41.そんな縄に釣られプキーッ
あーたーらしーいー朝がきた、きーぼーのーあーさーがーー。案の定お休みリリーに蹴られ殴られ、ベットから逆さに転がり落ちた可哀想な子豚を照らす陽の光、まぶちい。
おかしいな、普通可愛い子豚と幼女が一緒に寝ると朝までいい感じに可愛くお休み出来るものではないのだろうか、それとも子供の寝相にまでご都合主義は使えないという事なのか。そこにこそ使えよ。
「身体いてぇー……」
とはいえ日が昇ったと言う事は今日も美味しい朝ごはんが食べられると言う事だ、さっさと食べてさっさとメープル先生の授業を受けて、さっさと料理長の元へ走ってオヤツを貰わねばならん。
でんぐり返しをして、一度頭を振った後ベットの上に飛び乗る、ほんとに寝汚い子ねぇ。昨日はおねんねしたかと思えば起きて川の話をし、また目を瞑ったかと思えば起きてヒゲオヤジとの会話を報告し、エンドレスだった。
「まだ小さい子供なのよね、可愛い子豚をベッドから落とす所は可愛くないけど寝顔は可愛いわ」
すよすよと健やかな寝息を立てるリリー。そうね、まだ子供なんだから沢山寝て大きく育ちなさいね。それはそれとして、ね、こうやって布団の端を掴んで持ち上げて。
「プキュキュぷキャプきー(メープル先生くるから起こすわ)」
バサァ
「寒い!トンちゃん朝からなにするのぉ!?」
朝ごはん食べる前に先生来ちゃうでしょ、はよ起きろ。
◆〜◆〜◆
午前中のお勉強が終わり、リリーは川に入らないというヒゲオヤジとの約束の元、お屋敷近くの林の中にある川に来た。
リリーが綺麗な石を探している間、私は川の流れが緩い所で泳ぎの確認をしようかと思い立ち、揺らめく水面を見つめている。
「トンちゃん、あんまりリリーから離れちゃダメだからねー」
「ぷきゅきゅー(あいよー)」
「あっ、トンちゃんリリーは川に入っちゃダメなのに!ずるい!!」
「ぴきゅきゅー(ほいよー)」
バシャアと派手な音と共に水飛沫が上がる、緩やかに流れる水を掻き分けるようにして脚を動かすと、少しずつ前に進み始めた。
足がギリギリ届かない浅瀬を犬掻きで泳ぐと、子豚の短い脚でかき回されて攪拌された、静まっていた水底が荒らされ、後ろに朦々と泥の巻き上がった汚い通り道が筋となって出来ていく。そして水面を白鳥の如く優雅に泳ぐわた、あれ、あれ、あれれ?
「プキプキぴきき、プキュきぷきぃー?(もしかして私、流されてるぅー?)」
「トンちゃぁん!?なんで流されてるの!!?」
水を掻いても掻いても前に進まず、ゆっくりと右回転しながら流されていく私。
あゝリリー、残念だけど貴女とは此処でお別れみたい、楽しかった日々を胸に私は生きていくわ、貴女も私が居なくなったからって泣くんじゃないわよ。
「プーキ〜〜、ぷきゅきゅきゃぷきぷプキ〜キィ〜〜(あーあ〜〜、川の流れるまま〜にぃ〜〜)」
「トンちゃん待ってぇええっ!!」
もう泣いてるか。びえびえと汚く泣き喚くリリーの声が徐々に離れていく。
さようならリリー、さようなら環境チート、流れ着いた先から戻れそうだったら戻るからトンちゃんの豚ちぐらは捨てないでいてね。
「プキキぷ〜、プキュプぴーきゅきゃぷキュピピぷ〜〜(とめどなく〜、川が土色に染まるだけ〜〜)」
「トンちゃぁぁぁぁああん!!!!」
◆〜◆〜◆
ある孤児院の子供たちとそのラジモン達は、シスターの先導により川のほとりへとたどり着き、思い思いの場所に腰を下ろして袋に入れたお弁当を取り出した。
はぐれた子がいないか人数を確認したシスターが、川を背にして平たい石の上に座り絵本を開いた。絵本の題名は『桃ジョン』、著者は不明。
