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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
48/113

48. 各個撃破


 ランプの光が怪しい影に向けられる、怪しいのはどっちだと思いたくなるような覆面だが、あちらからしてみれば怪しいのは私の方だろう。

 私は即座に、外で拾ってきた比較的真っ直ぐな短い木の棒に、魔獣部屋にあったオヤツのサクランボを刺したものを頭の上に蹄で乗せた。


「なんだトントンか……はぁ、魔獣は全部檻に入れろって言ったのに、でもトントンなら別に逃げても良いか、どこにでも居るし貴族のとはいえ高くは売れないだろ」


 物凄い失礼な事言われたけどトントンでよかった。

ランプの光が逸れて、元の薄暗闇に戻る。魔獣一匹一匹を檻から出しても良いんだけど、近くに人間がいるとなるときっと檻の格子を曲げる音でバレるわよね。

 サクランボつきの木の枝をチュチュに挟み、ランプを持った覆面が行った方向に足を進める。にしてもこんなモンで騙されると思わなかったわ、人間って思い込みの生き物だから、遠目から見たらアンテナーとあの変な赤い玉に見えたんでしょうね。


 暫く足音を消してついていくと、サーカステントの奥に来た。

 物凄い座り心地の良さそうな椅子が一脚あって、その周りにランプを持った奴を含めて四人集ってる。そのうちの一人が椅子に座り、偉そうに足を組んだ。


「異常は無いか?」

「はい、問題有りませんでした」

「次はどうするんですかボス?」

「港までサーカス団を装って運ぶ、そのための馬は取り引き相手から出される事になっている」

「いつ馬が到着するんですか」

「昼前だ、馬と共に昼飯も来る、喜べ御貴族様仕様だぞ」

「美味いんスか?」

「お前が今までの人生で食べた事が無いぐらいな。おい、契約書を確認しておけ、それが無いと万が一捕まりでもしたらあのお貴族様はしらばっくれるだろうからな」

「うっス、お前行けよ」

「えぇ、は、はい」


 定番の悪役って感じ。全員覆面をつけていて顔は分からないし、防弾チョッキ?みたいなのを着てて性別も分かりづらい。取り敢えず今、最年少っぽい声の奴が持ってる契約書?を取るとコイツらがめちゃ困ることだけ分かった。

 うーーむ、流石にご都合主義ラッキートンちゃんで赤い玉の解除方法までは分からんか、残念。腕を組んでその場に座り込むと、覆面の会話の続きが聞こえてきた。


「契約書って何書いてあんすか?」

「それがな、馬と船を貸す代わりに金のトントンを寄越せという話だ」

「トントン?それも金のって……」

「あぁ、見た目は普通のトントンらしいんだが、何故か金の卵を産むトントンと呼ばれているようだ」

「そういえばトントンが一体居ましたね、アレでしたか」

「居たならいい、港に着いたらそれだけ引き渡すから覚えておけ」

「トントンって金産むんですか……?」

「馬鹿言うな、暗喩だろうよ、何が希少かは知らんが金になるナニカがある事だけは確かだ」

「芸でもできるんじゃねっすかね」


 狙いは私か───!結構衝撃を受けた、どのくらいって、カレーにメンチカツ乗っけて初めて食べた時ぐらい衝撃受けた。

 ぷきょー……と小さく絶句していると、足音がこっちに近付いてくる事に気づく。


「昼に馬が来るまで待機だからな、それまでラジモンの檻を見張っていろ」

「了解」

「りょーっす」

「分かりました」


 やべやべやべ。近くにあった木箱の影に逃げ込む。偉そうな態度の奴がどっかに行ったあと、もう二人出てきた。多分口が壊れた蛇口のやつと、私にランプを向けた奴。じゃあ残ってるのは一番下っ端にされてる奴か?

