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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
47/113

47. 結局は子供なので


 お茶会には色んな貴族の子が集まってくる、それは知っていた。リリーは貴族って言っても貧乏寄りの弱小貴族だし、ドレスもそんな華美なもんじゃない。お出かけのための一張羅みたいなもんだ。

 帝都のお城、なんだっけ、皇帝?が済んでいるお城に、今年七歳になる子がみんな招待されて有難いお話を聞いて、顔見知りやらお友達やら仲良しさんを作る場らしい。


 金持ちの子も貧乏人の子も、子供は子供なのだ。それもまだ歳も一桁の子供。みんなは自分がどんな子供だったか覚えているだろうか?どんな我儘を言ってたか思い出せるだろうか?


 ──────私は今、親の地獄に来ている。


「わぁ!トンちゃん、リリーと同じぐらいの子がたくさんいるよ!!」

「ぴぴぷぴきゅぴゅきゃぷきゅ(リリーが今のところ一番マシね)」

「……今年もこうなったか」


 まず目についたのは髪型を完璧にキメてドヤ顔を繰り出す女の子。しかし問題はその服装だ。真っ白いドレスの胸にデカデカと真っ赤なハートが縫いつけられている。

 ワンポイントとかそう言う問題じゃない、よく幼女が画用紙に描く可愛いドレスのアレそのまんまである。おまけに裾にはピンクとオレンジのハートが散らばっている。その子の隣に立つお母さんらしき人はずっと扇で顔を隠している。


「トンちゃんあの子のドレスすッッッごく可愛いよ!」

「ぷぴゅぴゅきゃぷきゅーきぴきゅぴきゅ(五年後同じ台詞が言えるかしらね)」


 次に目についたのは明らかに引き摺る大きさのマントを羽織って得意げに歩き回る男の子。マントの裾のところがあちこち引き摺られたのか既に汚れて黒くなっている。いくら会場を綺麗に掃除してあってもアレは仕方ないだろう。

 そして腰には明らかに子供用ではない長さの木剣が引っ提げられている。右を向くたびズリズリ、左を向くたびズリリ。推察するに絶対持って行くと言い張られたのだろう、隣のお父さんらしき人が額を押さえている。


「トンちゃんあのマント格好いいよ!リリーも欲しい!!」

「ぴぴぷきゃぴゃきゅーぷきゅぴぃ(確かにマント自体は格好いいわ)」



 星のマークが全体的に刺繍されたスカートを履いて、背中にビーズでできたギラッギラの三日月模様が描かれているドレスの子。

 その手に持ってる魔法少女みたいな長い杖はもしかして隣で天を仰いでいるお父さんのステッキとお揃いなんですか?とても素敵ですね。リリー羨ましそうにするなお前はすぐ壊すだろ。


 ネックレス、ブレスレット、指輪、イヤリング、ティアラとまぁ流石に硝子だよなと思うぐらいゴテゴテフル装備な子。全ての指に指輪を嵌めているのはメリケンサック代わりかしら。物理的な攻撃力が上がりそうだわ、シャンデリアの光に反射して、近くの子に無自覚目潰しを食らわしているのも流石ね。

 リリーは玩具のビーズブレスで十分でしょ、ヒゲオヤジの結婚指輪らしき物を取ろうとするんじゃないの。


 柄物の派手な上着にズボン、ベスト、シャツ、挙げ句の果てには靴下まで全て違う柄で揃えている子。蝶ネクタイまで柄有りとは恐れ入った。

 対して隣に立っているお母さんは、品の良さそうなドレスね、華美とは違うけど滅茶苦茶高そうな生地なのが良く分かるわ。海が凪いでいるような表情をされている。もっと他のお洒落なのを着せたかったのがよくわかるわ。


 まだ雪も雨も降ってないのに長靴履いて、周りの子に見せびらかすように歩き回っている子。豪奢な柄が格好いいけど、でもやっぱり長靴はゴムの長靴よね。

 隣のお母さんの顔を見てあげて、今からでも履き替えるのは遅くないわ。綺麗なドレスに身を包んでいるけど、手に持っているのは綺麗な扇でも小さな高級鞄でも無く、お洒落な色した子供用の革靴って所が主婦感を醸し出しているわね。

 

 頭どころかドレスにまで生花を盛りまくっている子。これからお話、お昼ご飯、お茶会という名のお友達作り、自由時間と続くから確実に萎れるであろう。人ではなく虫にモテたいのなら止める理由は無いけど。

