 思わず覆面にタックルして物理的に倒してしまったわ、なんてこと、これも全て機密を漏らしまくる蛇口が悪いのよ、水道修理業者呼ばなきゃ……。

 床に伸びている蛇口を何故か近くに落ちていたデカイ網で巻き巻きして、足と手を纏めて縛り上げる。最後に白目を剥いた蛇口の胸元に、サクランボを刺した木の枝を置いておく、これが私のアンテナー(仮)よ。サクランボは後で食べようと思ってたけど貴方にあげるわ、甘くて美味しいのよそのサクランボ。


 最後の戦いに行こう、ボスと呼ばれている奴が残っていたはず。私は契約書を取り、その蹄で涎を拭きとると、サーカステントの奥へとまた進んでいった。



◆〜◆〜◆


 最後の戦いだと言ったな、アレは嘘だ。ハンモックに寝ころがり爆睡していたボスをキュキュッとしっかりハンモックに縛り付けて終わった、戦いにもならなかった。

 縛り終わった途端にハンモックがひっくり返ったので次にお前が目を覚ました時は、見知らぬ天井じゃなくて見知らぬ地面が見えるだろうよ。

 

「ふぅ、だいぶ疲れたわ」


 しばらく人間とは戦いたくないわ、そもそも人間とは戦いたくないのよ、トンちゃんって健気で可愛い子豚なのよ、争いごとは嫌いなの。

 さてと、あとは檻からラジモンを出して、押し込まれ魔獣待機部屋まで帰れば終了ね。手始めにシャムニャンムの檻を蹄でひん曲げて中に入り、アンテナーの先についてる赤い球を取ってみた。


「生きてる?」

「何故最初にワタクシの自由を戻さなかったのか理由を二十文字以内で説明してくれまして?」

「覆面を倒す時に邪魔になるからよ」

「まぁ、とても生意気な枕ですこと、でも脱出するにしてもあの人間達が邪魔でしたし、そこは褒めてさしあげても宜しくてよ」

「そらどうも」

「ワタクシとて一介のニャンムですわ、この魔獣数を誘導してあの部屋に戻るのに一臂の力を貸しましょう、下僕の子のお守りを押し付けられた身ですもの、途中で投げ出してはワタクシの下僕達に示しがつきませんしね」

「アンタ何歳なのよ」

「レディに歳を聞くものではありませんわ」




 それからデカイのから小さいの、全魔獣の赤い球を取り外し、全部正気に戻したスーパートントンの私であったが、問題が一つ出てきた。


「どうやってこの量の魔獣を誰にも見られず移動させろっていうのよ」

「ファ〜ぁァ、枕、まだ帰りませんの?ワタクシ水が飲みたいわ」

「うっさいわね、帰りたくても帰れないのよ」

「何故ですの?」

「なんでってアンテナーつけててもこんな魔獣の数が歩いてたら人はパニックに……」

「他所の人間の事など知りませんわ、ただ歩ける者は歩いて、飛べる者は飛んで帰れば良いじゃありません」

「……それよ!」

「煩いわよ枕」


 

◆〜◆〜◆


 その日複数の住民から通報が入った『ラジコン使いがどこに居るか分からないが、魔獣の大群が街のメインストリートを進んでいる』と。警ら隊が駆けつけた時には、町の広場に魔獣の大群が押し寄せていた。

 あるドラゴンの魔獣は天に向かって火を吹き、またあるサイの魔獣は背中に派手な布を掛けてニャンム達を乗せ、美しい立髪を持つ馬型魔獣達が足並みを揃えて進んで行く。

 何十羽も見たことのない鳥型の魔獣達が旗を咥えて空を飛び回り、レアな犬型の魔獣達が尻尾を振りながら屋台に並ぶ客に愛想を振りまいている。


 道の端に避けた人々から歓声が上がり、まるでパレードのようなその大群は、真っ直ぐに宮殿へ向けて進んで行く。

 止める者も確保する者も出ず、ただ足を止め茫然と目の前の夢のようなパレードを見ていたら、足元で甲高い笛の音が鳴った。


ピュピーーぃっ!!!!

「うるさッ!!?ぁ、ん?は?トントン??」

ピピっ!