 人影が無くなった事を確認して部屋の中を覗き込むと、契約書を確認して、机に置き、ウンウンと頷いている下っ端。確認した後しゃがんで小さい宝箱っぽいのを取り出している。ほほう、ほうほう。


「よし、あとはこの契約書を鍵付きの箱にしまっておいて……えっ」

「ぷきゃきゃぴきゃっ(どうも子豚ですっ)」

「トントっ、あっ、契約書!」


 机の上に飛び乗り、挨拶してからささっと契約書を丸め、チュチュの棒の反対側に差し込んで飛び降りた。

 下っ端は少し慌てたあと、覆面で顔は見えないが多分キッとこちらを睨みつけ、何故か膝をついて野良猫を呼ぶ時みたいな手の動かし方をしてきた。


「よ〜しよし、良い子だね、こっちおいでー」

「ぷぽぴ(あほか)」

「それは大事な契約書なんだ、返してくれないと困るんだよ、いい子だから、返してくれないとボスに怒られちゃうよぉ」

「ぷぷぴきゃぴきゃぷきょぴぃ(悪事に手を染めたのが運の尽きよ)」

「ああ待って!!」


 ダダダダダと駆け出し、急カーブして蓋を開け木箱の中に飛び込んだ、中に積み上がっている小道具を踏み台に蓋の隙間から外のようすを伺うと、さっきの蛇口覆面がこっちに来るではないか。


「どうした、なんかあったかァ?」

「先輩、さっきトントンが契約書を盗んで行って、くるくるって丸めて、こう」

「ヤベェじゃねえか、ボスに殺される前に早く探すぞ!」

「どうした」

「トントンがボスの契約書盗んだってよォ!」

「トントン如きがそんな事を出来るとは思えないが、契約書は」

「盗まれましたぁ……」

「そうか、ではトントンを操作しているラジコン使いが居る筈だ、お前らは契約書を持っているトントンを探せ、私はあちらを探す」

「オレあっち行くぜ」

「すみませんお願いします」


 意外と連携取れてるし、怒ったりしないのね、驚きだわ。確かに個人を責めても怒鳴っても無くなった契約書は出てこないものね、それはそれとしてラジモン誘拐は悪い事だから悔い改めて欲しいけど。

 あっちか、こっちかと木箱を開けたり隙間を覗き込んだりしている下っ端。しょーがないわね、蓋揺らしてやるか。


ガタガタガタ

「んっ?……ここかっ!」

「ぷぴーぴぃーきぃーぴきゅきゃぴぴぃぷ?(はーいジェイキーこれ(契約書)が欲しいかい?)」

バンッ!!


 箱の底で契約書ひらひらさせてたら蓋閉められたわ。何が悪かったのかしら、もしかしたら名前が違うのかもしれないわ。


「はぁっ、はあっ、はあっ」

「そっち居たかァ?」

「え、ぁ、は、」

「見つけたら言えよォ、アンテナーに赤玉つけりゃ固まるからなァ」


 もう一回開いたら別な名前でやってみようかしら、いや、挨拶の仕方が間違ってたのかしら?まぁ良いか。上で息を呑む音がして、続けて大きく吐き出される音がした。あ、開くわ。


「ぷきーぴーきゃぴ?ぴきゃきゃぷぴぃぷ?(ヘロージョージア?これが欲しいかぁい?)」

「う、うわぁぁぁあ!!」

「ぷきぷぴッ(どんくさッ)」


 中に入って捕まえようとしたのか、バランスを崩しゴットンと木箱の中に落ちてきた下っ端、入れ違いに外に出て、そっと木箱の蓋を閉めて上に木材を立て掛けて乗せておく。


「出して!出してよぉ!!」

「ぷきゅぴきゅぴゃーぷぴぴぴぷぴーきゅー(これに懲りたら真っ当に生きなさい)」

「うわぁん!!」


 ガタガタゴトゴトと揺れる木箱を背にしてクールに去る私、バイトだと思ったら犯罪の片棒を担がされていたなんて事もあるから皆んなも気をつけるのよ。



◆〜◆〜◆


 にしても何に使うんだってくらい布がいっぱいあるわねここ。もしかしたら輸送する時檻に被せたりするのかしら、こんなド派手なカーテンみたいなのを?サーカスだから??

 次のターゲットは落ち着き払った覆面よ、ランプを手に、倉庫っぽい所に人影がないか見てるから足元にいるトントンを見落とすのよ。ラジモンが全部ラジモン使いとセットだと思わない事ね。


「……不審な人物は居ないようだが」


 転び易いよう足元に布束置いたり、紐をピンと張ったり、布で物を隠してみたりした。薄暗い整頓されてない倉庫って物踏んで転んで大怪我する率高いから、みんなは部屋を明るくして、視界を確保してから物を探そうね!