 隣に立つのはお父さんかしら?片手に霧吹き、もう片手にシックな扇。寄ってこようとする虫から娘を護るため、切り花を少しでも長く保たせるため。頑張れパパ、負けるなパパ、娘の反抗期がきても強く生きていて。


 一応ほぼ無礼講とはいえども正式なお茶会であり、準正装でなくてはいけないのに親が幾ら着せても着せても、クラヴァットタイをむしり取り、上着を投げ捨て、シャツの前を開けっぴろげる子。

 これは流石に服を着て欲しい。さっきから拾っては着せ、脱がれては着せ、脱ぎ捨てられては頭から被せる親が可哀想すぎる。目が死んでる、陸にあげられた魚より死んでる。頑張っているで賞を授与したい。


 他にも、頑張って自分でしたんだろうなと思われるベッタベタの厚化粧、これじゃないと行かないって言ったんだろうなと思われる鎧のフル装備。

 そんな彼等の心の中は「自分が一番イケてる!!!!」だろう。だって皆んなとってもいい顔してるから。さっきから色々脱ぎ捨ててる子も顔だけ見れば百点満点の輝く笑顔だ。



 そんな自信満々な彼等を見て、リリーは自分のドレスを見、顔を上げ、少ししてから顔を下に向けた。弱々しい声で一言、ぼそっと。


「……リリーが一番オシャレじゃないなぁ」

「ぷきゅーぴぷきゃぷきゅぴきゅぴきゃぷぅ(心配しなくてもあんたが一番可愛いわよ)」


 見てみなさいあそこのハート乱舞ドレスのお母さん、リリーのこと見てすごい羨ましそうな顔してるじゃない、アレ絶対金があるからって娘に自分の好きなドレスを作らせなさいって言った結果よ。

 ヒゲオヤジに抱えられたまま会場の端にいたが、係員さん?が私を受け取りに来た。


「お持ちのラジモンはこちらでお預かりします」

「あぁ、助かります。大人しくしてるんだぞ」

「ぷき(うす)」

「トンちゃん後でねー」

「ぷぴみー(またねー)」


 そのまま運ばれる私に手を振るリリー、お茶会会場へ移動する前に人間だけでクソ長いお話を聞くらしい。良かったわ、私前世から偉い人のメチャクチャ長い話苦手だったのよ。結局最後まで何言ってるか分かんない時あるし。

 こちらもリリーに手を振りかえして、貧血で倒れんなよと鳴いといた。



◆〜◆〜◆


 ひーまっ、暇ッヒマッ、ちょーーーーひま。連れてこられたのは魔獣専用のお部屋、オヤツ有、お水有り、玩具有りだけどメッッチャ暇。最初こそ新しく見る猫型の魔獣とか、犬型の魔獣とか、鳥型の魔獣を観察してたけどする事がなくなった。

 今は毛足の長いシャムネコみたいな奴の枕になってる、係の人に部屋にポイ捨てされた時と良い、トントンは軽んじられる運命にでもあるのか?

 あるのか。最初の雑魚三匹でレア扱いなんて夢のまた夢だろうし。


「ハァーーーー暇」

「動かないで貰えるかしら、ワタクシの毛並みが乱れるわ」

「嘘じゃん話できるようになった途端猫が可愛くない」

「ワタクシは最高位貴族のラジモンですのよ?語源が顔映ゆしといった不憫で見ていられないという可愛いでなく、美しいと形容するのが妥当ではなくて?」

「矢張り格差は傲慢を産むのか」

「ワタクシの枕は喋りませんことよ」


 ものすっげ高慢ちきな猫魔獣、ゲーム内名称ニャンムに捕まったもんだ。なんだお前ゲームのグラフィックでは三種しか居ないくせに。モフモフがマフマフしているのは良いが、本当に暇で死にそうだ、長々の話が終わってからの昼飯なのに、このままでは退屈で死んでしまう。

 人は娯楽が無きゃ心が死ぬのよ、場合によっては身体も死ぬわ、だって恋で死んだなんて記述が古文にあるぐらいよ、暇で死ぬやつが出てきてもおかしくないわよ。スックと立ち上がると私の横腹から転げ落ちたシャム風ニャンムに威嚇された。さて行くか。