「川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこっこ、どんぶらこ、ゆらゆらと水面に揺れながら流れてきました」
そんなシスターの後ろを流れる川を、川上から小さな子豚が、ぷきぷきぷ、ぷきぷきぷっき、ぷきぷきぷ、と歌いながら流れていきました。
孤児院の子供たちは小さな子豚を目で追いました、子供たちのラジモンのワン=ワン達や、肩に乗っているピイピイ達も、同じく子豚を見送りました。
シスターの優しい声が続きを読み上げます。
「川で洗濯をしていたお婆さんはそれを見てびっくり、急いで桃を追いかけ、川下の河原に流れ着いたそれを拾い上げると、お家まで持って帰りました」
「トンちゃん行っちゃヤダァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」
シスターの後ろをわんわんと泣きながら走るリリー。ピクニックに来ていた孤児院の子供たちはそれを見てびっくり、目でリリーの事を追いかけます。
あまりの声の大きさに驚きすぎて誰もが動けなくなっていましたが、子供たちの中でも特に年長の男の子が縄を持って、立ち上がりました。
◆〜◆〜◆
はぁーヤバい、川の流れが速くなってきたわ。大きな岩が進行方向にあるたび、水の流れによってくるくると回る身体、そして変わらず聞こえてくるリリーのギャン泣き声。
「トンち゛ゃ゛ァ゛ん゛!!!!」
この展開はアレよ、良くあるアレ、そう、滝から落ちる系のアレに移行してしまうやつよ。フィクションだからいいけど実際あんな高い場所から滝つぼに落ちたら死ぬわよ、いくらレベルが高くて強化ナッツを貪り食った私でもおそらく無事じゃ済まないわ。
でも大丈夫よ、流れが速くなってきたからとはいえ、このなだらかな地形で漫画に出てくるような滝は無い筈。川底に足ついてないし犬掻きならぬ豚掻きの速度じゃ川の端に行けないけど。
「ヤだぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
どこかに流れ着く前にリリーの声が枯れそうね、ビャンビャンと叫びながら河原を走るリリーを見ながら、後ろへと流れて……?
「ぷきっ?(おぉっ?)」
お尻に何か当たった。身体が横向きになると目の端に毛羽だった縄が見えた。何これ、まあ良いわこれに捕まりましょ、溺れてないけど藁をも掴むっていうし。
ふよふよと浮く縄を蹄で掴んだ、が、心許なかったので口でも噛んだ。あら、先の方が輪っかになってるのね、水の上を浮く私に引っ掛けようとしたらしい。
縄の先を見ると……んん?なんかリリー以外の人影が見える。私が掴んだ縄の端を引っ張る男の子と、リリーを慰めている女の子二人と、野次を飛ばしている男の子が一人。
「よし、いい子だからそのまま離すなよッ」
「あれっ、ダメかと思ってたけどトントン釣れた」
「トンち゛ゃ゛ん゛あ゛な゛た゛誰え゛」
「よしよし、もう泣いちゃダメよー」
「近くに人いてよかったねぇ」
ずいぶん賑やかね。二人女の子に慰められるリリー、縄の端を掴んでいる男の子に釣られる私、どうも新鮮釣れたての子豚です。
こうして川から流れてきた子豚は、無事に泣き喚いていた女の子の手の中に戻ったのでした、めでたしめでグェッ
「ぷ。ぷきゅく……(く。くるし……)」
「トンちゃん良かったぁぁぁあ!!!!」
異世界お伽噺①: 桃ジョン
昔々、川上から大きな桃が流れてくる系の話。
シバマロ、ピイピイ、コンロガメ、これらの三匹のラジモンを連れて、女神から天命を受け、悪徳領主を倒しに行くスペクタクルアドベンチャー。
ラジモンバトルと女神の慈悲で、悪徳領主が改心するハッピーエンド。