 金色の笛を咥え、首にオレンジのリボンをつけ、色を揃えたのか淡いオレンジのスカートを腰に巻いたトントンがこちらを見上げていた。

 リボンにつけられているクレヨンの飾りを揺らすと、スカートに挟んでいた紙を取り出し、警ら隊の先頭にいた自分の足元に置くが早いがパレードの方へ駆け去っていく。

 紙を拾い上げると二枚分あり、片方にはクレヨンで書かれた子供のような文字でこう書いてあった。



『たぶん警察の人へ


 このパレードは誘拐されたラジモン達です、お茶会のお部屋に帰るのでそっとしておいて下さい。決して人を襲ったり、お店を壊したりしない事を約束します。


 近くのサーカステントに犯人たちがいます、捕まえておいて下さい。全部で四人です、布に包まってる人と、木箱の中にいる人と、網に絡まってる人と、ハンモックに寝てる人です。


 あと契約書も渡します、たぶん証拠になります。よろしくお願いします。        』



 その後ろには、ラジモン売買の契約内容がしっかり書かれた契約書があった。同僚と顔を見合わせ、数日前に建てられたサーカステントを確認する班と、パレードの誘導と監視をする班に分かれる事にした。



◆〜◆〜◆


 国の未来を担う子供たちが大きくなった日、人生を通しての友を持てるようになった日、それを祝うため毎年開催される"七つ子の茶会"仰々しい名前だが内容は"今年で七歳になる子あつまれ〜!"なだけの懇談会だったりする。

 まぁ学校に入る前に我が子の取り巻きを作ったり、最高位貴族がマウントを取る場所だったり、コネやパイプを作ったりなど親の戦いもするけど。リリーにはそのへんはほぼ関係が無いと言っていい。


「はぁー、めっちゃ疲れたわぁー」


 殴られたのか薬嗅がされたのかは分からないけど、預かった魔獣を突っ込んどく部屋を見張る人が倒れていたから、これ幸いとそのままみんな部屋に戻った。大型魔獣も各自檻の中に入って、疲れたのかいい感じに体制を整えて寝に入った。

 警察かな?の人達が驚いていたけど、帰るのの邪魔はせず、大通りに出店している屋台に寄ろうとする魔獣を列に戻してくれたりして助かったわ。


「枕、柔らかい方をワタクシの方へ向けなさい」

「ヘイヘイ」

「返事は一回よ」

「ヘイ」


 このシャムニャンム、自称最高位貴族のラジモンと言うだけあって魔獣達を帰らせるのが上手かった。このまま野生で暮らすと言う魔獣が出る度に。


『早く帰らないとアナタの主人が泣くのではない?失礼、なんの変哲もない小鳥一羽逃げたところで大した問題は無いわね、きっと直ぐに新しい子を愛すから』


『あらあら威勢のいいこと、外で生きていける勇気があるならそうしなさい、そのかわりご飯は出てこないし温かい寝床も無いわよ、寂しくてもアナタの飼い主は迎えに来ない。嘘?ご自分で確かめなさいな』


『歩きたくないのならワタクシのように乗せて貰えばいいじゃない、ここには優しく抱き上げてくれる腕も無ければ怖い場所に運ばれる箱も無いのだから、高貴を気取るのだったらまず何事にも動じない肝を持つことね』


 などと威圧感たっぷりに言い放っては相手の顔をクシャクシャにさせた、私だけだったらたぶん、このまま野生で暮らしていくんだと飛び出されていたと思う。


「枕、顎を動かさず食べなさい、振動がくるわ」

「無茶言う」


 それに対してお礼を言ったら大人しく枕になりなさいと言われ、今は枕扱いを甘んじて受けている状態だ。体温が丁度良いらしい、よくわかんないけど。

 お腹に顎を乗せられて、私は近くまで持ってきたオヤツを食べながら、昼ご飯に呼ばれるまで待つ事にした。


「胃も鳴らさないで、うるさいわ」

「だから無茶言う」




イメージソング

〜"蹄突過激団"〜



(ひづめ)まで〜、鋼鉄に

武装する乙女(こぶた)


誘拐犯蹴飛ばして

オヤツを強請るの〜だ〜


走れ!豚足の〜

蹄突(ていとつ)過激団


唸る、衝撃の〜

蹄突過激団


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