「ワタクシの枕!いきなり何をしますの!!」

「冒険の旅へ行くのよ」

「そんな枕には折檻ですわ!」

「あんま痛くない猫パンチッ」

「生憎爪は昨日の晩に下僕達に全て切られてしまいましたの、まったくワタクシの下僕達はなんど折檻しても学びませんわね」

「普段は爪を出していると?」

「爪を出すと下僕の変な液でワタクシの美しい手が汚れるの、折檻の際には使いませんわ」

「うわーぉこれが御猫様理論」


 駄目だわ話が通じるようになると猫ってただ顔が良いだけの我が儘動物なのね、可愛くねぇ、顔だけ可愛い。ゆったりと長い尻尾を揺らすシャムニャンム。

 さて、どっかお外に出られるとこを探しに行くか。


 扉は閉まってる。開けると絶対他の魔獣もついてくる。いくらアンテナーが刺さってても、人様のラジモンを外に出すのはなぁ。

 ならば窓…………は、無い。嘘、ここって監獄……?アンテナーが刺さってても魔獣の喧嘩は起こるのよ……?もっと考えよ??

 それならば空気穴から抜けるしかあるまい、鳥籠が並ぶ棚に飛び乗り、文鳥だかインコだか、アヒルだかわからないさまざまな鳥魔獣のラジモン達のお喋りを喰らう。


「よぉそこのトントン、短い尻尾揺らしてどこ行くんだ?まさか羽根の代わりってんじゃ無いだろな」

「いややわぁ図体デカイ哺乳類はこれだから、さっさと下に帰ってくれへん?」

「ホォーーーー⤵︎キョッキョ⤴︎⤴︎ホオォーーーー⤵︎キョキョッキョ⤴︎⤴︎⤴︎」

「トントンは初めて見たなぁ僕、前の年も連れてこられてたんだよ、その前の年もその前も!何年も毎年この狭い籠ん中さぁ」

「くるるゝるるるるる、ピルるるるるるる、くるるるるゝるるるる、ピルるるるるるるる」


 うっせ。ピーチクパーチク耳に刺さる声で鳴き交わす鳥達、あったあった、換気口。大の大人は通れないけど、小さい子豚なら身体ねじ込めば通れるわね。留め具を外して中に入ぃい?


「即廊下に出たわ」

「ピンクのケツだけ見えてんぞ!」

「うるせぇわい、よっ、と」


 着地成功、チュチュもリボンも汚れる事なくお外に出ることができた。おそらくリリーの家格じゃ二度と王宮?帝都だから帝宮?なんて来る事ないだろうからね。今のうちに探索しておかなければ。

 ぴっぷぴっぷ廊下をスキップしていくトントン、トンちゃんの冒険はこれからである。



◆〜◆〜◆


 面白いモン無かったわ。気落ちして部屋の前近くに戻ってきた私、どこを見ても美術館みたいな絵画とか、キンキラキンに磨かれた鎧とか、よくわからない彫像とか、ヒゲモジャの人や髪の毛盛り盛りの人の人物画とか、見かけたのはそれだけであんまり楽しいものが無かった。

 唯一楽しかったのは皇帝と皇后?様のラジモンの置物、金でできたピイピイ二体が向かい合ってる置物ぐらい。他はどっかで見たような見てないようなそんなのでつまんなかった。


「はぁ、期待して損した」


 調理室はどこか分からなかったし、お宝部屋も見つからなかったし、書庫なんてもんも入れなかった。

 幸い人には見つから無かったわ、何かあったらこの麗しの子豚フェイスで誤魔化すつもりだったけど心配し過ぎたみたいね。

 元のラジモン部屋に帰ろうと、最後の曲がり角を曲がった時だった。あれ?部屋の扉が開いている。


「やべっ、もう昼飯の時間か!」


 駆け出して部屋に滑り込もうとしたが、どうも様子がおかしい、なんかきな臭い。足を止めて廊下に飾られている、用途不明のどデカい壺の後ろに隠れる。

 様子を伺っていたら、部屋の中からさっきのシャムニャンムがゆったりと出てきた。


 頭の上のアンテナーに、へんな赤い玉をつけて。



「……新しいアクセサリーかしら?」


 いや、部屋を出る前、私を枕にしていた時にはあんなのつけてなかったわ。しかもあのプライドばり高シャムニャンムが、プラスチックで作られたみたいなダサい赤玉つけるはず無い。

 続けて様子を見ていると、部屋の中から、どんどんラジモン達が外に出てくる。いったいどういうことだ、もしやアレをつけてないと昼飯会場には入れないということなのか。


「なんてことだ……!」


 このままではトンちゃんはヒゲオヤジに拳骨を喰らってしまう!痛みは無いがとても屈辱なのだ!!回避するためにみんなの知恵を貸してくれ!!