「うわっ!?いたた……ランプは無事か、ヒビも入ってないしオイルも漏れてな」

「ぷきゅぷっきぴぴきゃぷきょぴぴ!(トンちゃんとの約束だよ!)」

「なんだ!!?止めろ!やめっ、この!!布を巻きつけるんじゃない!!!!」


 覆面誘拐犯のテント布二枚巻きいっちょ上がり、モゾモゾと動いて布をどけようとするから、トンちゃん頑張って紐を伸ばしてその上に転がして、一生懸命縛ったの。

 ランプの火は危ないから消しておくわね、なんて優しい子豚なんでしょ、あゝステキステキ、ステエキ食べたい。シャァクジラじゃないオニクが恋しいワ、クスン。


 それはそれとしてこれで二人目撃破ね、モゴモゴムームーワムワムと何を言っているのか布で分からないが、その音量では助けは呼べまい。

 右に左にとモニモニ揺れ動くカーテン巻きの上に四つ足で立ち、チュチュをひらひらと翻しながら勝利宣言を薄暗い倉庫の中で高らかに言い上げた。


「プキューッキュッキュッキュ、ぴーぴきゅぷーキッ!!(はぁーッハッハッハッ、正義はかーつ!!)」

「オっ、コイツが例のトントンか」

「ぴ?(え?)」

「契約書はこれだなァ?オーシオシ、お前のラジコン使いはどこに居んだ??」

「ぴぴ??(ええ??)」

「ムー!むぐー!!」

「早く言わねぇとこうだァ!!」

「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ(えええええええええええ)」


 まさかの壊れた蛇口に捕まった。私を持って縦に揺らす前に足元の布に包まった同僚助けてやれよ。しかしこの拷問はなかなかキツい、振動が特にお腹と頭にくる。

 どうするトンちゃん、どうなるトンちゃん、ここはどうやって切り抜けるべきか。目をつぶり振動に身体を任せながら、どうやってこの怪獣蛇口覆面から逃げるかと考えていたら後頭部で何かが近づく気配と、不穏なセリフ。


「マァこの赤い玉付けちまえば案内させられるけどナ」


 プキッと♡TonTon テイル!トンちゃん実は結構絶対絶命!?まだ赤い玉の取り外し方法も分からないのにこれからどうなっちゃうのぉ〜〜!!?

 え?真面目にヤバくね??


「ぴぷぴぷぴ?(まさか詰み?)」


 トンちゃんの明日はあるのか───!?



アーマーホルン:外皮という天然の美しい鈍い銀色の鎧を纏ったサイ、そう、サイ。成長すると、ツノのところに一個体ずつ違う模様が浮かびあがる。

 アーマーホルンの背中に家の紋章を入れた、刺繍の施された布(レイ・ブランケットのような物)を背にかけて、貴族がよく自慢している。大食漢なので相当な金持ちしか飼えない、外皮の手入れも手がかかる大変な魔獣。南の大陸に生息している。



ボムラニアン: クソデカポメラニアンの魔獣、怒ったり、驚いたり、威嚇したりする時にライオンの立髪のように顔の周りと尻尾の毛が爆発する。ボンッ。

 トリミング、お風呂、世話、躾、どれも手のかかる魔獣。なんにせよ顔も仕草も声も可愛いので、子供にはとても人気である。が、庭で泥だらけになるまで遊ばれた時の絶望感は凄い。



シャドーロール: 馬型の魔獣、頭絡の鼻革にボアを装着したような飾り毛が生えている馬魔獣。

 馬具のシャドーロールを重ねて付けると、二段二色となって華々しい。この毛を剃ると、体調不良を引き起こす原因となるが、何故だかはまだわかっていない。



チークピーシーズ: 馬型の魔獣、頭絡の頰革にボアを装着したような飾り毛が生えている馬魔獣。身体の色は様々だが、もみあげから繋がる顎髭を生やしているように見える毛が特徴。

 この飾り毛を伸ばし、三つ編みをしてみたり、編み込んでみたり、綺麗に切り揃えてみたり、自分の髭と揃いにしてみたりする貴族が後を立たない。

 


ブローバンド: 馬型の魔獣、頭絡の額革にボアを装着したような飾り毛が生えている馬魔獣。個体によっては、タオルを頭に乗せているように見えたり、カツラを被っているようにみえたりする。

 決して速度の速い通信回線を利用したサービスのことではないし、髪の毛にブローをかけるための道具の名前でもない。あしからず。



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