 と、画面の中の良い子のステにヘルプを出そうとしたら、最後の一匹らしいラジモンと共に明らかに怪しい覆面を付けた人間が、手にゴツイラジコンを持って出てきた。


「ゥヘッヘッヘ、毎年貴族共の集まる全貴族共通茶会、流石だぜレアなラジモンがウハウハだァ」


 誰にも頼まれてないのに説明し出した。


「外の待機場所に居た大型魔獣と合わせて全部売り飛ばせばいったい幾らになんのか……クゥ〜全くタマラねぇぜ」


 ちゃんと別なところに居るラジモンの事も説明してくれた。


「やっぱオレ見る目あるなァ、このままボスについてけばあの金風呂も夢じゃない!早速外のサーカステントに入れてラジモンを港まで運ぶゼ!!」


 お前の口は蛇口の壊れた水道か。

 自分達の企みを丸っと最後まで話してウキウキで去って行った怪しい覆面、これは、私が主人公の物語……?そうであってもそうでなくても、しょうがないので助けに行くか。

 と、その前に装備を揃えねば。



◆〜◆〜◆


 やってきましたサーカステント。赤と白の幕が下がる、薄暗いテントの中に入っていく。閉まってますよの文字を無視して奥に進むと、サーカスの道具やセットよりも沢山ある大小の檻。

 中に入っているラジモン達は、羽が無いドラゴンっぽいのも、ライオンっぽいのも、鹿や馬っぽいのも、爬虫類も猫も犬も鳥も鼠も、虫も?みんな虚な眼をしている。そんな彼等の頭に刺さるアンテナーには赤い玉がつけられている。


「うわ不気味、あら、さっきのシャムニャンムじゃない、生きてる?剥製になったとか言わないわよね??」

「…………」

「意識朦朧って感じね、それとも意識はあるけど喋れないだけかしら」


 檻に入れられたシャムニャンムの目の前で蹄を振るも、瞼一枚髭一本動かない。なんとか檻から出してやろうと、一歩近づいた時だった。


「誰だ!!」


 まずい、見つかった……ッ!敵にランプの灯を向けられ絶体絶命、どうするトンちゃん、どうなるトンちゃん、この危機をどうやって脱するのか!!


 次回 『ぷきっと▲▼TonTon テイル!』

    第48話「パレードって楽しいよね」

               お楽しみに!!


⚠︎ 題は変更される可能性があります。




シャムーン: シャム猫のような猫魔獣、ニャンムの一種、額に月のような模様があるのが特徴。

 その辺にいるノラニャンムとは違い、特殊な条件下でしか出現しないとても珍しい魔獣。捕まらない、懐かない、抱っこさせてくれない、気高いニャンムとして有名。だが、一度仲間と認識した者に対しては、ある程度態度が軟化するらしい。



ブンブンチョウ: 文鳥のような鳥魔獣、飛ぶ時に激しく羽を動かし、ホバリングをしたりする。が、疲れるからすぐどこかに着地する。

 花の蜜が好きで、受粉の為に果実農家や花卉農家、庭師などによく飼われている。嘴が赤く体は白い個体が多く、花粉に塗れているのがよくわかる。家畜化が進み、近年野生での生息数は減少傾向にある。



サイダンコ: インコのような鳥魔獣、鳴き声が独特で、鳴き声も身体の色も個体差が激しい。珍しい柄や色が人気。

 穴あけパンチとシュレッダーの役割を持つインコ型魔獣、ホチキスの針無しで閉じられてる書類は全てこいつらが閉じている。よく躾けていないと片っ端からシュレッダーにかけられてしまう恐ろしい魔獣、大型のサイダンコも居る。



マメダック: アヒルのような鳥魔獣、黒や柄のついている個体が一般的な、両手のひらに乗せられる位の小型魔獣。

 焙煎だけ機能とコーヒーメーカー機能を有している、他の大陸の魔獣なので希少。

 豆を食べさせて焙煎だけをしてもらう事が可能であり、それに加え、豆と水を与えてコーヒーを淹れてもらう事も可能。その場合は、豆のカスがお尻から排出される。プリッ。



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